囚われの少女を救ってから惚れられている。しかし相手は十一歳だ 作:松岡夜空
「ちょっと待った」
表に出ようとしたヒョウを、ミーティアが呼び止めた。
「なんだよ」
「外に迎えの人がいる」
下駄箱を壁にして目を向ける。
確かに、校門の前に護衛らしき男が二人立っている。
一人は厳つい顔をしたオヤジ。もう一人は眼鏡をかけた優男。
ヒョウは少し目を細めた。
「なるほど。あいつらプロだな。どっちもできる。外から見張る
当たり前のように外に出ようとしたヒョウを、ミーティアが怪力で止めてきた。
「何すんだてめえ!!」
「だからダメだって、ヒョウさん。あの二人、話がわかるようなキャラじゃないから。絶対別のところから出た方がいいって」
「別のところってどこからだよ?」
「うーん」
ミーティアが唇に指先を当て、目を上向けた。ヒョウは待つのが嫌いなので、その短時間さえ我慢できず、足をパタパタと動かしていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「いよっと」
学校をグルリと囲む垣根から、鞄を放り捨てるミーティア。それが垣根を飛び越える前に、ミーティアが跳躍した。
飛脚法。風は魔力に反発する。その性質を利用して、足の裏に魔力を集めて飛翔する青魔術。ちなみにミーティアは、前回の体育で五メートル飛んでいる。
風をまとったミーティアの跳躍は、楽々と垣根を飛び越え、中空を舞う鞄をつかんで、そのまま身をひねり、華麗に着地した。
さすがにフェルナンテである。訓練された選手顔負けの動きだ。
「いけるいける。ヒョウさんいけるよー」
「いや、もうきてるが」
「うわ、ビックリしたー!!」
飛び越える前には垣根の内側にいたはずのヒョウを見て、ミーティアは大層驚いていた。
ヒョウは垣根にもたれかかり、腕を組んでいる。騒ぐミーティアを静かに見据え、チラリと目を横に向けた。かけていた眼鏡をクイと持ち上げる。
「ついでに、迎えの連中もきてるみたいだな」
「え!!」
ミーティアが振り返る。
そこには、先に校門前に立っていた護衛が二人。
魔力探索かと、ヒョウは思った。自分の魔力はある程度までは追えるのだ。ミーティアの所有物のいずれかに、自身の魔力を込めていたのだろう。
「おい小僧。悪いことは言わねえ。お嬢様置いてこの場から消えろ。そして二度と近づくな。ファルコ=ルドルフの件もあるからよ。洒落になってないんだわ。脅し抜きで二言目はないと思えよ」
魔力量四位。若竹色の瞳を深くして、男が言う。握られた拳のケンダコが、男の戦歴を物語っている。
「ふーん」
それを受けて、ヒョウはニヤニヤと笑った。順境でも逆境でも笑う男。それがヒョウだ。そしてこれは、ヒョウにとっては順境だった。
「いや、違うの!! ヒョウさんは――」
口を挟もうとするミーティア。その口を塞ぐように、ヒョウがミーティアの鞄を引ったくった。そして言った。
「お前ら、仮にも魔術師ならわかると思うが、ここには爆弾が入っている」
「ええええええええええ!!」
ミーティアが隣でうるさく叫んだ。二人は無言で目を見開く。
一般人なら、バカバカしいと思うだろう。
しかし二人は一流の魔術師だ。初手見鬼できている。ざっくり言えば、ヒョウが本当のことを言ってるか否かがわかるのだ。
じゃあここに本当に爆弾が入ってるのかというと――
――あるわきゃねえわな。常識的に考えて!!
「ほうら、衝撃に反応するぜ!! 気をつけて受け止めな!!」
ヒョウが鞄を高々と放る。
「うわあああ!! バカかてめえ!!」
厳つい顔のオヤジが、叫びながら鞄を追いかける。
もう一方の男はかちゃりと眼鏡を持ち上げ、ヒョウを見ていた。
ヒョウがミーティアの腰に手を回す。笑って、二本の指を立てた。
瞬間。
眼鏡の男が目を見開く。
見開いた目に、二人は映っていなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
パン!!
厳つい顔の男、ジョニーが、柏手を打った。落ちてくる爆弾の入った鞄。それが自分の手元まで落ちてきたとき、ジョニーは手を開いた。鞄は手の間を通り抜けていくが、落下することはなかった。手と手の間で静止している。
魔力道力。死念が魔術師に吸い寄せられる性質を利用して、魔力を込めた物質を、自分自身に引き寄せる青魔術。手を向け合うと、双方に吸い寄せられるので、間に入った物質は静止する。
「はあ」
ジョニーが一息つく。
スタスタと、上司であるロナウドが近づいてきた。ずれてもいないだろうに、眼鏡を押さえている。
「開けてみろ」
「え、でもここでは」
「いいから開けてみろ」
「……わかりました」
ジジシ……。
それを地面に置いて、ジッパーを開いた。中に入っていた教科書などを、どけて、どけて、どけて――結果、何も残らなかった。
「まあそうだろうな」
「あんにゃろおおおおお!!」
「ジョニー。お前が魔力を込めたのは、お嬢様に渡した紙幣だったな」
「はい。まだ追えますよ。あの野郎!! 次はギタギタに――」
「少しは頭を冷やせ、ジョニー。お前はどうしてあいつの言葉を信じたんだ?」
「どうしてって、あいつの魔装から――あ」
「そう。奴は嘘をついていなかった。にもかかわらず、言動とは違うことが起きている。つまり、あいつは嘘装を使っていたんだ」
「
「だからどうしたというんです。だったらなおのこと追ってやるべきでしょう。魔術の腕が強さに直結しないということを教えてあげますよ。ついでに、魔力容量の高さもね」
ジョニーの魔力量は若竹色の四位。ヒョウはアヤメ色の八位だった。魔力量は腕力に直結する。もしも魔力を完全に腕力に転換できたなら、瞳の色一つで十倍の差が出ると言われている。
無論そんなことはそうそうできない。できても普通に考えて身体がついていかない。
要は、魔力なんてものは使いどころ一つ、ということである。
「お前が鞄を追っている間、俺はあいつを目で追っていた。まあブラフであろうと思っていたからだ。そうしたら、あいつが空筆で告げてきたよ」
「なんとです?」
「敵ではない。目的は同じ。お前らは後方で張れ。だ、そうだ。つまりあいつは、犯人を釣るつもりのようだな」
「バカバカしい!! まさか従うつもりですか!?」
「当然だ。次に挑めば殺される可能性があるからな。生きて終われたのが行幸だった」
「え」
「言ったろ。俺はあいつの動きを目で追い続けていた。それでも最後は追えなかった。速すぎたからだ。あいつの魔術は闘争に特化している。しかも極めて高く残酷なレベルで。もしもあいつが殺る気だったなら、俺たちはよくて気絶、悪ければ死だ。しかも、気づかないうちにな」
「……」
「まあ今は味方のようだがな。いずれにせよ、隊長に連絡だ。そのあと、俺たちもお嬢様を追う」
ロナウドがポケットからメモ帳型の伝書を取り出す。差していたペンの先に
「……了解」
ジョニーは頭をかきながら、返事した。