囚われの少女を救ってから惚れられている。しかし相手は十一歳だ 作:松岡夜空
「やれやれ、散々な目にあったぜ」
街の一角に着地して、ヒョウは肩をグルグルと回した。回しながら、荷物のようにその辺に置いた、ミーティアへと目を向ける。
「猫娘。猫娘? おーい」
ミーティアは、涙目でプルプルと身を震わせながら、その場に突っ立っていた。目の前で手を振ってみるも、反応なし。さすがに素人相手にこの速さはやりすぎたのかもしれない。一応手加減はしたのだが。
――しゃあねえな。
ヒョウは気付けがわりに、ミーティアのしっぽをぎゅっとつかんでみた。
「ふにゃ!!」
ミーティアが変な声をあげながら、背筋を立てた。ブルリと身を震わせている。
しっぽを引き離すように、くるんとミーティアが回る。お尻を押さえながら、向けてくるその顔は、赤くなっていた。
「引き離したぞ。とっとといこうぜ」
「え!? あ、あー、引き離せたんだー、よかったー、はぁ」
「ちょっと早すぎたか?」
「え?」
「いや、涙目で震えてたもんだからよ」
「あーっ、うん。正直びっくりした。面白くもあったけど」
「なんだそりゃ」
「でも、まだちょっと足がすくんで動けない」
「さっき動いてたぞ」
「咄嗟の時は大丈夫なの!!」
「面倒くせえ身体だなー。俺は待つのが嫌いなんだぜ?」
「それはボクだってそうだけど――あ!!」
パチンと、ミーティアが指を鳴らす。
「じゃあじゃあ、ボクと腕組んで歩いてくんない? もたれかかったら、どうにか歩けそうだからさ」
「えー」
「え、そんな反応ある!? こういう時、普通男の子は喜ぶものじゃないの? 実はボクもちょっと勇気出して言ったのに!」
「人間ってのはそういうもんか?」
「え?」
ミーティアが丸々とした目で見上げてくる。
しまったとヒョウは思った。目をそらし、ガリガリと頭をかく。
「それじゃあつかめ。まあその方が彼氏彼女に見られやすいかもしれん」
話題をそらすように、ミーティアに手を差し出す。ミーティアが笑って、ヒョウの手をつかんできた。うまくバランスがとれないからか、ミーティアの豊満な胸が押し付けられる。
ヒョウは目を上向けた。照れたわけでも嬉しかったわけでもない。
単純に気まずかったからだ。
目を向ける。
ミーティアは、きょとんとした顔で、ヒョウのことを見上げていた。しかしその後、意地悪そうな顔で口元を隠し、笑う。
「あれあれー? ヒョウさんの旦那ー。もしかして、照れてらっしゃる?」
ヒョウは舌打ちした。足を動かす。
「おっとととと」
ミーティアが慌てふためきながら、ついてくる。色々手に柔らかいものが当たっている気もしたが、もはや知ったことではない。ヒョウはなめられるのが、嫌いだった。
「そういやお前」
しばし歩いた後、ヒョウが切り出した。
「この話の結末をどう考えてる?」
ミーティアが上目遣いで見上げてくる。フェルナンテだけあって、その顔立ちはまさに猫。
「犯人を捕まえるのは当然のこととして、その後の結末は、ざっくり言って三つある」
「ほうほう」
「一。警務隊に引き渡す」
「一番妥当だね」
「二。二度と来ないように私刑にする」
「うわーそれはないなー」
「三。お前が言葉で諭す」
「あー」
「三択とは言ったが、過程を複合することはできる。例えば、言葉で諭してから警務隊に引き渡す。私刑にしてから言葉で諭す。俺も捕まりたくないもんで、一と二は複合できないけどな」
「つまり、実質五択だね。そして、複合する場合、必ず最後は言葉で諭す方法を通る」
「その通り。どれにするつもりだよ」
「うーん」
「結末を決めるのはかなり重要だ。例えば一番の場合、お前に裏切られたと考えるかもしれない。二番は一番確実だが、お前も俺もやりたくはない。三番は、言葉によっては恨みを増幅させる。突き放す言葉はもちろんとして、温かい言葉をかけてもやはり無駄なことがある」
「なるほどー」
「お前の問題だ。お前が決めろ」
「三番かなー」
「警務隊には渡さないのか?」
「そだね。元々解決したいというより、気持ちは伝えときたいかな、ぐらいのものだし」
「……どんな気持ちを伝えるつもりだ? 結構重要だぞそれ」
「ありがとう。そしてごめんなさい。かな」
「微妙だな。最悪刺激する」
「えぇ!? ここは、ミーティアちゃんの優しさがにじみ出てるシーンじゃないの!?」
「そういう気持ちが透けてるからダメなんだ。見抜かれたら火に油だ」
「うーん、難しいなー」
「まあ及第点とは思うけどな。俺はいいやつだなと思ったよ」
「え」
「なんだよ」
「え!? あーなんて言うの? ヒョウくんは見抜けなかったんだなーと思ってさー」
「見抜いたさ。及第点分は良い奴だ。人間なんてそれで十分だろ」
「……」
「だが現状、周囲に気配はないな」
「わかるの?」
「空気の流れで大体な。エレメントに悪意が乗るからよ」
「もしかしたらボクたち、ラブラブに見えてないんじゃない?」
「まあ可能性はあるな」
「うーんどうしたらいいんだろ? もっと腕を強くつかんでみる、とか?」
「いや、いいです」
「何故敬語!?」
「一応考えはある。ここだ」
「ここ?」
店の前に立つ。
ヒョウはプロとして、この街の地図は全て頭の中に入れている。どこに何の店があるのか、どこに抜け道があるのか、地元の人間より遥かに詳しかった。
「ここで、揃いの服を買う」
「えー、何それー、カッコ悪いー」
「いいんだよ、その方がわかりやすい。後、服着替えてからちょっとお前を一人にする。無論衆人環視のある場所でな。何かあったら即叫べ。心配するな。お前の護衛は優秀だ。あの二人貫ける奴はそうはいない。それで何の反応もないようなら――」
「ないようなら?」
「まあ――」
ガタガタ。ガタガタ。
「おっと失礼」
ミーティアと話していた時、鞄の中に入れていた伝書が暴れた。登録先はリンだけである。
鞄から伝書を取り出し、中を開いた。
文面は――
『名前をお借りします』
……?
鋭いと自賛するヒョウであるが、この文面には、ただただ首を傾げたのだった。