囚われの少女を救ってから惚れられている。しかし相手は十一歳だ   作:松岡夜空

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確信

「でけー家だなー」

 

 

 門構えを見て、ヒョウが言った。

 

 鉄格子の門に、門番が二人。庭はちょっとした公園ぐらいの広さがある。

 

 門番は、ヒョウとミーティアを見て、大層驚いた顔をしていた。

 

 まあそりゃそうっちゃ、そりゃそうだ。これだけの家の娘が、男と一緒、しかもペアルックで現れたら、普通はこうなる。

 

 元々着ていた制服は、お互い紙袋に入れて持っている。そして、空が赤くなるまで歩き回ったわけだが、ここに来るまでの間、悪意は何一つ感じなかった。

 

 相手が達人なのか、相手が今日たまたま見ていないのか、そもそもそんな人間などいないのか……。

 

 

(まあ、どれも、断定するにはやや早いか……)

 

 

 門番が鉄格子の扉を開く。門番に厳しい目を向けられながら、中に入った。

 

 

「今更な質問なんだけどよ、お前の両親の仕事は?」

 

 

 庭を横断している途中で、ヒョウが尋ねた。ミーティアはまだ人の手を取って歩いている。

 

 

「え、なになに? ボクの両親のこと調べてどうするつもり? 挨拶に行く前の下準備ー?」

 

「事件解決」

 

「……あのー。そんな四文字で片付けないでほしいなー。せっかくテンション上げたのにさー」

 

「下がってくれたなら好都合だ。で? 仕事はなんなんだよ」

 

「んー? お父さんはグリーンポストの編集長で、お母さんは外交官」

 

「なるほどな。この家から想定できる通りの、超お嬢様ってわけだ」

 

 

 調べたいことがあって、まっすぐ家には入らず、庭をグルリと回った。方々には守衛が立っている。

 

 西側には垣を越える木が立っていて、その先には大きな窓ガラス。中はカーテンで仕切られていて見えない。

 

 

 見鬼(けんき)

 

 

 目に魔力を込めて、豪邸を見据えた。豪邸の中を、魔力が幾本もの線になって絡み合っている。

 

 

(なるほど。明かりは白雷球か)

 

 

 ヒョウは見鬼(けんき)を解いた。

 

 

「えっへっへー。疑似じゃなく、本当の彼氏になりたくなっちゃった?」

 

「まあ頭の隅には入れておこう」

 

 

 真面目に返答するのも面倒くさくなって、適当に答えた。

 〇〇系男子という言葉があるが、ヒョウは分類するなら枯れ木系男だった。

 その手の話題はジジィよりも興味がない。

 

 

「まあでもボクの彼氏になるなら、色々と変えてもらわないと困るけどねー。ボクお洒落に敏感だから。ヒョウさんを変えるとするとそうだなー、まずはその眼鏡を取って、頭もパーッと明るい色に変えちゃったりしたらー、ぜーったい似合うと思うんだけどな―ボク」

 

「それを言うなら」

 

 

 笑って、ヒョウが言った。

 

 

「お前も、その眼鏡は外さないのか?」

 

 

 ミーティアは獣人(フェルナンテ)である。つまり、耳が頭の上にある。ならばどうやってかけているのかというと、本来耳がある部分を髪の毛で覆い、そこに髪留めのように繋ぐことで、目にレンズをあてがっていた。

 しかし本来、獣人(フェルナンテ)の視力はそうそう落ちない。実際眼鏡屋を回って見てもそんな眼鏡は売ってはいなかった。

 多分特注なのだろう。この家の財力ならば、そんなことはお茶の子さいさいでできるだろう。

 

 

「あれ? あれれ? ヒョウさんは眼鏡ない方が好み? まあこれ伊達(ファッション)だから、ヒョウさんが言うなら別に外してもいいんだけど、どうしようかなー? 最近眼鏡女子がボクの中のマイブームで、このフローラルピンクの眼鏡は、ボクが今推している――」

 

「いや、盛り上がってるとこ悪いが、単にフェルナンテが眼鏡してるのが珍しかっただけだ。耳もないのによくつけれるな」

 

「んもーっ!! 何それー!? 耳あるからちゃんとここにー!! んもーっ!!」

 

 

 ミーティアが大層怒るので、ヒョウはカラカラと笑った。

 

 

(ま、どうにかなるざんしょ)

 

 

 広い庭の調べを終え、ミーティアが家の扉を開く。

 

 ヒョウはその間に、鞄の中から伝書を取り出し、開いた。

 

 最後のメッセージは『お前今どこで何してる?』だった。無論ヒョウのものだ。リンが意味不明に『名前をお借りします』なんて言うから、暇見て送った。返信はまだない。

 

 鞄の中に伝書をしまう。

 

 

(あのバカ……。返事ぐらいとっととしろよなー)

 

 

 ふて腐れながら、ヒョウは思う。

 

 しかし。

 

 あるいは、返信したくても、できない状況にあるのでは……? 

 そんな可能性も、十分にありうる。

 

 

(いや、まさかな……)

 

 

 しかしヒョウはその可能性を、頭の隅に追いやった。

 

 

   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お嬢様!! これは一体どういうことですか!! この方は一体――」

 

 

 扉を開くなり、老執事が言った。

 ここで当たり前のことを言うようだが、老執事とヒョウは初見である。

 出会って一秒。

 老執事のしたことは、心配の言葉を投げかけたのみ。

 

 

 にもかかわらず、ヒョウは訝しげに目を開いた。

 

 

(こいつ……)

 

 

「ああ、スカイプ。この人はねー、なんとボクの!!」

 

「心配すんな。彼氏彼女とかそいういうアホな関係じゃない」

 

「えぇ!?」

 

 

 割って入ったヒョウが言った。

 これ以上ややこしい状況にされるのはゴメンだったし、何よりもう当たりはついた。

 

 

(相手が悪かったな。残念ながら、俺にその手は一切通用しないぜ)

 

 

「もう演技は終了だ。ジィさん。俺はこいつに雇われた護衛なんだ。何つってもこいつの元に、こんなもんが届いちまったみたいでな」

 

 

 ヒョウはポケットから脅迫状を取り出した。スカイプはそれを見て、『何だこれは!!』と顔にかき殴った。

 見鬼(けんき)精神世界(アストラルサイド)から見ても、スカイプが『嘘』をついていないことはほぼ確定。つまりスカイプは、この脅迫状を見て、本気で驚いているのだ。送り主ではありえない。それはイコール、スカイプは犯人ではないという式も成立させる。

 

 

(ふっ。やはりな)

 

 

 だが、ヒョウは目を細め、笑った。

 

 

「ってなわけで」

 

 

 パッと、スカイプから紙を取り返して、ヒョウが言った。スカイプが呆けた顔で、ヒョウに目を向ける。

 

 

「ちょっとこの屋敷を案内してくれないか。間取りを知りたい。後それが終わったら、リビングにあのゴリラと眼鏡の上司、つまり守衛隊長を呼んでくれ。色々調べさせてもらった上で、今後の方針を伝えたいんでね」

 

「……わかりました」

 

 

 家に招くように手を向けて、スカイプが言った。

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