囚われの少女を救ってから惚れられている。しかし相手は十一歳だ 作:松岡夜空
『お前今どこで何してる?』
『お前今どこで何してる?』
伝書に並ぶ二つの文字。
これが意味する理由は一つしかない。
(一通見逃しちゃっていた!!)
「はわ!!」
思わず声を上げてしまう口を、リンは両手で押さえた。
キョロキョロと辺りを見渡す。
独り言にしては、声がでかすぎたからだ。
(とりあえず、早く兄様に返事を返さないと)
急ぎペンをとり、ペン先を走らせた。
『も、申し訳ありません、兄様。気づくのが遅れてしまって。今はマルコさんと、お話ししています。場所は、ウエストエリアの裏の遊戯施設なのですが、申し訳ありません、店名と明確な場所は、ちょっとわかりません。今からでも見てきた方がよいでしょうか?』
伝書にそうメッセージを書き記した。
「ふぅ」
書物を閉じてリンが一息つく。
しかし。
ガタンガタン。ガタンガタン。
また伝書が暴れだす。
慌てて、リンが伝書を開いた。
『アっホかてめえは!! 意味深なこと言うなら返信ぐらいとっととしろ!! 無駄に心配するだろうが!!』
「は!!」
『わ』と言う前に、手で口元を隠す。
また独り言を言うところであった。
指先で、伝書に綴られた文面をなぞる。
怒らせてしまったと思って、シュンとする。
しかしその後、心配してくれたんだと思って、笑った。
羽ペンを手に取り、インクにつけて、ペン先を伝書につけた。
『申し訳ありません、兄様。ご心配してくださって、ありがとうございます。こちらは特に危険なことはありません』
引き続き任務をお続け下さい。
そう
そして、今一度ペン先を伝書につける。
『兄様の仕事は、順調ですか?』
伝書を閉じて、インクを転移させる。
何となく、伝書を抱き締める。
ガタンガタン。
胸の中で伝書が暴れて、それを開いた。
『順調っちゃ順調だな。多分今日中に終わる』
今日中という言葉を見て、リンの顔が自然と綻ぶ。
もうすぐ会える。
もちろんそれは、嬉しい。
しかし一番嬉しいのは、口に出した言葉を、絶対に違えないということだ。
それはつまり、今までのヒョウの言動も、全て外れない、ということでもあるのだから。
『ずっとずっと、リンのこと、見ていてくださいね、兄様』
『ま、その時まで気になっていたらな』
(……)
ふとあの日の、夕陽の言葉を思い出す。
勇気を出して言った。
絶対に言葉を違えないということは、否定されたら、終わりということだ。
しかし結果、ヒョウにはぐらかされて終わった。
だが『その時まで』であった。
つまり、今は気になってるということだ。ふいに出た言葉ということもあって、こんなに嬉しいことはなかった。
だからついつい力一杯納得してしまったのだが、よくよく考えてみると、確約はできない、ということでもあった。
嘘を言ったのが悪かったのだろうか?
素直に本当のことを言うべきだっただろうか?
(でもお礼も言いたかったし……)
いや。いやいや。
そんな自分をたしなめるように、頬を何度か叩く。
(お前は俺が守ると、言ってくれたことだってあるんだ。だから兄様は絶対に消えない。消えるわけない。ずっとずっとリンのそばにいてくれる、はずだ)
リンは今一度、ペン先を伝書に乗せた。
『だとすれば良かったです。兄様と会えるのを、楽しみにしております』
本を閉じて、伝書につけたインクをヒョウの伝書に転移させる。
しばらくして、また伝書が揺れた。
『ところで、お前が話してるマルコってのは、あのハゲか?』
リンは少し言葉に悩んだ。
(兄様は言葉が悪いのが玉に瑕だな……)
リンが少し苦笑いを浮かべる。
『多分兄様の思われている方で間違いないかと。頭を剃り上げられている方です』
『あいつに俺のことを話したか?』
リンは少し顔を曇らせた。ペン先にインクをつける。
『申し訳ありません。少し仕事の内容を話してしまいました』
『猫娘のことも?』
『はい。ミーティアさんのことも、付け加えてしまいました。申し訳ありません』
『あいつは俺がどこにいるか聞いてこなかったか?』
『はい、そうですね。あたしが一人でいたので、心配してくれたようで』
『なるほどな。ハゲに伝言しといてくれ。手薄なのは、西側だとな。そしてお前はそこにいろ。片付いたら迎えにいく。絶対にそこにいろよ』
ガチャ。
扉が開いた。
マルコだった。リンは思わず伝書を閉じた。不思議と、密会の現場を見られたような、そんな気持ちになって、背筋がブルリと震えた。
「どうしたんだよ?」
「いえ、今兄様とお話ししていたのですが」
「眼鏡野郎と?」