囚われの少女を救ってから惚れられている。しかし相手は十一歳だ   作:松岡夜空

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お前がいたなら

 全てを片付けたヒョウは、リビングに戻ってきた。

 

 

 立ち上がったミーティアが、目を見開く。そして、シュンとした顔で、腰を下ろした。ヒョウはソッと、痛みが残る首に手をやった。

 

 

「どうでしたか?」

 

 

 ソファーに腰掛け、パラパラと伝書をめくっていた守衛隊長の男が尋ねた。多分その伝書には、娯楽系か情報系のアドレスを登録しているのだろうと思われた。

 今の時代、大体のことは、伝書でできる。

 

 

「やっぱりあいつだったみたいだな。覆魔伏(ふくまふく)かけてそこの廊下に転がしてるから、後は頼むわ」

 

「わかりました」

 

 

 シュンと落ち込むミーティアを素通りして、ヒョウが割れた窓に向かう。リンを迎えに行かなければならないし、何よりヒョウは、誰かに同情することが嫌いなのだ。

 

 

「あのさ」

 

「んー?」

 

「いや、その……」

 

 

 待てど暮らせど、続きはこなかった。ヒョウは密かに足をパタパタと動かしていた。ヒョウは待つのが嫌いなのだった。

 

 とはいえ、こっちの落ち度も少しはあるかもしれない。やはりとっとと『たたんで』おくべきだったのだ。

 

 

 ふと、誰もいない隣を見つめた。

 視線の先はやや下。

 百五十に届くか届かないという位置。

 もしもいたなら、リンの頭があり、きっと、自分のことを見上げているであろう、位置だった。

 

 

 もしもこの場にいれば、やれと言わんばかりに無垢な瞳を向けてきただろう。あるいは、目を伏せて、落ち込んだ顔を見せているか。

 縛られるのが嫌いな自分が、あいつの願いには抗えない。

 きっと、あいつの瞳を、誰にも盗られたくないからだろう。

 だからさっさと帰りたいのだが、もしもあいつがこの場にいたならば――

 

 

(やれやれ。これで最後だからなーほんと)

 

 

 ヒョウが首についた痣を手で隠しながら、口を開く。

 

 

「ありがとうと、ごめんなさいなんだろ?」

 

「え?」

 

「お前が相手に伝えたい言葉は。あいつがお前にしたことは、お前が喜びそうな物を渡した。それだけだ。後は、お前が判断しろよ。前にも言ったが――」

 

 

 振り返って、ミーティアを指さす。

 

 

「最後にかける言葉は重要だ。ちゃんと決めろよ、猫娘」

 

「――うん!!」

 

 

 ミーティアが立ち上がる。

 

 ヒョウが笑って、この場を去ろうとしたとき。

 

 

「あ、そういえばさ!!」

 

「何だよ。俺はだらだらと長ったらしいのは嫌いなんだぜ?」

 

「ボクの眼鏡は――」

 

 

 言われて、ギクッとした。

 

 

「あれは、処分した」

 

「え?」

 

 

 ヒョウが笑って、振り返る。

 

 

「まあお互い、眼鏡がない方が似合うと思ってな。じゃあな」

 

 

 二本の指を立て、ヒョウが消える。

 

 音も匂いもない、神速の飛脚法。

 

 赤い顔をして、その様を見送るミーティア。

 

 パタンと、守衛隊長が読んでいた伝書を閉じた。

 

 

「お供しますよ。何かあったら大変だ。もっとも――やや手遅れ。そのような気もいたしますが」

 

 

 ポーっとしたまま固まるミーティアを見て、守衛隊長は肩をすくめて、笑った。

 

 

 

 

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