囚われの少女を救ってから惚れられている。しかし相手は十一歳だ   作:松岡夜空

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第四章 世界に一つだけの華を貴方へ
図書館に行こう


「えっ!? と、図書館……ですか?」

 

「ああ。ちょっと調べたいことがあってな。暇だったら、一緒にどうかと思ってよ」

 

 

 寝間着姿のリンに、ヒョウが言った。

 当たり前だが、もちろんここは自室である。

 

 

 そんな大したこと調べに行くわけじゃない。

 往復合わせて一時間程度で終わることだ。

 本来であれば、一人でササっと終わらせる。

 リンにもしものことがあってはならないと共に来たが、限度はある。

 

 リンは、自分にとって生涯最後の義妹で、弟子だ。

 多分、自分が遺す唯一のものになるのだろうなと、思っている。

 だからこそ、大切である反面、軟弱であってほしくはなかった。しかし――

 

 

『こいつにとってここは異国だろ。妹に寂しい思いさせるんじゃねえよ』

 

 

 先日のマルコの言葉に、感化されたわけじゃない。

 気になったのは、リンの反応だった。

 

 

 肩を持ち上げ、両手で口元を隠し。

 顔を赤くしながら、相手を見る。

 それは、リンがいつも自分に向ける仕草である。

 

 

 盗まれたなと思った。

 北翼(ほくよく)の盗賊王とまで呼ばれた、自分が。

 

 

(ま、一理あるしな。一理は)

 

 

 そんな言葉で、自分を誤魔化す。

 

 

「わかりました。そういうことでしたら、お供させてほしいです」

 

 

 くすぐったそうに笑って、リンが言う。

 

 

「じゃあ時間はどうするかな。朝、いや、昼、いや夜、うーん」

 

「あ、あの!!」

 

「ん?」

 

「あ、兄様さえよかったら、あたしが起こして差し上げましょうか?」

 

「いや、お前の起こし方はうるさいからな。頭がキンキンとする」

 

「で、では今回は、優しく起こして差し上げますから」

 

 

 あたふたと手を前に出しながらリンが言った。

 

 

「お前は兄様との約束を破って、どっかに一人で行くような奴だからなー」

 

「はわ!! あ、あれは、その……」

 

 

 リンが口元を隠して声を上げ、その後あたふたと手を泳がせる。

 それを見て、ヒョウはカラカラと笑った。

 

 

「冗談だよ。じゃあそろそろ寝るぞ。明日は早いからな」

 

「あ、ちょっと待ってください」

 

「ん?」

 

「も、申し訳ございません。あたしはその、もう少し起きていたいので、こちら側だけ、明かりをつけさせていただいてもよろしいでしょうか……?」

 

「いや、別にいいけど、なんだったら四方ともつけたままにして寝ようか? 俺はどこでもどんな暗さでも寝れるのが特技だからな」

 

「あ、いえその……私事なので……」

 

「ふーん」

 

 

 目を細めてリンを見る。

 

 リンは目を伏せて、自分と視線を合わさぬようにしていた。

 

 

(リンが俺と視線を合わさない時は、大体俺がやりすぎている時である。リンは年頃の女だし、詮索しすぎるのは野暮かな……)

 

 

 目を閉じ、片手を上げた。

 大抵のものには勝ち切る自信のあるヒョウだが、リンのこの仕草には、いつも負けてしまう。

 

 

「わかったよ。カーテンは? 閉めたいのか?」

 

「はい。お願いします」

 

「……あー、一応言っておくけど、何か危険なことするつもりなら、絶対俺に連絡入れろよ? 俺は百パーセント外さない。唯一懸念しているのは、見えないということと、知らないってことだ。いいな? 何かするときは絶対に俺に連絡を入れろ」

 

 

 過保護すぎると思われるかもだが、リンは思っている以上に想定外なことをする。

 

 それは前回の話を見てもらえればわかることだろう。

 

 

(言い過ぎたかな……)

 

 

 思ったが、リンは口元を隠しながら、ヒョウを見ていた。

 例によって肩を持ち上げ、その頬には朱が差している。

 

 

(こいつは何言っても感動するからな……)

 

 

 照れくさくなったヒョウは、ガリガリと頭をかいて、目を背けた。

 そして――

 

 

「はい!!」

 

 

 リンのいつもの声が、響く。

 

 夜。

 

 二方の黒砂炎の明かりを残して、カーテンを閉める。

 

 薄ぼんやりとした明かりがカーテン越しに映る中、ヒョウは床についた。

 

 気になると言えば、気になった。

 

 しかし、ここで隠密にカーテンを開けてしまったら、人としても義兄としても失格であろう。

 

 布団にくるまる。

 

 しかし、目を向けるぐらいは、罪ではなかろうと、白いカーテンに目をやった。

 

 明かりの位置も問題だったのだろう、そこにはリンの影がばっちり映っている。

 

 リンは何かを持ちながら、それを自分に合わせていた。

 

 何をしているのかは、明白である。

 

 

「ばっか」

 

 

 ヒョウはつぶやきながら、眠りに落ちた。

 

 

 

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