囚われの少女を救ってから惚れられている。しかし相手は十一歳だ 作:松岡夜空
一階カフェ『ラインズダバイン』
ヒョウ、リン、アイリス、の三人は、テーブルにつきながら食事をしていた。もしかしたら会うかもと思ったが、マルコ、ネイファ、ペイリの三人はどこにもいなかった。
「つまり話をまとめると、紫頭の前で父親が母親を撲殺。理由は痴情のもつれ。母親、父親双方ともに、浮気の形跡あり。そしてそれ以降、紫頭の声は出なくなっている。そしてそれが、半年間続いている。それでいいな?」
「そゆこと」
「ふむ」
リンが必死にメモを取る中、ヒョウは腕を組み、目を閉じた。
広がる暗闇。
頭の中で、ペイリ、ネイファ、マルコの相関図を描いた。
目を開く。
この時間、わずかに四秒。
「なるほど。ということは、あいつは紫頭の声を取り戻したいってことか。となると、次の手順もおのずと絞られるな」
「え」
リンが両手で口元を隠しながら、ヒョウに目を向ける。
アイリスはストロー越しにコーヒーをすすりながら、ヒョウを見ていた。
「えっとあの……どうしてそうなるのでしょうか? リンには全くわからなかったので、教えてくださるとその、助かります」
「いや、今の情報でわかったわけじゃない。お前は
ヒョウが指を二本立てた。
「紫頭の声を取り戻すために動く。もしくは、ハゲに憎しみをぶつける。金髪がいつからハゲを憎んでいたのかも重要だ。事件が起きた『後』なら、半年間『のみ』何もしなかったことになるが、事件が起きる『前』なら、数年以上何もしていなかったことになる。後者なら今後も何もしない可能性が高いが、前者なら半年は心理的な節目だ。そろそろ動くかもな。まあさっさと動かないなら、諦めるほかないが。そこまで暇でもねえしな」
「な、なるほど……」
「本当にわかってんのかー? お前」
「いやえっとその、じゃあ今後、あたし達はどうすればよいのでしょうか?」
「そりゃ順当に行けば監視――」
「あ、その前に一応言っておくけど」
アイリスが挙手する。
目を向けられたアイリスが、ズズズとストローでコーヒーをすすった。
「その監視には、あたしは参加できないからね」
「ええええええ!? そんな!? どうしてですか!?」
ガタンと席を立ちあがり、リンが言った。
「いや、いたって普通の解答だろ。ちょっとビックリしすぎじゃね?」
「ですが、それでは……マルコさんが」
唇を尖らせながら、リンが席に戻る。
リンは時々、自分の優しさに他人を巻き込むことがある。それはリンが甘えられる相手に限定されており、一番巻き込まれるのがヒョウだった。
ヒョウは、
ヒョウがリンを指さし口を開く。
「だからさー、他人のためにどうこうするってのは、本来不自然なんだよ。実はお前がやってることの方がちょっとおかしいんだぜ? わかったな? リン」
「……はい」
「これからは兄様の行動に口出す前に、ちょっと一考するように。自分の方が間違ってるかもとたまには考えようぜ? わかったな? リン」
「……はい」
唇を尖らせながら、リンが言った。
怒っているリンは珍しい。
そしてヒョウは、怒っている相手を見るのが好きという悪癖を持っていた。
だからヒョウは、カラカラと笑った。
ズズズ。
また、アイリスがストロー越しにコーヒーを飲む音が、響く。
ズズズ、ズズ。
飲み終わったカップを、アイリスが近くのゴミ箱に捨てた。
「あのさー、拗ねたり得意げになったり怒ったり高笑いしたり忙しいところ悪いんだけど、別に他人事だから参加しないってわけじゃないよ。ただあたし、こう見えて内閣守衛隊だから。表立ってそういうのに参加できないんだよね。一応隠密の身なので」
「あ。そう言えばそうでした」
リンが赤い顔で口元を隠す。
『そう言えばそうでした』とは、多分自分のことも指しているのだろう。
リンはこう見えても、東の大陸の諜報員。
十狼刀決死組三番隊の正規兵なのだから。
そして、先まで明るかったアイリスがやや不機嫌に見えるのは、もしかしたらこの祭りに参加できないからなのかもしれない。
「まあ俺たちに関しては今更だが、実際問題、俺たちが動くことはないかもな」
「え」
リンが目を向ける。
「あいつの動きは全て読み切っている」
口端を持ち上げながら、ヒョウが言った。
リン。
何だったら、ヒョウ自身も忘れているかもしれない。
ヒョウは魔族。
根っこは、ペイリと同じ、悪。
そしてリンは、人間の中でも今どき珍しいほどの、善だった。
悪と善。
相反する二人を、アイリスは静かに見つめていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
夜。
「ギャッ!!」
「グハッ!! グホッ!!」
「ちょっ、ちょっと待って、ちょっと待ってください!! お願いします!!」
路地裏で、地面に膝をつけながら、命乞いをする二人。
顔は元々崩れていたが、今ではもっと崩れている。
ペイリは煙草を口にくわえて、火をつけた。
ちなみにクズ共が連れていた、つまらない女どもはもういない。
金を渡して帰らせた。
無論、その金には魔力を込めている。
最悪警務隊を連れてきても、わかるように。
魔力探索。
一流の魔術師は、自分の魔力をある程度まで追うことができる。
ペイリはクズ二人に自分の魔力を込めた金を渡すことで、クズどもが飲んだくれていた、安酒場の位置を特定したのだった。
「君たちにちょいと質問がある」
「は、はい……何でしょう?」
「君ら二人を見た時ピンときたんだ。その揃いの月のネックレス。男同士でペアルックもないだろう? 君らはどこかのチームに所属している。そうだね?」
「は……はい。ですが、その、チクったりは――」
「そうだよ。やりやがったなてめえ。後悔すんな。後でお前の図書館にまで押しかけて、袋にしてやるからな、覚悟――ギャッ!!」
ペイリは男を蹴り飛ばした。
そして言った。
「総長に会わせてくれ」
「え?」
「やりたいことのために、ちょっと人手がいるんでね。このチームを奪うことに決めたよ。ただ――」
ペイリが足を上げる。
真下には、蹴り飛ばされて、仰向けに転がっている男。
「おい。待てよ。ちょっと……待ってくれ」
「こいつは――いらないかな」
「やめてくれえええええええええええええ」
「ガン」
ペイリが目を向ける。
声を発した男は、小柄ながら、屈強な体躯をした男であった。
チカチカと、消えかかった街灯が光る。
僅かな光が、眼鏡をかけたもう一人の男の姿を映し出す。
ペイリが即
言うまでもないがその二人とは、虎戦傭兵団団員、ジョニーとロナウドであった。
消えかかった街灯が、今もチカチカと、瞬いていた。