囚われの少女を救ってから惚れられている。しかし相手は十一歳だ   作:松岡夜空

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悪党同盟なるか

(なるほど。強いな。人間でこれだけできるということは、確実に何かを『やってる』やつだ。こいつらの関係者か? 少し探りを入れてみるか)

 

 

 ペイリは見鬼(けんき)を使ったまま、倒れている男を蹴り飛ばした。そして足を踏みつける。悲鳴が上がった。

 しかし、ジョニーとロナウドの魔装は、微塵も乱れない。

 

 二人の扱う見鬼(けんき)が、暗闇の中に微かな光を灯していた。

 

 

「顔面を蹴ってこっちの反応を見て、足を砕いて人質にすることも考える、か?」

 

 

 小柄な男、ジョニーがニヤニヤと笑いながら、言った。

 

 

「一手で二手三手と意味を持たせる。魔族がよく使う手順だな。まあ俺でもそうするがな。しかし、俺はこいつらの仲間じゃない。言うなら、第三勢力と言ったところか? そう言った方が、面白そうに聞こえるだろ?」

 

 

 手を広げて、ジョニーが笑う。

 百パーセント自分が格上であると、確信している顔であった。

 

 

(いっそここで殺すか……)

 

 

 ピクリと指を動かす。

 二人の目は、一挙手一投足を見逃すまいと、ペイリを見据えていた。

 

 

(いや、二対一はさすがに厳しい。しかもそれは最低だ。こいつらが二人だけで動いているとは思えない。この二人は確実に堅気ではない)

 

 

 舌打ちして、煙草を口にくわえる。

 少なくとも今交戦してくる様子はないし、煙草は口元に火のエレメントを貯えておける、という利点もあった。

 火力は、術式練魔でいくらでも増大できる。

 

 

「何が目的だ?」

 

「なーに、手を組みたいだけさ」

 

「手を組むだと?」

 

「いいかな」

 

 

 眼鏡の男が言った。

 

 

「お前は新市街ノースエリア〇〇ー××のマルコ=ラングレイに対し、恨みを抱いている。そうだな?」

 

 

 ペイリは舌打ちした。

 煙草を吐き捨て、靴で踏み潰す。

 

 

「お前らは、あのクズの敵か?」

 

 

 練魔で魔力を噴き上げた。

 

 

「やる気か? おい。いいのかよ? カッコつけて、最後は地べたに這いずる。そんな情けない結末晒すぐらいなら、同盟ってことにしておいた方が、かっこつくと思うがねー俺は」

 

「よせジョニー。何故組めない? 明確な理由が聞きたい」

 

「あいつは近いうちに俺が潰す」

 

 

 ネクタイを緩めた。

 

 マルコのことを、昔から恨んでいたわけではない。

 

 どちらかというと、好いていた。

 バカの利点は人を安心させることができる点にある。

 あいつのバカさ加減は、少なくともその役割を果たしていたように思える。

 

 

「だがそれは、俺の計画の下での話だ」

 

 

 未成年に飲酒喫煙。賭博に夜遊び。バカだと思う反面、羨ましい生き方をしているなと思ったものだ。

 自分には生涯できない。あんな感情むき出しの生き方は。

 

 だから、マルコのことを、母であるユイファに相談された時も、いいんじゃないかと、自分は答えた。

 

 何事もまっすぐに楽しめるのは、一つの美徳であると思うと。少なくとも自分にはできないと。時期がきたら、きっと大人になる時が来るはずだと思うと。

 無責任だと、思いつつも。

 それが本音だったから。

 

 そしてそれから半年後。

 ユイファが殺された。ネイファは声を失った。父は牢獄に繋がれた。マルコが大人になる、時期がきたのだ。

 

 しかしマルコは、妹のためという大義名分の下、周囲に迷惑をかけてまで暴れるようになった。そしてついには傷害で捕まった。

 

 あいつは真性のゴミだった。

 

 それでもいつかはと、半年待った。

 しかし結果は変わらなかった。

 

 死聴が言う。

 マルコを殺せ滅ぼせと。

 その通りだと思った。

 

 だが今、あいつのために戦おうとしている自分に、ホッとしている自分もいた。

 あいつを大事に想っているわけじゃない。潰したくないわけでもない。

 ただ――

 

 

「俺の知らないところで潰されたら迷惑なんだよ」

 

 

 こんな自分こそ、あの人が、好きでいてくれた自分なのではないか。

 そんな気がするのだ。

 

 

 しかし……。

 

 

「そうか。じゃあそれでいい」

 

 

 ロナウドが一切感情を動かさず、言った。

 

 

「何だと?」

 

「お前の計画に従おう。同盟という言い方がまずかったな。俺たちは従う。トップはお前だ。俺たちを手足の如く使ってくれ。そしてマルコを潰せ。それがお前の――本懐なんだろ?」

 

「……」

 

「それともただのツンデレ王子かよ? おい」

 

「よせ、ジョニー。からかうな。愚問だろ?」

 

 

 目を閉じた。

 

 

『だからさようなら』

 

 

 最期に聞いた、彼女の言葉。

 

 好いていてくれたことは、知っていた。

 

 魔術師は、言葉がなくても、見鬼(けんき)でわかるから。

 

 だから多分彼女も、魔術師らしく、魔装で伝えてくれたのだろう。

 

 

(俺の人生は、彼女が死んだとき、終わった。今更どうなっても、あの人がいる死界に混ざるだけ。だがその前に、やっておかなければならないことが、ある)

 

 

 滅ぼせ滅ぼせ滅ぼせ滅ぼせ滅ぼせ滅ぼせ滅ぼせ滅ぼせ滅ぼせ滅ぼせ滅ぼせ。

 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。

 

 

 死聴がうるさい。

 わかっているとも。

 すぐに餌をくれてやる。

 

 

 彼女が遺したものを救うためなら俺は、鬼にでも魔にでもなろう。

 

 

「いいだろう。ならばまずは、このゴミ共を徹底的に痛めつけ、総長の居場所を聞き出し、潰してこい。その後、このチームを使って俺の計画を実行に移す。金はいくらでも使っていい。どうせ俺にはもうすぐ無用になる」

 

 

 ペイリが踵を返す。

 

 後ろで、悲鳴が聞こえた。

 

 

(マルコ。お前の罪を償う時がきたのだ。泣け喚けそして死ぬがいい)

 

 

 ペイリが笑う。

 笑って伸びた口端からは、唾が垂れている。

 

 その表情は、死聴からくる頭痛と、後に来るであろう解放を予期し、歪んでいた。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 ――数日後の、夜。

 

 

 ガシャーン!!

 

 

 家の窓が叩き割られた。

 

 

 リビングに放り込まれたのは、赤黒いレンガだった。紙が貼りつけられている。取って、見た。

 

 

『お前の仲間である、クシムとソボオは預かっている。罪を償う時がきたのだ。助けたければ、一人一人、別れて引き取りに来い。場所は――)

 

 

 それを見て、マルコは震えた。

 

 

(どうする。片方は俺が行くとして、もう一つは……)

 

 

 そんな時、後ろから紙を引き抜かれた。

 

 振り返った先に立っていたのは、ネイファだった。

 

 紙をマジマジと見て、それを放る。

 

 クルリと背を向け、ネイファが髪を持ち上げた。

 

 それを、一つ、二つと、縛る。

 

 手を下ろした時、ネイファの勝負髪である、ツインテールが完成していた。

 

 ツインテールの一房をかき上げて、ネイファが何も言わず、いや、何も言えず、玄関に向かう。

 

 

「待て、ネイファ!!」

 

 

 マルコがその肩をつかんで、引き止めた。

 

 ネイファは物言わず、マルコを睨み据えている。

 

 

 キレている。

 

 見鬼(けんき)を使わずとも、それはわかった。

 

 魔力が痛いくらい、吹き付けてくる。

 

 自分に対して怒っているのだろうかと、マルコはその手を引いた。

 

 

 バタン。

 

 

 扉が無情に閉められる。

 

 

「くそー!!!!」

 

 

 一人、マルコは吠えたてた。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 ネイファは一人、夜道を歩いていた。

 

 

(あのバカ……)

 

 

 心の中で、自分のバカ兄貴に対して毒づいた。

 

 

(どうせまた自分のせいだ、なんて思ってるんだろうな)

 

 

 まあ事実そうだが。

 

 

(例えそれがあんたのせいでも、怒る相手は、一つしかないでしょうが。このあたしから物を奪うなんて、いい度胸してんじゃんよー)

 

 

 ふと。

 ネイファが足を止めた。

 

 

 目の前を数人の男に阻まれたからだ。

 

 皆、揃いのネックレスをしている。

 

 あの時、自分に絡んできた男たちがしていたものと、同じ、三日月のネックレスだ。

 

 笑った。

 

 

(なーんだ。マルコのせいじゃなく、あたしのせいじゃん。ソボオには悪いけど、これならよかったよ。だったら――)

 

 

 バッ。

 

 両手を前に出す。

 

 

(心置きなく、潰せんかんよ!!)

 

 

 ネイファが練り上げた魔力が、夜の闇に溶ける。

 

 それを、半分欠けた月が見下ろしていた。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

 マルコは駆けていた。

 

 マルコに残された数少ない友人であるクシムとソボオがさらわれたと、ガラスを破って放り込まれた石に、書かれていたからだ。

 

 

『現に、先程の人は、足と頭を怪我していました。あれがあなたのせいではないと言い切れますか?』

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

『巻き込んでいない。そう断言できますか?』

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

『次は、あなたが守ろうとしている、妹さんの番かもしれないのですよ?』

 

「くそっ!! くそくそくそくそくそ!! くそー!!」

 

 

 数日前、わずか十一歳の少女に向けられた言葉を思い出す。

 

 子供に言われるとはと、心を入れ替えたつもりであった。しかしそんなものは、他者から見れば、ちゃんちゃらおかしい話である。

 

 もう実行してしまったことなのだ。ろくに罪を償うこともなく、終われるはずもない。少女がかつて言ったように、報いの時は、必ず来る。

 

 

 覚悟していた。

 こうなることも予測していた。

 ただ心のどこかで、見て見ぬフリをしていた。

 友人の優しさに甘えていたんだ。

 そんな自分に、今更ながら、殺してやりたいほど、腹が立つ。

 

 

 駆けてやってきた、クシムの家。

 心配で来たわけじゃない。

 呼び出された場所が、ここだったのだ。

 家族ごと、襲われたのかもしれない。

 

 

 クシムの家は、二階建てだ。

 

 二階には、落ちないよう、手すりがある。

 

 その手すりに、一人の少女が立っていた。

 

 

 黒い短髪の少女で、リンと同い年ぐらいか。

 表情も吸い取られたように、欠片もなかった。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

 激しく息をつきながら、膝に手を置く。

 

 顔を持ち上げ、マルコは言った。

 

 

「クシムを……俺のダチをどこにやった!!」

 

 

 少女は無表情のまま、小首を傾げた。

 

 

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