囚われの少女を救ってから惚れられている。しかし相手は十一歳だ   作:松岡夜空

5 / 65
しゃあねえな

 ――ってなことがあって、今現在に至る、というわけだ。

 ああ長かった。

 

 

「ですが、兄様が一緒に来てくれるとは――その!! 思ってませんでした……」

 

「ん~?」

 

 

 学校の制服なるものに着替えながら、俺は振り返った。

 

 リンは正座し、俺に背中を向けている。

 

 デリカシーに欠けたのは間違いないが、ワンルームなのだから仕方ない。どうしても見られたくなきゃ、風呂場ででも着替えるしかない。

 

 まあー、後でカーテンでも買って帰ろ。俺はともかくリンがあれだし。

 

 

「まあ雪女かゴリ姉が来るってんなら行かなかったけどな」

 

「……そう、ですか」

 

 

 リンの気落ちした声が聞こえる。

 

 リンは背中を向けていたので表情まではわからなかったが、どうせ寂しそうな顔で俯いているんだろうなと思った。

 

 

「あ――でもまあ、それ以外だったら俺も来るつもりだったよ」

 

「そうなのですか?」

 

「当たり前だろ。仮にも義兄だし、一応その――心配してんだぜ?」

 

「そ、そうですか……」

 

 

 やはりシュンとした声で、リンが言う。

 

 こいつじゃあどうやったら納得するんだよ。

 

 軽くイライラした俺は、リンの近くに行って、その両耳に手を添えた。

 

 

「ヒャッ!!」

 

 

 リンがビクッとして、うずくまる。両耳を押さえながら振り返るリンを見て、俺はカラカラと笑った。

 

 

「いきなりそんなことをされたら、ビックリしてしまいます」

 

「ビックリすると思ってやったんだよ」

 

「ふふっ。何だか兄様、子供みたいです」

 

 

 くすぐったそうに笑って、リンが言う。

 

 

「そんなことより、お前さっきから何落ち込んだ感じになってんだよ」

 

 

 やや気恥ずかしくなってきた俺は、明後日の方向を見ながら尋ねた。

 

 

「え? そうでしょうか?」

 

 

 リンがさもそんなことないとばかりの口調で言った。

 

 こういうのを見ると、こいつも女だなと思う。中々に、化ける。

 

 俺は、そんなリンのそばに腰を下ろして、リンのモチモチしたほっぺをつまみ、引っ張りまわした。

 

 

「そんなのいらないからさー、さっさと理由を教えてくださいませんかねー、リンちゃんさーん」

 

「いひゃいいひゃい、いひゃいです、あひしゃま!」

 

 

 俺の手を何度も叩いてくるので、俺はその訴えに応じた。

 

 

「で? 何で落ち込んでんだよ。言え」

 

「その……」

 

「なんだよ、俺に来てほしくなかったってことか?」

 

「ち、違います!! 絶対に違います!!」

 

「じゃあなんなんだよ」

 

「あの……」

 

「おう」

 

「その……」

 

「お前マジでいい加減にしろよ。俺は待つのが嫌いなんだよ」

 

「いや違うんです!! あの!! せっかく兄様に来ていただいたのに、兄様と、同じクラスになれなかったのがその――少し……残念だな、と」

 

「あー」

 

 

 北頭の魔術学園のクラスは全部で十八。これは能力と属性で分けられる。

 能力には学力も含まれ、そのため授業は一般教養も含まれる。階級はABCDEとあり、仮に超絶的な魔術師がいても、一般教養がカスならEかDになる。ちなみにEはニクラスしかなく、授業内容は九割学業である。落ちこぼれと子供が在籍するのがEクラスである。通称Eレン。

 

 属性は魔力の質で、別に火属性だから火が得意水が苦手、なんてことはない。便宜的に火水風土とつけているだけである。ちなみに属性は、治癒を主とする白魔術の時に用いる。性格にも関係があると言われてるため、反発することがないよう属性でもクラス分けしているようだ。

 

 俺とリンは、最初、火のBクラスに在籍するつもりだった。ちなみに俺とリン尾属性は違うがその辺は提出した資料の段階で改竄している。AではなくBを選んだのは、いざ無理が出てもAに繰り上がるだけで済むかもしれないと考えたからだ。まあ、ちょっとした保険ってやつ。

 

『君はここで学ぶことなし、卒業!!』ってなことを言われても困るしな。まあ杓子定規な北頭(ほくとう)でそれはないだろうが。飛び級はあっても卒業は基本的に三月である。

 

 

 しかし、わざわざ北頭にまで出向き、テストを終え、蓋を開けてみれば、俺はB、リンは特待Sを獲得した上での、Aとなっていた。理由はちょっと考えればわかるだろう。

 

 

「それはな~、お前が~」

 

 

 俺は今一度、リンのほっぺを、むんずとつまんだ。

 

 

「特待Sなんて、一人でとってるからだろがあああああああああああ!! なんでお前はそう負けず嫌いなんだよおおいいいい!!」

 

「ふええええええ!! だから言いたくなかったんですうううううう!!」

 

 

 リンのほっぺを引っ張りまわすと、リンは泣きながら悲鳴を上げた。

 

 

「ったく」

 

「うぅ……ひどいです、兄様」

 

「ひどかねえ。それに残念でもねえ」

 

「あたしは……」

 

「ちょっとの時間だろー? 学校なんてほっときゃ終わってる。またすぐに会うさ」

 

「……はい」

 

 

 シュンとした顔でリンが言った。

 

 ったくこいつは。本当すぐすねる。

 

 俺は、銀具――魔術補助器具――である指輪を左右に合わせて五つ、バラバラにはめていく。五つ目。最後の一つをはめようとして――

 

 

「リン」

 

「はい」

 

 

 ピンと指で弾いて、その指輪をリンに放る。

 

 リンがそれを慌てて受け止める。

 

 

「やる。つけとけ」

 

「えええええええええ!?」

 

 

 リンが両手で口元を隠し、顔を赤くする。

 

 

「いや違うって。クラスが別れたからだよ。勝手に消えられると、困るからな」

 

 

 腕を組み、目を背けた。

 

 魔力探索と言って、自分の魔力はある程度までなら追うことができる。俺はそれに自分の魔力を込めて、リンに渡した。 

 

 例えるなら鉱山に行く前にヘルメットを渡したのとまあ同じだ。

 

 それで『え、プロポーズ!?』みたいな反応をするのが、このリンという女なのである。

 

 まあ北頭(ほくとう)には、大事な相手に指輪を送る、という風習があるのも事実なのだが――

 

 

 無駄な文化(こと)だけ調べてやがるんだから、こいつはよー。

 

 

 

「はい!!」

 

 

 リンの言葉が聞こえて、目を向けた。

 

 リンは大層嬉しそうに笑っている。

 

 伝わっているのかいないのか。

 

 思わないでもない。

 

 でもまあ、リンが喜んでいるのなら、それでいいか、とも思う。

 

 大事だ、という気持ちに嘘偽りはないのだから。

 

 

 

 

 

 

『兄様と同じクラスになれなかったのが、少し、残念だな、と』

 

 

 

 

 

 

 ふと、リンの言葉を思い出した。

 

 頭の中で一秒ほど、ヴァルハラ魔術師学園校則書を、パラパラとめくった。

 

 

 

 

 

 ヴァルハラ魔術師学園校則書。昇級について。

 

 一。クラスごとに年四回ある試験を突破すること。

 

 二。クラスで一番優秀なもの、クラスリーダーを、三人以上の魔導師立ち合いのもと、打ち倒すこと。

 ただし双方の同意がなければ成立しない。三人以上の魔導師からの推薦があった場合、クラスリーダーはこの申し出を受けなければならない。

 

 三。在籍しているクラスの魔導師、移籍先の魔導師、導長、学園長の四人の推薦と了承を得ること。

 

 一、二、三、いずれかをクリアした時のみ、当該魔術師の実力がそれに相応しいものと認め、昇級させるものとする。

 

 

 

 

 

 

 笑った。

 

 

「それじゃあとっとと行くぞ、リン」

 

「はい!!」

 

 

 リンの声が、後ろから響く。

 

 ガチャリ。

 

 扉を開く。

 

 光が視界を塗りつぶすように溢れてくる。

 

 どうやら今日は、快晴らしい。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。