囚われの少女を救ってから惚れられている。しかし相手は十一歳だ   作:松岡夜空

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挑発

「東尾からの留学生――というのも珍しいが、二十二で留学してくる人も珍しいね。いや、うちは二十二までしか在籍できないからさ」

 

 

 ヴァルハラ王立魔術学園の廊下を歩いていた時、俺の担任になるらしい、スダレハゲ魔導師が言った。ちなみに魔導師とは、魔術師を導くもの、つまり一般的な学校でいうところの、教師ってことである。

 

 

「妹が優秀なものでね。そのお守りってやつさ」

 

 

 嘘はつかなかった。物事を隠す一番の秘訣は、偽ることではない。話さないことだからだ。

 簡単に言うと、Aの真実を話すことで、Bの真実に話が及ぶことを防いでいる。つまり、Aの真実を壁にしているわけだな。

 話術の初歩中の初歩である。知らずに使っているものもいるであろう。

 

 

「しかしその妹はA級。君はB級。離れてしまったね?」

 

 

 語尾に嘲りを感じた。

 

 俺は、変装の一環でかけさせられた眼鏡をクイと持ち上げ、笑った。

 

 怒る気にもならない。当然だ。リンを鍛え上げたのはこの俺。力の差は誰よりもわかってる。

 

 

「まあ一緒に来てくれるだけでも違うものかな。え?」

 

 

 スダレハゲが、無遠慮に人の肩を叩いてくる。中々の打力で、俺は少しよろめいた。

 

 目を向ける。

 

 スダレハゲが、白い歯を見せて、笑っていた。

 

 俺は目を上向けた。

 

 

 わかりやすいこって……。

 

 

「それではヒョウくん。入って下さい」

 

 

 しばらく教室の前で待たされた後、名を呼ばれた。ガラガラと扉を開き、中に入って、クラスメイトの前に立つ。

 

 

「本日東尾から留学することになった、リティシア=豹くんだ。みんなよろしく頼むよ」

 

 

 担任のすだれハゲ魔導師が言った。

 

 ちなみにヒョウとは本名だが、リティシアはリンの苗字である。俺には苗字がないからな。設定上、俺とリンは本物の兄妹ってことになってるから、これで丁度いい。

 

 教室内で、ヒソヒソと、様々な言葉と感情が飛びかう。

 

 

 興味、敵意、好意、無論、無関心もある。

 まあ順当なところだ。

 

 

 とりあえず、俺がすべきことは、このクラスで一番の強者、クラスリーダーを探すことなわけだが――

 

 見鬼(けんき)

 

 俺は目に魔力を込めて、クラス内を見据えた。

 

 見鬼(けんき)は魔力の流れを読む青魔術である。それすなわち相手の思念(かんじょう)を読む青魔術でもある。

 

 しかし、一流の魔術師はそれを防ぐため、整纏《せいてん》と呼ばれる青魔術で、心を読ませないようにシールドを張っている。

 

 たが逆に、その整纏(せいてん)が教えてくれる情報がある。

 

 それは、魔術師の力量である。

 

 一流の魔術師であればあるほど、強固なシールドを張っているもんだからだ。

 

 グルリと見まわし、当たりをつけた。

 

 こいつか。

 

 俺には一切興味を持たず、ボーっと外を見つめているツインテールの女。間違いなくこいつが、このクラスの『生徒』の中では一番強い。

 

 

「じゃあヒョウくん。向こうの空いている席に座ってくれるかな?」

 

「はいよ」

 

 

 背中越しに返事して、席に向かう。

 

 席に向かうとき、チラリと女を盗み見たが、やはり女は俺より外の方が気になるようだった。

 

 椅子を引いて、席につく。

 

 

「なあなあ」

 

「えと、は、はい!! な、何でしょう?」

 

 

 隣の女が振り返った。

 

 

「このクラスで一番強い奴。つまり、クラスリーダーはどいつだ?」

 

 

 周囲がどよめく。ハゲの魔導師すらも俺に目を向け始めた。

 

 

「俺は今日中にA級に上がるつもりだからよ、そいつをとっととぶっ潰さないとならないんだよ」

 

 

 試しに挑発してみる。

 

 どうにも乗り気じゃないみたいだからよ。

 

 

「ああ、それだったら絶対、ネイファちゃ――」

 

「おい!!」

 

 

 後ろから声がかかる。

 

 振り返った。

 

 瞬間。

 

 

 パシ。

 

 

 つかんだ。

 

 開いて、手の中の物を宙に放った。

 

 消しゴムのきれっぱしだった。

 

 しかし死念が込められている。当たっていたら大ケガしているところだ。死念は思念に引き寄せられる性質があり、それを物質に込め放つと、途轍もない爆発力を生み出す。

 腕にもよるが、ちょいとした弾丸級の威力は出る。俺がそれを楽々つかんだのは、同じく死念で包んで止めたからだ。

 わかりにくいかもだが、ま、何事も対処法ってのはあるもんでね。

 

 

 そいつを放ったのは『え? 人殺したことないの? 嘘でしょ?』って聞きたくなるぐらい、くっそ悪そうな顔をしている、ボーズ頭の男のようだ。

 

 見鬼《けんき》を使うまでもなく、俺に殺意を持っているのがわかる。

 

 ふーん。

 

 

「まあいいや。サンキューな」

 

 

 ピンと、消しゴムのきれっぱしを、ボーズ頭の頭上に飛ばす。

 

 それは天井を穿ち、パラパラと、くす玉でも割ったように、ボーズ頭の上に破片を落とす。

 

 頭に天井の破片を落とされて、男は怒り心頭に俺を見ている。血管がボーズ頭の上を蛇のように這っていて、中々に笑えた。

 

 ドヨドヨドヨ。

 

 周囲がどよめく。

 

 へへへ。

 

 力の差は歴然なのだが、俺はこういうのは結構好きだ。

 

 勝てる勝てないじゃない。肝要なのは、笑えるか笑えないかさ。

 俺は辛気臭いのは嫌いだ。だからこういう大した理由のない喧嘩は嫌いじゃないのさ。

 

 目を閉じて船を漕ぐ。

 

 

 切っ先。向けられた気がした。しかしそれが夢であることは知っていた。

 俺は脇の剣を抜くや、相手の腹を裂き、落とした刀で相手の喉を突いた。

 崩れ落ちたのは俺の師であった。その魔装には『恐』怖が溶けていた。

 俺が六歳の時の話である。

 

 

 バン!!

 

 

 机を叩かれる。

 

 目を開いた。

 

 そこにいたのは、失敗面のお団体。

 

 

「あれだけ大見栄切ったんだ。覚悟できてんだろうな!! クソ眼鏡野郎!!」

 

「眼鏡かけても一生『眼鏡眼鏡』しちゃう、お目々(めめ)にしてやろうか、おおん!?」

 

「くっくっく」

 

 

 お団体のテンプレ発言を断ち割って、俺は笑った。

 さっきも言ったが、俺はこういう大した理由のない喧嘩が嫌いではない。

 

 何より、夢で見た師とはえらい違いで、ついつい肩を揺らして笑ってしまった。

 

 

「なんだ、てめ――」

 

「こういうのを、テンプレっていうのかね?」

 

「あ?」

 

「だが――血がたぎるぜ。野良犬なもんでな」

 

 男らのコメカミに青筋が浮かぶ。

 

 俺はそれを、瞳の色を深くして、精神世界(アストラルサイド)から見据えていた。

 

 

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