囚われの少女を救ってから惚れられている。しかし相手は十一歳だ 作:松岡夜空
ワイワイガヤガヤ。
朝になり、市に足を運ぶ。
市場は仮装した男女で盛り上がっていた。
よくも悪くも、祭りの日にドンピシャしてしまったらしい。
「何の祭りだこれは」
「仮装大会の日というわけではなく、かつての大戦の死者を弔う日のようですね。かつての大戦は、魔族や憑き人の方の、差別からきたものらしいですから」
街中で受け取ったパンフレット――世界の歴史――をお供に、リンが言った。
「楽しんでいるだけのようにしか見えないけどねー」
「それはそれでよいのではないでしょうか。数百年の時を経て、今の幸せがある。それを亡くなった方々に見せられれば、それで十分かと思います」
「お前ってやつは、本当堅苦しい思考してるなー」
「え!? そ、そうでしょうか? あたしの考え方は、堅苦しいですか?」
リンが恥ずかしそうに、両手で口元を隠した。
「……では、どのように考えるのが正解だったのでしょうか? 兄様」
「そりゃ簡単だ。自分が楽しめれば、オールオッケイ」
これはヒョウの信条だが、リンに持ってほしい思考でもあった。
こいつはいつも、他人のことを考えすぎるから。
ちょっとぐらい、他人じゃなく、自分のことを優先したっていいはずなのに。
いつも言ってるが直らない。
しかし、それでこそ、リンらしいなとも、思っている。
「……」
「なんだよ」
「ふふ。兄様らしい考え方だなと思って」
「誉めてんのか? それ」
「誉めています――という言い方は、あたしの立場ではやや失礼かもしれませんが」
「ふーん」
「あの」
「なんだよ?」
「もしかしたら、リンが、兄様の言葉に、その、感動しやすいのは――」
「お客さんお客さん」
リンの言葉を遮るように、街中の男が声をかけてきた。
男は虎の仮装をしていて、頬に傷痕のような三本線を入れている。
「知らないのかい? 今日は四月二十二日。大戦終息の日で、こういったコスプレ――じゃなくて、憑き人さんの格好をして、当時の死者を弔うのが習わしなんだ」
「へー」
「ちなみに、この手の格好をしていると、商品を安く売ってくれたりする店も多いんだぜ? フェルナンテやレイブンなんかは、言うまでもなくそのままでいいけどな」
「ほー」
「で、ここで本題だ。どうだいお兄さんとお姉さん。この獣耳バンド。今なら五百ルートでお売りするよ。ついでに尻尾もこちらにたらふく種類を揃えてますんで。いかがでしょう」
「いらねえな。じゃあ」
「え!! ちょ、ちょっと待ってください!! いいんですか!? 彼女の猫耳姿、見たくないんですかい!? 絶対に後悔しますよ!?」
ヒョウは足を止め、スタスタとその場に戻った。
「あのな。こいつは妹だ。こんなガキ彼女にしてたらおかしいだろ」
「あ、いや、彼女とはそういう意味で言ったわけでは――いえ、すいません」
ヒョウは軽く舌打ちして、リンを見た。
リンはシュンとした顔で目を伏せている。
「え。お前もしかして、あれがほしいのか?」
ビックリして、ヒョウが尋ねた。
確かにリンは子供だが、精神年齢は比較的に高いと思っていたのだが――
「え? あ、いや――」
「ほらー!! ほらほらー!! 妹さんもこう言ってますよ?」
「あんたは黙っててくれ」
「……はい」
「えっと――そうですね。兄様のそういう姿は、見てみたい気もします」
どこか、取り繕ったような笑顔を見せて、リンが言った。
「ふーん」
一度空を仰いでから、今一度リンに眼を向ける。
リンはやはり、何やら気落ちしている感じだった。
――しゃあねえな。
ヒョウは男のカゴからリンの服と同色の猫耳をとって、それをリンに被せた。
リンが猫耳を押さえながら、顔を上げる。
ヒョウは今一度、青空に目を向けた。
「やるならお前も一緒にだ。当たり前だがな」
売り子は『してやったり』という顔で、ヒョウとリンを交互に見やった。
リンははしばしヒョウのことを見つめて――そして、困ったような、それでいて、嬉しそうな顔で、笑った。
「はい!!」