囚われの少女を救ってから惚れられている。しかし相手は十一歳だ 作:松岡夜空
ガタン!!
椅子を蹴り飛ばされた。
俺は片手を床につき、もう一方の手で眼鏡を押さえて、片手バク転して着地する。
そんな俺めがけて飛んでくる拳。俺はそれを紙一重で避けながら、相手の足を払う。男が倒れるその前に、次の男に肉薄し、その拳が振るわれる前に、男の首根っこをつかんで、先に足を払った男が倒れるその前に、その後頭部めがけて放り込む。更に三人目に対しては、すぐさま背に回り込んで、掌底をぶち込み、最終的には三人まとめて吹っ飛ばしていた。
ガヤガヤと、教室内が騒がしい。
そんな中、俺は肩をすくめた。
「ま、イージーだな」
恐らくリーダー格であろう、ハゲ頭に向かって笑いかける。
「ほざけ!! まだ終わってねえぞ!!」
当たり前だが、気絶するほどの一撃も、心を折るほどの一撃も与えちゃいない。
三人がまたもや一斉に飛び掛かるが、そこに俺の姿はない。
三人が慌てふためくこと、数秒。やっと俺は見つけられた。
俺は教室の扉に背をつけ、男らの醜態を眺めていた。まあ別に見たくはないのだが。
「やめた方がいいんじゃないのー?」
「あぁ!?」
「残念だが、格の違いが歴然すぎる。今の動きでわからいなら、バカってレベルじゃないな。さっきも言ったが、俺の目的はAに上がることだ。恐らくB級最優秀魔術師であろう、そこの娘以外に用はない。今なら笑って許してやるが?」
「ふざけんな!!」
「まあその代わり、お前らが大事にしていそうなそこの娘は、この俺にケチョンケチョンにのされる未来が確定しているわけだが――あっはっは、あーおかし」
ガン!!
ハゲ頭が、唯一無事だった俺の机を、激しく蹴り飛ばした。
それを見て、俺は笑った。
激情家は嫌いじゃない。誰かのために怒る人間も。
多分自分にないものを、持っているからだろう。
そういう奴らを踏み潰すから、おもしれえんだ。
俺はかけていた眼鏡を外し、髪を後ろで縛った。
「活かすゴングだ。好きだね、結構」
「ぬかしやがれ!!」
外した眼鏡を男らの一人に投擲する。それは拳で弾き飛ばされ、ひしゃげて飛んでいくが、一人の追撃を少しばかり遅らせた。
「いってえ!!」
更にもう一人が足を抱えて悶絶する。俺が先にまいていたマキビシが、足に刺さっていたからだ。
俺はその声を尻目にその場から逃げ出し、扉を閉めた。すぐさま開かれる扉。開かれた瞬間、俺は相手の顔面に前蹴りをお見舞いした。
男の一人がピンボールの玉みたいに勢いよく飛んで行く。
俺はそれを見て肩をすくめ、笑った。
「わおー飛ぶねー。たまやーってか?」
「お前!! さっきから何がそんなにおもしれえんだ!! ずっとヘラヘラしやがって!!」
「人生が。なんつってね」
笑いながらその場から遁走する。
もちろん、逃げた先がこいつらにわかるようにだ。
男らが駆けてくる。
しかし休み時間である現在、廊下には人がたむろしている。
素人じゃ、この人混みを走って踏破するのは難しいらしい。
残った二人――一人は先の前蹴りでノックダウンしたようだ――が悪戦苦闘する様を、俺は廊下の端から見据えていた。
「早く来いよー。俺は待つのが嫌いなんだぜ?」
「くっ。ざけやがって!! てめえ絶対ぶっ殺す!!」
「あっはっは。いいねー。前時代の遺物を見ているようで、最高だね」
俺はもう一度笑いかけ、こいつらにわかるように右折する。
追っ手との距離、速度、全て計算し、相手が決して俺を見逃さないよう、細心の注意を払ってから、階段を上った。
男らのだみ声が聞こえてくる。一人は足にマキビシ喰らってる。聞こえてくる二つの声にズレがあった。まあ――大した問題ではないが。
俺は踊り場を経て、更に上へ。追っ手の一人も階段を上り始めている。俺はそれを、相手が見えない位置で待ち構え――
「あらよっと」
「え!!」
ギョッとした顔を見せて、男が振り返る。
俺が突如手摺りから飛び降り、男の背面に回ったからだ。
男が振り返るよりも早く、俺はその足を払った。
「キャー!!」
階段近くでたむろしていた女の悲鳴を聞いて、俺は転げ落ちそうになっていた男の後頭部を、そっと手で支えた。
確かに考えてみれば、これは危ない。シャレになってないってやつだな。
「あ、いやがったな、てめえ!!」
もう一人の男も、駆け付けてきた。
俺は借りてきた猫のようになっていた男の首根っこをつかんで、追いかけてきた男めがけて、放り捨てた。
「うわああああああああああああああああああ」
男の悲鳴が上がる。追ってきた男は、それで潰れた。
シャレになってないって? 心配無用。悲鳴を上げていた女は無事だ。無関係な女まで巻き込むのは、さすがにやりすぎだからな。
俺は男二人が潰れるのを見届けてから、階段を上がった。
目指すは五階。A級の教室が並ぶ階層。周囲から注目を浴びる。俺は見鬼(けんき)で周囲を探った。お目当ての人間を見つけるためだ。
こいつでもない。こいつでもない。こいつでもない……。
走っている間にたどり着いた、A級火のクラス。窓から見える、リンの姿。男女に囲まれている。
資料によれば、特待Sであっても、本来はDクラスからの編入らしい。即A編入は今年かららしく、それで物珍しく人が集まっているのかもしれない。
加えて言えば、リンの年で特待Sは、普通にすごいことだからな。まああいつは根が暗いから、いつまで続くのかってところもあるが――
リンが振り返る。目があった。驚いた顔をして、口元を手で隠す。俺の
ふん。やはりな。
こっちは生徒だ――!!
殺気。正面。
バン!!
「
リンが、机を叩きながら叫ぶ。その声に釣られてやっと気づいたと思われたら心外だが、俺もまた、殺意に向かって目を向けた。