【ショート小説】戦国のジクウ(ダイジェストVer.)   作:山田★

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祓魔師の修行

 翌朝3時に床を出た。

 まだ外は漆黒の闇で、美しい虫の音が溢れていた。

 庭に降りてみると、ジクウとアシュラが桶と天秤棒を用意していた。

 どうやら4人分あるようだ。

「もしかして、某の分も用意していただいたのか。 」

「そうです。道すがらお話しましょう。 」

 ジクウが作業の手を止めずに答えた。

「一緒に水汲みをしましょう。私もご一緒します。ニッコウ様はいつも別の水場まで行って独自の修行をなさるので、道具だけご用意しています。 」

 修行という言葉を聞いてピンと来た。

 寺の修行で、水汲みをした後雑巾がけをして、足腰の鍛錬をすると聞いたことがある。

「なるほど。良い鍛錬になりそうだな。 」

「ではっ。山道を泉まで登って行きます。 」

 ジクウが先頭をきって走り始めた。

「おうっ。望むところ。 」

 源次とアシュラが後に続く。

「源次さん。改めまして。自分はジクウと言います。我々の名は音しかありません。文字に書くことをしたことがないので、書くときは適当に当て字をします。 」

「なるほど。まるでマントラだな。 」

 源次はマントラが話の鍵になると思って、敢えて言った。

 呪文と呼んでいるマントラが、異国の言葉に当て字をしたものだと聞いたことがある。

「はは。まずは自己紹介させてください。歳は18。法力値は5,300です。 」

 さらりと言ったジクウの言葉に、不可解な点があった。

「今、法力値と? 」

「私は16歳。法力値は1,200です。普通、僧侶は100未満なんですよ。伝説的な祓魔師でも200あれば相当な者です。なぁんてね。自慢しちゃいました。えへっ。 」

 質問には答えてくれなかった。

 法力値とは、僧侶の実力を表しているようだ。

 何らかの手段で数値にしている。

 どこで、どうやって測るのだろうか。

 そんなことを考えたが、話を合わせることにした。

「拙者は飛垣源次。もう知っているな。20歳だ。老けて見られるが、あまり歳は変わらないのだ。 」

 3人は走りながら顔を見合わせて、ニッコリ笑い合った。

「では、ニッコウ様は相当な法力値なのだろうな。 」

「推定で45,000です。歳は38歳。金剛高野山大僧都にして、我々東の祓魔師を束ねる存在です。 」

 こうしている間に泉に到着した。

 恐らく2里程の山道を走りきった。

「はあっ。はあっ。 」

 源次は息を切らしたが、2人はケロッとしている。

「ふふ。毎日続けていれば、居眠りしながらでもできるようになりますから。 」

 察したアシュラが笑いかけた。

「凄いものだな。君たちは山伏か? 」

祓魔師(ふつまし)ですよ。妖魔と戦うのが仕事です。 」

 両天秤の桶に、半分ほど水を汲んだ。

 衝撃を与えると水が跳ね、こぼれてしまう。

「さあ、ここからが修行です。水を桶の中で回す意念を持って走れば(こぼ)れません。 」

 アシュラも軽々と天秤を担ぎ、こちらを心配そうに見た。

 桶には8分ほどの水が満たされていた。

「初めての方なら、半分運べれば凄いと思います。気負わずにゆっくり行きましょう。 」

 ジクウも微笑みながら頷いた。

 2人は始めから、源次のペースに合わせるつもりでいてくれたのだ。

「すまぬな。足手まといにならないよう、頑張るよ。 」

 下りは登りよりも足に負荷がかかる。

 重力に引っ張られて楽だと思い込んで無茶をすると、足にダメージが蓄積してしまうのだ。

 源次は言われた通り、桶を回すようにして水が飛び出さないように気を遣いながら走った。

 途中、河の飛び石を渡ったり、絶壁のようなところを滑り降りたりもする。

 バシャバシャとかなり零してしまった。

「ところで、妖魔と戦うと言っていたが、どこでどうやって戦うのだ? 」

「今度、一緒に行くことになりますから、実際に戦いを見てください。 」

「あれ? 次はジクウの番だったわね…… 源次さんが行くなら、私も行きたいわ。 」

「ああ。そのつもりだよ。交代で仕事をしているのです。ニッコウ様が急に寺を空けることもありますから、1人は残るのですけど、今度は源次さんを守りながらになりますから、万一を考えて2人で行きます。 」

 ここでも、源次に気を遣ってくれていることを知った。

 なんだか肩身が狭い思いを感じた。

「拙者にもできることはないだろうか? 」

 敗北感で一杯の気持を奮い立たせて聞いてみた。

「ニッコウ様が、源次さんのマントラを感じ取ったときに、かなりの才能があると言ってましたよ。期待しています。 」

「それは、剣術のことかな。それとも法力があるのかな。 」

「そこは、きっとこれから分かるわ。 」

 アシュラの声は明るかった。

 3人はしばらく押し黙って走った。

 源次は頭の中を整理してみた。

 林の中で聞こえた天の声は、ニッコウの声だったようだ。

 つまり、飛垣家に伝わるマントラがニッコウ自身、あるいはその守護神に通じる呪文だったのだ。

 東の祓魔師を束ねる大僧都に通じるのだから、飛垣家の先祖は祓魔師と深い繋がりがあったのだろう。

 そして法力値という言葉。

 これは妖魔と戦うときに発揮する何らかの力を表わすと思われる。

 アシュラの話からすると、3人はとてつもない力を持っているようだ。

 きっと想像を絶する戦いが待っているのだろう。

 すでに全ての話が現実離れしているが。

 そして寺と言っていた。

 寝泊まりしている場所が寺かも知れないと思ったが、マントラを使って繋がったこと、そして「金剛高野山大僧都」という(くだり)から真言密教の流れを汲んでいることがわかる。

 マントラとはどういうものなのだろうか。

 そして、祓魔師の力とは。 妖魔とはどこに現れるものなのか。

 これらは近いうちに分かりそうだ。

「……さん。源次さん。 」

「んっ。ああ。すまない。考え事をしていた。 」

「寺に着いたら朝餉(あさげ)にして、剣術の稽古もしましょう。 」

 ジクウがニッコリと笑って言ってくれた。

「ああ。願ってもない。是非頼むよ。今度は山賊などに、後れを取りたくないからな。 」

 朝餉は軽めに済ませた。

 すぐに庭に出ると、アシュラが木刀を2本用意して来た。

「まずは私が稽古するわ。構えてみてください。 」

 源次はいつものように、前のめり気味になって、剣を右脇に引き、切先を相手の喉元辺りに付けて構えた。

「なるほど。実戦的な構えだわ。」

 これは、見よう見まねで最も実戦的だと思われる形を取ったものである。

「ただ、力が入ってしまっています。山賊と戦って、生き延びたときのことを、思い出してください。 」

「あのときは、自分が死んだものと思って脱力していた。多分(よだれ)を垂らすほど力が抜けて、揺らぐ身体を背の芯で支えている感じだったと思う。そして握り方…… 」

「そうよ。薬指と小指に力を込めて刀身を支えるんです。 」

「なるほど。確かにこうすれば、どんな方向にも振れそうな気がする。 」

「源次さんの構えは、突きに特化した構えだわ。だから、振り回すには一度刀を前に出す必要があります。 」

 刀を身体の中心に構えると、自然に体が真っ直ぐに立つ。

「これが基本中の基本、青眼の構え。では、遠慮なく打ち込んでみてください。 」

 一つ一つの指導が理にかなっていた。

 そして、まずは基本の青眼の構え。

 言われるままに身体を動かし、脱力しようと頑張ってみた。

「いざっ。そりゃあぁぁ! 」

 しかし、肩の力が抜けず、死の淵で感じた動きには程遠かった。

「これでは、戦場で生き延びられないな。 」

「焦ることないわ。まずは素振りと、足運びを徹底的にやりましょう。 」

 こうして、朝3時に水汲み修行。

 昼間は剣術の基本。

 そして合間にマントラを唱えて心を鎮める修行。

 考えてみれば、長年源次が待ち望んでいた生活だった。

 

祓魔師の(わざ)

 

「ジクウ…… お前だけは…… 八つ裂きにしてやるぅ…… 」

 暗闇の中に2つの赤い光が、爛々と(きら)めいている。

 両手の鈎爪に舌を這わせ、不気味に口元を開いて涎を垂らしていた。

「おいっ。今呼んだか? 」

 妖魔は赤い眼を背後に回した。

 同時に2間ほど横に飛び、間合いを取った。

「ひひひっ。お前の方から来るとはなぁ。 」

 妖魔は周囲を見渡した。

「くくっ。あれが今夜の餌かぁ。 」

「腹減ったぁ。頭は俺にくれ! 」

 黒い影が次々に現れた。

「2,3、4,5…… 俺って人気者? 」

「こらっ! 油断するとまた怪我するよ! 」

 アシュラがジクウを小突いた。

「イテッ! ボクは暴力が嫌いなんだよぅ。 」

「ふざけるなあああぁぁ!!! 」

 怒った妖魔たちが一斉に踊り掛かった!

「さあてっと…… 」

 一瞬ジクウが目を閉じると、辺り一帯が光に包まれる!

「オーン アモーガ ヴィジャヤ フゥーン パットォォォォ!!! 聖なる絹と、聖なる網を以て衆生を導く不空羂索観音よ! 金剛界より来たりて彷徨える魂を捕らえたまえ!!! 」

 両手で結んだ印が、光の輪に包まれる!

 そして、光が徐々に晴れていった……

「おお! 妖魔を捕らえたのだな。まさに一網打尽。いや。お見事。法力とはこうやって使うものなのか。 」

 源次は拍手をしながら近づいて行く。

「ダメよ! 私が止めを刺すから下がって!! 」

「ああ。すまん。また邪魔したな。 」

「オーン アグナイェ スヴァーハー!! 炎を統べる地獄のアシュラよ! 火天の業火よ! 我に従い妖魔を焼き尽くせ!! 」

 印を中心にして、炎の渦が起こり、妖魔を包んだ!

「ぐぎゃあぁぁぁ!! 」

 一瞬で焼き尽くされた妖魔たちは消え去り、また闇が支配した……

「ああぁ。何か、淡白じゃない? もっとこう…… 源次さんが喜ぶような演出をさぁ。せっかく縛ったんだしさぁ。 」

「もう! 真面目にやりなさい! 」

 こうして、源次は妖魔との戦いに足を踏み入れて行くことになる。

 だがこれは戦い前夜の、ほんの一時の馴れ合いだった。

 

 

この物語はフィクションです。

 

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