インフィニット・ストラトス―In the Blue Sky― 作:ケリュケイオンの蛇
そんなISと×バーチャロン。果たして需要があるのかどうか。それ以上にまとめられるかどうかもわからない。そんな冒険の心が生み出した拙作。読んでいただけたら幸いです。
漆黒に閉ざされた空間。そこに、一人の少年が存在していた。
ただ一人、闇に閉じた空間に身を委ねている。瞳を閉じ、身じろぎしない様子は、傍から見れば眠っているようにも見える。
だが少年は眠っているわけではなく、変化はすぐに起こった。
『ナンバーX‐00、出ろ』
閉ざされた空間に、突如声が響く。その音源は天井部に設置されたスピーカーのものだ。
ナンバーX‐00とは、少年の名前だろう。自分の名を呼ばれたからか、少年が目を開ける。声が響くと同時に、周囲には明かりが灯っていた。漆黒の空間が一気に照らされ、その眩しさに少年の目が細まる。
明かりがともったことで、少年の容姿がはっきりと浮かび上がった。一際目を引く青みがかった銀色の髪。開いた瞳は蒼色で、肌は白色人種の血統なのか白い。
顔立ちは整っており、特徴的な色彩を余すことなく活かしている。有り体に言えば、文句なしの美形だった。
目を閉じていたのは部屋が急に明るくなることに備えたためだろう。すぐに明るさに慣れたのか、少年が立ち上がると、白く照らされた部屋の壁が視界に入った。
部屋の様子をゆっくりと観察する間もなく、少年は歩き出す。
自動開閉の扉を抜ければ、無機質な空間の通路に出た。
『お前の仕事はいつも通りだ。期待している』
再び声が辺りに響く。どうやら通路にもスピーカーが設置されているらしい。
その言葉に従ってナンバーX‐00と呼ばれた少年は歩いていく。淡々とした、感情らしさのない動きだった。
人によく似たロボットだと言われても、初めて会った人は信じてしまいそうなくらいに。
「……」
沈黙したまま、歩く。先程からスピーカーの声が聞こえないあたり、ナンバーX00は思い通りの動きをしているようだ。
でなければ、罵倒が飛んでくることを少年は知っている。
「いつも通り、か」
今まで沈黙していた少年から、ぽつりと声が漏れた。
いつも通り。そう、いつも通りなのだ。先ほどの声も、今少年が歩いている事も。これからする『仕事』も。
この施設で育ってから何も変わらない。変わることなく、不定期ではあるが行われてきた日常。
それが少年の仕事だった。生きるため、施設の人間に生かしてもらうためにやってきたことだ。
研究対象である少年には、拒否権はなかった。
与えられた仕事を期待通りにやるのは当然。できなければ処分される。
それが当然として、許される小さな世界。
「気分が悪い…」
表面的には淡々としていたものの、少年自身何も感じないわけではない。繰り返し行われる仕事も、感覚が麻痺しているとは言え、できれば願い下げだった。
人を傷つける、という内容は少年の心をたやすく歪めてしまうものだ。
「ここか…」
憂鬱な気分になりつつ、廊下を歩き続けること数分。自身の部屋よりも巨大な扉前にたどり着く。
扉の右側に備え付けられたパネルに少年は手を置いた。手を置いた機械は今膨大なデータベースからナンバーX‐00の情報を検索している。
数秒後、ピピッ、という電子音が響き、生体認証が完了する。重低音を響かせながら扉が開く……ことはなく右側の壁が展開、内部が露出した。
壁の内部に格納されていたのは金属製の物体。外見的には鎧のようにも、ロボットのようにも見える。
ソレは、見たものによってはひと目で何か分かるはずだ。そして驚愕するだろう。その存在そのものが希少である上、少年の生体認証で出てくるはずもない。
ソレの名は、インフィニット・ストラトス。その名だけしか、少年は知らない。そして、ソレが世界全体でどれほど価値があるものかさえ知らなかった。
いや、興味がなかった、と言うべきだろう。少年にとってソレを動かせればいいだけなのだから。
「展開」
ただ一言、命令する。それだけで目の前の鎧は発光し、少年の視界を遮った。
不意に身体が軽くなり、浮遊感が襲う。その一瞬後には目の前にあった鎧が少年の手足に『装着』されていた。
視線を落とすと、少年の腕には機械の手が装着されている。腕だけでなく、足や肩、そして胸部に至るまで、鎧のような装甲に身を包んでいるのが『知覚』できる。
今の少年の姿はまるでロボットのようでも、騎士のようでもあった。特に整った容姿とヒロイックな外見の装甲によって、カッコイイという表現が真っ先に浮かぶほどだ。
しかし少年はそのことに関して特に感慨を持つことなく、扉へと向かう。
巨大扉を開けると、その先には広大な空間が広がっている。その中に一人、佇んでいる者がいた。
「遅かったな。逃げたかと思っていたが」
少年に対し、嘲るような声音で相手が言う。女性と分かる声だが若干低い、アルトボイス。眩しいとさえ形容できるほど人工照明に照らされたこの空間において、特徴的な金髪がよく映える。
ポニーテールにしているせいか、声と合わせて凛々しく見えるものの、年齢的にはまだ少女のようだ。
ISを装着したことで感覚拡大した少年は、相手のことをより詳細に知覚する。
――ナンバー612、個体名『ノエル・シュヴァルティン』。知覚、反応速度に優れる。装着IS、検索……。
少年は、思考のみでISの検索処理を中断させる。それ以上の知識を、知る必要がないからだ。相対するISは、仕事の中で何度か見かけた覚えがある。異様に大型化した肩部や足周りが特徴的で、重厚な印象を受ける機体だ。カラーリングは、赤みの強い茶色。威圧的なフォルムを持つソレの名は、『ライデン』。
ノエルのことを時間にして一秒にも満たない中で知った少年は、相手の言葉に返答した。
「できればそうしたかった」
本心からそう告げると、少女は表情を変え、嘲笑した。
「これはとんだ臆病者だ。やはり男というものは情けないな!」
少年が私情を持ち込まないならば、ノエルは仕事にも私情を持ち込むタイプだろう。その嘲笑には、明らかに自分優位であろうとする感情が感じられた。
「先手は譲ってやろう。機関砲でもミサイルでも、好きなもので攻撃してくるが良い」
ノエルも少年がISを装着していることは知覚しているはずだ。それでも先手を譲るということは、『自分が少年に負けることなど有り得ない』という絶対的自信の表れだろう。
それは傲慢な考えでもあり、ノエルの弱点でもあった。
少年に先手を与えたのは、おそらく致命的なミスだ。
「その言葉ありがたく」
ノエルの言葉を受け取り、少年は手元に獲物を取り出す。ノエルから意識を逸らすことなく思考を展開。瞬時に量子収納されていた武器が具現化し、何もなかった手に物質として現れた。
「――Get Ready」
少年が戦闘開始の言葉を発した瞬間、その手に握っていたモノを投げた。その名を、ボム。要は高エネルギーを火薬代わりとした、手榴弾のような特性の武器だ。大きさ的にはりんごに近い。投げたボムはある程度放物線を描いたところで光を放ち、少女を照らし出す。
その瞬間、少年の視界に映ったノエルの顔は、驚愕したような表情だった。
「なっ」
まともな言葉を出すことなく、ノエルは光に飲み込まれ、爆発。赤い爆炎がその場を包みこんだ。
インフィニット・ストラトス。遥かなる成層圏、すなわち、宇宙を活動視野として想定されたマルチフォーム・スーツ。
そのポテンシャルは極めて高く、従来の軍事兵器を遥かに凌駕する戦闘力を持つ新世代の兵器として注目。軍事転用化によって、単なるパワードスーツの領域を超えたソレは、今や究極の機動兵器とまで言われていた。
ただし、究極と呼ばれるこの兵器は女性しか使用することはできない。原理は不明だが一般的に広まった見解は、概ねそれで一致している。男では使えない。女だけの『鎧』なのだと。
しかし、その常識を打ち砕く存在が現れた。
「ふふっ、面白いですね」
窓から見下ろせる景色を見て、影は笑みを浮かべる。彼女が見下ろした先に、ナンバーX00の姿が見えた。
ナンバーX‐00。ドイツで行われている遺伝子調整され、兵士となるべくして生まれた存在。その中でも、男でありながらISを動かせる者として造り出された人間だ。
当然、IS開拓期にはよくあった思想だ。しかし、男でISを動かせた人間は一人もいない。だからこそ、女尊男卑の世界へと変わっていったのだ。
しかし、影の目の前には例外が確かに居る。そしてその例外は、ISをより上手く扱えるであろう女性を倒してしまっていた。
きっと金髪の少女も、男に負けるなど予想もしなかったに違いない。でなければ、IS戦闘において自ら先手を譲るなど有り得ない行動だ。油断したとは言え、試合内容を見る限り実力差は明白だった。
そのことは、影の想像を大きく裏切る結果となった。ISの未知の可能性を見せられたことで、ひどく高揚した気分にさせられる。
それがたまらなく面白い。そしてとても気に入った。影にとって、彼のような存在はまさに理想の人材だったのだから。
「お気に召しましたかな?」
影に対して、一人の男性が声をかける。高級そうなスーツに身を包んだ、痩身の中年男性だ。影の顔色に感じるものがあったのだろうか、にこにこと満面の笑みを浮かべている。
「えぇ、とっても。わざわざ足を運んだ甲斐があったというものです」
「それでは?」
「約束通り、貴方がたの研究費を支援致しましょう。生体実験は認められませんが、ISに関してもできる限りの融通を利かせます」
影の言葉に、中年男性は今にも飛び上がらんばかりに喜んだ。当然だ。たった一人の少年が、世界最強の兵器と莫大な資金に変わるのだから。
どのみち、この研究施設が潰れれば、中年男性にとって少年の価値はなくなるに等しい。ただ珍しいだけの少年が、実用可能なIS数機と施設存続に繋がるのであれば手放すのも頷ける。
「ありがとうございます」
中年男性が差し出した書面にサインすると、それをまるで家宝のように大事に抱えて去っていった。
あのような紙切れ一枚が眼下の少年と同じ価値とは思えないが、影には良い買い物となった。
買い物を済ませた今、ここはもう用済みだ。そのうち潰してしまえばいいか、と腹黒い算段を考える。
「私はあの者を選びました。あなたと同じように」
誰もいなくなった部屋で、一人影は呟く。まるで、誰かに聞かせるように。
影の前にある机には、もう一枚の紙が置かれていた。それを見ながら影は念を押すような口調で言葉を紡ぐ。
「そして今から彼は私の騎士。たとえあなたであっても、手出しすることは許しませんよ――束」
紙にはナンバーX‐00と呼ばれる少年の写真と共に、こう書かれていた。
―カイゼル・エンドレート―と。
ここまで読んでくださった方はありがとうございます。蛇です。
ISに関してもいい作品だと思います。バトルスーツもので言えば、テッカマンやアムドライバーなんかが俺の中ではあるのですが、知名度も設定の親しみやすさもISの方が上でしょう。
ただ、作者はハーレムが好きではありません。最終的に一人とくっつくにしても、それらしく期待をさせて甘い雰囲気にどっぷり浸かるというのは、見てていい気分じゃありません。まぁ、嫉妬といえばその通りです。否定はしません。ですが純粋に、ただ女の子に囲まれてあっちこっち行くような展開は、キャラを安っぽく見せてしまう気がするのです。
それなら市販のラノベを読んだほうがきっと面白いです。俺がわざわざ書いても、お仕事で書いてる人たちに敵いようがありません。悔しい限りです。
なので、好きなことを書いて勝負しようというわけです。とはいえ、作家としては全てを好き嫌いでモノを生むわけにも行かないというのもありますので、この作品がどう転ぶかはわかりません。
ただ、ハーレムであっても明確な人間描写をしていきたいです。もし共感していただける方がいれば、きっとこの作品も楽しめると思います。そう頑張ります(笑)。
今後も、是非読んでくださる方がいることを祈って。