インフィニット・ストラトス―In the Blue Sky―   作:ケリュケイオンの蛇

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原作介入前における『戦闘人形編』の一話をお届けします。
プロローグの直接の続きになる戦闘人形編。今回はバーチャロン側からリリン・プラジナーが本格登場。ただし参考資料の少なさからバーチャロン原作におけるリリンのイメージとは少し異なるかもしれません。言うなれば半オリ化ってやつです。
バーチャロン知らないよ、IS知らないよっていう方でも読みやすいよう書いていますので、これをきっかけに興味を持っていただけたら幸いです。
ではどうぞ。


『戦闘人形編』
一話 《始まりは終わりを告げる》


 女が、地に突っ伏している。先程までその身体を守っていた鋼鉄の鎧は、既に消えていた。

 砕かれたか、あるいは吹き飛んだか。通常の鎧ならばそうだろうが、女‐ノエル‐のまとっていたものに関しては違う。

 完全なる消失。量子となって視認が不可能な状態になる現象は、物理的に存在する通常の鎧ではありえないことだった。

 IS。インフィニット・ストラトス。呼び方は様々だが、この量子化現象を持つのは、その名を持つマルチフォーム・スーツのみしか持ち得ない特性だった。

 つまり、目の前の女はISの適合者であり、先刻までそれを纏っていたことになる。

 世界において、ISは最強の兵器。そう認識されており、ISを行使できる女性は同時に、男では手が出せない領域に至っているのが普通だ。

 男では決して、適うことのない存在。抗うことも、張り合うことも、何より超えることなど、決して不可能な存在であるはずだった。

 

「な、ぜ…」

 

 目の前でノエルが、苦しげに声を放つ。外観的に目立った負傷は見られないが、満身創痍といった体だ。見えない痛みに苛まれているのだろう。

 ソレを、淡々とX‐00は見下ろしていた。その瞳は、昏き蒼。何の感情の光も宿さない、深海の闇。

 その冷淡な瞳は、ノエルにとって初めての恐怖だった。男など惰弱だと嘲笑っていた。それが、今では逆だ。

 何もできないはずの男に、生殺与奪を握られる。そのことは、ノエルにとっては屈辱であると同時に、自分のアイデンティティを脅かす恐怖を植え付けていたのだ。

 

「男の、お前に…負けるなどッ」

 

 ノエルの言葉は、血を吐き出しそうなほど苦渋に満ちた声だった。それに対して、X‐00の心が揺らぐ。だが、X‐00が表情を変えることはない。

 今まで、そういう恨みごとを腐る程聞いてきた。だから、今更X‐00は反応することをしなかった。

 そのことに使う力が、勿体無い。そう考えるゆえの、無視だ。

 ただ、X‐00は目の前の女に言葉を放つ。

 

「お前のライデンは、細工されていた…俺が勝ったわけじゃない」

 

 X‐00の言葉に、ノエルは衝撃を受けたように目を見開いた。ISに対する細工。それは、ノエルとX‐00が行った試合を、X‐00側が勝つように仕向けたもの。最初からノエルが負けるようにしてあるなら、女の敗北は必然だった。

 

「通常、ライデンのシールドバリアーはボム一発で抜けはしない。本来なら、あそこで射撃武器を使っているところだった……お前のライデンは、最初から防御設定が最小だったんだ」

 

 その言葉に、ノエルは身体の痛みを無視して立ち上がる。激昂して、X‐00へと掴みかかった。

 だが、掴みかかったところで、X‐00はピクリとも動かない。女も、寄りかかるように体を支えるほどの力しか残っていない。

 X‐00も、同情はしなかった。それが仕事なのだから。上で支配する奴らには、逆らえない。

 運が悪かった。そう言うしかないだろう。ノエルは、当て馬にされたのだ。

 

「私は、捨てられたのだろうか」

 

 声を震わせて、ノエルが言う。彼女にとっては、この施設で優秀な人材であり続けること。それが全てだった。

 だから、X‐00の当て馬にされて、施設が女にかけている期待がなくなっていることに気づいてしまった。

 急激な脱力感が女を襲う。このあと、ノエルは処分されるか、もっと過酷な環境を強いられるだろう。

 そんなことを今更知ってもどうにもならない。

 だからX‐00は、肯定も否定もしない。気休めの言葉を言っても、無意味でしかないからだ。

 

「屈辱的だ。そんな設定さえなければ、お前程度に私は」

「ならば、強くなることだ。ISの性能なんて無視できるほど」

 

 X‐00がノエルに言葉をかける。場外から鳴り響くブザー音が、今になって試合の終了を知らせた。

 ただ、X‐00の言葉は女にきちんと伝わったようだ。ノエルの瞳が見開かれ、次の瞬間には力強い光が宿っていた。

 

「お前などに言われなくとも、分かっている。次は、負けない」

 

 場内アナウンスにより、X‐00を呼ぶ声が響いている。遠目では、白衣の研究員たちが走ってきているのが見えた。

 おそらく、ノエルを回収するためだ。そう当たりをつけて、X‐00はノエルから身を離す。急に支えを失ってふらつくものの、強い光を宿した彼女は倒れるようなことはなかった。

 ノエルが職員に連れて行かれる姿を見て、X‐00は息をつく。それまで纏っていたISを解除した。

 ISが量子状態となり、X‐00から分離する。そして一瞬後、再び形状を取り戻し、装着者のいない鎧飾りとして現れた。

 

「次か…甘いことだ」

 

 X‐00は先ほどのことを思い返し、嘲笑った。

 シールドバリアー。最小とは言え、それが設定されている以上、ISは絶対防御というものが働く。装着者の命を守る、安全装置のようなものだ。

 ただ、X‐00の機体には絶対防御すら搭載されていなかった。

 次があることの幸運。それがどれほどいいことか。相手の女を内心で羨ましがりつつ、今度こそX‐00はその場を離れた。

 

 

「あなたは私が買いました」

 

 初対面の人間にそんなことを言われれば、誰だって戸惑うことだろう。だから、カイゼルが何も反応しなかったことを咎める人間はいないはずだ。

 見慣れた研究施設とは違う、高級感たっぷりの一室。桜色を基調に彩られたその部屋は、ご令嬢の部屋というのがふさわしい。

 ただ、その場の主には不釣合だった。手錠をして佇むカイゼルの目の前。そこには、一人の人間が座っていた。

 体つきは華奢で、豊満な双丘が女性らしさを自己主張している。そのスタイルは、女性の中でもトップクラスと言えるだろう。

 相手の顔が、フルフェイス型のヘルメットに覆われていなければ。

 

「…センスが凄いな」

「まぁ! お褒めに預かり光栄です」

 

 褒めてない。むしろ、何故そのスタイルを褒められたと思えるのか、カイゼルにはさっぱりだった。

 外の世界ではこういうのが流行っていたりするのか。恐ろしいところだ。そのような誤解をしつつも、カイゼルは相対する存在を直視する。

 ヘルメットを付けていること以外は、普通の女性という佇まいだ。どことなく気品を感じさせる仕草は、高級感のある部屋にふさわしい。

 

「自己紹介がまだでしたね。私はリリン・プラジナー。今後は私が貴方のマスターとなります」

 

 相手の言葉に、カイゼルは少なからず衝撃を覚える。

 リリン・プラジナー。その名は、今や世界において知らぬ者の方が少ないほどの超有名人の名だ。

 ISを最初に開発した人間、篠ノ之束と同様に、インフィニット・ストラトスの開発において独創的な発想と優れた技術力を発揮した天才的科学者の一人。

 IS界にとっては、最高クラスの重要人物が目の前にいるのだ。驚くのも無理はない。

 とはいえ、カイゼルにとってはただのマスター。いわば新しい飼い主だ。そのことに関して、相手の経歴はさほど関係なかった。

 すぐに平常を取り戻し、カイゼルは頷く。理解した、というジェスチャーだ。その意図を理解したのか、リリンはヘルメット越しに笑い声をこぼした。

 

「まずは、貴方に名前を与えます。兵士の前に、一人の人間であることを自覚してください。私は貴方に命の無駄遣いをさせるつもりはありません」

「…それは命令か?」

「命令ではありませんが、最初はそういうことにしておきましょう」

 

 カイゼルにとって、命令以外の依頼は受けたことがない。お願い、なんて対等な立場での頼みなど、夢のような話だ。

 

「カイゼル・エンドレート。それがあなたの名前です。以後そう名乗るように」

「了解した」

 

 リリンの言葉に、X‐00ことカイゼルは了承する。変態的な姿であろうとも、仮にも主に当たる人間だ。

 感情を抜きにすれば、従わない理由がない。

 

「そういう時は、分かった、で良いのですよ?」

「……分かった」

 

 少しばかり間を置いて、カイゼルは訂正した。以前の施設とはまるで違う状況に、少なからず戸惑いを覚える。

 ただ、すぐに従うあたりカイゼルも頭が固いわけでもないのだろう。

 その答えに満足したのか、リリンは満足そうにソファに身をあずけた。

 

「聞き分けがよくて好感が持てますね」

 

 仮面越しに、柔らかい声が届く。ただ、どれほど聴き心地の良い言葉だろうと、その格好が全てを台無しにしていたが。

 

「それで俺は、何をすればいいんだ?」

 

 手錠のかけられた手を持ち上げ、カイゼルが疑問を呈した。命令があるまで基本的に待機、つまり何もしないのが今までで当たり前だったが、待機するにも待機場所がいる。

 よもや、むき出しのナイフを鞘に収めず放りっぱなしにするという人間はいないだろう。だからカイゼルは、以前の施設のように鞘に当たるものが割り当てられるはずだと思っていた。

 

「そうですね。色々と説明しなければなりませんが、まずは任務を与えます」

「任務…?」

 

 リリンの言葉に、カイゼルは聞き返す。随分と急な話だ。少しは監視の意も兼ねてそういったものはないと思っていたが、どうやらリリンは既にカイゼルを信頼しているようだった。

 

「貴方のいた施設、その施設の破壊を、お願いできますか?」

 

 前言撤回、すぐさまカイゼルは相手の評価を取りやめた。

 信頼しているのではなく、リリンは試しているのだ。どこまでカイゼルが自分の命令に従えるのか。自分が買ったものにふさわしい手駒であるかどうか。それを、曲がりなりにも故郷の破壊という命で試そうとしている。

 

「了解した。手段は?」

 

 施設破壊といっても、やり方は様々だ。クラッキングによる運営機能の破壊。通常兵器による物理的な破壊。人的資源の抹消…いわば、殺戮などなど。

 そしてその用途ごとに、必要な武器なども変わってくる。だからこそ、カイゼルは訪ねていた。

 相手の目的を見極める。それもまた、施設において培った戦闘人形としての技能だった。

 

「お任せします。ただ、施設は完全に破壊してください。存在の痕跡も許しません」

 

 そう答えたリリンが、脇にあったトランクを机に置く。銀色に光る、重厚なトランクケースだ。素材は強度に優れた特殊チタニウム製。つまりよほど重要なモノが入っているのだろうとカイゼルは推測する。

 

「こちらを、貴方に与えます」

 

 開かれたトランクの中身は、IS用のインナースーツと、小さなネックレスだった。ペンダント部分は青く、サファイアのような質感の鉱石が埋め込まれている。

 そういう装飾具に疎いカイゼルでも、それがかなりの一品だということがひと目でわかった。ただ、それを戦闘で活かす術を思いつかない。

 何かの装置なのだろうか、と思う一方で、リリンが補足に入った。

 

「現在完全非公開の第4世代IS。テムジン747J。貴方の専用機にして、最強の力です」

「第4、世代?」

 

 現時点で、世界に流通しているISは、第2世代が基本だ。第一世代も未だ活躍しているところもあるほどで、IS市場においては第3世代ですらようやく人目に触れられるようになった、という状況である。

 そんな中での第4世代。オーバーテクノロジーにも程があるというものだ。さすがに聞き間違いかとカイゼルが聞き返すが、仮面に覆われたリリンの表情は読めない。

 

「それを託される意味、あなたならわかりますね?」

「敗北は許されない。了解している」

 

 淡々と、カイゼルはネックレスを受け取る。その様子に、リリンは何も言わなかった。彼女の満足する答えをとりあえずは出せたということだろう。

 ネックレスを首から下げると、リリンから端末を渡された。その端末に記されたテムジン747Jのスペックに、目を通していく。

 

「初期化及び最適化は、実戦前に行っておく」

 

 そう言うと、カイゼルは任務へと赴くために踵を返す。その姿に、リリンは何も言わなかった。




お読みいただきありがとうございます。いかがでしたでしょうか?
時系列的にはプロローグ時点で一夏がIS適正発覚。こちらはその数日後に当たります。原作だとセシリアに絡まれたあたりでしょうか? あの辺はよく分かりませんね。
細かい時系列についてはまた整理しようと思っています。ISに関してはそれほど設定に詳しいわけでもないので不自然な点、気になったところなどあれば感想にてお願いします。
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