インフィニット・ストラトス―In the Blue Sky―   作:ケリュケイオンの蛇

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遅くなって申し訳ありません。蛇です。
投稿時期を考えていたらいつの間にか一週間以上経っていました。こんなはずじゃ…orz
予定ではあと一話を終えたら学園編に行こうと思っています。ただ、戦闘人形編も回想や番外編などで続けていけたらいいですね。
それはともかく、今回は三話をお届けします。今回は戦闘がメインなので、カイゼルとテムジンの勇姿を楽しんでいただけたら幸いです。


三話 《罪禍》

 目の前で起こった現象に、ノエルは衝撃を受けていた。

 黒く変色したIS。凶暴化した少女。無作為に行われる破壊活動。今までISには何度も乗ったノエルですら、その現象に見覚えがない。

 

「シャドウ化現象…!」

 

 そう言ったカイゼルにすら、ノエルは驚きを覚えていた。一体どこで情報を手に入れたのか知らないが、少なくとも現状で出来ることは何もない。

 カイゼルを手助けすることもできず、ノエルは邪魔にならないよう離れていることしかできなかった。 それが何よりも、悔しい。再会は予想外だが、まがりなりにもカイゼルに再戦を申し込むほど負けず嫌いなノエルにとっては、その相手の助けをすることもできない。

 

「私にもISがあれば無様な姿を見せないものを…!」

 

 悔しくて、ノエルは唇を強く噛み締めた。カイゼルの襲撃に加えて、シャドウの無差別攻撃により破壊された施設の状態を見れば、無事なISなど残っていないことはひと目でわかる。

 仮に残っていたとして、生身のノエルでは起動できるかどうかも怪しいところだ。

 顔を向ければ、相対するカイゼルとシャドウの姿が映る。戦闘行動を開始した二機は、視認すら困難な速度でぶつかり合っていた。当然、物理的な衝突ではなく、比喩的な意味だ。

 ただ、その戦闘は今までノエルが経験したどれよりも激しく、高次元の領域だった。亜光速まで達した機動性、一瞬の攻防を繰り返す判断力、相手に有効な打撃を与えるための状況認識力。どれもがノエルの知っているものを超えていた。

 人間という限界のなくなったシャドウに対して、カイゼルも劣らず…いや、それ以上の戦闘力で圧倒しているようにも見える。

 

「何故なんだ…何故、そこまで強くなれる?」

 

 同属に対しても、敵対するカイゼルの動きに迷いは見られない。少なくとも表面上では、完全に撃墜する意志が垣間見れた。

 それを見て、ノエルは聞かずにはいられなかった。たとえ相手がハイパーセンサーで知覚していても、ノエルの問いは返答するほどのものではないだろう。

 ただそれでも、ノエルは思わず言葉にしていたのだ。

 どうしてカイゼルは戦えるのか。カイゼルの強さは何なのだろうか。そんなことばかりが、ノエルの思考を埋め尽くす。

 すぐそばで戦闘が行われている以上、ノエルにそんなことを考える余裕などないはずだが、どうしようもなく気になって仕方がない。

 

「お前のことを知れたら、私も強くなれるんだろうか」

 

 そう言って、ノエルは無意識に手を伸ばす。ただ伸ばした手の遥か先に居るカイゼルは当然、掴むことができない。

 それが一生追いつくことができないような、そんな錯覚を抱かせて、ノエルは胸が締め付けられていた。

 

 

 シャドウ化現象。ソレはISのコアの性質、自己進化がもたらす暴走現象の一種。

 搭乗者の過度な負担、いわゆる無意識に感じ取る恐怖や憎悪などの不安定な感情を引き金として発現し、IS独自のプロセスで破壊行動を繰り返す。

 基本的にこの現象が発現したISは装甲が黒く変色し、性能が大幅に強化される。性能強化の度合いは汚染率に比例しており、シャドウ現象の汚染数値が高ければ高いほど、ISコア及び搭乗者の回収再利用は不可能になっていく。

 発生条件、対抗策など未だ解明されていない部分の多い、ISを使う上での最大の欠陥だった。

 

《ガアアァァァァァッ!》

 

 獣のような叫びを上げながら、ラファール・リヴァイヴ:シャドウが飛翔する。ソレを見て、カイゼルもまた迎撃を開始した。

 シャドウとの戦闘はこれが最初だ。ハイパーセンサーを拡大強化し、相手の情報を細かく分析する。

 ハイパーセンサーによって、相手の情報が次々にホロ・ウィンドウに表示された。

 視界の隅で確認すると、ラファール・リヴァイヴのシャドウ汚染率は30%。未だ低いとは言えその数値は少しずつ上昇を続けている。

 つまり戦闘が長引けばその分相手が強化され、不利になっていくということだ。

 

「迎撃開始」

 

 短く言葉を放ち、カイゼルが地上を走る。テムジン747Jが駆け抜けるそばで、次々とミサイルが飛来した。

 それをバーティカルターン―ブースト中に進行方向を変更し、別方向に移動するテクニック―で回避すると、相手に向けて姿勢を反転。ライフルモードのスライプナーを向け、連続して放った。

 二発の光弾が空に走る。ソレを立て続けにかわすシャドウ。光速かつ正確な射撃を回避するあたり、反応速度も強化済みらしい。

 すぐさまパワーボムを転送し、投げつける。相手は再び避けるが、エネルギーの爆風によってバランスを崩した。

 通常のラファール・リヴァイヴであれば、そのダメージだけでシールドエネルギーを使い切る威力がある。だが相手のシャドウは機能を停止することなく加速、カイゼルへと襲いかかった。

 

「……ッ!?」

 

 落下からの挙動にしては異常なほどの速度に、カイゼルが目を見開く。咄嗟にスライプナーを構え、シャドウの展開した高周波ブレードを防いだ。

 飛び散る火花が、相手の顔を照らす。シャドウに蝕まれた少女は虚ろな瞳のまま、恐怖に歪んだ表情をしていた。

 すぐさま蹴り飛ばして距離を取ると、スライプナーを構え直す。

 

「ノエル・シュヴァルティン…?」

 

 その際それまで意識の外に置いていたノエルが視界に入り、カイゼルは眉を顰めた。丸腰の身であるノエルは、瓦礫に隠れることもせずその身を晒している。

 距離が離れているとは言え、今は戦闘中だ。あのような状態では撃ち合いとなった際に巻き込まれないとも限らない。

 ハイパーセンサーからの警告音に、カイゼルは視線を変える。移り変わった視界には、シャドウが新たな武装を構えている姿が映った。

 武装名《クアッド・ファランクス》。ラファール・リヴァイヴ特有の追加武装であり、無数の重火器を搭載した射撃兵装だ。

 その射線の先には、ノエルの姿がある。そのことを瞬時に把握したカイゼルは、無意識に舌打ちした。

 

「何をしている…!」

 

 ノエルに対して声を上げる。だが、ノエルは反応しない。この状況に対応できていないのだろうか。

 ノエルの回避は間に合わないと判断し、カイゼルはスタビライザーを展開した。背部から光の粒子と共に、身体を押し上げるような感覚が伝わってくる。

 その推力に逆らわず、カイゼルは疾風の如く加速した。

 

「スライプナー、ソードモード…ッ」

 

 声を放つと同時に、右手に握ったスライプナーがビームの刃を形成する。地面を踏み抜きながら、カイゼルはシャドウに斬りかかった。

 

《アァァァアアアアッ!》

 

 シャドウがカイゼルに反応するも、もう遅い。クアッド・ファランクスは多彩な銃火器の機能を併せ持つが、それに比例して火器の重量も当然肥大化している。例えシャドウ化で強化されていても、クアッド・ファランクスほどの重量となれば無視できない負担がかかる。

 だが思いのほかシャドウの強化は劇的だった。本来であれば身動きの取れない射撃形態から、片手でクアッド・ファランクスを振り回す。

 振り下ろしたスライプナーがクアッド・ファランクスを切り裂くが、本体までその刃は届かない。

 クアッド・ファランクスが爆散する前に、真っ二つに切断されたソレをカイゼルが蹴り飛ばした。

 宙に飛ばされたクアッド・ファランクスが爆発し、爆風がカイゼルの頬を撫でていく。だが、IS特有のシールドバリアー機能によって、熱風が肌を焼くことはない。よって、カイゼルはその感覚を無視。シャドウへと意識を集中する。

 視界の片隅には徐々に上昇する汚染数値。いまやそれは50%を突破し、黄色く点滅を繰り返している。

 

「ニュートラル・ランチャー…シュート!」

 

 これ以上は、操縦者が持たない。そう判断したカイゼルは、スライプナーを射撃モードへと変更。シャドウへ向けて引き金を引いた。

 連続して放たれたビームが相手シャドウに着弾。操縦者の少女が悲鳴にも似た声をあげる。

 だがシャドウは即座に姿勢を制御し立ち直った。すぐさまミサイルランチャーを転送し、放ってくるのを見て、カイゼルは跳躍することで回避する。

 

「よく見ておけ…ノエル・シュヴァルティン」

 

 地面に着地し、ノエルに対してカイゼルは言葉を放つ。唐突にかけられた言葉に、ノエルがびくりと身を震わせた。

 ノエルの表情は複雑な色を浮かべている。シャドウ化現象もそうだが、今のカイゼルはノエルの思考を混乱させている原因だった。施設を攻撃し、なおかつ同胞に対して容赦なく攻撃を行う姿は、紛れもない裏切り行為のはずだ。

 それなのに研究施設で受けたスタッフたちの冷たい対応と、シャドウに飲み込まれた同胞。それによって、どちらが味方なのか判断できないでいる。そのことが、ノエルを鎖のように動きを縛り付けていた。

 全て敵だと割り切れば良いだけなのに、ノエルは迷っている。それは同郷だからか、同属だからか。それとも別の情でも湧いているのかカイゼルには判断しかねた。

 だからこそ、ノエルの苦悩を取り払うためにカイゼルは声をかける。迷いは苦痛を与えると、カイゼルはそう学んでいたから。

 

「これが、今の俺だ」

 

 そう言葉を投げかけ、カイゼルはその場を離れる。ライフルモードのスライプナーをセットすると、容赦なく相手の少女に撃ち放った。

 おかっぱ頭の少女が、悲鳴を上げる。だが、シャドウISはまだ展開している。それではダメだ。シールドバリアーが完全になくなり、ISが強制解除されなければ戦闘不能とは言えない。

 だからこそ、徹底的に叩き潰す。それが、カイゼルの覚悟だった。進んで命まで取ろうとは思わない。ただ、必要であるなら殺すことも厭わない。

 その覚悟は、幼い身には余りにも重い。10代半ばという感受性豊かな年齢を迎えたカイゼルの心は、気づかぬうちに壊れていく。

 

「今の俺は…!」

 

 スライプナーを持ったまま、手のひらに握りこぶしサイズのパワーボムを転送した。それを投げつけると、息をつく間もなくスライプナーを展開。

 ボード状となったスライプナーに乗り、相手に向かって突撃する。

 その攻撃名は、ブルー・スライダー。エネルギー力場を最大出力で発生させ、最高速度で敵へと突撃、切り裂き圧壊させるスライプナーの最強奥義。

 

「お前たちの敵でしかないッ」

 

 目の前のシャドウがパワーボムの爆風から姿を見せた。搭乗者である少女は虚ろな目を大きく見開いてカイゼルを見つめている。

 それが少女自身によるものか、シャドウの反応であるのかは分からない。

 ただカイゼルは目の前の標的を視認すると、エネルギー力場の発生したスライプナーで敵シャドウのボディを押しつぶした。

 

《ア゛ァァアアアアア゛ア゛ッッッ!》

 

 少女の甲高い悲鳴とともに、シャドウの装甲が砕けて散っていく。シールド・エネルギーを使い果たし、直接装甲へとダメージが与えられたのだ。

 その光景は、見る者によっては衝撃的な光景だろう。絶対の防御力を持つISが破壊されたのだから。これが公の場であれば、その衝撃は現在の世界基盤を揺るがしかねないほどのものだ。

 シャドウの機能が停止したのか、相手の少女からISが解かれていく。

 意識を失い、地面へ倒れこむ少女。

 それを見たカイゼルは地上へと着地し、少女へと歩み寄った。先ほどの凶行は見る影もなく、少女はピクリとも動かない。

 精神崩壊…シャドウ化による後遺症だ。徐々に見えてきた少女の瞳に光がないことから、カイゼルは間に合わなかったことを悟る。

 シャドウ化によるリスクは、その際に起こる暴走だけでは済まない。シャドウの機能を停止させたところで、搭乗者の精神には汚染率に応じて後遺症が残ることがある。更に言えば、ISコアの再利用も不可能となってしまう可能性も孕んでいた。どちらも、汚染率が高くなれば救出は困難になる。

 今回の少女は、もう手遅れだった。カイゼルがその肌に触れても、ピクリとも動かない。その反応を見て、カイゼルの胸が締め付けられた。

 

「俺には……お前たちを救えない」

 

 少女を抱き起こし、カイゼルが言葉を放つ。その言葉を向けた相手は、ノエルだけではないだろう。抱き起こした少女に対してもまた、カイゼルは謝罪していた。

 シャドウ化による末路は、余りにも惨めで、残酷だ。生きることも、死ぬこともできない。精神崩壊した少女は、生きた屍となって緩やかに死へと向かうだろう。

 助けることはできたはずだ。それなのに、少女をそんな地獄へと追いやった自分の弱さを、カイゼルは呪った。

 無意識に、少女の体を抱える手に力を込める。その時、少女から聞こえた声にカイゼルは目を見開いた。

 

「コ…ロ…し……て」

 

 小さく、今にも消えそうな声だ。おそらく、少女に言葉を出している自覚はないだろう。精神の崩壊した状態では、考えることすらできないからだ。

 ならば、その声は少女の無意識的な叫びといえよう。意識もない中ですら、少女は救済を望んでいた。その意味を、カイゼルは理解していた。

 

「……分かった」

 

 黒髪の少女からの〝お願い〟を、カイゼルは聞き入れる。施設で生きていたカイゼルにも、人形であることの苦しみは十分に分かっていた。

 リリンの命令は、施設の破壊だけ。精神崩壊した時点で、少女の命など奪わなくても構わないだろう。

 だから、この時だけは、カイゼルが自分自身で決めた行動だった。

 少女の身体を、ゆっくりと地面に下ろす。静かにその姿を見下ろすと、カイゼルはその手にスライプナーを握った。

 

「……すまない、助けられなくて」

 

 スライプナーを少女へと向ける。見下ろした先に映る少女は、何も反応を示さない。

 その光景を、カイゼルは胸に刻みつける。全て、自分の弱さが招いた結果だと。少女が最後に、自分の意志を示したことを、人として生きた証を、忘れないように。

 

「やめろ、カイゼル!」

 

 カイゼルのやろうとしていることを見て、ノエルが悲鳴にも似た叫びを上げる。ノエルは悟っていた。カイゼルの心が限界であることを。

 だが、そんなノエルの叫びを無視するように、カイゼルはスライプナーの引き金を引いた。

 

「ニュートラル・ランチャー…シュート」

 

 カイゼルの言葉と共に、スライプナーから放たれた光が、その場を眩く照らし出す。

 光によって照らし出されたカイゼルの表情は、苦しげに歪められていた。




今回は戦闘に加えてカイゼル自身の迷いや精神的弱さを書いてみました。上手く書けているか不安ですね。前話よりもメンタル面で脆くなってしまったかもしれません。この辺は描写の要研究ですね。精進せねば…!
それでは、次話以降もお会いできることを願って。
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