酒呑童子   作:珈琲フロート

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第2話 伊吹組

5章 朝廷

 

 

「なるほど皆、随分と成長したようだな」

 

「ご命令により、彼らを一堂に集めて試合をさせました」

 

「勝ち残ったのは初代頭領の娘でございます」

 

「新しい頭領も決まりそうだな」

 

「彼らが結束するように仕向けるのは如何なものか。後に遺恨となりましょう」

 

「彼らが結束すれば、手が付けられません」

 

「早く彼らを討ち果たさねば、古(いにしえ)の事件の二の舞となります」

 

「その通り。だからこそ彼らを奴らと嚙合わせる」

 

「酒呑童子に多々羅山の賊を討たせるのだ」

 

「はて、酒呑童子とはその昔、だまし討ちにて刈り取ってございますが」

 

「当代の酒呑童子がいるだろう」

 

「はて」

 

「試合に勝ち残った娘のことだ」

 

「なるほど」

 

「酒呑童女ですが」

 

「酒呑童子でよい」

 

 

 

「確かに、酒呑童女では偽物感があります」

 

「コレジャナイ感」

 

「童女の酔っ払いか」

 

「童女に酒を飲まして何するの」

 

「いかがわしい。如何なものか」

 

「検非違使さん(お巡りさん)この人です」

 

「酒呑童子ならば有名だ」

 

「酒呑童子の再来と言えば、通りが良い」

 

周囲の者たちはヒソヒソと話した。

 

 

 

「成功した暁には恩賞として酒呑童子に荘園を与える」

 

「そのようなことは」

 

「多々羅山の賊と戦えば彼らとて無事にはすまないでしょう」

 

「むしろ負ける公算の方が大きいかと」

 

「なるほど、当代の酒呑童子が勝ち残っても配下の生き残りは僅かとなりましょう」

 

「そのあとで皆殺しにすればよろしいかと」

 

「彼らの身には半分、高貴な方々の血が流れております」

 

「初代のときとは異なります。あまりに卑怯なことを行うと、納得しない貴族の方々もおりましょう」

 

「確かに」

 

 

 

「最近は鬼っ子たちの面倒をみる貴族も代を重ねておりますれば、支援を放棄する例が出始めております」

 

「このままでは、彼らは生きるために狼藉を働くこととなりましょう」

 

「彼らも荘園を得て、一定の収入があれば自立できます」

 

「さすれば盗賊を働くようなことはないでしょう」

 

「この件では所有している荘園の寄進を申し出ているお方もおります」

 

「これと交換すれば、恩賞を出す朝廷の負担も軽減されましょう」

 

「恩を与えて自立させ、朝廷の役にたたせるのです」

 

「恩賞のこと、良策と心得まする」

 

 

 

       了

  

 

6章 頭領

 

 

「私が頭領で異存ないか」

 

「ああ、異存ないさ」

 

巨漢の女が答えた。この女の名は勇儀という。

 

「私はもとより異存ありません」

 

長身細身の女も同意した。彼女の名は華扇という。

 

 

 

「あたいが一番の怪力だと思っていたが、あの男鬼に負けた」

 

「あのときはお主の足が滑ったからだ。勝負は時の運、気にするな」

 

「試では相手の3割増しの飛距離だったのに、残念でした」

 

「あの男鬼は先代の四天王の一人、熊童子の子ですね」

 

  

 

力比べでは参加者が課題を克服する度に、新たな課題が与えられた。

 

基準に満たないも者はその場で振るい落された。

 

具体的には巨大な石を持ち上げて一定時間保持する、土嚢を決められた所まで蹴り飛ばすなど、また腕相撲も行われた。

 

そして決勝戦では土の入った俵を束ねたものを投げて、その距離を競ったのだ。

 

 

 

「力比べは男鬼、格闘技は萃香、得意技も萃香、知恵比べは華扇が一位だったね」

 

「得意技は秘密なので見たのは御使者だけだが、間違いないだろうよ」

 

「萃香は力比べも3位で総合優勝だからな。頭領として認めるよ」

 

「あたいは力比べと格闘技ともに2位だった。得意技は3位、知恵比べは番外。頭領の座はあきらめるよ」

 

「でも、ご使者は『色気は勇儀が一位、圧勝だ』と申されていましたよ」

 

「それはそうだね。あのスケベ爺、良く分かっているねえ」

 

「おっと、頭領の親戚だったか。すまねえ」

 

「別に構わん」

 

 

 

「取り敢えず、私が頭領見習い」

 

「華扇が副頭領見習い、勇儀が四天王筆頭見習いだ」

 

「みんな見習いだ」

 

「力比べ一位の男鬼はいいのかい」

 

「やつは”四天王(仮)(してんのうかっこかり)”の一人」

 

 

 

「得点方式でしたので、私が総合2位に入ってしまいました」

 

「華扇は知恵比べ1位と得意技2位だからね」

 

「全てご使者のご采配だ。異議なし」

 

「種目別1位10点、2位5点、3位3点、4位1点だから」

 

「総合で萃香が23点、華扇15点、あたい13点だ。例の男鬼10点」

 

「勇儀が滑って転ばなければ、18点で華扇と入れ替わっていたのか」

 

  

 

「教官たちの準備が整った。我らは明日から修行に入る」

 

「160人を4組に分けて行うそうだ」

 

「我ら一党の役職と位は、修行が終わってから正式に決めよう」

 

「もう正式に頭領は伊吹萃香と決まっているさ。鬼討伐の勅令もお前宛てだし」

 

 

 

                     了

 

 

7章 陣容

 

 

「少し早いが、華扇は修行を終わりにして、戦の準備に取り掛かってくれ」

 

「多々羅山の鬼と戦った生き残りから詳しい話を聞いて、敵への対処方法や軍略を立案してほしい」

 

「承知致しました」

 

「それと我らの陣容について、原案を出してくれ。勇儀を加えた3人で協議したい」

 

「間もなく皆の修行も終わる。既に皆の力量も見えた」

 

「幹部を選定したい」

 

  

 

「先に言っておこう。今回の討伐に連れて行く者たちだが」

 

「私よりも若年の者は除外する」

 

「確かに、頭領は人の年で言えば十二、三歳だからね」

 

「正しいご判断かと思います」

 

「さすれば、討伐隊の人数は100人。いや、100鬼になります」

 

「出立(しゅったつ)は人目を避けて夜間だ。百鬼夜行になるな」

 

「頭領を入れると101鬼ですね」

 

「101匹鬼大行進か」

 

 

 

「組頭(くみがしら)は伊吹萃香、若頭(わかがしら)は私・華扇、四天王筆頭が勇儀…」

 

「まて、華扇よりも私の方が若い、年上の華扇が若頭…」

 

「役職名ですから…」

 

「うーん、副長にしよう」

 

 

 

「改めて我らの陣容について説明します」

 

「我ら一党の名は、御上(おかみ)より伊吹組と定められています」

 

「組頭(くみがしら)は萃香。我らは萃香を頭(かしら) 又は頭領と呼びます」

 

「組の幹部は組頭(頭領)の下に副長(副頭領)、その下に四天王、さらにその下に小頭を置きます」

 

「軍議はこれらの幹部により行います」

 

 

 

「陣立てについては、小頭を含む十人を一隊として8個の小隊をつくります」

 

「8小隊合計80名で、残りの者20名は頭(頭領)直属の本陣に編入します。

 

「つまり副長・四天王も本陣に在籍します」

 

 

 

「副長は組頭が不在の時など、必要に応じて組頭に代わり指揮を取ります」

 

「また時として前線に赴き戦の采配をします」

 

「四天王は全員或いは数人で、強力な敵に対抗します」

 

「また前線にて臨機応変に各組を率いて戦います」

 

「要するに、四天王は助っ人役ですね」

 

「本陣の他の者たちは、伝令や物見として働いてもらいます」

 

「各小隊組下の者たちは前線で戦います」

 

 

 

「それでは、四天王から選抜していこう」

 

「はい」

 

 

「…では幹部の人選は以上の通り決定しました」

 

「四天王と小頭の顔ぶれはこちらです」

 

華扇は幹部の名前が書かれた紙片を二人に示した。

 

二人はうなずいた。

 

 

 

 

「兵糧はどうするんだい」

 

「朝廷から遣わされる支援の軍団があります。兵糧の輸送や手傷を負った者の手当をしてくれます」

 

「朝餉・夕餉(あさげ・ゆうげ)の準備も担ってくれるそうです」

 

「確かに、戦闘部隊が飯を炊いていたのでは、煙で位置がばれてしまうね」

 

「後方で煮炊きして、飯を運んでもらうのが良策かと存じます」

 

 

 

「支援軍団のことだが、彼らは直接の戦闘は極力避けて、我らの支援に徹するように申し入れてある」

 

「うむ、人の兵など千人いても、数匹の鬼に蹴散らされてしまうからね」

 

「下手に戦わせてはかわいそうだ」

 

「専らあたい等の身の回りの世話でもしていてもらおうかね」

 

「戦は我らに任せてもらう」

 

「ですが、敵は強力で数も多いかと。本当に勝てるのでしょうか」

 

「やってみれば分かるさ」

 

「ここぞという時には、人の兵も共に戦ってもらう」

 

「兵数は五千と聞いている」

 

「鬼は100人力と言われているから、えーと」

 

「50鬼相当です」

 

「接近戦ではそのとおりだが、弓隊や槍隊は使い方次第ではもっと活躍できるかもしれない」

 

「人の兵を上手く活用しなければ、勝ち目はありません」

 

 

 

「まあ、華扇の作戦が勝敗を分けるだろうね」

 

「臨機応変に適切な策や知恵を出してもらいたい」

 

「心得ました」

 

「あたいたちは知恵比べが番外だったからね。頼りにしているよ」

 

「華扇ただ一人10点満点だったナァ―。すげー」

 

「あとは馬鹿しかいない。皆2~4点しか取れなくて”2位~4位該当なし”にされたね」

 

「いや、1点や無得点の者も多かったはず」

 

「あたいは3点だったよ」

 

「えーと、萃香…頭、お前の得点は確か…」

 

「言うな。一年も前のことだから…」

 

 

 

「そうだ。修行が終わった段階で、また競技をやろう」

 

「よし、今度こそ力比べに勝よ」

 

「私も、知恵比べは負けません」

 

「知恵比べの勝者は華扇に決まっている」

 

「そうだね。知恵比べはやらなくても良いね」

 

 

 

              了

 

8章 計略

 

 

 

「伊吹組各隊、間もなく退却してきます」

 

「敵味方の間隔は如何ほどか」

 

「敵とお味方の間隔は3町(約330メートル)です」

 

「攻め寄せる敵の数、鬼100体、魔物200体」

 

本陣では、物見の兵たちが刻々と変わる戦況を次々と報告していた。

 

「残りはどこだ」

 

「本拠地に鬼と魔物、各々100体待機中」

 

「余裕だな。なめられたものだ」

 

  

 

「弓隊」

 

華扇が弓兵隊を呼んだ。勿論、人の軍勢の兵種だ。

 

「準備よし」「準備よし」「…」

 

弓隊の隊長たちが次々に答える。

 

隊長たちは武将や組頭(百人隊長)だ。

 

副長の華扇よりも本来は上位の階級の者たちだが、今は彼女の采配に従っている。

 

人の支援部隊は戦闘時に限り、全て伊吹萃香の支配下に置かれているからだ。

 

 

 

味方の鬼たちが逃げ戻って来た。

 

敵の軍勢が迫りくる。

 

各隊長が片手を挙げて命令する。

 

「弓隊、構!」

 

「放て」

 

1000人の弓兵が一斉に矢を放った。

 

「構、放て」

 

矢が連射された。

 

敵の魔物は次々に倒れていく。

 

 

 

しかし敵は斜面を駆け上り、味方陣地の柵へ取り付いた。

 

「鉾(ほこ)隊、突け!」

 

華扇の号令が響く

 

1000人の兵が柵をよじ登る敵を鉾で突いた。

 

先陣の魔物は次々に打倒されていった。ほぼ壊滅だ。

 

一方的な戦いだった。ここまでは…。

 

 

 

その時、巨大な黒い影が柵を飛び越え、あるいは柵をなぎ倒して突入してきた。

 

敵の鬼だ。

 

味方の鬼たちの倍ほどもある巨体だ。

 

鉾の隊列が粉砕された。

 

刀兵が救援するが、鬼の棍棒(こんぼう)でなぎ倒される。

 

「伊吹組」と華扇は叫んだ。

 

「かかれ」と萃香が号令する。

 

本陣で待機していた萃香以下の鬼たちが参戦した。

 

逃げ帰った味方の鬼たちも直ちに戦いに加わる。

 

 

 

混戦となったが弓兵たちの支援もあり、敵の鬼たちは次第に劣勢になった。

 

しかしそのとき何故か陣太鼓が鳴り響き、味方が退却を始めた。

 

敵の鬼たちは一瞬、意外な表情を浮かべた。

 

だが、一目散に逃げる人間たちを見て、好機と思い一斉に追撃を開始した。

 

敵の鬼たちは山の尾根を登り、また坂を下る。

 

すると、彼らの足元が崩れて二十数体の敵が落とし穴にはまった。

 

穴の中には沢山の竹やりが天を向いて突き立てられていた。

 

勝敗は決した。緒戦は伊吹組の勝利となった。

 

 

           了

 

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