13章 助っ人
「あなた方の味方になる条件だけど」
「戦利品のうち、あなた方が使い道のない物品は全部私が頂くということで良いかしら」
「例えば?どの様な物か」
矢吹萃香は八雲紫に尋ねた。
「例えば、魔法材料とかね」
「我らは魔法を使わない。鬼が使っているのは能力だから」
「あなた方が使える魔道具は取らない。それ以外の魔道具は私が貰う」
「それで良い」
「金銀銅、鉄、銭、武具や布、食料等の戦利品は応分な量を分配する」
「報酬が貰えれば、協力できることが増えるわ」
「紫ならば隙間を使って敵の宝を盗み取れるのでは」
「そうね。でも結界や罠が仕掛けられていて、敵に気付かれずに解除するのが難しいことがあるのよ」
「戦闘中に頂くか、勝利した後で頂くわ」
翌日
「ということで、助っ人よ」
空間の隙間から異国の衣装を身に着けた女が現れた。
その服は赤い頭巾付きのケープコートだった。
「紹介するわ。助っ人の一人目。大陸の西の端にあるグレートブリテン島出身の魔女よ」
女が異国の言葉で何か言った。
紫が訳して皆に伝えた。
「太古の神の能力を受け継ぐ者。名前は長いので、アカモートでいいわ」
「どのような能力の持ち主なのかな」
萃香が訪ねた。
「人の運命に関与し、過去と未来を覗く程度の能力よ」
「ブリテン島?どうやって知り合った」
「彼女と知り合ったのは別の場所。イスタンブールという都市よ」
「私は異国の服を仕立てるためにビザンティン帝国へ行こうとしたの。勿論、隙間を使ってね」
「そのとき私の能力と彼女の魔法が干渉してしまい、なんと私は従者共々未来に召喚されてしまったの」
「紫は空間を操り、魔女アカモートは時間を操るのか」
「そうよ。でも彼女は時間移動することは出来ない。覗き見るだけ」
「彼女に言わせれば、過去現在未来とも常に変動しているそうよ」
「私が召喚されたのは500年以上先の未来だったわ」
「ビザンティン帝国は滅んでオスマン帝国に代わっていた」
「そこの仕立て屋さんで、私は彼女の服も作ってあげたのよ」
「以来、時々行動を共にしているの」
「ちなみに私が今着ている服は700年程未来で仕立てたものなのよ」
紫は気取って体をくねり、科を作ってドレスを見せびらかした。
しかし鬼たちは何とも思わず、無反応だった。嗜好がまるで違うのだ。寧ろあきれていた。
「私が未来のことや太古の昔のことを知っているのは、彼女から伝聞したことが多いわ」
「二人はどうやって連絡を取り合っているのか」
「連絡を取り合う場所を決めているの」
「私は隙間を使って、その場所に手紙を置くだけ」
「すると500年後の彼女に瞬時に手紙が届くの」
「実際は500年経過しているのだけど」
「彼女が連絡したいときは、私が用意した隙間に手紙を投函するのよ」
「その隙間は私が結界を張り、アカモートが時間的な穴を維持しているの」
「成程。だが、その魔女アカモートの能力をどの様に戦に役立てるのだ」
「戦に役立つ者を召喚出来るわ。別の時代の者を呼び出せる」
「彼女に戦況を説明したわ。敵の山城の三の丸は陥落済みと」
「山賊の拠点であって山城ではないのだが、堅固な防塁なのでそのように呼ぼう」
「で、次は二の丸を攻めると」
「よし、鬼の回復力を見せてやるよ。梅雨明けまでには手負いの者は全て回復するさ」
勇儀が口を挟んだ。
「二の丸は大きな亀石の上に櫓が建てられているわね」
「亀石など、我ら鬼の怪力で叩き割ってやるさ」
「それは無理ね」
「何故だ」
「あの亀石は太古の神の神器」
「その昔、山腹に打ち込まれて埋もれた物なの」
「或いは墜落したのかも知れない」
「その後の大地震により山頂が崩落して亀石が姿を現したのよ」
「例え鬼の力を以てしても破壊出来ないわ」
「あれを壊すには特殊な能力者を召喚する必要があるわ」
「以前、敵は亀石を本拠地にしていたの」
「でも盗賊団の人数が増えて手狭になったから、本拠地を今の本丸に移したのよ」
「ただし、今でもお宝はあの中に蓄えられているわよ」
その話を聞いて、皆が歓声を上げた。
「それは楽しみですね」
紫と魔女は暫く何か相談していた。
「ねえ、彼女に二の丸攻略の指揮をとらせてくれる」
紫は異国の魔女の要求を皆に伝えた。
「分かった。お主たちに任せよう。お手並み拝見させてもらう」
萃香はその申し入れを直ちに承知した。
だが、武将たちは一瞬困り顔をした。
しかし彼らは神?妖怪たちに囲まれている。反対は出来なかった。
「それでは梅雨明けまでに、これを完成させてね」
紫は図面を指示して、投石器などの攻城兵器を作るように武将たちに命じた。
これも魔女アカモートの要求だった。
「亀石は壊せないけど、この兵器で周囲の防塁や櫓を焼き払えるわ」
了
14章 応援
梅雨明け
梅雨が明けて攻城戦が再開された。
敵の拠点は、南北に連なる山頂の尾根に3か所の廓(くるわ=土や石で築いた囲い)と櫓(やぐら)を設けたものだ。
山城の本丸、二の丸、三の丸に相当する堅固な備えだ。しかし既に、三の丸に相当する箇所は攻略済みだ。
次に攻める二の丸に当たる廓は大きな亀石状の岩の上に楼閣(ろうかく)が築かれていた。
そして敵は亀石の4~5町(450~550メートル)手前に新たに防塁(ぼうるい)と櫓を増設している。
攻城兵器から放たれた火球が次々に空を飛び、敵の防塁に落下していた。
火球は敵陣を焼き払った。投石器により放たれた大石は敵の防塁を破壊した。
やがて魔女アカモートの指揮の下、味方の一隊が増設された敵の防塁を突破した。
その直後、亀石の一部が開いて敵の魔物たちが飛び出してきた。
敵は数で勝。各々の力も人よりも上だ。走る速度も人を上回る。
直ちに味方の部隊に撤退の合図が送られた。
しかし大半の兵の退避は間に合わない。
魔女は何度も逃げるように命令して叫んだ。
紫が通訳して叫ぶ。
「退却」「退却」
「軍師殿、救援部隊を出してください」
武将の一人が紫に上申した。
「この状況では百人の兵を助けるために、千人の兵を失うわよ」
紫は武者たちを説得するような発言をした。
「救援するために私たちを出したらどうだい」
勇儀が提案した。
「虎の子の伊吹組も直ぐに出陣出来るのは30体ほど」
「敵方も全力で増援してきたら、大損害が出てしまう」
華扇が勇儀をなだめた。
彼女はここで成り行き任せの決戦をして、大敗する危険を冒したくなかったのだ。
かわいそうだが兵たちを見捨てる他ないと思った。
敵の魔物たちが味方に追い付く。
味方の兵たちは遂に退路を断たれて囲まれた。
敵が襲い掛かる。
魔女が叫んだ。
「Oh No!」
すると
「はっ、お任せください」
一人の武者が馬に飛び乗った。
「皆の者、我に続け」
「オー」
鉾兵たちが彼を追って走った。
「小野組、出陣しました」
「What?」
しかし敵も増援を繰り出した。このままでは小野組もやられてしまう。
直ぐに魔女は未來視を始めた。
そして前回見たときとは全く異なる結果に未来が変わっていることを確認した。
敵に逆転されているのだ。
「Oh My God」
魔女は大声で叫んだ。
「大前(おおまえ)研四郎」「賀藤(がとう)貞光」
「出ます」
「ソレー」
「大前騎馬隊200、賀藤勢500出陣しました」
その状況を見て、魔女は頭を抱えた。
敵は挟み撃ちになるが、人間の兵のみと見て別に怯まなかった。
「人間だけかい。無理さ。私らも出せよ」
勇儀が叫んだ。
魔女は頷いて同意せざるを得なかった。
「四天王。鬼ども、我に続け」
萃香が命令した。
「ガォー」
伊吹組の鬼たちが飛び出していく。
敵は伊吹組を見て浮足立ち、撤退しようとしたが追撃された。
「勝ったな」
「流石、人の運命を操る魔女」
皆が魔女の指揮ぶりを称賛した。
その後も攻城兵器による火球と投石の攻撃が続けられた。
紫は出陣する攻撃部隊の指揮官に長方形の器具を渡した。
「この器具を使うと本部と連絡を取り合えるから、貸してあげる」
「魔道具ですね。ありがとうございます」
「でも、今日は太陽の活動が活発なので雑音で聞こえにくいかも」
その日のうちに亀石の上の櫓は崩れ落ちた。
夕刻になった。間もなく日没だ。
「ここまでは魔女のお遊び。これからが本番」
「私と彼女の能力を併せて使うと次の助っ人を呼べるわ」
紫は萃香に言った。
「おう。頼む」
空間に亀裂が走り、空いた隙間から次の助っ人が現れた。
それはよく似た顔形をした、二人の少女だった。勿論、人間ではない。
紫が簡単な説明を付けて、彼女たちを皆に紹介した。
二人は姉妹だった。
直ぐに二人は魔女と相談を始めたが、妹の方は退屈そうにしていた。
そして何か言い残すと、パタパタという感じで何処かに飛んで行ってしまった。
一方そのころ前線の指揮官は、紫から預かった魔道具で本陣と連絡を取っていた。
「間もなく、そちらに応援が行く」
「む、誰か飛んできた。近くの大木の枝に降りた」
「少女だぞ」
「この少女が応援か」
「少女…の後の部分がよく聞き取れない」
「もう一度ゆっくりと言ってくれ」
「分かった。ゆっくりだな」
「オ ー エ ン は 彼 女 な の か」
日は沈んだが、まだ夕焼けが残っている。
夜空には紅い月が浮かんでいた。
少女の近くの空間に隙間ができて三人?が現れた。
「勝手に一人で行っては駄目よ」(外国語、以下同じ)
姉が小言を言った。
「お姉さま、ここは私たちが産まれる前の世界だわ」
「ええそうよ、生まれる400~500年くらい前の世界よ」
「今の私はマイナス495歳かしら」
「標的はあの亀石よ。お願い」
と魔女が指さした。
「うん、分かった」
「ウ~ウ~(能力発動)、キュッ」(外国語?ここで終了)
ドカーン
大音響とともに亀石の外壁は崩壊した。
「彼女たち二人はもう帰ったのか」
「そうよ」
「確か、バンパイヤ(吸血鬼)としか聞いていない様な気がするが」
萃香が紫に尋ねた。
「もう一度言うと、姉妹は何処かの国の貴族。数百年先の未来から召喚されたわ」
「姉の方はスカーレット家の当主で紅魔館の主のレミリア。妹はフランドール」
「私も詳しくは知らないの」
「将来、私と何か関係ができるらしくて、魔女アカモートはそれ以上のことを教えてくれない」
「だから今回のバンパイヤたちの報酬内容を私は知らないわ」
「ただ、今回私が獲得する魔法材料の殆どをアカモートに報酬として提供する約束なの」
「レミリアの食客に魔法使がいるから、アカモートはその魔女と繋がりがあるのでしょう」
「紫の報酬は」
「私は敵の魔道具を頂くわ」
「あとは内緒」
「さらわれた人間の子供か」
「貰うのは数人だけよ」
「親元に返す気はないのか」
「先代の大江山の鬼たちは、都の貴族の姫たちをさらっていたけど」
「多々羅山の鬼たちは、一般の百姓の子供をさらっている」
「貴族の子弟ならともかく、百姓の親を探し出して返すのも難儀だわ」
「それに皆貧しい家の子たちよ。私の結界の中で暮らせば、少なくとも飢え死にはしないわ」
「その通りだろうが、やはり貧しくとも子供は親元で暮らすのが自然の理」
「親元で暮らしても口減らしや、遊女に売られることもあるわ」
「本人たちも食べていけるのならば、窃盗とか悪い事をする必要がなくなるのよ」
「私が責任をもって面倒を見るわ」
「そうか…。分かった」
萃香は呟くように答えた。
「萃香も父上と暮らしたかったのよね」
萃香には父の記憶がない。父が討たれたとき、彼女はまだ幼児だった。
「そのうち萃香の父上とその仲間たちのことを話してあげる」
「人は生存競争の相手として強力な鬼の存在を許さなかったのよ」
「恐怖心から鬼を信頼出来ないので、家来や使用人として召し抱える人はいなかった。一時的な労働力として雇う者すらいない」
「農地も土地も与えず、狩場から締め出し、山野や海川の恵みを採ることも拒んだ」
「鬼は産物の少ない険しい山の中に追い込まれたの」
「同じ鬼でも、貴族の血縁がある萃香たちとは全く事情が異なるのよ」
「大江山の先代の鬼たちは悪行ばかり語られるけど、決して根っからの悪者ではなかったわ」
「その証拠に、彼らの血を引く萃香たちはいい鬼ばかりだもの」
紫にそう言われると萃香は嬉しくて、気分が晴れた
了