“それ”をはっきりと志したのはまだ年齢が十歳にも満たない頃の事だった。
「すっげー……!」
バトルフィールド全体を燃やし尽くしてしまいそうな勢いの炎は見るものすべてを魅了する。
黄金色に輝く毛色のポケモン・キュウコンの口から解き放たれた“かえんほうしゃ”は瞬く間に挑戦者のポケモンを焼き払い、戦闘不能に追い込んだ。
「試合終了! 勝者――――」
挑戦者が擁する最後のポケモンが倒れた事を確認し、審判が勝者の名前を高らかに告げた。
その声を聞き届け、ほのおタイプ使いのトレーナーが拳を天高く掲げる。
テレビ越しに目にしたトレーナー・幼馴染の祖父の後ろ姿に、少年は目を奪われた。
共に勝利を手にしたポケモンと並んで観客の声援に手を振って応える、一挙一動が少年心をくすぐる。
あまりにも強く、あまりにも眩しく、そしてあまりにも――遠すぎる世界。
幾度となく近所づきあいで話を交えた事もある年配トレーナーの後ろ姿は日常とはあまりにもかけ離れており、知っているからこそ子供心に感心し、憧れた。
「でしょ! あたしのおじいちゃんってすごいでしょ!」
「うん!」
それは少年の横で肩を並べて眺めていた少女も同じ事。
炎を彷彿させる赤い髪を揺らし、喜びをあらわにする彼女はまさに今勝利を手にした四天王の孫娘だ。
自分の事のように得意げに胸を張る姿は年齢相応であり、少年もつられて笑みを深くした。
「よかったー。おじいちゃん、最後のバトルで良い所を見れて」
「えっ? 最後?」
「そ。今あたしたちの街のジムリーダーがいないでしょ? だからおじいちゃんがそこのリーダーになるんだって」
「へー」
二人の住む町、フエンタウンは現在ジムリーダーが不在であった。
ポケモントレーナーにとってジムリーダーは、彼ら彼女らに勝利する事で手にするジムバッジがトレーナーたちの祭典・ポケモンリーグに参加する事ができる権利を得ることができるため、一刻も早く新たなジムリーダーの就任が求められていた。
そんな中、人々の声に応じたのが四天王を務めていた彼女の祖父だという。
生まれ故郷という事もあって地元の人々の信頼も厚い。四天王という事で力を疑う者もなく、反対の声は一切あがらなかったらしい。
「おじいちゃんは『今度はアスナが大きくなるまでジムを守っていく』って言ってたんだ。カッコよかったよー」
少女、アスナの名前を挙げてそう宣言した祖父はその言葉通り、長くフエンジムを守っていくことになるだろう。
告げられたアスナはただただ嬉しく、そして祖父の姿に自分もなりたいという思いを強める事となった。
「元四天王ならフエンタウンももっとトレーナーが来ることになりそうだな。面白そう」
「でしょ! きっといろんな人もポケモンも見れると思う。……それでね、あたし、決めたんだ」
「ん? 何?」
「うん。あたしね……」
それは幼い約束。
二人だけが知る、ふたりっきりの誓い。
いつまでも続いていく、幼馴染の関係を決定づける些細な、されど掛け替えのない大切な――――