リザック:俺。黒髪黒目の中肉中背な十七歳。魔法使いの卵。魔法太郎。すべての事象を限界を超えた魔力の超魔法で解決する。
師匠:伝説の勇者PTの魔法使い。賢者枠。
女神様:人々を憐れんで魔法の呪文を授けた慈悲の神様。広く信仰されている。ついでに運命も司る。
聖女:やたら股に執着している女。盲目。
魔王:誰も勝てない。
勇者:いくへふめい。
勇者妹:被害者
この世界で意識を取り戻して10年。段々とこの世界のことが分かってきた。
イ・ミナリと言う魔王がいる。
『メラ』とか言う聞いたような魔法の呪文がある。
伝説の勇者の伝承がある。
この時点でドラクエの世界だとわかる。
そして、絶望的な情報として、予言された『金の魂の勇者』が伝説の超装備をしたまま魔王に片手で捻られた挙げ句、血祭りにあげられ、身ぐるみを剥がされ、身体から玉を抜かれて帰ってきて10年経ったという
その噂を初めて聞いたときに、俺はこう思った。
(魔王強すぎワロタ)
俺の魔王が強すぎる世界での人生が始まった。
今度は、俺のことを語ろう。
俺はとある農夫の家庭で育ったが、嫌になって家を飛び出した。
その後、山で遭難した挙げ句、川に流されて水難にあった俺は師匠に助けられて今に至る。
「これっ! 集中せんか!」
「謎の修行を強いられているんだ!!(
座禅をして『ルーラ』の応用で空中に浮く修行中、俺の発した転生ダジャレが伝わらずに、紫の毛むくじゃらに賢者の杖で殴られた。
(地味に攻撃力が高いのでやめてほしい)
古代エスターク人の血を引く師匠は、所謂獣人と言った具合で、紫の体毛の生えた小さな狸に表情豊かな鳥山ワールドな顔がついていた。2足歩行だったが、初見でガチの人面犬だと思った俺は悪くない。いや、言葉が過ぎた。かりん様に近いかもしれない。
この体は地頭の良さがあったのか、俺はこの数年で師匠の教えや呪文をモリモリと吸収できた。
しかし、師匠が使える魔法の呪文は全て網羅できたのだが、威力はからっきしだった。
「……昔は拾いものだと思ったが、もう潮時かもしれんなぁ」
「捨てないで!!」
師匠が余りにも遠い目をして言うものだから、俺は師匠に飛びついた。
「ふん!」
「いでぇ!」
空中に『ルーラ』の応用で浮遊している師匠は、賢者の杖を俺に振り下ろした。無駄に硬い木材で出来た杖はべらぼうに痛い。
(師匠が魔法使いで良かっ……た……)
そんなことを思いながら、今日も謎の魔法修行で沈んだ。殴られすぎて頭の形が変わってしまいそうだ。
師匠は旅の魔法使いだ。
様々な土地を流浪していた。
なんの理由からか、道すがら人助けを続けている。
「お前、儂が何故旅をしているのか。一向に聴かないな?」
夕の修業を終え、焚火の前でくつろいでいると師匠がおもむろに言った。
「えー、だって興味ねぇし」
(えー、だって興味ねぇし)
「……」
計らずも心の声が漏れてしまった。
俺を睨んで三白眼を釣り上げた師匠は、それきり黙ってしまった。
実際、師匠の生い立ちについて、俺には全くこれっぽっちも興味がなかった。
(これが美少女だったらなぁ……。老成した爺だし)
痛い沈黙の中、そんなことを思って遠くを眺めていると、師匠が口を開いた。
「……旅も潮時だと思ってな。探しても見つかったのが、出来損ないの弟子一人というのが何ともな……」
「全然聴いてないんですが、それは……」
師匠は急に自分語りを始めた。
なんでも、師匠は勇者パーティの一人だったらしい。魔王に呪われて、世界のどこかに飛ばされてしまった勇者を探して旅を続けていたそうだ。
「え、でも勇者は一応帰っていたんでしょ?」
「やっと聴く気になったか。あの時から、勇者は行方不明になった。対外的に帰ってきている事にしなければ、ことさらに士気が下がることが予想された」
(ぶっちゃけ、やっているのは正面からぶん殴るスタイルの魔王のパワー暗殺任務だ。士気も糞もないだろ……)
そう思うのは俺だけだろうか。
この世界には、魔王や勇者のように、個で集団を凌駕するほどの力を持つ存在が湧いて出てくる。
この世界に生きる俺達。一般の一生命は、そいつらに怯えながら生きているというのが現実だった。
そんな弱々生命体を憐れんで、神様が授けたのが魔法の呪文だ。
そして、決して自虐ではないが、俺はそんな魔法の呪文ですら十全に使えない超弱々生命体なのだった。
「まぁ、これだけ探しても噂の一欠けらすら見つからないんだ。もう、おっ
最近元気がなかったのは、そういうことらしい。
師匠の中で、なにがしかの整理がつき、旅を止める決意に至ったようだった。
―――
――
―
「あ〜やっと着いた」
翌日の早朝、俺たちは辛うじて雨風を凌げそうな廃屋の前に立っていた。
「これ、まだじゃ。領主様に挨拶に行くぞ。荷物を置いて、まずは身なりを整えろ」
「え〜」
師匠が終の家に選んだのは、勇者を輩出したトリオンという街にある廃屋だった。手を入れれば、まだ住めるだろう。
王都から少し離れているが、精霊教会の本部があり、多くの僧侶がこの街で生活していた。
昨晩、街の元締めから格安で買った廃屋は、驚くほど安く、売った強面の元締めの顔は若干引き攣っていた。安さというか、えっ買うの? みたいな顔が気がかりだった。
古い木の扉を開けると、木製の床の上にいた顔面が崩壊している幽霊たちが一斉に振り返った。
普通に幽霊の住処となっていた様だ。
(身なりの前に除霊が先決だこれ)
俺は白目を剥いた。
「……。どれ、儂は少し出かけてくるからやっとけよ」
「あ、ちょ。えぇ……」
師匠はあっさりと、繁華街へ出ていってしまった。師匠は暗闇を恐れるチキン野郎だった。くたばれ。
「……くそがァ!」
俺はキレた。
いつかあのクソみてぇな、空飛ぶ
さて、ここはドラクエの世界だ。しかも不思議な魔法の呪文を使えるときた。となると、やることは一つしかない。
「いいからドーピングだ!! 『ピオラ』!!」
呪文の出力のせいで、攻撃や回復呪文はクソみてぇな威力だったが、補助系の呪文なんかはそこそこ使えた。
素早さドーピングした俺は、もう一度扉を開き、自分の世界に没頭し街路地で狂ったように叫ぶ小学生のように呪文を唱えた。
「『ニフラム』! 『ニフラム』! 『ニフラム』!!」
空から謎の光が差し込み、天井を貫通して幽霊に降り注いだ。幽霊たちは痙攣した。
俺が唱える『ニフラム』は、何故か謎の光補正が働く。当たるところが胸やら股やらなので、傍から見ると幽霊がほぼイったように見える。
危うく俺は新しい扉を開きそうになったが、正気に戻った。
(男だか女だか分からない幽霊に働いても、全く何も嬉しくない……。嬉しくないったら嬉しくない)
最後に余った幽霊は怯えきっていた。これは逃げ出すか、と思ったが普通に襲ってきた。
「『メダパニ』」
「ヒアァァァ」
面白いことに、幽霊に対してメダパニをかけると生前の姿に戻ったり腐ったり明滅したりする。更には生前の行動を反芻したりする。
(霊体が混乱する様は草草の草)
この幽霊は、死亡時は恐らくうら若きメイドのようだった。俺の脳裏に電流が走った。
(これはいいものを見つけた)
『メダパニ』で混乱する幽霊を見つめた俺はニヤリと笑った。ついこの間、呪文の悪用方法を思い付いていたのだった。
混乱中の幽霊は、人体でも物理的に接触が可能だ。俺は捕獲することにした。歯に衣着せぬ物言いをするなら、今後のオ○ネタにすべく捕獲することにした。
『メダパニ』をかけ、見かけが良いタイミングで『マヌーサ』をかけて幻覚を見せ、『マホカンタ』をかけた小箱の中へ『バシルーラ』でブチ込む。そうすると、当たり判定がバグり、小箱を開くまで中で無限に『ルーラ』が発動する。
俺はこれを鳥山ワールド顔をした師匠に肖り、魔封波と呼んでいる。
バグる、という表現をしたが神から下賜された魔法は、重ねると挙動がおかしくなることがままあった。
また補助呪文の対象が物理現象だと、無駄によくバグる。
(殆ど誰も気づかないけど)
そんな使い方をするのはお前くらいなもんだとは、師匠の言葉である。
とりあえず俺は、【マホトーン】を解くと指向性【マヌーサ】によってアンアン叫ぶ【えっちな小箱】を手に入れた。開けて爛れた生活をおくるも良し、更に鍵穴を覗くことで、メイドさんの痴態も拝むことができる快心の一作だった。
粗方片付いたところで、今度は部屋の掃除をすることにした。ここで活躍するのが『バギクロス』だ。部屋の中で『バギクロス』だと……ばかな!? と思うかもしれないが、俺の攻撃魔法は雑魚雑魚の雑魚なので安心してほしい。
なお、普通の魔法使いが使うと城を飲み込む巨大な竜巻が発生するが、俺が使うとダイソンもびっくりな吸引力が発生する。要するに弱い。
「『バギクロス』! 『バギクロス』!!」
倒せるのは部屋のホコリくらいだった。
―――
――
―
「お帰り下さいませ。師匠殿」
「迎えたいのか出て行かせたいのか、どっちなんじゃ」
掃除してスッキリした俺は、帰ってきた師匠を暖かく迎えた。ダーマの神に祈りを捧げ、賢者にジョブチェンジした俺は無敵の人となり、当たり前のように帰ってきた師匠の仕打ちをニンマリと笑って許した。
「なんじゃい気持ち悪い……。さっさと行くぞ」
「へいへい」
領主の屋敷は小高い丘の上にあった。門兵に伴われて、屋敷の扉を潜った。
案内された客間は、質素だが品の良い家具が並んでいて、質実剛健な印象を受けた。領主はきっとキチンとした人物なのだろう。
「ようこそ。かの高名な導師様とお会いできるとは――」
「
「え? なんですか?」
「……『バイキルト』」
出てきたのはデップリとして胡散臭いヒゲを生やした男だった。
この時点で、俺は話を聞く気にならなくなった。なにかこう、なんか違う感じに襲われた。
(これが認知性不協和か……)
などと考えている間に話は進み、俺の紹介となった。
「お初にお目にかかります。弟子のリザックです。いつか進化してバルザックになるのが夢です」
「……き、奇特な方ですな」
「……はぁ。まだまだ腕も甘く、お恥ずかしい限りです」
「腕の話はしてませんよ! 師弟揃って何なんですか?」
認知性不協和どころか、俺達師弟は協調性すらなかった。挨拶ごときで既に話が大分拗れかけており、早々に退席することが懸命に思われた。
何とか挨拶を済ませて、次は教会本部へ赴くことになった。
「あ〜めんどくせぇ」
「お前がいらないことを言うからじゃろうが」
師匠は言うに事欠いて俺のせいにしてきた。
内弁慶の師匠は、初対面の人と会うとゴニョゴニョ言って何も聞き取れなくなる。そこで、俺が師匠の声に『バイキルト』を使って聞こえるようにしていたのだ。
(なんて便利な魔法なんだ)
ちなみに『スカラ』をかけると、空気振動数が変動して超高い声になってうける。『ルカニ』をかけると間延びして野太くなる。『ピオラ』と『ボミオス』でも似たようなことができる。
きっとゲームでの魔王の主人公声真似は、魔法的なサムシングだったに違いない。
(次はそうするか……)
一人三役びっくり人間という密かな仕返しを考えていると、無駄に水が湧き出す立派な門が現れた。
こういうところに金をかける宗教を見ていると、祀られる神様が立派なんだかそうじゃないんだかわからなくなる。
(不信心者である俺事リザックさんには関係のないお話でしたとさ)
頭を後ろ手で組みながら独りナレーションごっこをして遊んでいると、いつの間にかよくある教会っぽいイメージの祈りの間へ着いた。
「リザックよ、まずは祈りを捧げるんじゃ」
「へいへい」
信者である師匠からパワーハラスメントを受けた。しかし、力こそパワーである時代であり、何かに付けてハラスメントを叫ぶ俺のほうが異端だった。
ここの女神様は、弱々しい人類に魔法の力を与えたことで信仰を得るに至った、慈悲の神様だ。
そしてここは魔法使い達の聖地。そんな感じの場所だった。
(ファッキュー神様。詫び石寄越せ)
仕方がないので、両膝を付き両手を組んで当たり前のように暴言を吐いた。
俺にとっては、よく分からんプログラムを無給デバッグさせるブラック企業のボスだった。
お祈りをしていると、偶に託宣で俺が悪用していた魔法のバグ修正案内をくれるクソ女郎だ。詫び石も寄越せ。
そして、今回もやってきた。
何かが弾ける音が響き、周りが白黒カラーになった。まるで世界が止まったようだった。
――リザックよ。リザックよ。私の声が聞こえますか?
(こいつ直接脳内に!?)
――今あなたの心に直接語り……先を読むのをおやめなさい。
――あなたが今朝方助けた者達の中で、救われる運命だったはずの善良な者がひとり居ないのです。その者をお探しなさい。
(ああ、あの幽霊達か……)
『ニフラム』で昇天したと思ったが、女神様の元へ無事に旅立ったらしい。
その時、俺の脳裏にうら若きメイドの痴態が閃光のように走った。
「あっ……」
(しまった、油断した!!)
芋づる式に俺の記憶が読み出された。
――あ!!!
女神の声が響いた後、白黒世界が元に戻った。
――………………。
――……リザックよ、供物を捧げなさい。
雰囲気が変わった。
嫌な沈黙の後、女神は供物を要求してきた。
「いやだ! これは俺のだ! いやだ!」
【えっちな小箱】を奪い取ろうとする女神へ、俺はヒソヒソ声で抗議した。
――捧げなさい。捧げなさい。捧げよ。
最終的にホラー感が増してきた。
(教会、なんて恐ろしいところなんだ……)
――№§√︼±@‡ あなたの申請している『マホカンタ』がキャンセルされました。
――「♀《®€〈 あなたの申請している『ルーラ』がキャンセルされました。
嫌だ嫌だと言っていると、呪いのようなおどろおどろしい音楽が流れ、維持するために唱えていた呪文が棄却され始めた。
「おぃ!? そんなことしたら、俺の胸元から急にえっちなメイドさんが出て来ちゃうだろうが!?」
「急に叫んで何言ってるんじゃ、こいつ!?」
立ち上がって叫んだ俺に師匠が抗議の声を上げた。
――捧げろ。捧げろ。
師匠からパワハラを受け、女神なのか邪神なのか分からない存在に恫喝を受けた俺は、泣く泣く会心の出来だった【えっちな小箱】を手放すことになった。
【えっちな小箱】は光に包まれて空中に消えていった。
俺の手元に降ってきたのは、【かしこさの種】が3つに【不思議な木の実】が5つだった。これが詫び石のつもりなのかもしれない。
(もう普通に金をよこせぇぇ!)
俺は詫び石を受け止めきれず、種が床に散らばってしまった。
「はぁ。またか……。お前は女神様に好かれとるの。どれ、司教様へは儂が一人で挨拶に行くから、お前は女神様にまだ祈っとれ」
「んなわけ無いだろう。あ、ちょ」
っと待てよ、と言おうとしたが、師匠は地面の上で直立したまま、バグったゲームのようにスゥーッと高速で滑っていった。
(バグってんのか? 普通に飛べ!?)
師匠は俺の魔法応用を見て逆に学んだのか、肌感覚で偶に魔法をバグらせてくる。
(まったく……。脳が混乱するからやめてくれ)
溜息をこぼして視線を戻した俺の前の床には、先程の種や木の実が散らばっていた。
(なんだコレ、嫌がらせかよ)
【かしこさの種】は、食べると賢者タイムに突入し、【不思議な木の実】はマジックパワーが微妙に増えた気がするものだ。貰っても俺にメリットはない。
俺には、転生特典なのか無駄に多量のマジックパワーがあった。ゲーム的な数値に換算すると999を有に超えているだろう。しかし、
(これだから、この女神は好かないんだ。全部売り払って娼館行ってやる。オプション【マヌーサ】で嬢に女神プレイ。決まりだ)
そんなことを思う俺の目の前に、更に【いのちの木の実】が2つ降ってきた。
(どういう意味!?)
ここの女神には、俺が教会にいると偶に思考に割り込んで変なことをする悪癖があった。
以前は、女神様の御神体を裸に剥いたフィギュアでも作ろうと考えていたら、突然【世界樹のしずく】を頭に落とされビシャビシャにされた。
(罰にしても、なんで希少な割れ物だったんだ……)
大体意味はないので、気にするだけ無駄だ。今回の木の実も詫び石として徴収することにした。
【いのちの木の実】は胡桃っぽいサイズ感の実で、ずっしりと重かった。
いそいそと床に散らばる木の実を拾ってポッケに突っ込んでいると、ふと目の前に木靴が止まった。無駄に金ピカ縁取りの装飾が施された、祭事用の靴だった。
視線を上げると、淡い卵色のケープを纏った、癖のある長い茶髪の女が見えた。両目が眼帯で隠されていて、恐らく盲目なのだろう。
位の高さを表す帽子が、頭にでかでかと乗っていた。
「もし、そこの方」
「あ、はい」
(なんかめんどくさそうなやつに絡まれた)
その女は逡巡する様子を見せた後、手に持った短い錫杖を鳴らしながら、しゃがんだままの俺の股ぐらを指した。女の顔は赤く上気していた。
このワンシーンだけ切り取れば、金持ちの家に飾ってある大きな絵画のように、教会の祈りの間で光挿すボーイ・ミーツ・ガールの構図となっただろう。しかし現実は異なった。
「あ、貴方のその玉を握らせてください」
「………………?? ……! へ」
「へ?」
「変態だー!!」
ど直球に羞恥プレイを強要してくる変態との唐突なエンカウントに、俺の脳は一瞬理解を放棄した。
「ち、ちがっ! その金色に光る玉です!」
「金○じゃねぇか!?」
「聖女様!?」
俺の金玉を狙う変態女であることが確定的になった。周りにいた司祭達も驚きの声を上げ、変態女の気が逸れた瞬間に俺は駆け出した。
「あぁ、もう! 違います!! 逃げないでください!」
「助けてくれぇ! キ○ガイだぁ!」
俺は恥も外聞もなく大声で叫んだ。
「な、な、なんてこと言うんですか! 止まりなさい! この、止まれ!」
「『スカラ』、『ピオラ』、『バイキルト』……。ぁーぁー」
「門兵さん! 「私を」捕まえてください!」
「はっ!?」
「え? ちょっと! なんで私を捕まえるんですか!?」
俺が声真似で割り込んだ事によって、門兵が動揺しながら変態女を捕まえ、距離を引き離すことに成功した。
(一体何だったんだ……)
というか、盲目の癖にメチャクチャ足が速かった。こちとら、咄嗟のドーピングでかなり加速していた筈だった。素であれということは、世界に湧いて出てきた超人の一角なのだろう。ふぁっきゅー。
(やべぇ、師匠置いて来ちまった。……え! 嘘だろ!?)
小箱を取られるわ、詫び石を半分置いてくるわで最悪だった。極めつけが、ポッケに穴が空いており、折角貰ったのに【いのちの木の実】2個と【かしこさの種】1個以外はどこかに落としてしまっていた。
焦った俺は、慌ててズボンを脱いで探したが見つからなかった。その後、抜きゲーを買ったと思ったらプレイ中に泣きゲーと気付いた大の大人のように、ズボン片手にオイオイと号泣した。
そして、それを見た幼女に通報され、衛兵から逃げ出した俺は
―――
――
―
見上げれば夕暮れ、挨拶だけで一日終わってしまった。娼館に行こうと思っていたが、さっきの件もあって気が削がれてしまった。というか、娼館でプレイに耽るだけの金が全然足りなかった。
師匠を迎えに行こうにも、教会本部に戻るのは憚られた。
(なんてこった……)
計画が完全に狂ってしまった俺は、街を放浪する内に、うらぶれた場末の酒場に辿り着いた。2階には宿屋があるようだ。
(嫌なことは酒を飲んで全部忘れちまおう)
俺は夕食を取りがてら酒を飲むことにした。
「親父さん、酒だ。きついヤツくれ」
カウンターについた俺は、早速酒を頼んだ。
「んん、新顔か? 飲めるのか小僧?」
「あぁ。ヤバくなったら、直ぐに『キアリー』して素面に戻るから安心してくれ」
「飲む意味あんのかそれ……」
親父さんは呆れながらも、俺が出したお金に見合った品々を出してくれた。
(雑な料理だったが、味は良かった」
「雑で悪かったな……」
「誰だそんなことを言うやつは! 俺が殺してやる!」
「いや、声色変えたお前だよ」
客は俺以外に入ってこなかった。俺が飲酒してぐでんぐでんになる間、場末のうらぶれた酒屋では親父さんのグラスを拭く音が響いた。
「親父さん泊めてくれ。気が付いたら帰れなくなった」
「あん? ずっと座っといて、何がどうなったらそうなるんだ? さては酔い過ぎたな」
いい加減、面倒臭くなってきたのか、親父さんは鼻を鳴らしてそう言った。
「実は、俺捨て子なんだ。元いた世界から捨てられて、気付いたら女神の奴隷な魔法使いの卵にされていたんだ。そんな俺が寒空のもとに追い出されたらどうなると思う? あんたが眠れないように、一週間毎日『ザメハ』をかけに来てやる」
「……自由だなお前。一泊3ゴールドだよ」
「やすっ!」
既に帰り道が分からなくなっていたので、2階の宿へ泊まることにした。
(客を悪酔いさせ、強制的に徴収する悪徳宿の一種なのかもしれない」
「おめぇ、それ以上言うと泊めねぇぞ」
「「ごめんなさい」」
「え、なんで反響してるんだ?」
酔って心の声がダダ漏れの俺は、慌てて口にバツマークを作り、口を動かさずに『バギ』の応用で謝った。
意外にも2階の宿の個室は、小綺麗にされていた。素がボロいので、印象としてはやはり底辺の宿だった。
ボロベッドへダイブして即座に寝ようと思ったが、俺のマジックなセンスが何かを捉えた。
(っていかん)
「『キアリー』 ふぅー」
酒の毒が抜けて一瞬で素面に戻った俺は、千鳥足を止めてベッドに腰掛けた。いつもの修行のように、目を瞑って感覚を研ぎ澄ませた。
魔法的な感覚を通して、直ぐに様々な情報が集まってきた。
「ヒヒヒ、観念しな嬢ちゃん」
「そーれぱふぱふ♡」
「ギシギシアンアンするよぉ〜♡ ギシギシあん。ギシギシアン。ギシギシアンアン、ぱこぱこフォォォォォオ!!!」
「レ・ミ・ラー・マ♡」
――っていないじゃない!! なんでぇ!?
(こっち方向は娼館街か……。ちくしょう!! 俺も乳首当て『レミラーマ』したかった……!)
最初の疑わしい台詞のせいで、無駄に引っ張られてしまった。出歯亀女神の毒電波なんてなかった。
「はぁはぁ……」(♀)
「はぁはぁ……」(♂)
「はぁはぁ……」(♂)
今度はなんにも分からない情報が引っかかった。さっきの花街の影響で、いかがわしい感じになってしまった。
(えぇ……、どういう状況?)
もっと深く探ると、馬のか細い嘶きが聞こえた。
(……やべぇ、もうエロい方向にしか考えられなくなってきた……。んー、事故ったのか? 近いな)
どうやら、夜間にも関わらず、無茶にも街なかへ入ってきた馬車に人が轢かれたようだった。
俺は宿の窓から『ルーラ』で飛び出すと、大通りの方向へ向かった。
これまで、師匠との旅の傍ら人助けをしていた。半ばライフワークと化しており、無意識で足が向かってしまっていた。師匠が導師として名声を得ているのは、勇者PTに参加した実績ではなく、多分に人助けが関わっていた。
夜間で視界が悪い中、松明を持った人だかりができていた。
地面に降りた俺は、強面な野次馬の一人に声をかけた。
「よ、どう言う状況だい?」
「ん? あぁ――」
どうやら、馬車が緩やかなカーブで曲がりきれず、人を巻き込んで建物に突っ込んだようだ。
「事故なんて起きる場所じゃないんだが……」
「おぉーい! 誰か持ち上げてくれぇ! 人が挟まっているんだ!」
禿頭が叫んだ。
馬車の積み荷が崩れ、人力で動かすにはかなり時間がかかりそうだった。
馬車下からは血が滲んでいて、あまり時間がないことが伺えた。
どやどやと人が集まっていたが、野次馬が組織だって動けるわけもなかった。更には、鈍臭い野次馬が派手にすっ転び、手に持っていた松明が積荷に引火した。
「うわわっ! 逃げろ!」
「何やってるんだ!? こら、逃げるな!」
(なんてこった!)
俺は慌てて魔法を使った。
「『アストロン』!」
「!? 魔法使いか!」
「助かる! 鋼鉄になり何も受け付けなくなる魔法だ!」
「皆手を貸せ! 固まっている間に怪我人を……?」
俺の放ったアストロンは、燃え盛る火炎が対象だった。火炎は鋼鉄と化し、馬車から転がり落ちた。
「……」
甲高い鉄の音と、あまりにも白けた空気があたりを覆った。
「いやいや、早く助けろよ」
「そ、そうだった!」
全員に白い目で見られる中、俺は『バシルーラ』を唱え、積荷を千切っては投げ千切っては投げと、大通りに捨てた。
(出力が弱くてあまり遠くに飛ばないんだ。あまり睨んでくれるなよ……)
しかし、投げ放っていた木箱が割れ、中から煙が沢山出てきた。
(やべっ、火薬でもあったか!?)
「ひひひ……」
煙が幾つかに集まると、4体の魔物になった。【ギズモ】だった。水を掛けると増えそうな名前をした魔物だった。
「な!? 街なかに魔物だと!?」
「
(やべぇな……、これじゃ野次馬を狙い放題だ)
【ギズモ】は、『ギラ』が得意な魔物だ。『ギラ』は、閃光を伴いながら熱線を照射する魔法だ。街なかで使われると、非常にまずかった。
俺は両手を合わせて、即座に呪文を唱えた。
「『マホトーン』!!」
「よくやった! 魔法を封じる魔法だ!! あれ?」
おっさんが口パクで騒いだ。
実は、『マホトーン』を空気を対象に放つと、空気が振動しなくなる。空気が振動しなくなるということは、音が伝播しない。
更に【ギズモ】は、『ルーラ』パワーで浮かんでいるのではなく、空気を振動させて浮かんでいるのだ。つまり、一帯に静かなる結界が敷かれた上に、【ギズモ】が墜落した。
俺も魔法が使えなくなるじゃん、と思ったそこのアナタ、安心してほしい。既に俺は魔法を完成させていた。
【ギズモ】達は墜落し、アストロンが掛かった鋭利な炎に刺さって爆発した。
俺は、速攻魔法『バシルーラ』で、炎を【ギズモ】の下へ送っていたのだった。
何故、爆発したのか。アストロンが掛かった炎は、魔物や人が触ると爆発する。俺にもよくわからない。
沈黙空間の中、呆気にとられた野次馬の視線を浴びた。
その後、コレジャナイ感に晒されながら、俺は無事に要救護者を馬車の下から救出した。
救出されたのは3人で、女一人と男二人だった。男達は馬車の御者と商人の男だった。女は微妙に高い服を着た茶髪の貴婦人で、所属によっては関わった人間が皆殺される可能性を孕んでいた。
女の姿を見た段階で、逃げ出す野次馬の姿も見られた。危険なところへ野次馬に来た割には、敏感な危機察知能力であった。
「うぅ……」
「僧侶だ! 早く僧侶を呼べ!」
禿たおっさんの指示で、若い衆が教会の方へ走っていった。
女は頭部の裂傷に加えて、右手右脚があらぬ方向へ曲がっていた。3人の中で女が一番重症だ。
「『ベホマ』」
「高位の回復呪文まで使えるのか!」
俺は指先に集中した『ベホマ』で、出血が心配な女の頭部裂傷を癒やしていった。
「え、手足は?」
「専門家に頼んでくれ」
俺がやったら、手足があらぬ方向に向いたまま癒着しそうで怖い。
―――
――
―
俺の懸命な治療もあって、女は一命を取り留めた。
後からやってきた僧侶に癒やされ、気が付くまで治療院に世話になるようだ。
ところが、俺は『ザラキ』を連打してきそうな僧侶の高官に教会へ連行された。というか、現在進行系で『ザラキ』されていた。
「なんでこんなことしたんです!」
「え? だって、血がいっぱい出てたから……」
「見てくださいこれ! あなたのせいで、ここだけ禿てるんですよ!」
カルテの様な紙を突き出して、高位僧侶は怒鳴った。女の模写が書かれた絵は、やりすぎたヤンキーの剃り込みみたいになっていた。
「……安心してくれ。その人、顔が良かったから……俺、娶るよ」
「そういう問題じゃないんですよ!!」
先程から、【ギズモ】を連れてきた疑惑や女の頭部にできた禿について、執拗に尋問されているのだった。
「大丈夫そのうち生えるから、確実に絶対増えるから! 大丈夫!」
「アコギな投資の話みたいにしないでください!」
「王都で流行ってるカジノ詐欺だよ、知らんのか? ん?」
「余計にタチが悪いですよ! 何なんだこの人!?」
クリフト(仮)は、頭を掻きむしった。
「そこまでにしてやってくれないか?」
「司教様! しかし……」
穏やかな顔をした壮年の男が部屋に入ってきた。クリフト(仮)は、驚いた顔をして立ち上がった。
(この場合は、どちらに向かって言っているのだろうか……?)
そこまでにするのは俺なのか彼なのか……。俺は首を傾げた。
クリフト(仮)は、司教様のススメで退出するようだ。
「じゃあな、クリフト」
「クリフトって誰!?」
「じゃあな、クリフト(仮)」
「いい加減にしろ!」
ブチ切れたクリフトは、俺に帽子を投げつけた後、音を立てて戸を閉めた。
「……これが『ザラキーマ』ってやつなんですかねぇ」
「……?」
司教様と俺は顔を見合わせた。
沈黙に耐えられなくなった俺は、クリフト(仮)の帽子をゆっくりとした動作で被った。
事故に巻き込まれた女は、今代勇者の妹らしい。縁者として魔王軍に狙われていて、教会が保護しているとか。今回の件も、魔王軍が噛んでいるかも知れないということだ。
女を轢いた商人達も、重要参考人として詰め所に引き渡されるらしい。
(まぁ、荷台から魔物が出てくりゃな……。あー、【ギズモ】を擬人化したらどうなるんだろ、エッチくならんかな……)
俺は話を聞きながら、モンモンとしていた。
「気付いた事があれば、何でも教えてほしい。クアド氏のお弟子様なら、何か気付いているのではと思ってね」
「うーん……」
期待されているところ悪かったが、ぶっちゃけ俺は何も考えてなかった。さっきから俺の頭にあるのは、魔物擬人化娘との乳首当て『レミラーマ』のことだけだった。
「ふむ……。では、こうしよう。ここに、女神様からの天恩がある。リザック殿は敬虔な信徒と聞いてね、これと引き換えに調べてはくれないだろうか?」
「……。ぁー、調べるだけなら」
敬虔な信徒……ではなかったが、
(クソ女神からの天恩。どうせ、ケチくさい薬草だろ……。まぁ適当に捌くか)
とりあえず、それっぽく売れば高く売れそうだから貰っておくことにした。
「良かった。では、頼んだよ」
司教様は俺の手に小袋を乗せると、笑顔で小部屋を出ていった。
―――
――
―
司教様が出て行って直ぐ、俺は小袋を開けた。
中からは、【かしこさの種】が1つと【不思議な木の実】が2つ、それと3ゴールドが出てきた。
「俺のじゃねぇか!! しかも減ってるし!!」
俺は小袋を地面に叩きつけた。
腹が立った俺は、【かしこさの種】を1つ摘んで口に放り込んだ。もう色々と限界だった。
「はぁ……」
(ストレスが限界だ。賢者タイムをキめてニュートラルへ一端戻ろう)
賢者タイムになるべく、現代で言うフリ○クみたいな感覚で食べた。
その効果はすぐに現れた。
目の前に銀色の玉と金色の玉が現れ、ぶつかり合い宇宙が開闢された。砕け散った欠片が星々となり、キラキラと降り注いだ。
降り注いだ星は、湖面に反射してキラキラと揺れた。と思ったら、実は波打つコーヒーの表面で、暖炉前で寛ぐ老婆が徐ろに俺の方を振り返って、意味深な強い圧を伴って言った。
「ムラムラしたら? 娼館へ行けぇ! 勇者がTSしたら? 娼館へ行けぇ! 魔王が出たら? 娼館へ行けぇぇ!!」
「何の話!? それは違うドラゴンだよ!! はっ!?」
【かしこさの種】を食べたことにより、賢者タイムを通り越してバッド・トリップしたようだった。
(おわ……、すっごく気持ち悪い……)
おそらく掃除に来るだろう、クリフト(仮)には申し訳なかったが、俺は取調室のような場所で雑な料理を沢山作った。
―――
――
―
「ぜぇぜぇ」
ずいぶん長くトリップしていたのか、教会を出ると朝日が登っていた。
(う、嘘だろ……。一日が終わっちまった)
しかし、いつもとは違うあの謎の賢者タイムは、一体なんだったのだろう。しょうもない効果だが、女神が渡す【かしこさの種】の効果は本物だ。『キアリー』も効かなかった。
(というか、呪文を不思議な力でかき消してくるのは、卑怯じゃない?)
やはり、花街へ早急に行かなければならない……かもしれない。TSした勇者と『レミラーマ』できてハッピーエンド……。
(いや、やっぱしたくねぇわ。疲れてんのかな……)
どう考えても、マトモな思考をしていなかった。早急に、3ゴールドの宿に戻って寝る必要がある。
「きゃっ」
「おっと、失礼……」
フラフラとした千鳥足のまま、そばを通った人間にぶつかった。
「あぁ! この輝きは!」
「げぇ! 金玉女!?」
「な、なんですか、そのあだ名!? 私にはアトルという立派な名前があります!」
金玉の女が現れた。
俺は普段、可愛い子を見るとつい『インパス』スカウターを発動するが、この女には金玉エピソードがあり、全然全くもってこれっぽっちもチンピクしなかった。
俺のチ○コは、サイコパスセーフティ付きだ。
「じゃ……そういうことで」
「あっ待ってください」
「あ、ちょ。HANASE!」
しかし何故だか、金玉女の素早い動きで服を掴まれてしまった。
「くそ、力強っ、何だコイツ!? 【マドハンド】の亜種か!? 回り込むよりタチが悪いぞ!」
「あんなイヤらしい手つきの魔物と一緒にしないでください!!」
「誰もそこまで言ってねぇけど!?」
その後、押し問答したが、疲れ切った俺の体力切れにより敢え無く終了となった。
「これも、女神様のお導きです。貴方にも協力して貰います」
「えぇ……寝たいんだけど」
「私は女神様に身を捧げた聖職者です。残念ですが、貴方と一緒に寝ることはできません」
「誰もそんな話してねぇけど!?」
突っ込むのにも疲れた俺は、聖女に引きずられて運ばれて行った。
着いたのは、教会が管理する治療院の横にある木造の建物だった。
品の良い調度品が置かれた居間には、巨大な剃り込みの入った美女がダイニングテーブル席に座っていた。
「すいやせんしたぁぁあ! 結婚してくださァァい!!」
「え? え?」
俺は床に穴をあける勢いで、即座に土下座した。金玉女が動揺していたが無視だ無視。
「いえ、私には夫がいますので……」
なんと、勇者の妹は既に結婚していたらしい。
「じゃあセーフだな」
「……」
というか、金玉女とどういう関係だろうか、俺は気になって訊ねた。
「あの、金玉女とはどういったご関係で……」
「まだ金玉女って言ってるんですか!? アトルです! ア、ト、ル!!」
「金た……聖女様には兄の勇者共々、大変お世話になっています――」
なんでも、この聖女は、勇者PTが最後に仲間にした女らしかった。
勇者の妹は、勇者の所在をはぐらかしながら話したが、俺が勇者が行方不明なのを知ってることを話すと、わっと泣き出してしまった。
勇者妹の剃り込みが強調され、俺は申し訳ない気持ちで一杯になった。
(紫爺もなぁ……知り合いに女が居るならさっさと教えてくれりゃいいのに……。金玉女はゴメンだが)
記憶を掘り返すと、そういえば、教えてくれそうな素振りもあったかもしれない。
「だって、興味ねぇしねぇしねぇしねぇし――」
俺の脳裏に過去の出来事が過ぎった。
「あっ……」
聞けていなかったのは、大体俺のせいだった。
勇者妹が落ち着いたタイミングで、朝食を取りながら話を聞くことになった。
「貴方に来て頂いたのは、教会に巣食う魔王の手先を暴く、その協力者になってほしかったのです」
「えっ、嫌だが」
(えっ、嫌だが)
「……」
金玉女のアトルは半眼になると、俺を無視して話し始めた。
半年ほど前から、この街にいるはずのない魔物が多く出現しているらしかった。水の都であるはずの街も、今はなんとか女神の力で保っているが、徐々に水が汚染されているらしい。
(うん、実にドラクエらしい展開だ。【ラーの鏡】っぽいやつで解決GGだな、これは)
「ラー」
「この街の守り鏡であった【ラーの鏡】も、勇者が失踪したその時にヒビ割れ、一緒に失われてしまったのです」
「油」
俺は白目を剥いた。
(つ、詰んでる)
魔物が人の皮を被って行う『モシャス』は、滅茶苦茶精度が高い。普通に分からない可能性が高かった。
続け