ドラゴンクエスト 〜金たまの花嫁〜   作:peg

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地味に感想もらったので続いた
GWスペシャル

これまでのあらすじ

 領主に挨拶し、勇者妹を助けて、聖女に無理矢理玉を触られそうになり、町中で号泣して、魔物を爆破した。



主な登場人物

リザック:指名手配犯。
クアド:指名手配犯の親。
天使:ぶりぶりドジっ子。どぎついのを履いてる。
アトル:辻金玉王 ゴール・D・ロブァ。おまるダッシュワールドレコードホルダー。
女神:探し人が居ると聞いたエロサイトを初めて見て、時間を忘れて見入っていたら、いつの間にか自分の教会を乗っ取られてた女神。堕落した神。
勇者:いくへふめい。
クリフト:勝ち組。
骨:軟骨になった。

書き忘れてた設定:超人や魔物たちは特別な修練を必要とせず、息をするように魔法を使う場合がある。


凶悪犯

(そういや、師匠大丈夫かな?)

 

 一度、廃屋に戻ったほうが良いかもしれない。

 いつもだったら、エッチないたずらをする俺の邪――俺を心配して探しに来るのだが。

 

「何か胸騒ぎがするんです。大きく事が動きそうな……。私も引き続き調べてみますが、何か分かったら教えて下さい」

 

 そもそもやるなんて言ってない上に、司教様の依頼と丸かぶりしていた。更には【ラーの鏡】も無いと来た。

 

(報酬もなしに動けとな? まぁ、どうせ調べ物はやるから良いんだけど)

 

 とりあえず、俺は師匠が心配だからと、金玉女に断りを入れて一端廃屋に戻った。

 

 

 

 扉を開けると、なんと中が荒らされていた。

 

(いや、元から荒れてたわ……)

「さて……」

 

 あの毛むくじゃらは、どこへ行ったのだろうか。帰ってきた気配はなかった。どこに行ったか知らないが、食事が作れなくて困っているはずだった。

 ましてや、初対面の人と話す食堂などに一人で行けるはずもなかった。

 

(一人では、お店で注文もできない駄目お爺ちゃんだ)

 

 一度、娼館に無理やり連れて行ったときなんかは――。

 

「儂はここに居られるか! 宿に帰らせてもらう!!」

 

 その日、その言葉を最後に、師匠は翌日の朝オカマバー前で発見された。可愛い物好きの濃いやつに捕まり、ズタボロになるまで愛でられたそうだ。それ以降、師匠との間で娼館の話は禁句となっている。

 

 きっと今回もお腹を空かせて、道路で車に轢かれた動物のように行き倒れになっているに違いない。

 

 俺は呪文を唱えた。

 

「『フローミ』」

 

――MPS信号を確認しています。

 

 『フローミ』……。街やダンジョンで自身のいる所在を調べる呪文だ。なお、通常時のアナウンスは女神の下っ端のドジっ子天使ちゃんだ。偶に噛んだり読み間違うのはご愛嬌だが。MPを返せ。

 

――℃†©±¢×‡÷¥™™{¢·± MPS信号が失われました。

――MPS信号を再確認しています。

 

 ここで活きるのが、声真似と『マホステ』だ。俺は夜な夜な師匠から『マホトラ』で奪った魔力を、循環する『マホキテ』を掛けた藁人形に保存している。

 

 師匠の魔力を使って呪文を唱えたのだ。

 

――χ∩↥↳⇊↝↬⇃↥⇂⇂↱ MPS信号が失われました。

――あれ!? なんでよぉ! また怒られちゃうじゃない!!

――こうなったら! 手動で……!

――↽⇚⇚〈❛︾❲♢✣ フコポォ オウフドプフォ フォカヌポ

 

 どうやら『フローミ』は、魔法を使ったポイントを測位しているようだが、『マホステ』等で魔法の力が遮断されるとシステムエラーを吐くようだった。修正してどうぞ。

 

――やばい! バグった!! 何もしてないのにバグった!!

 

 哀れドジっ子天使ちゃん、また報告書を山のように書くのだろう。

 

――い、いやだ!! えい! えい、えい! オラァ!!!

 

 ペチペチと肉を打つ音の後、勇ましい声と伴に凄まじく鈍い音が響いた。

 

――よ、ヨシ! なおった! うぉほん!

――ここは、トリオン教会地下3階のようだ。

 

 俺はこの一連の流れを、駄目な迷子即位システムと呼んでいる。

 

 師匠は何故か教会の地下3階にいるらしい。

 

(いや、なんでだよ。どんだけ方向音痴なの? 今しがた帰ってきたのに、それはないだろうよ……)

 

 仕方がないので迎えに行くことにした。

 

 

 教会に行くと、掲示板に人集りが出来ていた。

 そこには、無駄にキラキラのエフェクトが付いた、イケメンの人相書きが貼られていた。広告で出てくると、エロサイトを見てせっかく高まったリピドーが、脳がバグって微妙な感じになるアレである。

 というか無駄に美化した俺だった。

 

(えぇ……、この街ではまだ何もしてない……。誰から見た俺なのこれ……)

 

「おい! あそこにいるぞ!」

「えっ! どこどこ?」

「あれぇ、見間違いかなぁ……」

 

 ビビった俺は、生まれて初めて『レムオル』をまともに使い、姿を消した。

 普段は、町中で突然服が消えるハプニングいたずらで使っている。一度女神に見つかり修正されて、服だけに使うと下着は消えないようになってしまった。ふぁっきゅー。

 

(えっと、なになに……?)

 

 【領主を侮辱し、勇者妹を傷物にして、聖女に無理矢理玉を握らせた挙げ句、町中で脱糞して、街の一部を爆破した男――更には何かを嗅ぎ回っている。注意されたし】

 

(めっっっっっちゃ、凶悪犯やんけ!!!)

 

 この張り紙によって、俺の街での行動は、ほぼほぼ詰んだ。

 

「おいっ! 紙が突然消えたぞ!」

「なんだなんだぁ?」

 

 俺は貼紙を引っ剥がして頭を抱えた。

 

(なんでこう、微妙に事実が書いてあるのか……)

 

 俺はその場でハラハラと泣き崩れた。

 

(師匠は俺の代わりに、教会に捕まったのかもしれない……)

 

 青空に笑顔でサムズアップして浮かぶ、師匠の幻影が見えた。助けに行こうと一瞬思ったが、多分寿命も近いので、良い老人ホームが見つかったと前向きに思うことにした。

 

(あばよ、達者で暮らせよ……。俺は止まらねぇからよ、毎日3回娼館に行けるようになるからよ、だから師匠、あんたも止まるんじゃねぇぞ……)

 

「い、いました!」

 

 その時、金玉聖女アトルの声が聞こえた。金玉聖女は、盲目なのに何故か俺の金玉だけはレーダーで感知している。

 

「こっちです! 来てください!!」

 

(やべぇ! 通報される!!)

 

 と思ったら、金玉聖女は何故か俺の手を握ってきた。トゥンク。

 

(玉じゃなくてええんか??)

 

 と、一瞬素に戻り内心で突っ込んだ瞬間に、肩が外れる勢いで手を引かれた。というか、建物上に飛んだ。

 金玉聖女の伸びた錫杖の柄が、俺の腕を掴んでいた。人肌の温度だったせいで、一瞬勘違いしてしまった。

 

「うわっ、待って俺今消えてるの! ノーカンだぞ! 空気読めよ!! ハッッ!!!」

 

 その時、俺の視界にいつも見たいと願ってやまない三角形が写った。俺は限界まで目を見開いた。淡い卵色のぱんつだった。

 建物角から俺を釣り上げた金玉聖女は、大股で後ろ向きに転んだ。

 

「おめぇのぱんつ見えても嬉しくないやい!!!」

「何をそんなに凝視しているんですか! って、そんな場合じゃないです!」

「考えるな、ぱんじろ!!」

 

 全然恥じらう様子のない金玉聖女に、俺はこの世界にもかつて存在した、ドラゴンの名を冠する武道家の名言を引用して叱った。

 

「意味が分からない上に、伝説の武道家の名言を汚さないでください!?」

 

 その時、黄色い閃光が走って俺達がいる建物に直撃した。

 

「見つかった!? どうして!?」

「ぐわっ! え、何がおきてんの??」

 

 石で出来た3階建ての建物が大きく揺れた。

 今何が起きているのか、俺には全くもって分からなかった。とりあえず、今のが『ベギラマ』っぽいのだけは分かった。

 

「どこから撃ってきてるんだ!?」

「待って…………。あ! あそこです」

 

(この金玉聖女、実は目が見えているんじゃなかろうか……)

 

 どこかを探る様子を見せた後、街の中心からやや外れた時計塔を真っ直ぐ指さした。

 

「次が来ます! そんな……この魔法力の高まりは『ベギラゴン』!? こんな街なかで!!」

「まかせろ!」

 

 どこから来るのかわかっていれば、チート魔力をもっている俺からすれば対処は容易かった。

 

「『フバーハ』!!」

「そんなに高度な呪文を使えるのですか!?」

 

 両手を突き出した俺の前に、淡い緑色の半透明なシールドが張られた。

 

「って、ちっさ!!?」

 

 何を隠そう、俺の『フバーハ』は直径が凡そ30センチしかない。

 

「いや、十分だ!」

 

 伊達に師匠から地獄のような特訓を受けていない。

 

 瞬きも間に合わない刹那、閃光を伴う光の軌跡が俺に迫った。まるで、ドラゴンボールの気功波のようだった。

 

「ちょ、直撃す……! えぇ!? なんか空に飛んでいってる!?」

 

 俺に当たる寸前、空へと登る流れ星のように、『ベギラゴン』は直角に曲がって空へと飛んでいった。

 

「な、なぜ……?」

「『リレミト』だ」

「は?」

「だから、『リレミト』だって」

「え??? えぇと、全く意味がわからないんですが……。その『フバーハ』は意味がありましたか??」

 

 『フバーハ』には、『ベギラゴン』の閃光から俺の目を守る大事な役目があった。『ピオラ』を目だけに掛けると、動体視力が異常に上がる。しかし、合わせて瞳孔の収縮も過敏になる欠点があった。それを『フバーハ』で補っていたのだった。『フバーハ』越しの視界は、まるでサングラスを掛けているように、透過率が悪く体感7割くらい照度が落ちる。

 

 目とマジックなセンスで捉えた『ベギラゴン』のコアに、俺は『リレミト』を掛けたのだ。

 全方向入り口の惑星という名のダンジョンから、『ベギラゴン』は例外なく離脱した。

 ちなみに、『リレミト』を酔っているときに自分へ掛けると、女体の神秘的なラビリンスから離脱して一瞬で賢者タイムになるので、取り扱いに最も注意が必要な危険な呪文の1つだ。

 

「クアドもこんな無茶苦茶な事は……しませんでしたよ」

 

 安堵したのか、金玉聖女は膝から崩れ落ちた。

 

(そりゃ発想がなかったらしいからな。最近はするよ……しかも、思い付きで)

 

 大体ろくな事にならない。

 

「ってか、師匠の事やっぱ知ってるのな」

「師匠って……クアドの弟子だったんですか!? えぇぇ、弟子取れたの……?」

 

 アトルは、更にしなしなになった。

 

(師匠は、一体何を心配されているんだ……)

 

 というか、こんなことを悠長に話している場合じゃなかった。

 

「そんなことより、犯人は!?」

 

「敵襲ー! 屋根の上にいるぞ!」

「上だ!」

「上だ!」

 

 その時、金属をやたらけたたましく叩く衛兵が、俺たちの方を指さした。

 

「……。まずい、逃げますよ!」

「俺はともかく、アンタは逃げる必要がないだろ」

「その紙の裏を見てください」

「えっ?」

 

 金玉聖女は、俺の人相書きが書かれた紙を指さした。自分のやつだけで気が回っていなかったが、裏には辛うじてアトルだと分かるヘッタクソな絵が描かれていた。俺との落差の酷さ……誰が描いたの。

 

「私も遂にお尋ね者って訳です」

 

 アトルは口の前に指を立てて、ニヤリと笑った。

 

「えぇ、なんで……。辻金玉でもしたの?」

「してません! なんですか、辻金玉って!?」

 

 俺たちは、馬鹿な掛け合いをしながら逃げ出した。

 

 

「はぁはぁ……」

「……此処までくれば、しばらくは大丈夫でしょう」

(全く息が切れていない、やっぱ化け物だこいつ……)

 

 およそ時速40キロほどの全力ダッシュで、俺たちは逃げ回った。あちこちの詰め所から、衛兵が出てきて散々追いかけ回された。

 

 更には、もう掌握は終わったとばかりに彼方此方から魔物があふれ、街の住民達も閉じ込められてしまっていた。

 

「既に衛兵も操られてしまっているのでしょう。しかし、衛兵達の最後の良心で住民に被害が無かった事が、不幸中の幸いです」

「うーん……」

 

 俺は足りない頭で一生懸命思案した。【かしこさの種】がここに一つある。もはや使うか迷っていた。運が良ければここで賢者タイムに突入し、いいアイデアを閃くことができるだろう。

 

(ってか、女神どこ行ったの? 守ってるんじゃなかったの……)

 

 俺は隣を流れる用水路に目を配った。

 普段は透明な水なのだろう。しかし今は、濁った濁流が流れていた。

 

(それに……)

 

「ドラクエに操る魔法なんてあったっけ……?」

「なんですか?」

「い、いや何でも……」

「気付いた事があったら、何でもすぐに教えて下さい」

 

 場所は、教会から流れる水の合流地点にある、古い下水管理所だった。しかし、今は人がいないのか閑散としている。

 

「そう言えば、クアドは何処に居るんですか? 一緒じゃないんですか?」

「あぁ、師匠は最近出来た新しい老人ホームに入居したんだ」

「え゛っ!」

 

 俺はアトルの驚いた顔を見て、敵に植え付けられた師匠が老人ホームに入ったという偽りの幻覚から覚めた。

 

「違った。教会の地下3階で迷子になっているらしいんだ」

「え、地下3階……? 教会は、地下1階までしかありませんよ?」

「え?」

 

 でも、ドジっ子天使ちゃんのDMPS(駄目な迷子即位システム)は、地下3階を示していた。

 

「それも魔法の呪文で調べたのですか?」

「あぁ、まぁな」

(……。元々の信用性が低いから、合ってるのか合ってないのか、まるで訳がわからんぞ)

 

 流石に、3と1を読み間違えることがあってほしくない。肝心なときに役に立たないドジっ子天使ちゃんだった。

 

「しかし、手詰まりです。その地下3階とやらを調べてみましょう。クアドが居れば、何か良い知恵を貸してくれるはずです」

 

(師匠も信頼されてるんだな……)

 

 ちなみに俺は、全く信用してない。

 

「でも、教会に行くにしたって……どうやって行くんだ?」

 

 街には敵が溢れている。伝説の勇者なら兎も角、俺達では全員ぶちのめしながら攻めるのは無理だった。

 『レムオル』で行けるかと思ったけど、俺の『レムオル』は一人用な上に、少し歩くと解ける。

 

「……そうですね――」

 

 

―――

――

 

【OH☆osawari男氏☆】

 

「これです! もうこれしかありません!」

 

 所変わって、目をキラキラとさせたアトルの薦めで、俺達はオカマバーにいた。

 

「なんでよりによって、ココ!??」

「え、だって……。昔から昼は鉱夫、夜は蝶って言うじゃないですか。故に蝶のことを隠語で鉱夫と言うのです」

「どんな世界観だよ!?」

 

 金玉女を信じた俺が馬鹿だった。もうひとりで師匠を探すしかない。首を傾げる金玉女を尻目に、パンツマスクを被り腕組みする従業員の圧に負けた俺は、店の扉から出ようとした。

 

「あら。流石聖女ちゃんね。イイこと言うじゃない?」

「うわ」

 

 すると従業員の間から、ムキムキの女郎……偉丈夫が現れた。体の大部分が網タイツで覆われ、要所はピンクのビキニで隠されていた。

 俺の脳裏に、朝日が黄色い中、ズタズタのボロ雑巾になった師匠がフラッシュバックした。

 

(師匠に会わせたらイカンタイプの奴だこれ!)

 

「マスター! 【ヘンゲ一発】お願いします!!」

「おう、任せな聖女ちゃん! やるよ、野郎ども!」

「オォォぉ!」

 

「えぇ!? もう野郎って言っちゃってるじゃん!? え、ちょ、うわああはあ!!」

 

 俺はガチムチパンツマンに揉みくちゃにされ、服を剥ぎ取られ、辱めを受けた。

 

―――

――

 

 

「だいぶ様になっているわね。やっぱカツラが浮いちゃうわ……。何とかごまかせないかしら?」

 

 俺はマスターと呼ばれる人間に、最終確認をと頭をいじくり回されていた。因みに、頭ってのは髪のことだ、脳の方じゃない。

 

「うぅぅ、ぐすっぐすっ」

「ほら、何時までもメソメソしないで頂戴。男の子でしょう?」

「それならせめて、性別がわかる格好にしてくれよ!?」

 

 辱めを受けた俺は、【おおにわとり】の黄色いひよこに扮していた。

 

(これ性別どっちなの!? ひよこ鑑定士呼んで!)

 

 一人で嘆いていると、目隠しのカーテンから金玉聖女が出てきた。

 

「あら、聖女ちゃんは準備が終わったのね! 良く似合ってるわ」

「これ、【スライムナイト】っていうんですね」

 

 金玉聖女は、【スライムナイト】に扮している様だった。

 しかし、聖女は鎧兜は被っておらず、髪の毛をてっぺんで結い上げて顔面は丸見えだった。しかも、跨っているのは青いアヒル型おまるだった。

 

「おいぃィ! せめて顔は隠せよ! 緑のスライムどこ行った!? 魔物馬鹿にしすぎだろ!」

 

 乗るべきスライムがおらず、突撃槍に持ち替えて【さまようよろい】にした方がまだマシだった。

 

「あら? まだそんなことを言ってるの? これで大丈夫よ、安心しなさい」

「マスターの腕を信じてないんですか?」

「一片も信じられるか!!!」

 

 どう考えても、バレる。というか教会の中に入れるのこれ……。門前払いじゃない?

 

「大丈夫、私を信じなさい。普段、人間の私達が見ている世界と、魔物が見ている世界は違うわ」

 

 マスターは真剣な顔をして言った。見た目魔物の親玉みたいなやつの発言だ、確かになるほどと思わせる部分が無くはない。

 結局、妙な説得力を持ったマスターに丸め込まれてしまった。

 

 

 店を出ると、もう日が暮れる前だった。

 仮装するのに、思ったよりも時間が掛かってしまっていた。

 

 街には様々な魔物が溢れかえっていた。

 戦々恐々としながらも、金玉聖女アトルを伴って俺は歩いた。

 不思議と、俺たちを注目する魔物は居なかった。というより、片手を上げて挨拶をされる始末だ。

 

(ウッソだろ……)

 

 俺が来ている着ぐるみは重く、歩くのが段々めんどくさくなった。『ルーラ』で飛ぶことにした。

 

(【おおにわとり】も飛んでるし、問題ないだろ)

 

 あの巨躯で、一体どうやって飛んでいるんだろう。やはり、『ルーラ』パワーなのだろうか。魔物や超人は息をするように魔法を使うから卑怯だ。

 

 『ルーラ』で浮かぶとき、何時もよりも魔法力の消費が激しかった。仮装のせいかもしれない。

 

 横目で金玉聖女を見やると、青いおまるを引きずりながら、高速なガニ股歩きで俺に追いすがっていた。超人的な筋力を使った、かなり無理のある歩行方法だった。

 

(えぇぇ……。【スライムナイト】ってこんな感じだったっけ……)

 

 これで顔が悪ければ、完全に化け物のそれだ。幸いなことに、金玉好きなサイコパスにしては、まだ見れる顔をしていた。

 

「なんですか? 私の方を見て。リザック、何かありました?」

「い、いや別に」

 

 俺が見ていることを察したアトルは、顔を上げて声を掛けてきた。

 

(こいつやっぱり、目が見えてるんじゃなかろうか……?)

 

 俺の疑問をよそに、金玉聖女はズルズルと音を立てながら、障害物を避けて淀みなく歩いていた。なんか、無駄に才能を発揮していた。全世界おまるダッシュ競技があれば、普通に優勝しそうな速度だ。ぶっちゃけキモい。

 

 教会が近づいてきた。

 その時、俺の脳裏にクソ女神の声が聞こえてきた。

 

――リザックよ。リザックよ。私の声が聞こえますか?

 

 どこか憔悴した様子の女神が、俺に話しかけてきたようだった。

 これはあれか、教会を乗っ取られたせいで力を失いかけ、きっと俺に助けを求めているんだろう。報酬によっては、助けてやるのもやぶさかではなかった。

 

(ああ、聞こえているよ。なんか用か?)

 

――あぁ、良かった! もはや、頼れる人は貴方しかいないのです。

 

(いや、聖女とかいるだろ。頭おかしいやつが)

 

 そんな俺の意見をまるで無視して、女神はさらに続けた。

 

――私が……所用でちょっと目を離した隙に、教会を乗っ取られてしまいました。

 

 あまりにもドストレートな物言いに、俺は白目を剥いた。

 

(なにやってんだー!?)

 

――信徒も今は力を失っています。具体的には、魔法の呪文を唱える際に使うコストが通常時の凡そ200倍になっています。このままだと、人類が滅びかねません!

 

 凡人(パンピー)の魔法力が、クソみてぇなゴールド安に陥っていた。力を失いかけているのは、女神ではなく人類だった。

 

――何としても、教会を取り戻してください!!! ブツッツーツー……。

 

「あ、ちょ、おま!」

「ん? どうしました?」

 

 クソ女神は、言いたいことを言うことだけ言って、通信を切りやがった。金玉おまるダッシュWRH聖女、お前の祭る神大丈夫か? 問題しかねぇぞ。

 

 というか、もうこのままいっそ魔王軍に寝返ろうか。モンスター娘と縁を結んでいく、お褥リザック安行とか売れそうじゃない?

 

――もしもし、もしもし。

 

「あん?」

(まだなんか用なのか、クソ女神)

 

 現実逃避していると、毒念波が飛んできた。遮断したいが、『マホステ』状態でも遮断できないので、事実上目をつけられた時点で詰んでいる。

 

――よ、良かった。つながった。きょ、教会を取り戻して早く女神さまを元に戻してください!! もう耐えられません!!

 

(いや、今しがたその女神に頼まれたんだけど……)

 

 この声あれか、ドジっ子天使ちゃんか。

 

――天界と地上の時間の流れは異なります! 仕事が無くなって、女神さまのテンションがおかしくなって、毎日全裸で酒盛りしているんです! はやく止めてください!! なんでもしますから!!!

 

(え、今何でもするって……?)

 

――はい! これは前払いです!! うんしょ、うんしょ……受け取ってください! えーーーいっ! ブツッ。ツーツー……。

 

 空中にいる俺の元に、緑のレース地をしたヒラヒラとした布地が降ってきた。一組の生暖かい下着だった。

 

「ぉー、ありが」

(って、おいいぃィ! 敵の本拠地の前でこれ貰ってどうすんだ!? エロゲじゃねぇんだぞ!! 単純に敵を倒せるとか、もっと実用的なのよこせぇ!?)

 

 こいつら本当に教会を取り戻したいのか、マジで疑問だった。俺をなんだと思っているの?

 ところ変われば実用的なそれも、今貰っても無用の長物だった。とりあえず、俺はそれを着ぐるみの間に押し込んだ。金玉聖女に見つかると面倒だ。

 

 しかし、隠すのが少し遅かったのか、金玉聖女から声をかけられた。

 

「リザック……。貴方、この危機を前に突然光が増しましたね。やはり、伝説の勇者の生まれ変わり……」

「俺が生まれた時、勇者はまだ生きてたよ!!」

 

 もう評価を訂正しよう。聖女アトルは、ぶっちゃけタダ天然なだけだ。こいつに思考リソースを割くのが、馬鹿らしくなってきた。

 

 

 教会の門には、【うごくせきぞう】が2体立っていた。

 動きがないとき、マジで彫像と見分けがつかない。クリスマスに赤い服を着せると、鶏フライを作ったおじさんみたいになりそうだ。

 

「……」

「……」

 

 緊張した面持ちのアトルと全身着ぐるみの俺は、二体の視線を浴びながら門をくぐった。目だけついてくるのまじで怖いんだが、やめてくれないだろうか。

 

「うぉぉぉ……、マジで行けたぁ!」

「ほっ……。やはり、マスターに頼んで正解でしたね」

 

 不安9割不信1割だった俺は、マスターに感謝はしたくなかったが、納得せざるを得なかった。

 

 教会の中は、【エビルプリースト】やら【キリサキピエロ】やらが沢山沸いていた。【一つ目ピエロ】やらも空中を行き来していて慌ただしかった。

 

 地下へ向かう途中、聖飢〇Ⅱのようなメイクをした僧侶高官が前から歩いてきた。普通の世情だと完全にやばい奴だ。

 

「うわ」

「あれはまさか……タザキ」

「多『ザキ』!?」

 

「!? ……まさか、聖女様!?」

 

 アホみたいな【スライムナイト】に気づいたタザキと言われた男が走り寄ってきた。

 よく見るとクリフト(仮)だった。なんつー名前だ。

 

「よくぞご無事で……!」

「あなたこそ! それは、あのマスターに……?」

「えぇ、以前王都で難民への炊き出しをした際に牢屋の厠でご縁がありまして」

(どんな縁だよ!?)

 

 タザキはココに潜入しながら、人間の保護を誘導していたらしい。人に犠牲が出ていないのは、タザキ以下僧侶達の尽力があったからのようだ。

 

「地下……ですか? しかし、伝説の導師様がいらっしゃるのであれば百人力です」

「おい、何で俺の方を見て言うんだ。文句あるなら聞くぞ」

 

 多分、師匠助けても、今の状況だと『メラゾーマ』を3回くらいしか打てないと思うが。

 

 しばらく、タザキと情報交換を行った。

 

「ふむ。地下3階への道はわかりませんが……状況から言って、彼の方が移動した道筋を辿るのが良いでしょう」

「うーん、司教様に会いに行くと言って消えたんだよね」

 

 師匠は、司教様に挨拶に行くと言って消えた。

 

「しかし、司教様は……」

「いや、俺も疑っているわけじゃない」

 

 一番怪しいのは司教様だったが、この間会った感じ、俺のマジックなセンスに訴えるものはなかった。そもそも、もし敵側に寝返っているなら女神の天恩に触れないはずだ。

 女神の加護が強い希少な人間の一人だ。余程のことがなければ、寝返ったりできないはずだった。

 

 一応、地下1階も調べた。しかし、地下1階は炊き出し用の食料の積まれただけの正方形な倉庫だった。

 俺は部屋のあちこちに『アバカム』を掛けて回ったが、特に何も起こらなかった。

 壁へ連呼する俺を、タザキは白い目で見ていた。

 

 

 次に司教様の部屋を調べることになった。タザキはここで別れるようだ。

 

「司教様の部屋も、なにもないと思いますが……。司教様の部屋は2階の突き当りです。司教様も今は、魔物に軟禁されているはずですよ。気を付けて下さい」

「必ず助けます。任せて下さい」

 

 妙にやる気なアトルに引き連れられ、俺は2階の階段を登った。

 

 

 司教様の部屋は、無駄に豪奢な扉をしていた。きっと、臣民から巻き上げたお布施がふんだんに使われているのだろう。

 

 更に、扉の前には色違いの【じごくのもんばん】が仁王立ちしていた。なんか、空間が歪んで見えた。覚醒した武将みたいな、絶対勝てないオーラが出ている。

 

「えぇぇ、絶対やばいやつじゃん」

「リザック……。いきますよ!」

「うぉぃ! ちょっとまてー!?」

 

 覚悟を決めた雰囲気のアトルが、突然走り出し、おまるでスライディングダッシュを決めた。

 作戦も何もあったもんじゃなかった。

 

「お疲れ様です!」

「ぬぅ! 何奴!? 【スライムナイト】?」

「あわわ……」

(あぁ、終わった。短い付き合いだった)

 

 アトルは、右手を上げてハキハキと言った。

 

「交代の時間です!」

「いや、ワシ24時間営業だけど? ……怪しいやつだな」

 

 アホなことを言い出したアトルは、【じごくのもんばん】の切り返しに笑顔で固まった。

 

(くそっ! 成るようになれ!!)

 

 角から飛び出した俺は、【じごくのもんばん】に全力で近づいて叫んだ。

 

「出張マッサージでぇぇぇす! 120本コース1名入りまーす!!!」

「はっ!? 【おおにわとり】の幼体!?」

 

 突然の出張マッサージの押し売りに、【じごくのもんばん】は一瞬呆けた。そこへ俺はヤケクソになって飛びかかった。

 

「隙きあり! 『ルカニ』『ルカニ』『ホイミ』、『ルカニ』『ルカニ』『べホイミ』! お客さん凝ってますねぇぇえ!!」

「んほぁぁあああ♡ なんこつになりゅぅぅぅぅ♡」

「うわ……」

 

 点穴をつくような俺の微細な魔法制御によって、【じごくのもんばん】は、最初の3こすり半で脊柱が果てた。支えられなくなったのか、上半身を地面に落とし尾骶骨を突き出して、何度も痙攣した。

 

 俺は起き上がると、パンパンと手を払いアトルに格好をつけて言った。

 

「あまり1人で突出するな。お前を守るやつのことも考えろ」

「これから先、私に触らないでくださいね」

「……」

 

 俺はその後、倒れている【じごくのもんばん】の腕を『バシルーラ』で街のあちこちに飛ばした。きっと戻るのに時間がかかるだろう。

 

 そして、満を持した俺は扉に向かって叫んだ。

 

「『アバカム』!!」

「いや、普通に開いてますよ?」 

「……」

 

 空気を読まないアトルが、中に普通に入っていった。

 

 

 結論から言って、中に誰もいなかった。司教様が軟禁されていると言う話だったが、影も形も見当たらなかった。

 

「居ませんねぇ」

「あぁ……」

(何処かに移動したのだろうか……)

 

 その時、扉が音を立てて閉まった。更には、戸を打ち付ける音が響いた。

 

「なにっ!?」

「あ、開かない!?」

 

 アトルの超パワーでも開かなかった。完全に閉じ込められてしまったようだ。

 

「そんな……、閉じ込められてしまいました」

「バレてないはず、だったんだがな……」

 

 明らかに俺たちを狙い撃ちした罠だった。

 

「タザキめ、嵌めやがったな」

「タザキはそんなことしません」

 

 アトルと顔を見合わせた。

 アトルと言い合いになりそうだったが、不毛なので俺が先に折れることにした。

 

「……すまん。師匠もいなくなって、俺も何処か胸が清々してたみたいだ。すまん」

「どんな謝り方ですか!?」

 

 とりあえず、俺達はこの窓の無い部屋を調べることにした。

 

 

 俺たちは、しばらく司教様の部屋を調べた。書棚が沢山あり、司教様は読書家であることが伺えた。

 しばらくすると、アトルが決定的なものを見つけてしまった。

 

「私は、こんなこと知りたくありませんでした……」

「……」

 

 調べ物をする最中、アトルは暗い顔でポツリと言った。その寂しそうに縮む背中に、俺はソワソワと声を掛けられずにいた。

 

 司教様の部屋からは、シスターの痴態が描かれた春本しか見つからなかった。しかも、巨乳ものだ。司教様はよく分かっている。

 

 フルフルと震えるアトルは、突如激高すると春本を壁に投げつけた。

 

「こんなもの!!」

「あー! 勿体ない!!」

 

 超人パワーで投げ付けられた本は、丁寧に装幀された表紙がひしゃげて一撃で綴紐がバラバラになった。更には、当たった壁にクレーターができた。

 

「どんな威力!?」

(う、受け止めなくてよかった……)

 

 勿体ないと思った俺は受け止めようとしたが、嫌な予感がして思い留まっていたのだった。

 

 手の届く巨乳を失い呆然としていると、クレーターのできた壁がごっそりと落ちてきた。

 開いた穴に、バラバラになった紙が吸い込まれていった。

 

「これは……!」

「なんぞこれ」

 

 覗き込むと、奈落のような穴が開いていた。

 

 目を合わせた俺達は、頷き合い底まで行くことを決めた。

 

 

 




続くのか!?
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