街が魔物に乗っ取られ、人間は魔法が使えなくなった。リザックは魔物に扮し、司教様の部屋で見つけた巨乳を使って穴に降りた。
主な登場人物
リザック:俺。地球からやってきたタイムリーパー。
クアド:ボケ爺。
魔王:ふしだらな女。
アトル:ゴールド・D・ロブァ。
魔族:パリピ。
補足(勝手な設定)
モーラ:オー エイザンメイザン レイスパラン ジェムネイバン ハアッ! の事。
穴の底は、冷たい石の牢獄になっていた。
牢屋の中には、紫色の毛皮が地面に落ちていた。
師匠だった。
「師匠、師匠しっかりしてください! おっしょうさまぁぁぁ! なんてこった、待っていてください! 今、とどめを刺します!!!」
「落ち着いて下さい! 落ち着いて下さい!!」
俺は着地したアトルに羽交い締めにされた。
「離せ! 離せ!」
「う、うぅん。その声は……」
信じられないことに、肝の太い師匠はここで爆睡していた。憔悴してたが無傷のようだった。
「いやぁ、急に『リレミト』が使えん様になってな? 困ってたんじゃ……。ところで、その変態みたいな格好は何なんじゃ?」
「リザック、リザック……」
「なんだ?」
アトルがきぐるみをツンツンして、ヒソヒソ声で話しかけてきた。なんすか?
「本当に、あれがあなたの師匠なんですか?」
「そうだけど……? おまえ、仲間じゃないの?」
「い、いえ。私の知っているクアドはれっきとした人間です。少なくとも紫のタヌキじゃありませんよ」
「いや、古代エスターク人らしいけど……?」
「なんですか、それ??」
あれれー? 可笑しいぞぉ(名探偵)
師匠がモグリだった説が浮上した。空前絶後の詐欺師、今度からそう呼んでやる。
「ところでリザック、後ろのお嬢さんはどなたかな?」
「あー勇者パー」
「なっ!? 私を知らないですって……。貴方いい加減にしてください! 私は勇者パーティー最後の一人、聖女アトルです!」
激高したアトルが師匠に叫んだ。
「師匠、騙していたんですか!?」
「……なぜそうなる」
ついでに俺も師匠に叫んだが、師匠は目を細めて静かに言った。普段の師匠から及びもつかない、異様な殺気が放たれた。
「……。答えろ小娘。何故、勇者と同じ名前を騙る」
「えっ?」
あれれー? 可笑しいぞぉ(2回目)
完全に拗れそうな話になってきた。
方や流浪の魔法使いと方や教会の聖女。
どう考えても、聖女に軍配が上がった。しかし、金玉好きのサイコパスだ。相殺されて、同じくらいの不信感になった。
しかし、俺達は、この穴倉から脱出しなければならない運命共同体だ。
そこで、俺も抱えていた秘密を暴露することにより、バランスを取ろうとした。
「なぁ、聞いてくれ。実は、皆には黙っていたんだが……。俺実は、地球から転生してきたんだ」
「リザックは黙ってて下さい!」
「お前は黙っとれ!」
「あっハイ」
全然だめだった。
2人の言い合いを要約するとこうだ。
師匠が言うには、勇者パーティーに聖女なんて居なかった。そもそも、勇者と同じ名前をしてるのは、怪しすぎてヤバいという話だ。
アトルが言うには、クアドという魔法使いは人間で、少なくとも紫のタヌキではなかったというのが言い分だ。
俺は頭を抱えた。
唯でさえ、教会が乗っ取られているのに、割と期待していた勇者パーティーが崩壊しているとか……。
「やってられるか!!」
「あっ!」
「ぬっ!」
俺は【かしこさの種】を服用した。
目の前が暗くなり、星が散った。
―――
――
―
「またやってきたか……。余の野望、その邪魔ばかりしてくれる」
紫のトゲトゲボンテージを着たふしだらな女が、傲慢に言い放った。肌の色が薄い紫色で、髪は長く黒かった。
(くっ、なんてエロい女なんだ! おっぱいに生えているトゲは何なんだ!!)
半透明になった俺は、乳に釘付けになった。
居ても立っても居られなくなった俺は、立ち上がった魔王の股ぐらにゆっくり寝転がって上を見上げた。魔王の尻にはホクロがあった。
「許さないぞ! これは、この星の希望の刃だ。報いを受けろ、魔王!!」
煩かったので起き上がると、全身金色の甲冑を着た男が、輝く剣を魔王に向けて抜いた。他にも、紅いツナギの男、ムキムキの男、防御力皆無な鎧を着た女がいた。
そして、剣が突然光った。しかし光りすぎて、勇者達が何処にいるか分からなくなった。
(眩しくてワロタ)
「愚か者め……。毎度生きかえられるとは思わぬことだ……『モーラ』」
「いかん! 下がれ勇者!!」
(何その魔法)
極太の極光レーザーが魔王の手から飛び出し、勇者に向かって飛んでいった。
師匠の声をした紅いツナギの男が、勇者の前に飛び出して、呪文を叫んだ。
「『フバーハ』!!」
「クアド!」
極太レーザーが、ピンク色の『フバーハ』を覆い隠した。
「ぐぅううう! ぅぅうだ、駄目だ! みんな下がれ!!」
『フバーハ』に徐々に亀裂が入り、遂には砕けた。
だだっ広い部屋に衝撃波が走り、轟音が鳴り響いた。
勇者達は黒い稲妻に包まれ、空中で拘束されていた。たった一撃で、皆ぐったりとしている。
魔王が手元で手のひらを上に向けた。
すると、拘束された勇者達が、スゥーと前に滑ってきた。
(魔王強すぎワロタ……ワロタ……。今後絶対関わらんとこ)
俺は玉座の後ろに隠れた。
「……、そうだ。良い催しモノを思い付いたぞ。お前達を人ならざる者へ変えてやろう」
「な、何だと……!」
「ふざけるな!」
ふしだらな女は、勇者に視線を合わせると、そんなことを言い出した。
近寄ってきた勇者は、ますます眩しくなった。
「ククク。記憶も彼方へ消してやろうぞ。さすれば、新たなる勇者が産まれることもあるまい。それ、まずは貴様からだ」
「く、くそー!」
魔王はそう言って、勇者に手のひらを向けた。
「勇者ァァ!」
「ぐあぁぁぁ!」
勇者は絶叫した。光が無駄に明滅し、離れて見ないとゲロを吐く光を放った。
光が消えると、そこに勇者は居なかった。
「ふん……。女神め、余計な真似をしてくれる」
「ゆ、勇者が消えちまった……」
絶望するパーティーメンバーへ、魔王は手のひらを向けた。
「どれ、一気に片付けてやろう」
魔王の手が光り、3人の叫び声が響いた。
光が止むとそこには、人在らざる者たちがいた。
紫色のたぬき。
サイバースーツのロボット。
ムチムチのバニーガール。
3人は「ここは何処、私は誰」状態だったが、魔王は無慈悲にも『バシルーラ』で全員を飛ばした。
魔王しかいなくなった部屋で、俺は腕組みをして歩きまわった。
(そうか、そういうことだったのか……)
【かしこさの種】を食べると、稀に世界の記憶を垣間見ることがある。今回の効果は、それだったようだ。
師匠は、魔王に紫色のタヌキに変えられてしまったのだ。記憶を取り戻した師匠は、そのストレスで頭を病み、初対面の人と話すことができなくなった。
不思議なことに、ウンウン頷く俺の幻覚は晴れなかった。
「ネズミが一匹沸いて居たようだな。はっ!!」
魔王の声が響いた。
「あれ? まだ続きがあるの?」
「……」
「おお、喋れる! 喋れる幻覚とか久しぶり!」
前を見ると、魔王がこっちをロックオンしていた。俺はゆっくりと後ろを振り返った。
誰もいなかった。
「はぁ。何だよ、中二病の練習かよ。ビビらせメゴッ」
「おい、余を無視するな」
俺は高速移動した魔王に頭を掴まれてしまった。美人過ぎて冷徹に見える顔をした魔王に睨まれた。
「はえー、スッゴイ美人。あえ、ええ。あれ、幻覚じゃない?」
「……」
「まっって!! まだ、魔王のお尻のホクロ数え終わってない!! あ」
テンパった俺の口から、咄嗟にトンデモナイことが飛び出した。
魔王は耳が真っ赤になった。
「こ、ロス」
「いやぁぁぁあ!」
その時、俺が来ているキグルミの股ぐらが光った。
「この光は!?」
魔王が驚いて手を離した隙きに、俺は光ったものを取り出して魔王の乳の間に押し付けた。
「喰らいやがれ!」
「これは……!」
それは、ドジっ子天使ちゃんのどぎつい下着だった。
―――
――
―
「ぶはぁっ!?」
「リザック! 大丈夫ですか!? 貴方、急に倒れたんですよ」
何という幻覚だ。おっぱいの感触がまるで本物のようだった。俺はしばらく手をニギニギしていた。
一体、あの幻覚は何だったのだろうか。
とりあえず、聖女が偽りの勇者パーティーということはわかった。
「リザック、貴方の師匠は……」
「あぁ、それなんだけど」
「やはり偽物でした!」
アトルが指差す方には、現実に打ちのめされ、力なく地面に横たわる師匠の姿が見えた。
「えぇっ、なんで!?」
「魔法使いクアドが使えるはずの魔法の呪文が、全く使えなかったのです! 大法螺吹き野郎です!!」
「リザックぅぅ、儂はもうだめじゃ……。ここに置いていってくれぇ……」
「ワロス」
どうやら師匠は、本物かどうか証明勝負で調子に乗って魔法を唱えていたら、あっという間に魔法力が尽きたらしい。
(そりゃそうよ)
今、
「私の知ってるクアドなら、もっと魔法が使えたはずです! こいつは雑魚です!!」
「ぐはっ……」
アトルは頻りに師匠への死体蹴りを繰り返した。
「せめて、老いたと言ってやれ」
「うぅぅぅ、リザックぅぅぅ! 魔法力が回復するアレだしてくれぇ……」
「弟子に泣きつくとか最低ですね、この偽物」
魔法力が回復するアレとは、某藁人形のことだった。師匠の魔法力が詰まった藁人形を師匠にモシャスすると、存在位相がバグって本体へ魔法力がリチャージされるのだ。
便利だが、こんなくだらない事で、俺の切り札の1つがなくなるのは却下だった。
「却下」
「そ、そんな!?」
愕然とする師匠の顔を見ながら、俺は聖女アトルについて考えた。
(あいつは、勇者パーティーに確実に居なかった。魔王の変身魔法を受けたメンバーで女性だったのは、ムチムチバニーガールだけだ)
しかも、乳や太もものエロさが違う。
(それに、俺に対する異様な執着は何だ……。!? まさか!)
その時、俺は閃いてしまった。
聖女アトル、その正体は――。
(恐らくこうだ、勇者が飛ばされた先で助けられた幼女。それがこいつだ。しかし、勇者は魔王との戦いの傷によって命を落としてしまう。依存していた幼女は、勇者の今の際の命令を聞いた聖剣の導きに従って教会の門を叩いた……)
聖剣を触ることができたから、聖女。
(勇者の冒険譚を聞いて育った幼女は、何時しか自分が勇者パーティーの1人だと錯覚してしまったんだ……。そして、それを哀れんだ勇者妹の世話になった……)
「うぅ、ぐすっぐすっ」
「えぇっ!? なんで突然泣くんですか!?」
「お前もぐろう、ずびっ、してだんだな……」
「何の話です!?」
とりあえず、このままでは埒が明かないので、一時休戦することになった。
各々の正体は、後でつまびらかにすることになった。
「街がそんなことに……。じゃから、そんな格好をしとったんじゃな?」
「えぇ、早く戻らなくてはなりません」
「師匠。司教様に会ったんじゃなかったの?」
なぜ師匠はこんな穴蔵にいるのか。
「いや、司教様には会えなかった」
「え? じゃあ何でここにいるんですか?」
「それが――」
師匠の話はこうだ。
俺の真似をして、『ルーラ』を地面に向かって掛けて高速移動していると、大理石でできた床の微妙な段差(コンマ数ミクロン)に引っ掛かってしまったらしい。
何とか抜けようとしたが、前後左右どちらにも動けなくなってしまったようだった。
(それ、床にスタックしてんじゃん……)
なお、現実にはGMなんていないので、詰みである。
その場でクルクルと高速で回る師匠へ、謎の巨乳のシスターが声を掛けた。
「『トラマナ』を掛けて、『リレミト』するといいですよ」
師匠は、そのアドバイスに従った。
すると、不思議なことに体が半透明になり、地面の段差に吸い込まれた。
師匠は、地面の中を半透明でクルクルと滑っていき、この石の牢獄へ辿り着いたようだった。
「その後『リレミト』が使えなくなって、今に至ると……。なんの役にも立ちませんね……このタヌキ」
アトルが半眼で言い切った。俺もそう思う。
「あれ、私達も脱出できないのでは……?」
「いや、リレミトは入り口がないと使えないだけだ。さっき作った穴から出られるはずだ」
「やっと出られるのか。リザック、儂は腹が減ったぞ」
「一昨日食べたでしょ? おじぃちゃん」
「なんか冷たくないか?」
たりめぇだ、ボケ老人が。
司教様の書斎に出ると、すでに魔物たちが配備されており、俺たちは取り囲まれた。
「く……! 万事休すですね……!」
魔物の山を割って一人の男が現れた。
司教様だった。
「やはり裏切っていたのですね……!」
「ククク、本物なら既に時計塔で磔になっているよ」
司教(偽)の顔の皮が土気色になり、頬がぼろぼろと崩れ落ちた。
「そして、まさか同胞に化けているとは……。ククク、我々と同じ手法を取る、か。さすが魔王様が手ずから抹殺を希望する男だ」
俺は指された指をしゃがんで避けた。俺の後ろには、師匠がプカプカと浮かんでいた。
「え? 儂?」
「ちがうわ!!」
「待って下さい! 化けていることが分かったのは、今ですよね? どうして私達の動きがわかったんですか!?」
確かに、バレてない割には、ちょいちょい不審なことがあった。
「そんなことか……。出てこい!」
「キキーッ!」
「うわ」
俺の股ぐらから、3ゴールドが飛び出した。なんか隠語みたいで嫌だ。
硬貨は煙を吹き上げると、3体の魔物に変わった。司教(偽)に貰ったゴールドが、『モシャス』した【モシャスナイト】だった。
「まさか、モノに『モシャス』するなんて!」
しかも、ゴールド神が支配するゴールドに成るなんて、なんと恐れ知らずな……。【ミミック】の流儀に従え。
俺達は、長い紐でぐるぐる巻に拘束された。完全にイモムシ状態にされてしまった。
「ククク……、連れてこい! 男以外は公開処刑だ!」
(なんてこった! 俺だけ助かってしまう!)
ラッキー。
「リザック……。貴方今絶対、自分が幸運だと思いましたね」
「お、思ってねぇし」
「リザック……、儂は腹が減ったんじゃが」
「黙れボケ老人が!」
やいのやいのと言っている間に、時計塔のある広場に辿り着いた。
広場にはバッチリギロチンが準備されていた。
「ククク、これからこの者達の処刑を執り行う!」
「オォー!」
司教(偽)が大声で言うと、周りにいた魔物が沸いた。
本日の処刑会場には焚き火が炊かれ、ギャラリーでしっかり盛り上がっていた。
本物の司教様は、時計塔に痛々しく貼り付けにされていた。
「そんな! 司教様!」
「愚かな人間め。他人の心配をしている場合か」
アトルと師匠は、ギロチン台にしっかりとセットされた。
「あれ? 儂、死ぬの? イィやァァァ!? 助けてくれぇ、リザックぅぅ!!」
「え、今気づいたんですか?」
コイツ、お腹空いて頭全然回ってなかったな。
「おい、魔王様を呼ぶ準備を始めろ!」
「キキーッ!」
(え、魔王くるの? 俺も今日死ぬじゃん……! く、どうすれば……)
考えている間に魔力が高まり、時計塔の前に、黒い影が集まった。
万事休す。
その時、外の空が分厚い雲に覆われた。
「な、なんだ!?」
ゴロゴロと鳴り響く雷が、先程『モシャス』していた【モシャスナイト】達を穿った。
「ぎゃあああ!」
(これは……ゴールド神の天罰! しめた!)
哀れにも、【モシャスナイト】達は消し炭になった。
俺はこの隙きに、呪文を唱えた。
「『アバカム』、『リレミト』!」
「なにっ!?」
俺は着ぐるみから離脱してパンイチになった。
「リザック!? そうか、『リレミト』で着ぐるみから離脱したんじゃ!」
「そんな効果でしたっけ……。貴方達と居ると、頭が可笑しくなりそうです」
更なる隙きを作るべく、俺は呪文を畳み掛けた。
「『マホカンタ』! 『マホカンタ』! 『マホカンタ』!!」
「!? ククク、ガハハハは! 魔法使いが敵に『マホカンタ』だと? 敵に塩を送るとは、血迷ったか!」
司教(偽)が叫んだが、俺は構わなかった。
「あ、あれは……!? いかん、小娘! 目を瞑れ!」
「えっ? は、はい! って、私目がありません!!」
司教(偽)が笑っている間に、俺の呪文が完成した。
「『レミーラ』!!!」
『マホカンタ』を掛けられた魔物同士の間で、虹色をした光源呪文の『レミーラ』が光の速度で反射しまくった。
「うおっまぶし……」
「俺のバトルフェイズは、まだ終了していないぜ! 『イオラ』!!」
俺はさらにダメ押しで、連続『イオラ』を放った。勘違いしないでほしいが、俺の『イオラ』は爆竹音しかしない。
何を隠そう、【かしこさの種】を食べてから閃いていた、フラッシュバンだった。
「な、何だこれは気持ちわ、オエーッ!」
そこかしこで、雑な料理パーティーが始まった。魔物たちはまっすぐに立てず、死屍累々な様相だった。
(決まった……! 【うごくせきぞう】にも効いたのは草)
魔物が静まり、立っているのは俺一人となっていた。
俺はすぐに師匠たちを開放した。
「た、助かりました」
「しかし、トンデモナイことになったのぅ」
そこへ、拍手が響き渡った。
「なにやつ!?」
「流石だ。儀式が半端であったが……、まぁ良かろう」
「!?」
そこには、【かしこさの種】の幻覚で見た魔王が、半透明の姿で存在していた。
前回とは違い、乳を強調した豪奢な黒いドレスを着ていた。
「魔王が、此処に何の用だってんだ……!」
「ふ、ふふふ。わからぬのか? 自分の胸に手を当てて考えよ」
「一体何をしたんですか?」
俺が問いかけると、魔王は覇気を発しながら言った。
つまり、【かしこさの種】で見た幻覚は、途中から現実のものになっていた。
(そうとしか、考えられない!)
魔王の影が俯き、怒りに震えながら言った。
「乳を揉まれ、尻のホクロの位置も知られた上に、天女の羽衣を渡されるなど――」
(やべぇ、やっちまった! 咄嗟の事とは言え、敵の親玉にハレンチな下着を押し付けるなんて、先制布告な上に我が一族の恥とか言って、地の果てまで追われるやつだ!!)
「そんなの……もうプロポーズじゃないのォォォォ!!!」
魔王の影は興奮気味に叫んだ。
「なんでだァァァ!?」
「……」
呆れたアトルの雰囲気を感じた。
「リザック、貸してください!!」
「はうっ!」
背後にいたアトルが、俺のパンツの中に徐ろに手を突っ込んだ。
「この玉さえあれば……! 女神様!!」
「余の花婿に何をする! アバズレ!!」
アトルの手には、俺が隠し持っていた【いのちの木の実】が握られていた。
すぐさまアトルは、【いのちの木の実】を噛み砕いた。
ナッツを噛み砕く音を間近で聞いた俺と師匠は、腰がすくみ上がって動けなくなった。
「うおぉぉ――」
「な、なに!?」
アトルの声が次第に野太くなり、黄金の甲冑を着た騎士へと変わった。
「ば、馬鹿な……! お前は、勇者!」
「勇者じゃ! 勇者が生きておったぞ!!」
驚く魔王と感涙する師匠の横で、俺は展開についていけなくなった。
(なんぞこれ!?)
その時、俺の脳裏に天啓が降りた。
つまり、俺の見た卵色のぱんつは、おっさんのパンツだった!
俺はあまりの現実に打ちひしがれた。
「幾度も邪魔をしてくれる!」
「覚悟しろ、魔王! ウオオオ!!」
勇者の引き抜いた黄金の剣が、魔王の影を断った。
「余は諦めぬ……。必ず、結……して……せる……」
「……」
シクシクと泣く俺へ、黄金の甲冑が手を伸ばした。
「若者よ、感謝する。貴方が、あの子を導いてくれたから、魔王に一矢報いることができたんだ」
英雄からのこの一言を聞いて、俺は全然嬉しくならなかった。聖女アトルは、勇者アトルでおっさんだったのだ!
(こんなのエッチな魔王の方がマシやんけ!)
俺は魔王軍に寝返るか、まじで一瞬考えた。
「俺の純情を返せ!!!」
「??? 若者よ、あまり時間がない。これからも、あの子と伴に旅をしてくれないか? 出来れば私の
「何勝手に頼んでるの!?」
黄金の勇者は、俺に更に畳み掛けた。
「あの子は、私だった時の記憶を5割いや8割、いや、7割5分もしくは9割失っている」
「ハッキリしてくれない!?」
煮えきらない勇者の物言いに、俺のストレスがマッハになった。
「私の失った肉体の代わりに、女神様から与えられた肉体だ。仲良くしてやってくれ」
「あぁ、ゆえに、聖女……」
言いたいことだけを言い、輝く鱗粉を放ちながら、勇者は空中に溶けていった。
その場に残ったのは、全裸の聖女アトルだった。
「……『ニフラム』」
空から降りてきた光が、聖女アトルの要所を覆い隠した。全然チン○クしなかった。
その後、街は開放された。
死屍累々の魔物たちは、一箇所に集められ、【不思議な木の実】を2つ服用した師匠と俺で処理することになった。
「本当に大丈夫なんですか?」
「問題ない。そこで見ておれ。ゆくぞ、リザック! ハァァァァ!」
「はいはい、ハァァァァ!」
「「『バシルーラ』!!」」
2人の『バシルーラ』がぶつかり合い、強烈なスパークを生んだ。
仲間を思う気持ちで複数人が『ルーラ』を行うと、バグって『リリルーラ』という伝説の魔法呪文へ変わるらしい。
その伝承を知った俺と師匠は、ある日、互いに『バシルーラ』をぶつけ合ってみた。
すると、マイナスの気持ち同士の間がぶつかることで、【たびびとのいずみ】の様な宇宙空間と繋がった。
「今じゃ!」
「そぉい!」
呪文を維持する俺たちの傍ら、街の衛兵達が次々に魔物を投げ込んだ。
「あっ……!」
最後の一匹が投げ込まれたとき、俺の懐から藁人形が零れ落ちて中に入ってしまった。
「はぁ、何とかなってよかったですね」
「ふん。まだ……って、リザック人形が落ちとるぞ!?」
「諦めてどうぞ」
拾うこともできず、ただ眺めていることすらできなかったが、不意に強烈な魔法力の高まりを感じた。
「ん?」
魔力の高まりは、宇宙空間から感じた。
(まだ……って……まだって……まだんて、『マダンテ』!?)
俺はゾッとした。
「伏せろぉぉぉァァ!」
その日、勇者を輩出したトリオンという街のシンボル、勇者の像が乗った時計塔が消滅した。
俺は旅立つことになった。
というのも、魔王がいつ再び性的に襲いかかってくるか、分かったもんじゃなかったからだ。しかし、実は俺的にはウェルカムだった。
この街にいるとクソ女神の毒電波が四六時中鳴り響き、安寧などなかったのだ。
女神の電波を遮断する魔法。
俺はそれを探し求めることにした。
勇者を見つけた師匠は、この街で隠居するらしい。
「やはり、旅立つのですね! 待っていましたよ!」
「……はぁ」
何度躱しても聖女アトルは、付いてくると言って聞かなかった。さらには、女神からの託宣を使ってストーカーしてくる始末だ。
俺は諦めた。
こうして、三千世界を巡る俺と聖女アトルのアホな冒険が始まったのだった。
俺たちの旅はまだこれからだΩND。