教会で出会った人語を解す謎のネズミの依頼を受けたリザックは、四天王を名乗る謎の魔族を救うため、謎のバグの無限錬成に巻き込まれた。
主な登場人物
リザック:俺。タイムリープが嫌いになった。
魔王:ふしだらな女。
アトル:盲目の女。話の通じないテンパード。
女神:慈悲の女神であり、運命を司る。
リリムッド:かわいい。
天使ちゃん:偶に出る。
補足:どんどん未来へワープします。
――……。…………。
優しい声が聞こえた。
ふと、意識が戻ると、俺は暗い城の中に立っていた。床には赤い絨毯が敷かれ、広間には不気味な彫像がいくつも立っていた。
まるで魔王の城。ラストダンジョンだ。
「いや、どこ……ここ?」
まじでどこ。
俺がそう思ったのも仕方がない。
ネズミーランドの大人気コンテンツに挟まれたと思ったら、謎の城に到達したのだ。
しばらく歩き回って調べていると、豪華な階段の先にある、これまた豪華な両開き扉から聖女アトルが飛び出してきた。
普段の装いと異なり、光り輝く【光のドレス】を着用している。そして、なんか背が伸びてる。
(気合入ってんなぁ……)
とか思っていたら、階段を無視して飛び降りてきたアトルから、突然話しかけられた。
「リザック!? 『メガンテ』を使ったのに、生きていたのですか!?」
「知らねぇ記憶と、とんでもねぇワードが聞こえたんだけど!? え、俺死んでたの!?」
バグに巻き込まれた後に、一体何があったと言うんだ。
「いえ、そんなことよりも……! 魔王が倒れました、この城も滅びます!」
「超展開!?」
俺が死んだことを過去にする事件が起きていた。
(あの魔王が死んだだって……!? 冗談だろう? まだ乳も揉んでないんだぞ)
アトルの言葉を証明するように、城が振動し始めた。
「崩れます! 急ぎますよ!」
「おい、手を引っ張……いてぇ!」
手を引っ張るアトルへ、ついて行こうとしたが靴が脱げかけたのか、つんのめってしまった。
足元を見ると、赤い絨毯の敷かれた床から、身体が白く結晶化した女が俺の足を掴んでいた。女は上半身しかなく、肩口まで地面に沈んでいるように見える。
というか、めっちゃっ魔王だった。
「に……が……にがさん……!」
「キャアアアアアアシャベッタアアアアア」
地面から生えてきた魔王の左手が、俺の足首を捕まえなおしやがった。
更にいやらしい手付きで、俺のふくらはぎをなで上げた。この白い【マドハンド】やろうが!!
「うわー! なんだこれ!? 早く引っ張ってくれ!!」
「リザック! 逃げろなんてそんな……あなたを置いて逃げられません!」
「いや、一言も言ってねぇけど!? 話聞いてる!?」
逡巡した様子のアトルは意を決した表情をすると、出口へダッと駆け出した。
「分かりました! あなたの隠している春本は、全て火をつけて燃やしておきます!!」
「死ねってこと!?」
いつにも増して、話が何も伝わっていなかった。一体どうなってると言うんだ!
アトルは走っていってしまった。なんて薄情なやつなんだ。
「くくく、花婿よ……。我とともに、冥府へ参ろうぞ。死ぬときは一緒だ」
「『ザオリク』」
俺の魔法で、普通の色に戻った魔王は復活した。長い黒髪に怜悧な目の巨乳女に戻ったのだ。
「……」
「なに、あれ? って表情してるの? 生き返ったからいいでしょ? もう離して??」
魔王は寝転んだ姿勢のまま、俺の足を掴んでボーッとしていた。思考停止している顔に近い。
「ふふふ。既定された世界の条理すら歪めるか。さすが我が花婿」
「いや、何の話? いきなり笑いはじめて怖いんだけど」
魔王は寝転んだまま、ブツブツと笑い始めた。
「なに、女神の定めた運命すら覆すのかと思っていたところだよ。花婿よ、お前からすれば、ここはお前の主観から時間の進んだ遠い未来だ。本来であれば、お前は我と伴にこの城で死んでいたはずなのだ。我も、お前とともに死ねるのであれば、女神の演題に乗ってやっても良いと思っていたが……。そうか」
「急な長文やめてくれない?? 足を早く離せ!!」
急に語り始めた魔王がなんか怖かった。目が血走った魔王は、俺を見上げて更に続きを話し始めた。
「くくく。そう、あの聖女と呼ばれている女も所詮は女神のテンパードでしかない。パルスのファルシのルシがパージでコクーンするように、世の中の事は全てエンディングまで決まっているのだ。この世界の核にはクリスタルが使われている。我と花婿二人が合わさることで、光と闇が合わさり」
「なんか、違う壮大なファンタジー始まってんだけど!?」
魔王は立ち上がりながら、急に意味のわからないことを話し始めた。
「まぁ、簡単に言うとだ。お前が世界の崩壊等という事象に関わらない訳がない、と我は考えた。そこでだ、この世界のすべての記録を司る【ぼうけんのしょ】に小細工してやったのだ」
「なんだと!?」
マジでなんだと!?
立ち上がるときに見えた魔王のブラチラをちょっと2度見した。
紫色! なんだと!?
「くくく、お陰で我を倒したと思っている女神は、ここには来られない。花婿と二人きりだ!」
「え、女神から開放されたの、オレ。マジかよやったぜ」
図らずも女神から逃れるという目的を達してしまった。更に魔王は俺に畳み掛けてきた。
「エンディングに書き込んだのだ。勇者リザックの死因は我の腹の上での腹上死とな。老衰するまで搾り取ってやろうぞ!」
「どんなプロポーズの仕方!?」
あまりにも過激すぎる。
というか俺、カマキリみたいなそんな死に方するの?
美女の上で腹上死と思ったが、そのときはこいつもヨボヨボかもしれない。
そうなると、地獄絵図がそこには描かれるわけだ。
そこまで想像した俺は、全力で拒否した。
「いやだ! タタリ神になんてなりたくない!!」
俺の脳裏に描き出した合体するそれは、タタリ神にしか見えなかった。
「ふ、逃さんぞ!」
「なに!?」
逃げ出そうとした俺を、魔王はいつか勇者アトルを拘束した紫色の稲妻で捕えた。
なんてこった、足が地面から離れちまった。
「ふふ、もう逃げられんぞ。我とけ、け。結婚するのだ」
「いやだ!!」
「なにっ!?」
くそ!
魔王め!
この世界の不具合を付く真似までしやがって、時を進めて俺を嵌めようとしやがったな!
いや、ハメようとしやがったな!!!
どっかの女神みてぇな、そんな汚ぇやり方。認める訳にはいかない!
そして俺は、何としてもここから逃げてやる。
辛うじて無事だった左手で、手にずっと握っていた【やみのランプ】を床にぶち撒けた。
「!? 待て! 待つのじゃ花む」
「『メラ』」
俺は火を着けた。
がははは!
逃げてやる!!
この量のオイルだ。どこまで飛ぶかわからないが、お前も時間の果てまでは追ってこられまい!!!
―――
――
―
「うぅん……」
記憶が途絶え、俺は目を覚ました。
どこかの安宿だろうか。
隣には裸の女が俺に背中を向けて眠っていた。
俺は無事に魔王から逃げ出して、安宿で娼婦と懇ろになっていたのだろう。
覚えていないのは残念だが、無事に魔王から逃げ延びたのは間違いない。
俺は手癖になっているタバコに火をつけて吸った。
「スゥー……はぁ」
香草の香りが鼻を突き抜け、目が覚める気がした。
「うぅん……。娘たちの健康に良くないから、タバコは辞めてくれといつも言っているだろう」
「ん? あぁ、すまんな」
(あれ、ちょっとまてよ)
ちょっと待ってほしい。
俺にタバコを吸う習慣なんてない。
ギギギ、と油の切れた機械のように、俺は美しい女の裸体を見た。
こちらを向き直ったのは、長い黒髪の巨乳だった。
怜悧な目には覚えがあった。
「え? 魔王???」
「ふっ……。その呼び名も懐かしいな。なんだ、またあの頃のような情熱的なまぐわいをしたいのか?」
怜悧な顔をへにゃりと和らげて、魔王は上目遣いに顔を赤らめた。
エロい。
俺は生唾を飲み込んだ。
(え!? なにこれ? ドッキリ??)
俺は【やみのランプ】を使っただけだ。なのに、何で魔王と熟年の夫婦みたいになっているんだ?
その時、安宿のドアが開いた。
「ママー、眠れないよぉ〜」
「おや、起きてしまったのか」
フリーズする俺の前で、魔王と思われる女はシーツ片手によく似た小娘へ歩いていった。
(ま、まて。幻覚だ。きっとこれは幻覚だ)
自分に言い聞かせる俺の目の前で揺れる魔王のエロい尻には、前見た位置と同じ場所に寸分違わずホクロがあった。
(現実だよちくしょーー!!)
その時、何処からともなくドジっ子天使ちゃんの声が聞こえた。
――やっと見つけました!!
――【ぼうけんのしょ】が6589那由多とんで11万と4ページあるせいで時間がかかりました!!
――受け取ってください!! えーーい!
俺の股ぐらが黄金に輝き出した。
(また下着か!?)
「なにこれ!?」
以前、図らずも魔王にプロポーズしてしまったドジっ子天使ちゃんの下着シリーズかと思ったが、しっかり握ったそれは、ガラス瓶の固形物だった。
「なに!? ば、馬鹿な。この気配は……!?」
「パパー?」
俺は股ぐらから輝くアイテムを取り出した。
【時の砂】だった。
(しめた! これを使って任意の時間に戻ることができる!!)
俺は目を見開いた。
「お前は滅ぼしたはずだぞ!! 女神!!」
「うおりやー!」
俺は股ぐらから取り出した【時の砂】が入った小瓶を地面に叩きつけた。
「パパ!? パパー!」
「い、いかん!? 駄目だ、リリムッド! おのれ……女神め!! く、リザック! リザックぅー!」
撒かれる砂塵の中、俺の視界がブラックアウトした。
―――
――
―
――……。…………。
優しい声が聞こえた。
次第に朧気だった声が、認識できるようになった。
(あぁ、これは時の女神様の声か)
――÷®⇚€⇚{@✙™✣⇚®⇚✣ バグを修正しました。
――♢♀©』Ⅹ♣】Ⅹ♂ 王暦☓☓年☓☓までロールバックします。
――おかえりなさいリザック。とりあえず、最後のセーブポイントに戻しますね。
「セーブポイントとかあったの!!?」
――便宜上そう呼んでいるだけです。正確には因果の分岐点となりますが……。
――今回貴方は、【かべすりぬけ】の不具合。『ラナ』系魔法の暴走による因果律ジャンプ。【ぼうけんのしょ】改変による参照記憶地点異常。コード誤認によるエンディング読み出しの不具合に巻き込まれました。
「多すぎじゃない!?」
どんだけ不具合があるんだ、この世界。
え? 詫び石ないのだって?
世知辛いことに、この神様も詫び石はくれないだろう。命を保証して終わりだ。
――運命を司る私の権能も万能ではないのです。
「え? 運命を司る、だって?」
――貴方のように、世界の因果に縛られない。輝く魂を持ったものの力が必要となります。これからも期待していますよ。
こいつ……いつもの女神と同じやんけ!!
慈悲の女神の側面と時の女神の側面を使い分けてやがるんだ。
もしかすると、女神の託宣に逆張りしていた俺への罰のつもりなのかもしれない。
――………………。…………。………………………………。
「なんかいえや!!」
俺は壮大なマッチポンプ感を味わった。
―――
――
―