幼馴染がヤンデレだったけど可愛いから実質アドバンテージ   作:夏之 夾竹桃

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第18話 父さん

「はぁ、何か変に疲れたな。なんでだろ。」

 

 部屋のベッドに寝転がり、愚痴をつぶやく。この疲労感は一体どこから来るのやら。やっぱり、昼にあんな夢を見てしまったせいか?そうっぽいな。とっとと忘れよ。そうして、また深く溜息をついた時部屋のドアがノックされた。僕の義妹もようやく学んだようだ。

 

「兄貴、ご飯できたって。」

 

「あ〜すぐ行く。」

 

 適当な返事をこぼしたことが、どうやら彩花の好奇心を掻き立てたようだ。

 

「どうかしたの?また信乃ちゃん?」

 

「いんにゃ、膝枕してくれるくらいには仲いい。」

 

「膝枕って………なんか変なことしてないでしょうね?」

 

「その僕を疑う癖をやめてはくれないか?大体、これまでの経験上襲ってきてるのはシノの方なんだから。」

 

「だって兄貴、信乃ちゃんのこと好きなんでしょ?だから兄貴から仕掛けたのかなって。」

 

「酷い妹だよ。ま、いいや。じゃ行くか。」

 

 そのまま立ち上がり、僕は彩花を素通りする。

 

「え?ちょ待ってよ。なんでそんなに疲れてるのさ!」

 

 まったく、ああなったらしつこいんだから。せっかく忘れようって決めたのに………本当、憂鬱だよ。ともかく、僕が今することって言うのは日常を演じることである。

 上手くできたか、その問いに答えるのであれば半分YES。どうにも彩花の好奇心を止めることはできなかったようで、今、彩花は僕の部屋にまで来ている。

 

「だから、何にもないって。ちょっと疲れただけだよ。」

 

「兄貴がつかれること自体がもう既におかしいんだから。吐かないと毒だよ?」

 

 まいったな………思い出すほうが毒なんだよな。僕の精神を蝕む劇薬なんだよ。あれは。

 

「………自分でもわかんないから。」

 

「それってさ、やっぱり信乃ちゃんがどこか負担になってるとかじゃないの?」

 

「それだけは絶対にないから安心しろ?僕はシノのためなら結構なんだってできるんだから。まあ、あれだよ。暫くすれば治るから大丈夫。」

 

「吐いたほうが楽になれるって。大丈夫だから。私が信じられないの?」

 

「………メンヘラみたいなこと言うんじゃないよ、まったく。本当、調子狂うな。僕はちゃんと彩花の事だって信じてる。でもな、この事はとっとと忘れたいんだよ。だから、これ以上聞かないでくれ?」

 

「………忘れたいこと?それって―――――。」

 

「聞かないでくれと言ったろ?さすがの僕も怒るぞ?」

 

「その………ごめん。でも―――――。」

 

「はぁ………父さんのことだよ。これで分かったろ?僕にアイツのことを聞くんじゃない。」

 

「………分かった………。」

 

 さて………随分と疲れたな。取り敢えず風呂に行こう。そうして、忘れてしまおう。屑の事なんて。

 静かだ。湯気が立ち上り、水滴の落ちる音だけが響く。とても落ち着く。落ち着くが、僕の心中は言うほど穏やかじゃない。どうしても、片隅にはアイツがいる。僕の邪魔をしているようにこびり付いている。本当、居なくなってもノイズかよ。

 

「はぁ………。」

 

 こぼれるのは溜息だけだ。失望の念だろうか?そんな奴の血が僕に入っていることが許せないのだろうか?これはなんだ?怒りか?全てがわからない。ただ………ひどい嫌悪だけは僕のことをこれでもかと襲っているのが分かった。でなければお風呂場で鳥肌なんて立つわけがない。

 どうして、僕はあんなモノの血をついでなきゃいけないのだろうか?それが1番嫌だった。落ち着いていた心は既に荒れていた。浴槽に張ったお湯はまるで僕の心を表しているかのように、波が立っている。

 

「なんで僕、こんなことしてるんだろうな。馬鹿なのかな。」

 

 僕の手には、カミソリが握られていた。

 

―――――――――――――――

――――――――――

―――――

 

 お風呂から出る頃には、僕の腕に一筋の傷痕があった。濡れた皮膚を、液体がつたっているのが見て取れる。その光景が、僕にある一種の高揚感を与えたのだ。ヤツの血が、無様にもタイルに滴り排水溝へと流されていくその様が………きっと僕は狂ったんだ。なぜこんなものを面白いと思う?きっと僕は………。

 

「ぶっ壊れたんだろうな。あのバグのせいで。」

 

 出来損ない。それが、今の僕に対する僕の評価だった。取り返しはつかないだろう。なんなのだろうか、面白いのか情けないのかまったくわからない。ただ、喉の奥から出てくるのは空気がかすめただけの、声には程遠い笑いだった。

 視界が、ぼやけた。

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