世界の大半を占める海。
そのどこかに1隻の船。
名は「ゴーイングメリー号」
乗船しているのは海賊、麦わらの一味。
その内の2人が思い出話をしていた。
「なーサンジ」
1人は船長であり悪魔の実の能力者。
ゴム人間、モンキー・D・ルフィ。
トレードマークでもあることから、異名は”麦わらのルフィ”
3000万ベリーの賞金首。
「ん?」
もう1人は料理人のサンジ。
異名はまだ無いものの、並の海賊ならば文字通り一蹴できる男である。
「おれたちがバラティエに行った時、ギンっていただろ?」
「いたな」
「顔、覚えてるか?」
「うちの店であんなドンパチやられちゃ忘れらんねェだろ」
それを聞いたルフィは、新聞に書かれているとある男の手配書を見せた。
「......これ、あいつじゃねェか?」
それを見て、サンジは少しの驚きと疑問を抱いた。
「なんで新聞なんかに取り上げられてんだ?」
「さっきウソップたちが言ってたんだけどよ、1人で海賊やってるらしいぞ」
記事には「首領・クリーク見当たらず」と書かれており、写真には小舟で海を渡るギンの姿があった。
「へェ......」
「うちに勧誘しようかな」
「あいつは絶対断る。言うだけ無駄だ」
「そうか?」
「ああ。それにあいつは1人でも充分強い。弱さに気づけないタマでもねェしな」
「すげー気に入ってんだな」
その言葉にサンジは少し口角を上げた。
2人が話しているのは、サンジが一味に加入する際に彼のレストランを襲撃してきた海賊団の戦闘総隊長であり、”鬼人”の異名を持ち、サンジと互角に渡り合った男のことである。
「まァあん時はどっちも万全じゃなかった。万全ならおれの方が強いけどな」
何だかんだ負けたくないのか、サンジはそう言い切った。
「今はな。おれ達は経験を積んでる。どれも東の海じゃ体験できねェだろ」
ルフィの言葉に頷き、今ギンと出会ったならどちらが強いかなどと、この先無いであろうことをサンジは考えた。
「......何時になるかな」
サンジにとっても、ギンとの関わりはある意味特殊だった。
餓死寸前の状態でレストランに入り、そこらの海賊よりも強い従業員に打ちのめされ、本当に死を迎えてしまうところを、サンジのピラフによって救われた。
「あれ見ておれはお前を仲間にしようって思ったんだ」
「そりゃどうも。ま、あの日はあまりにも濃かった。色々あったしな」
「......ゾロも、な」
「......そうだな」
2人は黙った。
少し湿っぽい空気になってしまったが、不思議と気まずさは無かった。
「......寝るか」
「ああ」
同時刻。メリー号とは離れた東の海のどこかで、彷徨う小舟。
その上で眠っているのは、ルフィ達の話していたギンだった。
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サンジさんやあの麦わらの人に”偉大なる航路”での再会を誓ったおれは、首領・クリークや他の皆と別れ、一人旅を始めた。
人数に頼ることなく、おれ自身の修行も含めての一人旅だ。
「......鷹の目のように、一人でも偉大なる航路を逆走できるような航海術も身に付けないとな」
そう思ってひとまず眠りについたのが、運の尽きだったんだろう。
目が覚めたら、知らない船にいた。
「!?」
おれは縄で拘束されて身動きが取れなかった。
この船の人間がどんな奴だと確認したが、見覚えのある白い服に、おれは重くため息を吐くしかなかった。
「こちらネズミ。クリーク海賊団のNo.2、鬼人のギンを捕らえた」
まさかこんなに早く海軍に捕まるとは思わなかった。
縄は解けたしいつでも抜けられるが、人数差に加えて武器が無いとなると少し不味いな。
......縄?
「すぐに引き渡───ぐえっ!!」
電伝虫をぶっ壊してネズミとかいう奴の首を縄で縛り上げる。
他の奴らは幸い今は銃を持ってない。
だから確実にこいつは殺れる。
つまり、人質として充分に使える。
だがおれを解放してもすぐに追ってくるだろう。
なら、やることは1つだ。
「こいつを死なせたくなけりゃァ、今すぐ”偉大なる航路”の入口に行け!!」
トラウマなんざ気にしねェ。そんなんじゃ強くなれねェ。
時期も早いだろうが関係ねェ。
「リ、リヴァース・マウンテンにだと......!?」
「む、無茶だ......!」
「ならこいつの首が千切れるぞ」
縄に力を込め、首に食い込ませる。
ネズミとかいう奴は既に気絶している。だからいつでも殺せる。
「ま、待て!わかった!リヴァース・マウンテンに向かう!」
こいつは多分、この船のNo.2だな。
話のわかるやつで助かるぜ。
「大至急だ!ネズミ大佐の命は必ず守れ!」
「......はっ!」
他の奴らもどうやら偉大なる航路には恐れがあるのか、動きが重い。
俺だってそうだ。あんなに早く鷹の目に会うなんて、あまりにも運が悪かった。
だが逆を言えば、あれ以上の脅威はそうない。
「ロ、ローグタウンより先には近づけない!」
1人の海兵がそんなことを言い出した。
まあ、偉大なる航路に入れれば問題はないし、こいつらは正直どうでもいい。
「わかった。ローグタウンまでで手を打つ」
「......急げ!」
そうこうしている内に近付いていたらしく、案外待つ時間は少なかった。
妙なきな臭さを感じるが、小さな小舟で行くよりはマシだろう。
「言っておくが、もし追おうものなら......お前らの中から確実に10人は命日を迎えるぞ」
唾を飲む音が幾つも聞こえた。
脅しじゃないことが分かったからだろうな。
悪党には悪党のやり方があるんだ。
取り上げられた武器も回収した。
金はそれなりにあったので、海軍の船から何かを奪うほど困っちゃいない。
食料は、誰からも奪わないことにした。