無人世界カルナージ、ホテルアルピーノ大人組大部屋より。
夕飯を終え、ゆっくりしていた時の事だった。
「そういえばセイン、お前に聞きたいことがあったんだけどさ……」
「ん? なになにノーヴェ、あたしに何が聞きたいの?」
「いや、オットーやディードから面白そうな事を聞いたんでな。それが本当かどうか知りたくて」
「へ〜、あの二人が? 一体なんのことだr──」
「男ができたって本当か?」
「ん゛っ! ぐふっァは?! ゴォッホッハ! ま、全く何言い出すんだよノーヴェ! そんな事あるわけないでしょ?!」
「いや、セイン……そりゃ無理があるよ」
ノーヴェの言葉にあからさまに動揺するセインに、ティアナは思わずツッコんでしまう。それを隣で聞いていたスバルは普段関わる機会が少ない恋バナに食い付いてしまった。
「なになにセイン彼氏出来たの?! 誰々どんな人? 教えてよ!」
「だぁあもうやめて! てか居ないってそんないい人なんて!」
「いいのかセイン、そんな事言って。今ゲロっちまった方が良いかもしれねぇぜ?」
「ど、どういう事だよソレ……」
「いやな? セインが何も言わなかったら〝知ってる事全部話す〟ってあの二人がな?」
「あの二人シスターだよね? なに悪魔の如き所業しようとしてるの?」
「さぁセイン、一体どんな人か教えてご覧」
「そうそう、諦めも肝心よ。あと言っとくけど嘘を言うのもオススメしないわよ? 現役執務官の洞察力舐めないでね」
「こんな時にマジになるなよ……」
ワタシは堪忍して話す事にした、いつの間にかなのはさんとフェイトさんも一緒に聞く体勢に入ってるのは〝悪夢でしかない〟けど腹くくろう。
(いやでも……この二人にだけは喋りたくないなぁ)
「とりあえず、ここに居る人達全員が大なり小なり知ってるよ」
「ソレは私達局員でもってこと?」
「うん、なんなら局員の方が詳しいすらあるよ」
「へ〜、意外だな。てっきり教会関連の人かと思った」
「まぁ、出会いは何処にでもあるからさ」
「それでそれで! その人はかっこいいの?」
「そりゃもちろんかっこいいよ、世界で一番って言っても良いよ」
興奮するスバルの質問に、ここぞとばかりに惚気け始めるセイン。よく顔を見ると少し赤らめながら頬を弛め、所謂だらしのない顔になっていた。
「へ〜、セインお姉ちゃんは面食いだったのかぁ。知らなかったなぁ」
「そこ! ここぞとばかりにからかわないでよ! 確かに〝最初は〟一目惚れだったけどさぁ……ちゃんと彼の内面にだって惹かれたんです〜!」
「そんで、結局だれなのよ。その愛しの王子様は」
「えぇ……やっぱり言わないとダメ?」
「ダメ」
「ワタシもめっちゃ気になる!」
「観念しろって言ったろ?」
「はぁ、分かったよ…………あたしが、好きになったのは」
「うんうん、好きになったのは!?」
「だれだれ!」
「…………ユーノさん」
そう小さく呟いた。
「え、えぇ〜〜〜?!」
「あのユーノと!? どうやって?!」
まず初めに反応したのはユーノと親交が深いなのはとフェイトだった。
「ユーノさんっていうと、確か局の本部にある無限書庫のお偉いさんじゃなかったっけ?」
「そうだよ。六課の時に見た事あるけど優しそうな人だったよね、ティア」
「そうね、私も仕事の関係でたまにお逢いするけどとても良くさせて貰ってるわ」
その後ノーヴェ、スバル、ティアナが各々のイメージについて語る。
「それで? セインはどうしてそんな人と付き合ってるのかなぁ? 馴れ初めとか聞きたいなぁ〜」
「う〜ん……正直に言えばあんまり、特になのはさんとかには言いたくないんだけどなぁ」
「え……私達だけ仲間はずれ?」
「そんな、酷いよセイン……グスン」
「あ、いやそういう訳じゃなくてですね私がするにはいいですけど、その……あまり、気持ちのいい話題って程でも無いので」
「そりゃ他人の惚気話なんて嫌だなんて人は居るだろうが、私達は聞きたい側なんだよ」
「……分かりました、けど本当に皆が想像するようなキャピキャピしてる様なものじゃないですからね」
そうしてセインは重い口を開け始めた。
「最初は、ただ古代ベルカに関するの資料を受け渡しする際の護衛だっただけなんです」
古代ベルカの資料はそれだけでも価値がある、無限書庫から発掘された物ともなれば危険性もおまけ付きで、だ。
だが無限書庫はあくまで情報部、戦闘員も居ないわけでは無いが書庫の勤務で他に回してる程の余裕もない。だから単騎でも防戦ならやり通せるユーノさんと、隠密行動が得意な私がペアとなって護送する事となった。
時には護送後にお茶会等をする機会があったからそこで親睦を深めたりしたけど──
「はっきりとユーノさんの事を意識し始めたのは、そう……ユーノさんが空を見上げてた時の事」
「空を?」
「はい、もしかしたら見つめていたのは空ではなく別の物だったかもしれませんが」
セインは問いてきた〝なのは〟にそう言った。
「あの日見たユーノさんの目はね、それ迄見てきた私の知るユーノさんのとは全然違った。冷たくて、〝怨みと後悔〟しか無いあんな眼差しを知らなかった」
「…………」
「ユーノ、まさかまだ……」
セインの言葉に、思う事があるのかなのはは沈黙を、フェイトは独り言を呟きながら思案に深けていた。なんの事か分からない他三名は置いてかれていた。
「その時のあたしは、少なくてもユーノさんと仲良くなってたと思ってたからさ……なんというか、ほっとけなかったんだよね」
「セイン……」
そして……
「なんやかんやあってお付き合いする事になりましたァ!」
「いや温度差酷いわね?!」
「おい! 私達はそのなんやかんやが聞きたいだぞ!」
「そーだそーだ」
「いや、これ以上重っ苦しい話題は避けたいじゃん……」
「確かにそうかもね」
「私もそうした方がいいと思うよ……ねぇ、セイン」
「はい、なんですかなのはさん」
「ありがとうね、ユーノくんを〝救ってくれて〟」
そういう彼女の姿は、どうしようもなく想い人の姿と重なって見えてしまった。
「なのはさん! ユーノさんは、ユーノさんは今でも貴方の事を──」
セインはおもわず言おうとした事を、なのはに制止された。
「〝ソレ〟はきっと、誰も言っちゃダメな事だと思うんだ……本人含めてね。だからお願い、私達のために言わないで?」
「どうしてですか、なんで……二人とも、気持ちはきっと同じじゃないですか」
「仕方ないよ、私もユーノくんも諦めちゃったんだ。何も後悔せずに幸せだけ思える程、お互いに器用じゃなかった」
「なのはさん……」
「だからセインにお願い、あの人を支えてあげて? あの人ってば、誰かに甘えるってのが本当に下手っぴだからさ……無理やりにでも甘えさせてあげて欲しいんだ、私にはできない事だから」
どうして、この人達は報われないのだろうか。──こんなにも想いあっているのに。
そう思いながら「はい」と答えるセインであった。