火種はレユニオンと共に   作:ゲイツ

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『ああーそれ、懐かしいねーお城に居た頃のでしょ?まだ持ってたとはタルちゃんは物持ちがいいよね』


                  ――ノレット レユニオン拠点にて


火種は巻かれた

 少女は走っていた、龍門へと帰ろうと走っていた。だがすべてが雪に覆われ、先もほとんど白で埋め尽くされているこの場所において生身で龍門へと帰るのは現実的ではなかった。

 その事を証明するかのように少女の走る速度がだんだんと落ちていき、息切れもひどくなってきていた。

 

「ハァー……ハァー……、うくっ……」

 

 遂に走る事すらきつくなってきたのか、走ることをやめて歩き出した、それでも前へ進むのは彼女に残る望郷の念、そして自身の持つ疑問に対する答えを求める心が未だに残っているからだろう。

 

「帰りたい……なぁ」

 

 白く装飾された先の光景を見て、自然と少女は涙を流す。龍門にいる友達、そして妹に会いたい気持ちがあるこそ気力を振り絞り歩き続けてゆく、限界など考え付かないように。

 

 そうして必死に必死に歩いてどれだけ立ったのだろうか、何時のまにか先を白く染め上げていた雪はやみ、雲は徐々に徐々に晴れていき太陽が少し雲から顔を出した、それに釣られて気力だけで歩いていた少女はようやく歩くのを止めて空を見た。

 

「……えっ、なにこの空?」

 

 完全に晴れた空、しかし少女の目に映った空は、ただ青いだけでなく黄金色に輝いているように見えて、急いで空から目を外し、目をこすった。

 そして再び空を見上げる、しかし空は変わらず蒼の中に黄金色が紛れ込んでいた。

 

 遂に自分は寒さでおかしくなったのかと少女は思い空から目を離し正面を向けば――そこに一人の可憐な女子が木に背を預けて目を閉じていた。

 

「誰……どうしてこんなところに?」

 

 その光景を見た少女は不安そうに呟き、静かに音を立てぬようにそろりそろりとおっかなびっくりしながら女子に近づいて行った

 そして、少女と女子の距離が至近距離にまで到達したその瞬間――女子の目が開いた。

 

「ひゃ」

 

「おや?驚かせちゃったかな」

 

 開眼した女子に少女は驚き小さい悲鳴を上げ、女子はやってしまったかなと言う表情をしながら立ち上がり、眠っていた時に付いた雪を掃った。

 そして雪を掃ったのちに女性は少女をその両目で見つめ始める、それに対し少女は困惑しっぱなしで立ち尽くすだけだった。

 

 だが、その状態は何かを察したかのように女性が少女に対し笑顔を見せて――口を開くことにより破られた。

 

「――僕はノレット、この出会いは運命だ、だから僕は君が僕のマスターかと問いかけよう」

 

「あっ、えっ?」

 

 唐突なその言葉に少女はさらに困惑する、いきなりマスターと呼ばれその契りを結ぼうとする状況、誰だって困惑を深めていくものだ。

 だがノレットと名乗った女性が少女に向けて手を差し出した時に少女は戸惑いながらもどこか〝今〟をそして〝未来〟を変えてくれそうな予感を感じた。

 

「うーん、やっぱり唐突だから信じてもらえないかな?」

 

 少女が握り返してくれないからかノレットは少々不安げに腕を振る。その様子を見た少女はノレットの手と自分の手を見比べて、自分の予感を信じて見ようと思った。

 

「…………分かった」

 

「おっ?」

 

 少女の一言にノレットは不安げな動作から一転し少女の戸惑いながらもどこか期待している顔を見る。少女はノレットの期待に満ちている顔を見て、少女はその顔を見て決意したかのように頷きを返して、その口を開いた。

 

「タルラ、私はタルラ」

 

 少女はタルラと言う自身の名を明かし、ノレットの手を取った。

 

「これからよろしくノレット」

 

「ああ、タルラ、僕のマイマスターこれからよろしくね」

 

 かくして契約は成った、その証拠に二人は強く強くお互いの手を握る、まるで出会った運命を離さないかのように。

 

 

 

 そして今この時、この瞬間、一つの運命の歯車が狂いだす。その歯車の狂いは静かに、しかし確実にテラと言う世界に影響を与えて行くものだった。

 だが、その事を予見しえた者は今は誰一人としていなかったのであった。

 

 

 

 

 

 ◇────────◇

 

 

 

 

 

 あの出会いの後に、脱走していたタルラはノレットの手によりウルサスにおける自身の養育者コシチェイ公爵の元へと帰還し不本意ながらもその教育を受け続ける事となった。

 帰還に際しノレットの件で色々とあったものの最終的にはコシチェイ侯爵の許しにより、ノレットはタルラの傍仕えとしてタルラの下にいる事を許可された。

 

 そしてノレットがタルラの傍仕えとなってから常にタルラの傍にいるようになり、その事が日常に組み込まれて早数年が経過していた。

 

「タルちゃーん」

 

 図書室近くでノレットがタルラの愛称を呼びながら探している、それに気づいたタルラは自身が読んでいた本から視線をあげた。そして呆れたような表情を作り呼ばれた方へ顔向ける。

 

「その愛称はやめてくれと言ったはずだが、ノレット」

 

「ええー、良いじゃないか可愛いし」

 

「私はよくない」

 

 ぶーぶーと抗議の声をあげるノレットに溜息を吐きながら読んでいた本を閉じた。

 

「そう言われても僕は呼び続けるからねー、でどんな本読んでたの?」

 

「まったくお前は……ハァ、まあいいか」

 

 まったく諦める様子のないノレットに諦めるような表情となり再び溜息を吐く、そして聞かれた本のタイトルを無言でノレットの方に見せた。

 

「『アフレンの寝床』か教養の本として有名な奴だね」

 

「ああ、前から読みたいと思っていてなようやく手に入れられてな、読む価値はあったよ」

 

「それは良かったね、学ぶことはとても大切なことだし、でもそれって確かヴィクトリアの本だったような?」

 

「幸運にも手に入れられる機会ができてな、その機会を逃さず利用したんだ」

 

 タルラが言った機会という言葉にノレットは少し思い当たる節があったのか、自分の脳内を探りその機会を思い出して、ああと納得の表情と声を出した。

 

「公爵閣下に任せられたシャワタ会談の時かー」

 

「……正確にはその少しあとにな」

 

 ノレットの発言を補足したタルラ、しかし話題に出た会談で少しばかり苦い顔を作るタルラをノレットは見逃さなかった。

 

「ふむ、まだ公爵に教えられたやり方が気にいらない?」

 

「気に入らないではない、一生あの男の悪辣なやり方を私は受け入れることはない」

 

 コシチェイによって教えられた数々の悪辣な手腕に対する不満をタルラは吐き出す、それにやれやれと肩を竦めノレットはタルラの対面に座った。

【ナノファクトリー】

 そして自身に備わっている基本的な機能たるナノマシンによって周囲の物質からお茶を創り出した。

 

「まあ、気に入らないのは分かったからさ一回落ち着いたらお茶でも飲んでね?」

 

「……相変わらず不思議だなノレットの力は」

 

 ノレットが差し出したお茶をタルラは受け取り、一服し息を吐いて落ち着いた。

 

「最初の頃はタルちゃんも不気味がって受け取ってくれなかったけどね」

 

「それは、それは悪かったと思っている」

 

「ちょっと意地悪だったね、過去の事は過去の事さ今受け取ってもらえてるなら十分だよ」

 

 受け入れられたことの喜びと共にタルラを真正面に見つめているノレットが満面の笑みを浮かべ、タルラもそれにつられて穏やかな笑みを浮かべた。

 

「そう言えばさ、タルちゃん」

 

「なんだ?」

 

「何か公爵からのお仕事任されてない?」

 

 その一言にウッと表情を曇らせる、図星だった。

 

「その表情だと納得できないお仕事らしいね」

 

「……ああ」

 

  さらに苦虫を噛み潰したような表情になり、これは相当不本意らしいなとノレットは思った、とは言えコシチェイ公爵から寄越される仕事でタルラがこのような表情になるのは珍しくもなかったが。

 

「まあ、受け入れられないのは仕方ないけどね、これでそのやり方のおかげで曲がりなりにもこの領は安定してるよね?」

 

「……だがそれは差別と不平等を利用したものだ、さっきも言ったがそんなやり方を受け入れるの一生をかけても無理だ」

 

「そう?ならそれを反面教師にでもするかい」

 

「そうだなあの男の教育は統治の傲慢さと権力の恐怖に満ちている、なら私が成すべき事を成す時にそれを反面教師にするのは必然だろう」

 

「ふーむ、公爵の教育抜きにしてさそんなに統治する事が嫌いなのかいタルちゃんはさ」

 

 ノレットの思いがけない言葉にタルラはノレットを直視した。

 

「なんでそう思ったんだ」

 

「だってタルちゃん、公爵の統治ばかり言って他の統治について言及しないじゃないか、だから統治自体が嫌いなのかなって」

 

「……確かに私はあの男の統治を認めるわけじゃない、それに人は生まれつき運命ではないんだ、だからそれ以外のやり方を人々に教えて知らせるんだ」

 

「へえ、やり方って?」

 

「それは……すまない、それはまだ思いついてないんだ」

 

 片手を机について興味深そうにタルラを見つめるノレットに答えを出せずにタルラはノレットに謝罪するしかなかった、しかしノレットはニッと笑った。

 

「まっ、それに関してはまたおいおいに聞くよ、まとめるのに時間がかかるだろうしね」

 

 神妙な顔をしながら頷くノレットにタルラは苦笑を作り出し答えを急かさないノレットに感謝を心の中でした。

 

「あっでもタルちゃん、タルちゃんには覚えていてほしいことがあるんだ」

 

「ノレットの方から?珍しいな」

 

「うんうん、タルちゃん、タルちゃんは公爵閣下の悪辣な手腕は嫌いだろうけどさ、そのやり方を抜き出してほしいんだ」

 

「それは……」

 

 ノレットが言った言葉はタルラにとってあまり受け入れ難いものであった、しかしノレットの助言はタルラとしても無視できないものがあった。

 

「タルちゃんはさ統治することは嫌いかもしれないけどね、集団にはリーダーが必要なんだよ誰がどう言おうとね、導く者と言い換えても良いね」

 

「………」

 

「だから、それを纏めるのには相応の覇気と知識や教養、手腕が必要とされる、皮肉なことにあの公爵はそういう意味ではうまい統治者と言って良い――けどだからこそだ」

 

 今までにない真剣な表情でノレットはタルラを見つめた、その表情にタルラは何も言えなくなり次の言葉を待った。

 

「タルラ、君が公爵のやり方が気にいらないのなら君が学んだやり方を昇華してやればいい、君が公爵から学んだと同時に自分で勉強した知見を活かしてね、政策に色々変更を加えてたんだろう?ならやれる、そうじゃないのかな?」

 

 最後を言い終えると挑戦的な笑みを浮かべてタルラを見るノレット、それをタルラは見つめてフッと苦笑した、なんという無茶ぶりを投げつけるのだと、だが。

 

「公爵のやり方を否定して自分のやり方を通そうとするなら、それくらいはやって見せてよ」

 

「まったく、ノレット、お前はよく私に無理難題を吹っかけてくるな、ああだが言っていることは間違いではないな」

 

 ノレットの言に納得したように席を立つタルラ、そして自身の腕時計を確認する。

 

「分かったよ、何とかしてあの男のやり方を私の学んできたことを活かして私のやり方に塗り替えて見せるさ」

 

「そうそうその意気だよ、そう言えば仕事するのかい?」

 

 ノレットの疑問にああとタルラは軽く返した、するとノレットは先程の公爵から任された仕事に納得できなさそうなタルラの表情を思い出し、何か思いついたように手を叩いた。

 

「それならさタルちゃん、その仕事サボっちゃいなよ」

 

「……は?」

 

「だってそうだろ?納得できないんだろ?ならサボっちゃいなよ、なんかこーフラストレーション溜まってたみたいだしさ」

 

「だが、あの男へ何と言うんだ?気にいらないがサボると言っても、そもそも向かわなければあの男は私を何としてでも向かわせようとするだろう」

 

「なら実際に行って、お仕事を遂行するように見せて公爵が気にいらないような事をすればいいのさ、よくよく考えればタルちゃんの気が進まない仕事なんてしなければいいんだよ、目の前でファッキューなジェスチャーな感じで反抗しちゃおう!」

 

 テンションが高くなり始めたノレット、しかしノレットの言葉に段々と乗せられてきている自分がいるとタルラは感じた。

 

「そう、だな、それも悪くないかもしれない……だが私一人反抗したところであの男はコシチェイは別の手で私がやらなかった仕事を果たすだろう、それは納得できない」

 

「ふふーん、なら二人で悪だくみしようよタルちゃん?」

 

 その提案にタルラはノレットの方を見る、ノレットはウインクをしてそれに応え言葉を続ける。

 

「一人で出来ないことなら二人で、そうだろうタルちゃん?こういう時は頼ってよ一人で抱え過ぎちゃうと潰れちゃうよ?それは嫌だし、何より僕は寂しいし後悔する、だから二人でやろう」

 

 そう言ってタルラの方にノレットは手を差し伸べる、タルラは迷ったノレットが提案したことだがこれは自分の仕事、それにノレットを巻き込むのは忍びなく感じて、しかしノレットがあまりにもタルラの手を期待して待っていたのだから、答えなければならないと思いゆっくりと手を差し伸べる。

 

 その手を我慢できなくなったノレットが両手でつかみ、今までで一層挑戦的な笑みを浮かべてコシチェイがいるであろう方向へ視線を向けた。

 

「あの公爵が驚いて怒る表情をする時が楽しみだよ」

 

 

 

 

 

 ◇────────◇

 

 

 

 

 

 一つの人影がゆらりと動きスッと消えた、残ったのは玉座に座る一人の男、その男はコシチェイ、ウルサスにおいて公爵という高位の地位に座る者

 

 そのコシチェイは珍しく自身が苛立ちと言う感情が久しく自身の内面に抱いていることを感じた。

 その原因はタルラ、彼女がコシチェイが任せた仕事に堂々と破棄し――あろうことか裏切り者のアントニオを始末することなく逃亡の手助けすらしたのだ!

 

「もしもの時の為に手は打ってあるとは言え、流石に許せることではないぞ、タルラよ」

 

 普段は余裕ある振る舞いをするコシチェイであるは、今回は苛立ちを含ませて威圧的な口調で一人玉座で呟く。

 そして帰ってきたタルラにどのような言葉でアントニオ逃亡の手助けを咎めようかと。一人玉座にてその様な思考に耽っていると玉座の間に作られた重厚な扉が開く音が聞こえた。

 

 タルラが帰ってきた、その様に確信したコシチェイは扉の方へと目を向けて一言発しようとしたがそれを直ぐに中断させて、眉をひそめた。

 そう、この部屋に入ってきたのはタルラではなかったのだ。

 

「やあ公爵、ご機嫌いかがかな」

 

「ノレット、何故お前が……いやそう言うことか」

 

 入ってきてノレットの姿に驚いたものの、すぐさま冷静にノレットを見つめ分析を行って、何故タルラが自身の意に完璧に沿わなかったかを理解した。

 

「どうやらタルラを誑かしたのはお前のようだな、ノレット」

 

「誑かしたなんて人聞きが悪いなあ、ただ僕はタルちゃんの悩みに一つの道を示しただけだよ?」

 

 言い切ってから挑発的な笑みを浮かべるノレットにコシチェイは忌々しそうな目線をノレットに向けた。

 

「僕が言わなくてもタルちゃんは君に反抗したんじゃないかい?ああ、けどそれは君の予想内でかわいらしい反抗期で終わるといったところかな」

 

 忌々しげな目線を気にせずに飄々とコシチェイと向き合いながら、わざと挑発的な声音で怒りを誘発しようとするノレットにコシチェイはふんと鼻を鳴らして、ノレットから一時目線を離した。

 

「確かにお前の行ったことは私の予想外であることは認めよう、だがそれで?その様な事をした程度で裏切り者のアントニオが逃げ切れるとでも?」

 

「タルちゃんの優秀さは貴方が一番よく知ってると思うけど?」

 

「確かにそうだ、だがまだタルラは私に並びたてる程ではない、私が最悪を想定していないとでも思ったのかね」

 

「そこは認めるよ、タルちゃん一人だと貴方には勝てない、けれどね」

 

 自分の胸に手をやり、その手で自分を指さしてノレットは言った。

 

「彼女の隣には僕がいる、なら勝つのはタルラだよ」

 

 堂々と言ってのけたノレットをコシチェイは静かに見据える、そしてなぜこのような存在をタルラと一緒に居させたのかと今更ながらに後悔した、油断したつまりはなかった、だが過去、己が手腕をあまり見せることのなかったノレットを完全に甘く見ていたことを

 

 だが、ここからでも逆転はできるとコシチェイは思考する、最悪を見越していたのだから。

 

「……ああ、認めようどうやら私はお前のことを軽視し過ぎていたようだ、だがこのまま引き下がるわけにもいくまい」

 

 言うと同時に指を鳴らす、すると足音もなく気配を感じさせずに体の全てを覆い隠した集団が玉座の間に姿を現した

 

「ふーん、なるほどこれが公爵の隠し戦力かー『蛇のウロコ』だっけ?意外に手強そうだね」

 

 手強いと評しながらもその表情の笑みは変わらず、むしろ不敵になっていた、それに対しコシチェイの手勢は油断せずにノレットを見ながら各々の役割を全うするべく動いた。

 

 それをコシチェイはしっかりと見据え、ノレットの行動と実力を見極めようとした。

 

「来なよ」

 

 ノレットの一言が引き金となり、手勢の数人がアーツを起動するするとノレットの足が氷結される、動こうと思ったノレットがそれに気づいた時、手勢の者達は持ち込んでいたクロスボウや弓などの遠距離武器をアーツを込めて一斉に射撃した。

 

 チッとノレットは舌打ちして、自身の手を今攻撃が迫っている前方にかざした直後に術師により更なるアーツの追撃が行われ、爆破が生じた。

 

 黙々と煙が立ち込める中、手勢の者達は油断することなく武器を構え術師は次のアーツの準備を始めた、その後ろで玉座に構えるコシチェイはふうと息を吐いた。

 

(一人で乗り込んで来たのだから何かしら策でもあったと思ったが、無策だったか?私の警戒のし過ぎか?……それならそれで面倒が片付いていいが、次に来るタルラに何を言ってやろうか)

 

 次に来るであろう事態に思考を傾けながら煙が起きる方へと視線を見やる、数秒前と特に何も変わっておらず動いた気配も感じられなかった、周囲の者達は終わったかと思い始めた、瞬間

 

「これで終わり?じゃあ次はこっちからだ」

 

 瞬間、煙を斬り裂くように剣が一直線に術師に向かい術師を串刺しにした、それを合図に散りかけた煙から無数の銃弾が手勢に向かって降り注いだ。手勢は一斉に回避しようとするが重力衝撃波が突如として叩きつけられ行動を阻害され、そのまま降り注ぐ銃弾によって手勢は全滅した。

 【集中砲撃】【グラブティフォールド】

 

 そして煙から現れたノレットの前方には盾がノレットを守るように浮いており、左右には3つの銃身を持つ大口径の大型ガトリング砲が二つ、ガトリング式のガンポッドが二つ、銃剣一体のガンブレードが宙に浮いていた。

 【ウエポンマウント】

 

「いやあ、手洗い歓迎だったよ公爵、死んじゃったらどうしようかと思ったよ、けど君の手勢は死んだ、なら次に死ぬのは誰か分かるよね?」

 

「ふ、フハハハ、そうだな認めるしかないようだ、だがしかしだ私を殺してどうする気だ?」

 

 コシチェイは顔を歪める様に笑い、自身を殺そうとするノレットを見た。

 

「私を殺したとて他の者が黙ってはいまい、成り替わるとしてもだ他の者達が不振を抱き私の後釜になったタルラを疑うだろう疑われればこの領地は不安定となり、そして始まるのは他の貴族や軍部共からの干渉だ、あの腐った者共は不安定になった隙を見逃しはしないだろう」

 

「タルちゃんが貴方の遺した全てを継承するとは思えないけど?」

 

「それならばそれでいい、そんなものは全てタルラが手に入れるだろう、それにそうする事は私にとっても悪くはない、むしろ喜ばしいほどだ」

 

 最後の一言にノレットは何かを感じた、そう見逃してはいけない何かを。だから探ろうと口を開く

 

「タルちゃんは嫌がりそうだねその一言はさ」

 

「ああそうかもしれん、だがそれで良い、それこそがタルラを生まれ変わらせる一歩となり、タルラを私と似る喜ばしい一歩ともなる」

 

「タルちゃんが貴方にね、それはないと思うんだけど特に貴方に似るとか、全力で拒否するよ……けどその確信的な言い方だとバカにもできない、ならアーツしかないね、しかも大分特殊なタイプだ」

 

「ほう、何故そう思った」

 

「マインドコントロールや潜在意識への暗示催眠それらは貴方自身が対抗策をタルちゃんに教えたんだ、なら自然とそれが特殊なアーツだというのは想像がつくよ、それに貴方とタルちゃんは性根も含めて違うからね、似させるにはそれくらいしなきゃいけないだろう?」

 

「鋭いな、流石は今まで自身の能力を隠し通して能ある者と言うべきか?ああ、その通りだ私はタルラにアーツをかけたとも、もっともかけたアーツ自体の力は弱いのだがね」

 

 今命を奪うものが目の前にいるというのにコシチェイは余裕の態度を回復させて、ピンと背筋を正して玉座に収まっている、まったくこの弁舌家はとノレットは面倒だと心で思った。

 

「……なら何かしらスイッチがありそれを起点として強力な効果が発動するということかな」

 

「そこまで読むのか、ますますお前をタルラから引きはがさなかったことを後悔しているよ」

 

「まっ、貴方を近くで観察していればわかるよ、貴方のような人間が無意味に弱いアーツを行使しないってね」

 

 謎もある程度氷解した、故にノレットは自身が操る武器群をコシチェイの方へと向けた。コシチェイは観念したかのように肩を竦めた。

 

「良いだろう、さあ私を殺したまえ、そしてタルラと新しい一歩を踏み出すと良いだろう、だが最終的にタルラはこの国のウルサスの未来を手中に収めるだろう、その時お前がいてくれれば私は嬉しいのだがね」

 

「そう、でも残念だ公爵、君の言う未来はやってこない、ウルサスの未来もタルちゃんが手中に収めることはないよ」

 

「……なぜそう言い切れる?」

 

「僕はウルサスの各地を見てきたからだよ、戦争によって得た富をすべて使い切って貴族は腐敗し、軍部も近衞も過去の栄光にしがみついている、可笑しいよね戦争しかできなかった先帝を褒め称えて今に目を向けず、先のない戦争に目がくらんでる、それが強いウルサスを作るという幻想にしがみついてね」

 

「黙れ!お前が、ウルサスの何も知らないお前がウルサスを語るな」

 

「フフ、初めて怒ったねでも事実だろう?強いウルサスを戦争で作り上げる?バカバカしい結局破綻するだけだよ、そんな遺物の国家にタルちゃんを縛り付けるのはかわいそうだろだからさ」

 

 怒りに震えるコシチェイに向かって手を振り上げる、そして言う

 

「――タルちゃんが自由に行動させる為に、君を殺そう、君のアーツも時期に解けるしね」

 

 ノレットの言葉に何か叫ぼうとしたコシチェイだが、手が振り下ろされると同時に一斉に射撃が始まり、玉座の間で大きな射撃音が響く。

 その射撃の嵐はすさまじく、コシチェイの体はたちまちに穴が空き死の間際に全てがスローモーションに見えた、だからコシチェイには見えた、ノレットの後ろに輝く黄金の炎が。

【金色の魔法】

 

(なんだ、それは?いや、お前はダメだ!!)

 

 すべてが銃弾に呑み込まれ消えゆく意識の中で自身の企みを破滅させる者に強烈な敵意を示しながら、コシチェイの意識はフェードアウトした。

 

 そしてすべてが終わった後に玉座の間の扉が勢いよく開かれた。

 

「ノレット!何を勝手に…………これ、はどういうことだ……?」

 

 タルラは見た多くの死体が転がり、あの憎きコシチェイが玉座にこびりつく肉片になっているのを。そして玉座を見ていたノレットがタルラの方を見た。

 

「ああ、ごめんねタルちゃん、勝手に全部終わらせちゃったよ」

 

 申し訳なさそうにタルラを見るノレットにタルラは様々な感情が溢れ、しかし歯を食いしばりノレットの傍へと走った。そして傍に着くとノレットの腕を掴んだ。

 

「言いたいことは色々ある、だが今は逃げるぞ!」

 

「そうだね、行こうかタルちゃん」

 

 同意するように首を縦に振ったノレット、そしてタルラが先に走り始めるとチラリとノレットは玉座の方を見た後、すぐに走り出した。

 

 

 それからしばらく、二人は身を隠すこととなった。




NAME:「ノレット」
〇クラス:聖戦士 ミーム:グレズ ブランチ:マシンライフ
経歴:調和機械軍グレズによって人間を模して生み出された、戦闘型グレズ。無補給、無整備で戦闘を続けられるように作成されたため戦闘可能時間は無限である。
   カオスフレアに目覚める前は遊撃担当として宇宙各地にて神出鬼没に出現し、不利な戦況を覆しまくっていた、しかしとある戦闘にて負傷した際カオスフレアとして覚醒、覚醒後も暫くはグレズに留まっていたものの、思うところがあったのか今はグレズから離れ単体行動をしていた。

  テラにおいて柳生十兵衛が転移する前の年代に転移、その際偶然、城から脱走していたタルラと出会い、運命を感じてタルラをマスターとして認定し以後、コシチェイ公爵の許可を得てタルラの従者となりタルラの傍にいるようになった。
  そしてとあるコシチェイ公爵の謀略の折、コシチェイ公爵を殺害しタルラと共に脱走することとなる。
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