『呪詛師殺し』に手を出すな 外伝   作:Midoriさん

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忘れ物は拾い終わった。
だから家に帰るんだ。


第弐拾伍話

「やれやれ……二人とも無茶が過ぎるよ」

 

そこには夏油が立っていた。

後ろには七海もいる。

 

「「夏油様!」」

 

「呪霊を最速で飛ばしてよかった……よく頑張ったね」

 

伊地知から緊急で連絡を受けたときにはさすがに肝が冷えた。

特級相手なら瞬殺されていてもおかしくなかった。

必死に自分が来るまでの時間を稼いでもらったのだ。

ここで何もできないなんて無様は晒せない。

夏油は足を戻す真人を確認しながら思考する。

 

──さて、相手は特級。魂に触れ、その形を変えるなんて反則級の術式持ち。しかも、こちらの攻撃は魂を知覚しない限りノーダメージ。通常の攻撃が意味をなさない相手にどう戦う?

 

そこで夏油は小さく笑いを洩らした。

いるではないか、一番近くに。

通常の攻撃が意味をなさない相手。

『最強』の片割れが。

 

──絶対的な防御力を持つヤツが相手なら……。

 

いくつか方法はあるが、今の状況なら一番有効なものを選ぶべきだろう。

 

「七海、二人を頼んだよ」

 

「はい」

 

夏油は七海に二人を任せると余裕のある足取りで真人に向かっていく。

 

「何人増えたところで魂の形を保っているオレに攻撃は効かないよ」

 

「魂……ね。なら……こういうのはどうだい?」

 

夏油が空中に手をかざすと空間が歪み、そこから全身に痘痕(あばた)が浮かんでいる呪霊が這い出てきた。

特級特定疾病呪霊『疱瘡神』──天然痘に対する恐れを元に生まれた夏油が所有する特級呪霊のうちの一体。

特級には特級を、というわけだ。

疱瘡神が両腕を広げると同時に周囲の景色が一変する。

帳によって薄暗くなっていた空は更に暗くなり、校庭の砂は荒い砂利へ。

周囲には大量の岩が転がっている。

 

──領域展開……!?

 

そして次の瞬間、領域とはまた別の何かが真人を囲んだことで彼の視界は完全に真っ暗になった。

 

──閉じ込められた……?

 

続いて、ゴンッ、と上から巨大な何かが落ちてきた衝撃。

それとともに真人は自分を閉じ込めている箱状の物体が地面に埋まるのを感じた。

 

──なるほどね。

 

領域が墓場。

この箱が棺桶。

落ちてきたものが墓石。

つまり今、真人は埋葬されている状態。

そして、外から聞こえる「三、二──」というカウントダウン。

 

──いや、ゆっくり考えている暇はないか。

 

どんな術式であれカウントダウンはマズい。

ゼロになった瞬間に何か起こるとみるべきだ。

幸いにも棺桶の強度は出られないほどではない。

真人は右手を斧に変え、棺桶を破壊して脱出する。

 

「元気いいなぁ」

 

すると、地面から飛び出した真人の前に狙いすましたように拳を振り被った夏油が現れた。

 

「何かいいことでもあったのかい?」

 

特級特定疾病呪霊『疱瘡神』──その領域展開の必中効果は三段階に分かれている。

一、棺桶で対象を拘束。

二、上から降ってくる墓石によって棺桶を地面に沈めて埋葬。

三、(スリー)カウントダウンが開始。

ここまでが領域の必中効果。

そして、三カウント以内に棺桶から脱出できなければ対象は強制的に病に罹り死亡する。

しかし、夏油の本命はそこではない。

ここが()()()()()()ということが重要なのだ。

 

──七海が集めてくれた情報と私の考えが正しければ……。

 

夏油の拳が真人の顔面を捉えて殴り飛ばす。

それでも余裕の笑みを崩さない真人。

いくら殴られても魂に響かなければ関係ない。

 

「だから効かないって──」

 

だが、真人の言葉が突然止まる。

 

「は……?」

 

ぼたぼた、と。

真人の鼻から血が流れ落ちたのだ。

真人は信じられないような顔で流れ出る鼻血を見ていた。

 

──どういうことだ……?

 

今まで殴られようが蹴られようが血の一滴も垂らさず平然と立っていた真人。

それは彼が魂の形を保つことで、それに連動するように体も形を維持していたから。

そんな真人が血を流した(傷付いた)ということは──

 

──魂の形ごと殴られた……? いや、違う。オレが魂の形を保っていられなくなっているのか。

 

領域は五条の『無限』も含め、あらゆる術式を中和する。

当然、真人の『己の魂の形を強く保つ』という効果も中和できるのだ。

 

「私の家族に手を出そうとしたんだ。報いは受けてもらうよ」

 

「いいね……面白い──っ!?」

 

反撃しようとした真人だが、すぐさま棺桶で拘束される。

再び始まるカウントダウン。

 

──攻撃が効くとわかった以上、領域内で特級とまともにやるのは得策じゃない。だが、逃げようとしても──

 

「がっ……!」

 

棺桶から出た瞬間に夏油の拳が今度は真人の腹にめり込んだ。

そして、また棺桶によって拘束。

必中効果を付与された棺桶はかわせない。

無理矢理隙を作ろうとするなら夏油を倒さなければならないが、近接戦闘の技術、経験ともに真人は夏油に遠く及ばない。

 

──身代わりを作る隙がない……。

 

疱瘡神の領域と夏油の間断のない攻撃によって真人は魂の形状維持と変形が行えなくなっていた。

棺桶が破壊されてしまうため、本来の術式効果による真人死亡の可能性は限りなく低い。

しかし、それでもいい。

今この状況は完全な夏油の土俵(殴り合い)だ。

重く鋭い夏油の打撃が確実に真人の呪力を削いでいく。

狩る側であったはずの自分が狩られる側になっている──そんなことは真人にとって初めてだった。

 

──ああ、なんて……なんて新鮮なインスピレーション……!

 

「ふふ……ふふふ……」

 

──これが……『死』か……!

 

生物の終着点。

他人に与えるばかりで今まで真人が経験したことのないもの。

死がすぐそこまで迫っていた。

それと同時に真人は自らの感覚がこれまでにないほど研ぎ澄まされていくのを感じる。

もっと深く。

もっと広く。

術式を──魂を──己を理解したその先にあるもの。

そして、その見本が目の前にある。

 

──今ならできるよね。

 

真人の口が開く。

体の形を変えようとしても、それより先に棺桶に拘束されてしまうが()()ならどうだろう。

口内にあるのは結ばれた二対の手。

 

「領域展開──自閉円頓裹」

 

形成されるのは何本もの腕が絡み合った薄暗い領域。

必殺の無為転変は必中必殺へと昇華する。

死が迫る感覚を経験したことで真人は次の段階(ステージ)へ至ったのだ。

ゴリゴリと音を立てて疱瘡神の領域が押し返されていく。

 

「へぇ……疱瘡神の領域を押し返すか」

 

同じ特級という分類(カテゴリー)でも、そこには優劣が存在する。

生まれて間もないにも関わらず、真人の力は既に疱瘡神を超えていた。

呪霊は人間の負の感情から生まれる。

真人は人間が人間を憎み恐れた感情から生まれた呪霊。

他の呪霊とは呪いの純度や密度がまるで違う。

その上で新たに得た領域展開。

並の領域では歯が立たない。

真人は勝ちを確信し、佇む夏油を見下ろし嘲笑う。

 

「今はただ──君に感謝を」

 

「必要ないよ」

 

そして、夏油もまた笑っていた。

絶体絶命のこの状況でなぜ笑っていられる。

真人は首を傾げるが、その答えはすぐにわかった。

真人の領域が疱瘡神の領域を完全に押し潰したのと同時──黒い閃光とともに領域が木っ端微塵に砕け散ったのだ。

 

「は……?」

 

「さすが七海だね」

 

「無事ですか、夏油さん!」

 

呆然とする真人の視線の先には鉈を振り抜いた七海がいた。

領域は()()()()()ことに特化した結界。

内側の強度を上げている代わりに外からの攻撃には脆い。

そして、領域そのものを一つの物体として定義すれば十劃呪法の対象である。

加えて黒閃による強化──外からであれば領域と言えど破壊することなど造作もない。

 

「感謝はこちらの台詞だよ。()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()

 

夏油は真人に静かに笑いかける。

好奇心の強い真人のことだ。

新しい力を得たなら使いたくなるだろう。

 

「戦った感覚からヤツが領域展開を会得する段階(ステージ)まで上り詰めるのにそう時間はかからないと思いました。いや、もう既にその域に至っている可能性も考えたほうがいい」

 

里桜高校に来るまでの間に七海は夏油にそう伝えていた。

ならば逆にそれを利用させてもらうまで。

夏油の策──それは()()()()()()()()()

真人にわざと領域展開を使わせて消耗させた上で、二回目の領域展開によってトドメを刺す。

呪霊操術の強みは手数の多さ。

準一級以上──特級呪霊も複数使役できる。

それは術式だけではない。

()()()()()()()使()()()ということだ。

しかも自分の呪力を使わない上に連続で発動できる。

それはあの五条にすらできない芸当。

五条悟が『最強』なのではない。

五条悟と夏油傑が『最強』なのだ。

 

──やられた……! もう呪力が……。

 

領域展開で真人が呪力のほとんどを使ってしまっているのに対し、自身で領域展開をしていない夏油には十分な余力がある。

夏油が続いて取り出したのは二体目の特級呪霊──特級仮想怨霊『化身玉藻前』。

 

──しかし、ここが瀬戸際……振り絞れ、最後の呪力を!

 

玉藻前が領域を構築するその最中──真人の瀬戸際の集中。

領域展開によって真人の呪力は枯渇寸前。

しかし、僅かに残った呪力で真人は自らの体を瞬時に限界まで膨らませた。

そして、自ら弾けた勢いで領域が閉じきるより一瞬早く天井を越える。

 

「チッ」

 

七海が落下地点に走るが、ボロ布のようになった真人が排水溝に飛び込むほうが僅かに早い。

鉈は空振り、排水溝の蓋を砕くに止まった。

 

「夏油さん!」

 

七海の叫びにすかさず夏油が呪霊の大群を排水溝に放つ。

そして、七海と夏油もそのまま真人を追って地下へ。

真人がいなくなったことで帳が解除されたらしく、真っ暗な帳の隙間から晴天が顔を覗かせる。

消えていく帳を見ながら菜々子と美々子はグラウンドにへたり込んだ。

 

「生き残った……」

 

菜々子が自分の手を見ると、その手は小刻みに震えていた。

 

「ははっ……今になって震えがきてるんだけど……」

 

「私も……膝が震えて立てない……」

 

特級とやり合ったのだ。

死んで当然、手足が吹っ飛ぶくらいで済めば御の字──だというのにかすり傷程度で生き残ったのは奇跡的というしかない。

 

──危なかった。

 

今まで相手にしてきた呪霊達が可愛らしく見えるほどの格の違い。

あれが特級。

まさに化物だった。

だが、退けたことに安心してばかりもいられない。

まだやることが残っている。

 

「アイツ……拾いにいってやらないと」

 

◆ ◆ ◆

 

高専──霊安室。

 

「発見できず……ですか」

 

「最初から逃げの算段はついていたと見るべきだね。撤退の手際が良すぎる」

 

あの後、地下を虱潰しに探したが真人を見つけることはできなかった。

七海とともに地下水道の調査に赴いていた猪野に手伝ってもらったのにも関わらずだ。

やはり彼らは徒党を組んで動いている。

何かの目的のために計画的に。

その目的は今の時点ではわからない。

相手が動くまで待つより他にないだろう。

 

「吉野順平──彼はどうなりました?」

 

「悟がつれていったよ。非術師への攻撃……しかし彼の境遇を考えれば情状酌量の余地はあるだろう。生徒も教師も死亡者はいないし、何よりあの二人が揃って「助けてやってくれ」って言ってたからね」

 

「そうですか」

 

七海は夏油から視線を逸らして安置されている改造人間の遺体袋に目を遣った。

今回の件で菜々子が初めて殺した人間だ。

 

──この仕事をしている限り彼女達もいつか人を殺さなければいけない時がくる。しかし、それは今ではない──はずだった。

 

順平を助け、生徒と教師を助け、特級を退け、二人揃って生き残った。

成果としてはこれ以上ないだろう。

だが、菜々子が人殺しの一線を越えてしまった──その一点だけが七海の心を痛ませていた。

彼女達はまだ子供だ。

『呪詛師殺し』と夏油に鍛えられ、そこそこの場数も踏んでいる──しかし、だからといってそれで大人になれるわけではない。

人を殺すという行為。

彼女はその重みを今回身をもって知ったはずだ。

 

──最善策……ではあったのでしょうね。改造された人間は元には戻らない。私達もその場にいなかったし、特級と戦っている真っ最中に余計な時間をかけている暇はなかった。迷いなく殺すことが彼女達の命を救い、被害者を長く苦しませない唯一の手段だった。

 

七海は自分の手に視線を落とす。

昔──初めて人を殺した夜は一睡もできなかったのを覚えている。

それからしばらくは殺した相手の死に際の顔が頭の中から離れなかった。

だが、人間というのは()()()ものだ。

不快感は消えないが、一人また一人と殺すたびに動揺は薄れていく。

 

──術師は決して『善』ではない。いくら理由をつけても人殺しは人殺し。積み重ねていくたびに命の価値は曖昧になる。

 

七海は危惧しているのだ。

この先、彼女達が人殺しを続けることで壊れてしまわないか。

彼女達の信念を考えれば尚更その矛盾に苦しむのではないかと。

 

「『弱者生存』……元々はアナタがよく言っていた言葉でしたね」

 

「ん?」

 

「言われたんですよ。彼女達が吉野順平のところへ行くのを止めようとしたときに。ここで彼を見捨てたら何のために呪術師(私達)がいるんだと」

 

「ああ……術師には必要だからね。術師を続けていく意味が」

 

「意味……ですか」

 

「七海自身よく言ってるじゃないか。「呪術師はクソだ」って。その通りだよ。だから信念という寄瀬がないとやってられない」

 

『弱者生存』や『良心』あるいは『最強』──何でもいい。

ブレないための指標。

何のために。

誰のために。

何をおいてもそのために行動できるだけの理由が。

 

「監督不行き届きだった──なんて自分を責めるなよ、七海。あの子達はちゃんと自分で考えて動いたんだ」

 

七海に啖呵を切ったあの時に菜々子達は腹を括ったのだ。

命を懸ける覚悟を決めた。

人を殺す覚悟を決めた。

呪術師としてこれからも前に進むために。

 

「今回の件、先日の悟への襲撃の件と合わせてあの人に伝えておいてくれ。特級が徒党を組んで動くなんてただ事じゃない」

 

「はい」

 

◆ ◆ ◆

 

「戻れって言ったのに。結局こっち来たんだ」

 

「うん。どの道もうあそこにはいられなかったから」

 

セミの鳴き声が響く中、菜々子と高専の制服を着た順平が隣り合って階段に座っていた。

今日──交流会の前日に五条から急に呼び出しがあったのだ。

曰く、特級を退けた二人へのご褒美がある、と。

あの五条からのご褒美なんて絶対にロクでもないものに違いない。

どこかの部族のお守りだとか、食欲が失せるような奇抜な味のお菓子だとか、誰も着ないような壊滅的センスのプリントがされたTシャツだとか、そんなところだろう。

しかし、呼び出されたなら無視するわけにもいない。

重い足を引きずって渋々職員室に行ってみれば、そこにいたのは困ったように笑う順平と、『ドッキリ大成功!』という札を掲げる五条(バカ)

 

「転校生の吉野順平君でぇーっす!」

 

ハイテンションな五条と対照的に、二人の顔から一切の感情が消え去った。

 

「……吊るしていい? 菜々子」

 

「……いいよ。美々子」

 

場を冷えきらせた五条(バカ)を美々子が首に縄をかけて引きずっていく。

当然、無下限に阻まれて縄が五条の首に食い込むことはない。

 

「それじゃ……私達はあっちで話そうか」

 

そう言って菜々子は順平を高専の一角までつれてきたわけだが。

 

──あそこまで派手にやればね……大半は誤魔化せても目撃者がいたし。

 

菜々子は自分のスマホに目を落とす。

映されていたのは里桜高校でのイジメに関する記事。

あの担任もアレを見てようやく教師らしい働きをする気になったらしい。

自身も何らかの処分は免れないだろうが、それは今まで放置してきた分の罰だ。

精々噛みしめてもらわなければ。

 

「何で高専(ここ)に? 普通に過ごすって選択肢をあげたつもりだったんですけどぉ?」

 

「あの白髪の……五条って人に言われたんだ。「誰かを守りたいなら力の使い方を学べ」って」

 

「チッ……あの目隠し(バカ)……」

 

菜々子は思わず舌打ちを洩らす。

せっかくの説得が水の泡ではないか。

五条のことだ。

どうせ、使えそうだから、とかそんな適当な感じで声をかけたのだろう。

どこまでも自己中心的というか唯我独尊というか。

 

「凪さんもさぁ……いきなり息子が私立の宗教系の学校行きたいとか言い出したんだから怪しめっての」

 

菜々子は小さくため息を吐いた。

凪はどこまでも楽観的というか慎重な順平とはまるで対極なのだ。

もう少し考えてくれと言うべきなのか、信用されていることを喜べばいいのか。

 

「母さん、昔言ってたんだ。学校なんて小さな水槽に過ぎない。海だって他の水槽だってある──好きに選べばいいって」

 

「水槽か……」

 

言い得て妙である。

たまにいるのだ。

濁った水でしか生きられない生き物がいるように普通の生活では生きられない人間が。

菜々子の頭をチラリと過ったのは恩人である彼女の顔。

望んだわけでもないのに彼女は呪術界という腐った水槽に放り込まれてしまった。

そして、幸か不幸かそこで生きることができてしまった。

 

──出ようとしても出れない人間がいる一方で自分から飛び込んでくるヤツもいる……か。

 

「呪術師は正義の味方でも警察でもない。呪って呪われて人知れず死んでいく──そんなクソみたいな仕事でさ。こっちの世界は人の命が塵みたいに軽いんだよ。自分のも他人のも。昨日まで普通に喋ってたクラスメートが今日は死体になって転がってるなんてことも時々あるわけ」

 

事件、事故、病気──人は様々な原因で死んでいくが、術師の死亡率はそれの比ではない。

自ら危険な場所に赴いているのだから当然のことではあるのだが。

祓えなかったとして楽に死ねるなら御の字。

ぐちゃぐちゃにされても死体が見つかればまだマシ。

遺体がないこともザラにある。

そこまでの危険を犯して呪霊を祓っても公に自分達の存在が明らかにされることはない。

ここまで不快な仕事もないだろう。

 

「今回、アンタを助けられたのは運がよかっただけ。またアンタが危機に陥ったとき助けてあげられる保証はない」

 

だから強くなってよ、と菜々子は言う。

皮肉にも真人によって開花された才能がある。

まずはそれを徹底的に鍛え上げる。

命懸けで一度助けた命だ。

早々に散らされるのも気分が悪い。

 

「まずは明日の交流会で勝つ。そうすれば自信もつくでしょ」

 

「その交流会って……」

 

「殺す以外何でもありの呪術合戦。いきなりハードモードだけどね」

 

ヒクヒクと順平の顔が引き攣り、血の気がひいていく。

順平の実戦経験は里桜高校で菜々子とぶつかったあの一回だけ。

しかも、交流会は明日ときた。

 

「ビビってんじゃねーよ」

 

いくら何でも無茶だと俯きかけた順平の胸ぐらを菜々子が掴んで顔を上げさせる。

ハッとして順平が菜々子を見ると、その目は真っ直ぐに順平を見ていた。

 

──今のコイツには自信になるような実績がまるでない。

 

それでも呪術界に飛び込むだけの度胸はある。

必要なのは覚悟だ。

呪術師としてやっていくためのブレない覚悟。

何のために高専(ここ)へ来た。

何がしたい。

何が欲しい。

何を叶えたい。

 

「Do or do not. There is no try.*1──アンタなら知ってるでしょ」

 

「────!」

 

『やってみる』という選択肢はない。

『やらない』という選択をするなら今すぐ出ていったほうがいい。

ここに留まるというなら順平に残された選択肢は『やる』しかない。

大切なものを守れる力を──そのために順平は来たのだから。

覚悟を決めた顔で頷いた順平に菜々子はニヤリと笑って見せた。

 

「ようこそ、呪術界(地獄)へ。歓迎するよ、()()

*1
スターウォーズ/帝国の逆襲

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