『呪詛師殺し』に手を出すな 外伝   作:Midoriさん

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映画よりも遥かに刺激的な世界でしょ。


第弐拾漆話

東京校サイドミーティング──

一年生──恵、釘崎、菜々子、美々子。

二年生──真希、棘、パンダ、そして順平。

三年生は停学中のため、この八名が東京校のメンバーである。

 

「で、どうするよ。団体戦形式は予想通りだがメンバーが増えちまった。しかも、つい最近まで一般人だったド素人」

 

「そうだなぁ。順平、オマエ何ができるんだ?」

 

「えっと……僕の術式は毒です。式神を通して相手に服毒させる感じで……」

 

「いい術式(モン)持ってんじゃん。元々は恵かオレが索敵だったんだが、恵は東堂の足止めしなきゃならんからな。式神使えるなら大歓迎だ」

 

「それじゃ配置は──」

 

東堂の足止めは恵。

パンダ班は真希、釘崎の三人一組(スリーマンセル)

順平は菜々子と二人一組(ツーマンセル)

棘と美々子は玉犬・黒と共に呪霊狩りに専念してもらう。

 

「東堂は間違いなく直で恵を叩きにくる。他の連中は人数で劣る分、極力戦闘は避けて呪霊狩りに専念──って作戦が定石(セオリー)だろうが……」

 

「あっちはオレら以上にまとまりないからなぁ」

 

「しゃけしゃけ」

 

楽巌寺なら恵には手を出すなというだろうが、東堂がそんな指示を聞くわけがない。

そして、加茂と真依も性格的に真希に突っかかってくる可能性は十分ある。

御三家の血筋は色々と面倒なことが多いのだ。

西宮、三輪、メカ丸は情報がないため何とも言えない。

 

「ん?」

 

三人が話しているのを見ていた菜々子の袖が不意に引かれる。

振り返ればそこにいたのは順平だった。

 

「あの……さっき紹介されてた『呪詛師殺し』って人って……」

 

彼女が現れた途端、場の空気が変わったのは順平でもわかった。

声を荒げたわけでもなく。

何か武器を持っていたわけでもない。

ただそこに立っている──それだけで。

周りの空気が異様な緊張感を漂わせていた。

逆に彼女だけは平然と五条と話していて、その対照的な雰囲気が妙に印象に残っている。

だが、そんな印象も菜々子の言葉で木っ端微塵に吹き飛ぶことになった。

 

「ああ、順平は知らないんだっけ。あの人は──」

 

そして、菜々子の口から語られたのは、まるで映画の中のような──いや、映画以上にぶっ飛んだ彼女のこれまで。

信じられないような話だが全て事実だという。

一つでも選択肢を誤れば死ぬ──そんな環境に彼女は身を置いてきた。

そうするしか生きる道がなかったから。

 

「死ぬことはしたくない。でも、殺し屋として生きなきゃ殺されるしかない。更に救いがないのはそうやって殺し屋として生きたせいで表の世界では生きられなくなった」

 

殺さなければ死ぬ。

死にたくないから殺す。

殺せば報復を企む連中が出てくる。

狙われるから殺す。

先手必勝とばかりに敵対勢力を叩き潰す。

その噂が広がり、もしかしたら自分達にも牙を剥くかもしれないと考えた敵が襲撃をかけてくる。

また殺す。

その繰り返し。

 

「その気になれば自分達を容易く殺せるような人間を放置ってのは無理でしょ」

 

彼女は基本的に敵対しなければ何もしない。

だから『手を出すな』と言われている。

しかし、敵対しなければ何もしないというその保証はどこにあるのか。

裏切り、騙し討ちが当たり前の裏の世界で信頼や信用など塵に等しい。

殺してしまわなければ安心できない。

『呪詛師殺しに手を出すな』──この共通認識ができて以来、孔の働きかけもあって以前ほど襲撃はなくなった。

だが、それも完全ではない。

襲撃がないということは彼女を狙う者がいなくなったこととイコールではないのだ。

隙あらば──と考えている連中は多いだろう。

彼女のことだけはどうにもならない。

五条や甚爾でも。

恵ですら。

 

「呪術界の上は真っ黒だから、高専もあの人を狙う連中の一角なんだよ。あのピリピリした空気はそういうこと」

 

菜々子の話が終わっても順平は衝撃のあまり固まったまま動かない。

東京の山奥に来ただけで、これほど世界は変わるのか。

殺し屋だの、裏の世界だの、普通に暮らしていればおよそ縁のない言葉のオンパレード。

呪術に触れてまだ日が浅い順平が受け止めるにしては少々重すぎた。

 

「おーい? 順平? 聞いてる?」

 

「どうしたの? 菜々子」

 

「順平が『呪詛師殺し』様のこと聞くから教えたら固まったまま動かなくなった」

 

「ついこの間までパンピーだった順平に、あの人の話は刺激が強すぎると思う」

 

「えぇー……これって私が悪いの?」

 

二人が何か話しているのを見ながら順平は改めてここが今まで自分が生きてきた世界とは違うのだと思い知らされた。

 

──僕……これからやっていけるのかな……。

 

だが、順平はまだ知らない。

呪術界がいかにぶっ飛んだものかということを。

 

「もう一つ教えておいてあげるけどさ。今回の交流会、さっきから言われてる東堂にはマジで気をつけなよ」

 

「えっと……どういう人なの?」

 

「順平にわかりやすく言うなら……筋肉モリモリマッチョマンの変態*1

 

「……本気で言ってる?」

 

◆ ◆ ◆

 

京都校サイドミーティング──

 

「伏黒恵──アレには手を出すな」

 

開口一番、楽巌寺は厳しい顔でそう告げた。

 

「知っての通りアレは呪術界の地雷。鬼子だ。その上、今回は『呪詛師殺し』本人が見ている」

 

面白半分にとんでもないことをしてくれたものだ。

楽巌寺の手は杖の持ち手を砕かんばかりに握りしめられている。

敵対してきたもの、自分にとって不利益なものをことごとく叩き潰す暴力装置。

後ろ暗いことを積み重ねてきた上層部にとってこれほど面倒な相手もない。

しかも、金で買収することはできず、人質さえ無意味。

何が敵対のきっかけになるかわからない以上、この交流会すらただのレクリエーションと軽視できなくなってしまった。

 

「もはや交流会の勝ち負けにこだわっている場合ではない。片八百長になっても構わん。悪戯に刺激せずやり過ごし──」

 

「下らん。オレは勝手にやらせてもらう」

 

しかし、真っ向から歯向かう者が一人。

やはりと言うべきか東堂である。

三年生の最後の交流会──それを八百長で終わらせるなどありえない。

それにあれほど面白いヤツ(伏黒恵)がいるのにその相手はするなという。

話にならない。

 

「待て、東堂。学長の話の途中だ。戻れ」

 

派手に障子を蹴り飛ばして東堂が足音荒く部屋を出ていこうとするのを加茂が止める。

 

「女の趣味の悪い、そして頭も足りねぇオマエらに一つだけ忠告してやる。爺さんもよく聞け」

 

しかし、東堂は憤怒の表情で振り向いた。

 

「あんまりオレのライバルをバカにすんなや──

殺すぞ」

 

禪院家の血筋。

あの五条悟に目をかけられている。

『呪詛師殺し』に鍛えられた。

一級で入学した天才。

だが、それで生き残れるほど呪術界は甘くない。

いくら名家の血筋だろうと、師が強者であろうと、一級の肩書きを持っていても、戦いの場に立てばそこにあるのは勝つか負けるか──生きるか死ぬかという選択肢だけだ。

 

「負けたからって親に泣いて縋り付きにいくような腑抜けか伏黒恵(アイツ)は? そう見えたんなら全員揃って眼科にでも行ってくるんだな」

 

そんな男ならこの世界ではとっくに死んでいる。

今度こそ東堂は用は済んだとばかりに部屋を出ていった。

 

「どうします? あの様子じゃ作戦行動なんて無理ですよね? 学長もどこか行っちゃったし……私、あの人に殺されたくないですよ。それに『呪詛師殺し』さんにも」

 

「放っておけばいいんじゃないかな。どうせアイツは伏黒君一直線だろうし。勝手に暴れてくれるなら私達は呪霊狩り(ゲーム)に専念すれば」

 

「いくら東堂(あの人)でも殺すまではやらないでしょうしね。それに伏黒君が殺されるとも思えないし」

 

「いざというときは東堂自身に全責任をとってもらう……カ」

 

東京校も東堂の強さは知っている。

恐らくあちらも東堂の足止めとして恵をぶつけてくるということは容易に想像できた。

互いの最高戦力が封じられる形にはなるが、元々こちらは恵とまともにやり合うつもりはないし、東堂にチームとしての動きは期待していない。

人数は不利だが、東京校は半分以上が一年生。

実戦経験や術式の練度は二年生、三年生で固めているこちらに分がある。

何より上空から索敵できる西宮が二級呪霊(本命)を見つけてしまえばいい。

 

「あくまでも目標は呪霊の討伐だ。全滅を避けるために呪霊以外との戦闘は控えてくれ」

 

──と言ったところで聞くかは怪しいが。

 

禪院家、加茂家、そして東堂と有名どころが揃っている京都校だが、個性が強すぎてまとまりがないのが玉に(キズ)であった。

*1
コマンドー

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