「真希は交流会で何使うつもり?」
「いつもの大刀だよ。私の階級じゃ持ち出せる呪具はあれが限界だしな」
呪霊を視認できるほどの呪力も持たない真希にとって呪具は生命線。
しかし、基本的に持ち出せる呪具の階級は術師の階級によって制限されている。
四級の真希では持ち出せる呪具がかなり限られてくるのだ。
それじゃこれ、と『呪詛師殺し』は手に持っていたものを投げて寄越す。
「貸してあげる。私の知り合いが作った呪具なんだけど」
真希が受け取ったのは一振りの刀。
「振ってみてもいいか?」
「どうぞ」
『呪詛師殺し』が下がったのを確認して真希は短く息を吸うと、ダン、と力強く踏み出した。
振り下ろし、切り上げ、横薙ぎ──真希は舞うように滑らかな動きで刀を振る。
「フッ!」
最後に突きを放って真希は姿勢を戻した。
振った感触は問題ない。
大刀に比べてリーチは短くなるが、そのぶん室内などの狭い場所で取り回しやすいのもいい。
「気に入った。でもいいのか?」
「作者曰く、武器は実戦で使ってこそ──らしいからね」
「なら遠慮なく使わせてもらうよ」
大暴れしてきなよ、と笑う『呪詛師殺し』に真希も、おう、と笑って返した。
◆ ◆ ◆
「──っと」
物理法則を無視して自分を追尾してくる矢。
しかし、真希の動体視力をもってすればかわすことは容易い。
かわされた先で方向転換して背後から迫ってきた矢も、きっちり叩き落とす。
チラリと視線を落とせば矢尻には少量の血液が付着していた。
「乱発し過ぎて貧血で倒れても知らねぇぞ」
「心配いらないよ。これらは全て事前に用意したものだ」
そう答えたのは京都校三年の加茂。
赤血操術──自身の血液と、それが付着したものを操る加茂家相伝の術式。
先ほどの矢がめちゃくちゃな軌道を描いて飛んできたのも加茂の術式によって操作されていたからだ。
──こっちは近接特化だが、あっちは全距離対応型だからな。距離とられると厄介なんだが……。
「わざわざ近接で挑んでくるとか喧嘩売ってんのか?」
「別に? こちらのほうが勝率が高いと踏んだだけのことだよ」
最後の矢を放った途端、弓を捨てて高速で肉薄してきた加茂の掌底を布で覆った刀身で受け止める。
──赤鱗躍動……血中成分を操作してドーピングするんだったか。
血液を操るということは形状や運動だけではない。
体温、脈拍、血中成分などの操作も術式の範疇である。
呪力による強化と術式効果により加茂が繰り出す殴打は威力もスピードも通常より桁違いに跳ね上がっていた。
だが、真希も刀一本で難なくそれに対抗してみせる。
──天与呪縛……術式もなく、呪力も一般人程度の微弱なもの。その代償として手に入れたのがこの人間離れした身体能力か。
決定打がないまま数合ぶつかったところで二人は同時に後ろに飛んで距離をとった。
「呪力が非術師並とはいえ、ここまで立ち回れるとはね」
「やっぱり
「指南役……『呪詛師殺し』……か」
彼女の話題が出た途端、加茂は不快感を示すように眉を潜めた。
「私個人としての判断だが……彼女は粛清すべき人物だと思っている」
「あ?」
「彼女は呪術界にとって脅威でしかない。高専が敵対するなら叩き潰すと公言している上に、それができるだけの実力が彼女にはあると聞いている。確かに彼女によって呪詛師の活動は抑えられているが、そのために彼女のような裏の人間に頼っているのは由々しき事態だ」
今のままでは呪術界の根幹が揺らぎかねない。
ゆえに粛清しなければ。
それが御三家──加茂家の人間として正しい判断だと思っている、と加茂は言い切った。
「そんなに家が大事かねぇ」
「君も同類だろう。理解できるはずだ。禪院家当主になると息巻いていたじゃないか。もっとも未だに四級術師のままらしいが」
「同類じゃねーし、うるせーよ」
純粋に実力だけで評価するなら真希は最低でも二級術師上位の実力はある。
準一級術師である加茂と渡り合えているのが何よりの証明だ。
しかし、高専入学から一年半は経つというのに真希の階級は
それはなぜか。
禪院家からの妨害である。
術師の昇級は推薦制なのだが、禪院家が圧力をかけているため、真希を推薦する術師がいないのだ。
「肩書きがどうであれ、それでも文句を言わせねぇくらいの実力があれば問題ねぇだろ」
それに──と真希は続ける。
「あの人は呪力のねぇ私をバカにすることも侮ることもなかった。それどころか呪力がなくても立ち回れるやり方を懇切丁寧に教えてくれたよ」
状況に応じた武器の使い方。
無駄に体力を消耗しない足運び。
長時間動ける呼吸のやり方。
攻撃力を増すための力の込め方。
ダメージを最小限に抑える防御術。
基礎から応用まで徹底的に。
「術師は日々鍛えた身体を呪力で強化して戦う。真希──君の得た力など小細工に過ぎないんだ」
「ハッ……小細工っつーなら、さっさと倒してみろよ。私も倒せねぇお前にあの人が倒せるとも思えねぇが……何かしようっていうなら私はあの人の側につくぜ? 」
それが禪院家次代当主として正しい判断だと思ってる──と先ほどの意趣返しのように真希は言った。
「いいさ。それが君にとっての真実なら押し通せばいい。私は私の真実を信じるだけだ」
「言われるまでもねぇよ。我を通すのが呪術師だろ。他人の理解なんて最初から求めてねぇっての」
真希は刀の柄を握り直し、加茂も再び拳を構える。
二人が再び衝突しようとした──そのとき。
「「────!?」」
突如、建物の外から爆発音にも似た轟音が響く。
──何だ? 爆発? いや……違うな。
真希の常人離れした聴覚に雪崩れ込む破砕音。
それに混じるミシミシと何かが軋むような音。
何かが広範囲に渡って広がっていくような。
そして、その音はこちらへと近付いてきている。
何かおかしい──真希はすぐさま真横の襖を蹴り飛ばして部屋に入ると窓際まで駆け寄った。
加茂もそれに続く。
そして、二人が外を覗くと──
「「なっ……!?」」
そこにあったのは人の背丈を優に越える巨大な木の根。
それがまるで津波のように押し寄せてきていた。
「何だこれは……!?」
真希の隣で加茂も混乱した様子で声をあげる。
加茂が知らないということは京都校の術式ではないようだ。
当然、東京校にもあんな木の根を出せるような術式持ちはいない。
なら、これはどういうことだ。
考えに耽りそうになるが、木の根から逃げる棘と美々子が見えたことで一旦思考を中断する。
「棘! 美々子!」
その声で棘も真希達に気付いたようで、こちらに視線を向けた。
そして、棘は普段は術式の都合上滅多に出さないような大声で思い切り叫ぶ。
「『逃げろ』!」