『呪詛師殺し』に手を出すな 外伝   作:Midoriさん

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忘我の境地に至ったとき──黒い火花は現れる。

【挿絵表示】



七海建人
BLACK FLASH


「やあ」

 

「……どうも」

 

高専での野暮用を終えて談話室に足を向ければ、そこには七海が一人でソファに座っていた。

 

「今日は呪詛師の引き渡しですか?」

 

「そう。ああ、ここいい?」

 

一声かけて七海の対面のソファに腰を下ろす。

 

「引き渡しはもう終わったんだけど、さっき灰原君に会ってね。「何か七海が悩んでるらしいから話を聞いてやってほしい」って言われてさ。自分じゃ「何でもない」ってはぐらかされそうだからって」

 

「灰原が……」

 

「彼、術師には珍しいタイプだよね。根っからの善人。いずれ私が君達の敵になるかもしれないのに」

 

そう言った途端、七海の顔が僅かに強張った。

彼はちゃんとわかっているのだろう。

恵のことをきっかけに高専に出入りする機会は増えたが、私の立場は以前と変わらずフリーのままだ。

高専の味方というわけではないし、敵対するなら容赦なく潰す。

それは灰原にも伝えたのだが──

 

「そう言ったら「人を見る目には自信があります」だって」

 

裏の人間相手に何を言っているのだ。

しかし、あんな真っ直ぐな目で自信満々に言われては笑うしかなかった。

あそこまでの根明は呪術界では滅多にいないだろう。

 

「話してみなよ。他言無用は約束するから」

 

七海は一瞬だけ息を飲んだが、やがておずおずと口を開いた。

 

「昔から常々思っていたんです。もう術師は五条さん達だけでいいんじゃないかと。私達がいても足手まといにしかならない」

 

「あー……そういうこと」

 

星漿体の件で情報収集をしたときからわかっていたことだ。

五条は一人で動いたときのほうが圧倒的に強い。

『蒼』も『赫』も周りに味方がいる状態では全力で放つことができない。

体術と六眼による精密な呪力操作で大抵の敵は制圧できるだろうが、それでも五条が最大火力を使えないというのは敵にとっては大きなメリットだ。

 

「もしかして術師辞めるつもり?」

 

「続けますよ。ただ……モチベーションが下がってしまうのを危惧しているだけです。追い付けるとは思っていませんでしたが、ここまでとは……」

 

あれほど圧倒的な存在が間近にいればどうしたって比べてしまう。

モチベーションを保てというほうが無理だろう。

かつて夏油が精神的に病んでいたとき、その原因の多くは疲労や凄惨な現場を見続けた影響だったが、五条への劣等感も少なからずあったはずだ。

二人で『最強』──しかし、五条と夏油を比べるなら総合的には五条に軍配があがるだろう。

それでも夏油は五条に正面から物を言えるうちの数少ない一人だし、呪力なしの純粋な体術、武器術のスキルは夏油が僅かに勝る。

 

「確かに君には既に一流の戦闘技術がある。経験も知識も十分で臨機応変な立ち回りもできる。加えて人や場を俯瞰的に観察する冷静さもある。実力は一級術師の中でもトップクラス。

だけど──そこ止まりだね」

 

「…………」

 

「君は自分の実力を正確に理解している。その上限も。だから無理をしない。無理をしてもそこから先はないとわかっているから」

 

僅かに七海が歯を食い縛った。

しかし、彼は何も言わない。

私が話していることが紛れもない事実だとわかっているからだ。

特級が術師の格付けから斜めに外れた位置付けだと言われるように、五条達(特級)七海達(一級)の間は一級と準一級の差の比ではない。

絶対的で圧倒的──一級のトップであっても特級には遠く及ばないのだ。

 

「もしも領域展開のことを考えてるなら君にはアレは向いてないと思うよ」

 

「なぜです?」

 

「んー……そもそも領域展開の仕組みってわかってる?」

 

「術式を付与した生得領域の具現化……です」

 

「その通り。生得領域は『心の中』と言い換えてもいい。それを現実世界に引っ張り出してくるわけだから、強烈な()の強さがいるんだよ」

 

そう、例えば五条のような。

あれほど天上天下唯我独尊という言葉が似合う人物もいないだろう。

極小とはいえ世界の書き換え。

生半可な意識では成り立たない。

七海の常識者な部分が逆に邪魔になってしまっているのだ。

 

「やはり……私はここで頭打ちですか」

 

ちらり、と視線を落とせば七海の膝に置かれた拳は固く握りしめられていた。

 

──いくら現状を正しく見ていても、理性と感情は別ってことだよねぇ……。

 

いや、周りが()()では仕方ないことかもしれない。

甚爾との特訓で五条は反転術式や領域展開まで修得した。

夏油も以前とは比べ物にならないほどに鍛え上げられ、呪霊操術と組み合わせて近距離から遠距離まで全てが攻撃範囲という化物染みた戦闘力になっている。

その結果、ますます七海は格の違いを思い知らされたのだろう。

以前、産土神の件で七海は己の弱さを自覚した。

だからこそ必死で鍛えてきたのに五条達はそれ以上に先へ行ってしまう。

 

──せめて後もう一歩先へ……ってところかな。

 

七海は冷静に見られる反面、胸の内は意外と感情が素直だ。

必要なのは自信だろう。

『最強』を前にしても揺らがないような絶対的な自信。

 

──またいつも通りのお節介か。

 

どうしたものかと逡巡する。

七海の長所を生かし、更に伸ばす方法。

 

「一つ……君が今より先へ行く手がある」

 

「今より先へ行く手……?」

 

「『()()』だよ」

 

『黒閃』──0・00000一秒以内に打撃と呪力が衝突した場合、呪力が黒く光る現象。

黒閃を発した攻撃の威力は平均で通常時の二・五乗にまで強化されるという。

平均で、だ。

もしも七海が全力で黒閃を放つことができたなら。

『最強』も無視できない火力を出せる──かもしれない。

しかし、七海は首を横に振った。

 

「黒閃を狙って出せる術師はいませんよ」

 

人間は刺激を受けて反応するまでにコンマ一秒かかると言われている。

それでは遅すぎる。

黒閃の経験がある者は何らかの極限状態で放った一撃が()()にも黒閃になった──そういうパターンが多い。

 

「まあね。でも、黒閃を()()()()()()は高くできる」

 

「───!」

 

「君は目はいいんだよ。動き回る呪霊の七:三の点を正確に斬れるくらいなんだから」

 

七海の術式──十劃呪法。

対象を線分したときの七:三の点に攻撃を当てることができればクリティカルヒットとなり、格上にもそれなりのダメージを与えることができる。

ただし、()に攻撃を当てるというのはそう簡単ではない。

呪霊が止まっていてくれるわけもないし、そもそも姿形が人や動物でないこともザラだ。

相手の動きを見切り、正確に打ち込む高い技術が要求される術式。

 

「その正確さを極限まで高めて僅かでも発動のチャンスを増やす。元々の攻撃力と術式のクリティカルヒットに加えて黒閃による強化──威力は今までとは別次元になるだろうね」

 

インテリ風に見られがちな七海だが、実際はゴリゴリの武闘派である。

普段は刀身を呪符で覆った鉈を使っているが、素手でも並の呪詛師なら圧倒できるほどの。

素の力、術式、呪力操作による強化──基礎は十分過ぎるほどにできている。

後はいかにして完全に威力を引き出すかだ。

 

「そして重要なのは黒閃の直後、術師は一時的にゾーンの状態になるってこと」

 

フロー状態、忘我状態とも言われる極限の集中力を発揮している状態。

普段、意図的に行っている呪力操作が呼吸のように自然に廻り、自らの潜在能力(ポテンシャル)を百パーセント以上に引き出せる。

 

「ねぇ、七海君。『最強』に一泡吹かせてやりたくない?」

 

◆ ◆ ◆

 

談話室から場所を変え、私と七海は高専の修練場にいた。

 

「精度を上げるとは言ったけど、人間の身体の挙動は無意識に動いてる部分が多いからね。頭の中で描くイメージと現実が僅かにズレるんだよ」

 

人間の行動は九割以上が無意識に行われているという。

細かな筋肉の緊張、弛緩もその一つ。

 

「例えば武器を振るとき、ずっと同じように力を籠めてるわけじゃないでしょ。一番力を籠めるべきタイミングは?」

 

「攻撃が相手に当たる瞬間です」

 

「オーケー。まずはインパクトに合わせて完璧に力を籠めることから始めようか。()()()、だ」

 

寸分の狂いなく。

イメージと現実を合致させる。

文字通り思うままに動けるように。

 

「けど、今言った通り細かい力加減は無意識な動きだからね。意識して合わせようとしても無理なわけ」

 

「では……」

 

「意識無意識は私の領分だよ。私の術式で君のイメージと動きを補正する。ああ、術式の内容は他言無用ね」

 

イメージと動きを完全に合致させ、その上で七海には『攻撃』のみに意識を集中してもらう。

力の籠め方、術式、呪力操作──雑念を捨てて持ちうる技術の全てを敵にぶつけられるように。

 

「どうせ実戦で使えなきゃ意味ないし、対人形式でやろうか」

 

袖に仕込んであった二振りのナイフを両手に握る。

 

「アナタが相手……ですか」

 

「不満かな?」

 

「いえ、お願いします」

 

七海の正面に立って対峙する。

談話室からここまで十分な時間は経っている。

術式を発動──七海の思考を『攻撃』の一点に集中。

そして、その思考も意識(マニュアル)から無意識(オート)へ切り替え。

七海の意識は奥底へ沈み、しかし身体は敵を倒すため無意識のまま動き続ける。

理性という枷を外され、闘争本能を剥き出しにされた七海。

ここから先、彼の攻撃には一切の加減も躊躇もない。

 

──さて、いってみよう。

 

そして、私達は同時に床を蹴った。

七海は間合いを詰めると最速の動きで斬り込んでくる。

 

──速いね。これが七海君の全開か。

 

繰り出された袈裟斬りをナイフで受ける。

催眠の補正で、いつもよりずっとスムーズに動けているだろう。

最終的には百パーセントの力を籠めた斬撃に百パーセントの呪力を乗せるのが目標だ。

 

──斬撃の精度を上げろ。

 

七海の斬撃を弾く。

まだ黒閃には至れない。

 

──もっともっと呪力を研ぎ澄ませ。

 

七海の斬撃を流す。

インパクトの瞬間、ナイフをズラして術式すら発動させない。

 

──呼吸、体重移動、視線、呪力の流れ。

 

七海の斬撃を逸らす。

力を別方向へ逃がされてしまえば威力は大きく落ちる。

まだ甘い。

 

──五感全てをフル稼働させて状況を把握。

 

七海の斬撃を往なす。

前後左右に高速で切り返し、七海が体重移動するタイミングに合わせて体勢を崩す。

更に感覚を尖らせなければ私には届かない。

 

──先の動きを読みきれ。

 

七海の斬撃を避ける。

いくら強力でも当たらなければ意味がない。

だが、七海は避けられた瞬間に一歩踏み込んで追い縋ってきた。

 

──そして最大限の力を籠めて。

 

七海の斬撃を捌く。

すると、七海は最大限取り入れた情報を瞬時に分析──最速で必要最小限までカット。

小刻みに入れたフェイクすら看破して最短で私が動く先に回り込んできた。

その反応速度はまるで野生の獣だ。

集中は極限の領域へ至っている。

今こそ登れ──高みへ。

 

──斬ってみろ。

 

攻撃を防がれるたびに七海は行動を最適化し、無意識下で微調整を幾度となく繰り返す。

そして、何合斬り合った頃だろうか。

ゾクッ──と不意に悪寒が走る。

鉈を受けようとしていたナイフを咄嗟に手放した──その瞬間。

黒い火花とともに鉈とぶつかったナイフが木っ端微塵に砕け散った。

 

──成功か……!

 

すぐさま催眠を解く。

無意識で動いていた身体が停止し、七海の意識が浮上する。

戻ってきた七海は信じられないと言わんばかりに目を見開いて己の手を見つめていた。

 

「今のが……黒閃」

 

「全身余すところなく自然に呪力が巡ってるでしょ」

 

「ええ……さっきまでの感覚とはまるで違う」

 

「でも、これで終わりじゃない。本当の地獄はここからだよ。一度でも黒閃の全能感を味わってしまうと「またあの状態に」って気持ちが出てくる」

 

「雑念が混じることになる、と」

 

黒閃を出せるレベルの深い催眠を常にかけているわけにはいかない。

そんなことをすれば七海は近付く者全てを反射的に攻撃する殺戮人形と化す。

催眠なしで今の精度を実現できるようになってもらわなければならない。

そもそも催眠をかけたところで百パーセント黒閃が出せるわけではない。

ほんの僅かに出せる可能性を上げるだけ。

効率がいいとは言えない。

 

「やめる?」

 

「まさか。途中で投げ出すのは気分が悪い。それに──」

 

──一度くらい『最強(彼ら)』の鼻を明かしてみたい。

 

垂れる汗を手の甲で拭って七海は鉈を握り直す。

 

「いいね」

 

私も残ったナイフを構え直した。

七海との剣戟が再開される。

 

◆ ◆ ◆

 

「さすが一級……まさか初日で出すなんてね」

 

夕方──自動販売機の横のベンチで水を飲みながら今日の内容を思い返していた。

結局、昼から夕方まで斬り合ったものの、黒閃が出たのは最初の一度きり。

しかし、私には何となく確信があった。

七海はここで終わる男ではない、と。

 

──将来、敵になるかもしれない相手に何やってんだか。良心も行き過ぎるとロクなことにならないのはわかってるのに。

 

相談を持ちかけてきた灰原も灰原だが、それを受けてしまった私も私だ。

七海にアドバイスしてやる義理はないし、何か対価を受け取ったわけでもないのに。

 

──いっそ敵も味方も全てを叩き潰して一人で立っていられるなら楽だったかもね。

 

残念ながらそこまでイカレてはいなかったらしい。

中途半端な良心を私はどこまでも抱え込んでいくのだろう。

 

「ん? 坊っちゃん」

 

「よぉ……」

 

曲がり角から姿を現したのは五条。

見れば随分疲れきった様子だ。

反転術式で治しているようだが、口の端に血の痕がある。

オートで無下限呪術を展開している彼がこうなっているということは──

 

「──もしかして体術オンリーで甚爾とやってたの?」

 

「反転術式も領域展開もできるようになったけど、そればっかり頼ってられねぇし。つーか、アイツやっぱり加減ってもん知らねーだろ。反転術式なかったら今日だけで二、三回は死んでる」

 

天与の暴君(アイツ)に近接挑むとか自殺行為だからね。あれでも昔よりマシになってるんだよ? 昔の甚爾なら初撃で殺してる」

 

「反転術式を使う間もなく……かよ。チッ……そう考えるとムカついてきたな。結局、全力じゃなかったってことだろ」

 

「わがままだねぇ……」

 

加減をしてもしなくても五条は不満らしい。

それから私と五条はしばらく色々と話していた。

恵のこと。

上層部のこと。

最近の呪術界のパワーバランス諸々。

 

「上層部に高専に『最凶』が出入りしてるって伝えたら青ざめて引っくり返っててさー」

 

「それで何人か逝ってないよね? あの人達は生かさず殺さずで針の筵に座っててもらわなくちゃ」

 

「当然。今まで好き勝手した報いは受けてもらうさ」

 

やがて辺りも暗くなってきたので私は空になったペットボトルをゴミ箱に放り込んで立ち上がる。

すると五条がジッと私のほうを見ていた。

何だろう。

私の顔に何か付いているのか。

 

「なあ、何かあった? スゲー機嫌いいように見えるんだけど?」

 

「ん? ああ、近々面白いものが見れそうだからね」

 

六眼は機嫌の良し悪しまでわかるのだろうか。

五条の問いを適当にはぐらかして私は高専を後にする。

一泡吹かせたいのにバレてしまっては興ざめだ。

 

「楽しみだねぇ」

 

◆ ◆ ◆

 

「夏油さん」

 

「七海? それにアナタまでどうしたんです?」

 

特訓を始めて数日後、私と七海は夏油の部屋を訪れていた。

 

「実験に手持ちの呪霊を使わせてもらえませんか? 試したいことがあるんです」

 

「ああ、いいよ。三、四級くらいならいくらでもいるし──」

 

「いえ、()()()()を」

 

七海の言葉に夏油が眉を潜める。

呪霊操術は手数が売り──だが、統計的にそのほとんどが二級以下の呪霊。

準一級以上は発生すること自体が稀である。

そして、一級ともなれば夏油にとって貴重な戦力だ。

それを実験に使わせてくれというのだから夏油が渋るのも無理はない。

しかし、七海の実力を考えれば一級以上でなければ相手にならない。

 

「私からも頼むよ、夏油君」

 

「まったく……アナタに言われたら断れないじゃないですか」

 

夏油は苦笑いを浮かべるも、いいよ、と頷いた。

 

「何体いる?」

 

「そうですね……四体、お願いします」

 

「……本気かい?」

 

「ええ」

 

──四体とは大きく出た……いや、違うね。

 

事実に即し、己を律する──そんな七海が四体必要と言ったのだ。

伊達や酔狂ではないだろう。

外へ移動し、七海はグラウンドの真ん中に。

私はグラウンドの端に立つ。

横には夏油と話を聞き付けたらしい五条、家入、灰原もいる。

 

「何すんの? 前言ってた面白いものが見れるってヤツ?」

 

「私も詳しくは聞いてないんだ」

 

「まあ、見てなよ。その目でしっかりとね」

 

七海は鉈の感覚を軽く振って確かめると、こちらを見て頷いた。

それを合図に夏油が空中から呪霊を出す。

 

「──いけ!」

 

夏油の命令と同時に七海に向かって四方から呪霊達が襲いかかる。

夏油には、何があっても呪霊達を止めるな、と言ってある。

 

──魅せてみなよ、七海君。

 

一級呪霊となればさすがに速い。

しかし、獰猛に牙を剥き出して突進してくる呪霊達を七海は凪いだ目で眺めていた。

自然体から、ゆっくりと腰を下ろして鉈を構える。

敵を前にしているとは思えないほどに、その動きは滑らか。

余計な緊張や焦りというものは微塵もなかった。

どう動けばいいか。

どう斬ればいいか。

そんなものは考えるまでもない。

本能のままに動けばいい。

最適化された動きは既に身体が覚えている。

そして四体の呪霊が七海に肉薄し、今まさに屠らんとしたその瞬間──

 

 

斬、と──四つの黒い火花が弾けた。

 

 

「は……?」

 

「なっ……!?」

 

「おお……」

 

「すごい……!」

 

五条達は驚きの声を洩らし、私は思わず笑みが零れる。

七海の技術全てを集約した全力の黒閃。

当然、一級呪霊と言えど耐えられる威力ではない。

断末魔の悲鳴すら上げることなく消滅してしまった。

 

「フーッ……」

 

七海は残心の姿勢を解いて一つ息を吐く。

黒閃を狙って出せる術師は存在しない──だが今の七海からは狙って出したと思わせるような凄みがあった。

灰原が真っ先に駆け出し、私も後に続いて七海に歩み寄る。

 

「すごい! すごいよ七海! あんなの初めて見た!」

 

「まさか四連続とはね。新記録じゃない?」

 

「運がよかっただけですよ。一度でも出来れば御の字のつもりだったんですが」

 

いつもと変わらない仏頂面。

だが、今はどこか吹っ切れたような清々しい雰囲気を纏っていた。

前人未到の黒閃四連発。

人間の反応速度に限界がある以上、運がよかったと言ってしまえばその通りだ。

しかし、それでもこれは七海の最大限の努力の対価だろう。

 

「どうだった?」

 

今だに呆けている『最強』二人に向かって振り返る。

才能(術式)の格では七海は五条達に及ばない。

どれだけ腕を磨こうが、そこはどうしたって覆らない。

それでも彼らですら黒閃の四連発など成し得ていないのだ。

七海だけが成した偉業。

普段、周囲を見下している彼らも、それを目の前で見せつけられては認めるしかないだろう。

そして、我に帰った二人は破顔し、同時に言う。

 

「「──やるじゃん」」

 

『最強』二人の心からの称賛だった。

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