『呪詛師殺し』に手を出すな 外伝   作:Midoriさん

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呪術界がイカレたヤツらばっかりだって?

そりゃそうだろ。

まともなヤツはこんな仕事とっくに辞めてるよ。


第参拾参話

「ハハッ、派手に暴れてるなぁ」

 

ズズン、と重く響く音を聞きながら、刀の柄尻で呪符が巻かれた杭のようなものを地面に打ち込む人物がいた。

金髪のサイドテールに小柄な体、そして目元に特徴的な紋様が刻まれた男──重面春太は今回の襲撃の黒幕である男に協力した数少ない呪詛師である。

『呪詛師殺し』に手を出すな──大半の呪詛師がそう言って協力を拒んだのに、なぜ彼は協力を受けたのか。

別に大層な理由があったわけではない。

重面が『呪詛師殺し』を噂でしか知らないということ。

そして「楽しければそれでいい」という楽観的な性格が理由だった。

 

「これでいいんだっけ? えーと、後は……ああ、そうそう──闇より出でて闇より黒く。その穢れを禊ぎ祓え」

 

呪文と同時に高専の真上から帳が降りてくる。

通常の帳ではない。

今回の襲撃のために特別に用意された()()()()()()()()()()()帳。

 

「おー、できたできた」

 

帳の発動が確認できた重面はゆっくりとした足取りで高専の中に入っていく。

 

「女の子がいっぱいいるといいなぁ」

 

◆ ◆ ◆

 

「ねぇ!」

 

「何? 歌姫」

 

「彼女、自由に動かしてよかったの?」

 

「んー……時間をロスしたくなかったってのもあるけど、あの場で下手なこと言って彼女まで敵に回してみなよ。彼女と侵入者の二正面作戦なんてさすがにキツいでしょ」

 

観戦室にいた五条、歌姫、楽巌寺の三人は今現在、生徒達がいる区画(エリア)へ走っていた。

ことの始まりは数分前──

 

「ん?」

 

「む?」

 

ボッ、と音を立てて壁に貼られた呪符が燃え上がる。

それも一枚二枚ではない。

壁に貼られた呪符全てが燃えたのだ。

 

団体戦(ゲーム)終了……? しかも全部東京校(赤色)!」

 

──これってさっき話してた襲撃……よね?

 

そうでなければ用意された呪霊が一気に祓われるなどありえない。

 

「妙だな……カラス達が何も見ていない」

 

先ほどまで交流会の様子を映していたモニターは真っ暗になっている。

 

GTG(グレートティーチャー五条)の生徒達が祓ったって言いたいところだけど……」

 

「未登録の呪力でも札は赤く燃える……」

 

「すると外部からの侵入者……いや、外部でも内部でも不測の事態に変わりあるまい」

 

楽巌寺はチラリと夜蛾に目を向けた。

夜蛾も一つ頷いて立ち上がる。

 

「オレは天元様のところに。悟は楽巌寺学長と学生の保護を。冥はここで区画(エリア)内の学生の位置を特定。悟達に逐一報告してくれ。それから君は……」

 

五条達に素早く指示を出した後、『呪詛師殺し』に目を向けた夜蛾だが、何を言うべきかと口ごもった。

指示してそれを素直に聞いてくれる人間なのか。

指示するとしてどう動かすのがベストなのか。

いや、動かすにしても彼女は教員ではない。

法外な対価を要求された場合はどうする。

戦闘力がずば抜けているという以外、彼女の情報はほとんどないに等しい。

その上、下手なことを言えばこの場で牙を剥く可能性もある。

高専と敵対するということは呪術界と敵対するということ。

しかし、彼女はそれでも顔色一つ変えずに自分達を叩き潰すだろう。

最悪の事態は回避しなければ。

夜蛾の手に僅かに汗が滲む。

次の夜蛾の一言に呪術界の未来が懸かっていると言っても過言ではないのだ。

 

──どうする……待機させておくか……協力してもらうか……。

 

しかし、夜蛾が何か言うより先に口を開いたのは彼女のほうだった。

 

「私は私でやることあるから好きに動かせてもらうよ。いいよね?」

 

「しくじるなよ」

 

「誰に言ってんの」

 

勝手に許可を出す五条を楽巌寺がジロリと睨み付ける。

仮に侵入者だとすれば内通者として一番怪しいのは彼女だ。その彼女を自由に動き回らせるなど何を考えている──そういう視線だったが、事前に事情を知っている五条は小さく肩を竦めてみせただけ。

時間がなかったため、その場で彼女を問い詰めたり行動に制限をかけることはできずに全員で大人しく彼女の背中を見送ることになった。

そもそも彼女は高専とは睨み合っている立場だ。

この混乱に乗じて……という可能性もある。

しかし、五条は首を横に振った。

 

「何か仕掛けるつもりなら、あの観戦室で僕ら皆殺しにされてるし、そもそも敵対組織の一つが勝手に潰れてくれるなら喜んで傍観に回るでしょ」

 

「確かに……」

 

「ぶっちゃけさー、彼女にとっては生徒がどうなろうと、高専がどうなろうと知ったことじゃないんだよ」

 

高専の味方でも五条の味方というわけでもない。

彼女が五条と情報交換しているのは、互いに一定の手の内を曝け出すことで無用なトラブルを避けているだけ。

そして、彼女が動く理由はいつだって自分のためだ。

誰かに指図されて動く人間ではない。

 

「今回の異常事態、相当根が深いってのが僕の見立てなんだけど……それなのに彼女みたいな実力者に傍観決め込まれるのはもったいないと思わない?」

 

知られていないとはいえ、仮にも学生時代の五条と夏油の二人を同時に相手して勝った人物だ。

実力は嫌というほどわかっている。

そんな戦力を有効活用しないなんてありえない。

 

「だから今回は情報を渡して誘いをかけた。この件は呪詛師(そっちの領分)も絡んでるぞ、ってね。まあ、安心しなよ。彼女がここにいる時点で向こうの勝ちはない」

 

そう言う五条達の前で帳が降りていく。

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