『呪詛師殺し』に手を出すな 外伝   作:Midoriさん

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『特級被呪者』乙骨憂太と『特級過呪怨霊』祈本里香に関する報告書。


【原作時間軸】呪術廻戦0編
第参拾捌話


「また厄介なもの抱え込んだね……」

 

五条から送られてきた書類。

それを見ながら私は盛大にため息を吐いた。

面倒事の火種。

それも洒落にならない化物の情報がそこには記されていた。

火種どころか核爆弾と言ってもいいかもしれない。

 

「うーん……」

 

さて、どうしたものか。

面倒の種があれば潰すのが私だが、今回の件は裏ではなく高専の話。

フィールドが違うため下手に手出しするほうがマズい。

そこまで考えたところでガチャリと鍵の開く音がした。

 

「……ただいま」

 

「おかえり」

 

書類の束に目を通している間に、もう恵が帰ってくる時間になっていたのか。

しかし、それならちょうどいい。

ちょいちょい、と恵をテーブルまで呼ぶと、書類にクリップで添付されていた写真を抜き取って渡す。

 

「恵の先輩になる転校生だってさ」

 

写真を受け取って目を落とした恵だが、その表情は苦々しい。

 

「どう思う?」

 

「自分は善人です、って感じの人ですね」

 

「その割りには渋い顔してるね?」

 

「……オレ、悪人は嫌いなんです」

 

それは誰だってそうだろうと思いつつも、その言葉には続きがあった。

更地のような想像力と感受性で一人前のふりをして生きている悪人が気色悪くて仕方ない。

しかし、そんな悪人を許してしまう善人が苦手なのだ、と。

許すことを格調高く捉えて美談にしてしまう。

そんな善人を見るたびに吐き気がする。

それが恵の考えだった。

 

「なるほどねぇ……」

 

「その人、イジメられてたでしょ? 目ェ見りゃわかりますよ」

 

「お、正解。同級生四人に執拗な嫌がらせ受けてたらしいんだよ」

 

「そんな人が高専でやっていけるんですか? どうせされるがままにイジメられてただけの──」

 

「そのイジメてきたヤツらをロッカーに()()()んだってさ。その子。幸いにも死亡者はなし。重傷で済んだらしいけど」

 

恵の言葉がピタリと止まる。

 

「マジですか?」

 

「マジだよ」

 

持っていた書類を恵に渡す。

それを読み進めていくうちに恵の顔から血の気が失せていった。

 

「特級術師……!? つーか特級過呪怨霊って……」

 

「下手すると街一つ吹っ飛ぶね」

 

特級に加えて過呪と付くだけあって呪いの格が違うのだ。

乙骨の事件が発覚してから()()()()までに祈本里香によって二級術師が三人、一級術師が一人返り討ちに遭っている。

書類には他にも底なしの呪力の塊であることや無条件の術式模倣(コピー)など信じられないような内容が書かれていた。

五条曰く、祈本里香は『呪いの女王』と呼んでも過言ではない存在とのこと。

六眼を持つ五条が言うのだ。

間違いはないだろう。

 

「初任務で完全顕現したらしいけど、そのときは坊っちゃんが監視してた……というか顕現した状態を見たかったんじゃないかな。ド素人に情報なしでいきなり任務振ったらしいし」

 

「追い詰められて特級過呪怨霊を呼び出すことを前提にしてたってことですか……。相変わらず無茶しますね、あの人も……」

 

「暴走しても止められる自信があってこそなんだろうけどね」

 

書類にあった内容はこうだ。

編入が決まってすぐに特級術師の称号を与えられた異例の少年──乙骨憂太。

そして、彼に憑いたのが生前は祈本里香という少女だった怨霊。

彼らの関係は数年前まで遡る。

 

「乙骨憂太と祈本里香は入院してた病院で出会ったらしい。で、仲良くなって退院した後も交流続けてたんだけど……」

 

「けど?」

 

「祈本里香が死亡した。享年十一歳」

 

交通事故だった。

頭を轢かれたことで即死。

しかも、乙骨の目の前で。

そして、死亡直後に里香は怨霊へ転化。

乙骨に取り憑いた。

というのが事の顛末らしい。

 

「非術師の一般人でしょ? それが特級に転化するなんて……」

 

「普通ならありえない。まだ調査段階で不明な点も多いしね。祈本里香に隠れた術師の才能があった可能性もなくはないよ」

 

敵対術師にトドメを刺すときに注意するべき点として呪力で殺すことが求められる。

そうしなければ死後に呪いへ転化することがあるためだ。

もしも、里香に術師としての才能があったのなら。

轢かれた際に呪いに転じた可能性もある。

それにしても呪いとしては異常な規模なのだが。

 

「そんな危険な存在を上層部の臆病な老人達が放っておくわけがない。彼が高専へ保護……捕縛されてすぐに上層部は乙骨憂太へ秘匿死刑を言い渡した」

 

「未成年ですよ?」

 

「でも、本人が了承した。それどころか望んですらいたらしい。自殺までしかけたんだってさ」

 

もう誰も傷付けたくない──乙骨はそう言った。

取り憑かれてから里香は乙骨を傷付けようとするものをことごとく排除したのだ。

イジメの学生を始め、自殺に使おうとしたナイフまで。

このままではいずれ自分の大切な人にまで危害を加えかねないから、と。

 

「だけど、坊っちゃんに説得されて高専へ編入。今は任務をこなしながら祈本里香の呪いを少しずつ解いてる。呪いを刀に移すことでね」

 

「ああ、呪いは物に憑いてるときが一番安定しますからね」

 

「うん。解呪するにはかなり時間がかかるだろうけど、地道にやっていくしかないんじゃないかな。乙骨憂太と祈本里香の間に繋がりができてるせいで、夏油君の呪霊操術で引き剥がすこともできないからね」

 

ああ、それと──と私は書類を捲っていく。

 

「一応、祈本里香の背景も調べたらしいんだけど……」

 

「何か気になる点でもあったんですか?」

 

「母親は祈本里香が五歳のときに急死。父親は小学校入学直前に二人で登山に行った際に失踪。一週間後に祈本里香だけが山頂近くの避難小屋で発見」

 

「不自然さ丸出しじゃないですか……」

 

「それが祈本里香の転化に関係してるかはわからないけど、そういう経緯もあって引き取った祖父母は両親のことは彼女が原因じゃないかって嫌ってた」

 

「もう一人……その乙骨って人はどうなんです?」

 

「そっちはまだ調査中。人手不足だからね」

 

まったく困ったものだ。

特級過呪怨霊なんてものを抱えこんだ割に情報があやふや過ぎる。

何せ里香がなぜあそこまで莫大な呪いになったのかは全くの不明。

ブラックボックスでは支配も制御もできない。

トライアル&エラーで探っていくしかないということだろう。

 

「今回は動くんですか?」

 

「いや……この件はこっちに被害がない限り動くつもりはないよ」

 

どこに地雷が埋まっているかわからない。

今回は傍観に徹したほうが良さそうだ。

尤も、暴走してこちらに被害が及ぶなら五条が止めようが遠慮なく介入するが。

 

「そもそも縄張りが違うからね。向こうで解決するなら関わらないほうがいいんだよ。わざわざ高専の面倒に首突っ込むほど酔狂でもないし」

 

あちらはあちら。

こちらはこちら。

縄張りが違えばルールも違ってくる。

裏なら暴れた時点で殺して終わるのだが。

五条が死刑を跳ね除けて編入させたのだから、私が無理に出しゃばって波風立てる必要はないだろう。

 

「っと……そうだ、恵」

 

話を終えてリビングを出ていこうとした恵の背に声をかける。

 

「手は大事にしなよ。君の場合、手は生命線に等しいんだからさ」

 

ビクリ、と恵の肩が揺れた。

なぜバレた、とでも言いたげな反応だが、私をなめてもらっては困る。

中学生の隠し事程度見抜けないわけがないだろう。

 

「……喧嘩自体は別にいいみたいな物言いですね」

 

「痛みを知らなきゃ更正しない連中なんて山ほどいるよ。死んでもわからないヤツらもいるんだし」

 

喧嘩程度ならかわいいものだ。

半グレ十数人ごときで恵がケガを負うわけもない。

まさか肯定されるとは思っていなかったのか、恵はしばらくリビングの入口に立っていたが、やがて自分の部屋に入っていった。

 

「中学生のクセに色々考えてるなぁ」

 

多感な時期だ。

色々思うところがあるのだろう。

 

「さて……と」

 

写真と書類を片付けて私は夕食の準備に取りかかった。

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