兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
01 ノア・ゾグラフ
セブルス・スネイプは久しぶりにマグル界を訪れていた。
真っ黒な服装に身を包む彼を見たマグルは、この真夏によくもまぁそんな暑苦しい服を着れるものだとじろじろと無遠慮に見たが、セブルスはマグルの視線など羽虫程度にしか思っていない。つまり、全くもって気にせず、夏の強い日差しにも汗の一雫も流さず住宅街を歩いていた。
子どもの遊び回る声に混じりどこかの家から犬の鳴き声が聞こえる。
セブルスは寝ている時以外常に刻まれている眉間の皺を更に深め、一刻も早く用事を済ませて帰りたかった。
「…此処か」
住宅街の中にある家の中でも一際大きな家。
いや、家というよりも屋敷に近く、中からは複数の子どもたちの賑やかな声が漏れて聞こえていた。
セブルスは嫌そうに顔を顰めたまま、扉のノッカーを鳴らす。
しばらくしてパタパタと足音が聞こえ、扉が開かれた。
「…どちら様ですか?」
現れた女性は、セブルスを見るなり胡散臭そうに目を細め、その真っ黒な服装をじろじろと怪訝に見た。
「我輩はセブルス・スネイプという。ノア・ゾグラフという少年はいるか。面会を打診する手紙が──」
「勧誘なら間に合ってます!!」
バタンッ!と勢いよく扉はセブルスの目の前で閉められた。あまりに勢いがよく、ふわり、とセブルスの黒髪が揺れたほどだ。
明確な拒絶にセブルスは、暫く押し黙った後──帰りたい──そう思ったが、ここで帰るわけにもいかず、再びノッカーを打った。
「しつこいですね!警察を呼びますよ!!」
扉は開けられなかったが、くぐもった非難混じりの声が扉の奥から響いた。
何故それ程警戒されているのか、たしかにマグル界と魔法界では服装がかなり、異なるが──だとしても、自分の服装はそこまで奇抜では無いはずだ。頭にハゲタカの剥製が付いている帽子をかぶってもいなければ、エメラルドグリーンのローブでもない。…まぁ、全身黒尽くめだが。
「…面会を打診する手紙が届いている筈だ。返事が幾ら待っても来なかった為、我輩が派遣され此処に来た。──無礼だとはわかってはいるが、話を聞いてもらえないか?」
「あなたもしつこいですね!ノアを勧誘するんでしょう!?ええ、わかってます!ですが、答えはノー!だめです!」
あまりに頑なな言葉に、セブルスはさっさとアロホモラで扉を開けて服従の呪文の一つでもかけてやろうか、と魔法界ブラックジョークを心の奥で呟いた。
だが、セブルスは割と常識人である。流石にアロホモラはともかく服従の呪文をぽんぽん連発するような死喰い人や闇の帝王ではないのだ。
「話すことが無理であれば、手紙を渡したいのだが」
「結構です!!毎日毎日毎日毎日…!あなたのような人が訪れますが、ノアは芸能界なんていれませんからね!!」
「…芸能界?…いや、我輩は学校の教授だ。今日はノア・ゾグラフを我輩の学校に入学させるための話で参ったのだが…」
「学校!?どうせ、アイドルだか芸能人だかの養成学校でしょう!?そんなのがあるって噂で聞いた事があります!!」
魔法学校、なのだが。
流石にマグルにその事を告げることも出来ず、セブルスは深いため息を吐いた。
それと同時に、そのノア・ゾグラフという少年がそれほど──見目が整っているのか、少し興味が湧いた。
「…わかった。本人に会えなくても構わん。貴女がこの手紙を受け取ってくれるかね?」
「……それくらいなら」
セブルスは諦めて、あらかじめダンブルドアから渡されていた真っ白な紙をローブの内ポケットから取り出した。それはある一種の魔法がかかっており──それを見たものは、こちらにとって都合の悪い事を考えられなくなってしまうのだ。強硬手段、とも言えるだろう。
少し開いた扉の向こうに、警戒した女性の目が現れセブルスを睨んだまま、隙間から手を差し出した。
セブルスはその手に紙を渡して、暫く待つ。
きい、とゆっくりと扉が開いた。
「…話を聞きましょう。…私はライカ・クラーク。このシエル孤児院のシスターであり、子どもたちの母です。…どうぞ、ミスター・スネイプ」
ライカと名乗った女性は少し虚な目で白紙の紙を見ていたが、ふと顔を上げ囁くように呟くとすぐに扉を開きセブルスを孤児院の中に通した。
そう、此処は孤児院である。
それもマグル界にある、至って普通の孤児院だ。
セブルスがわざわざ孤児院に足を運んだのは、ここにいる魔力を持つ少年を、ホグワーツに入学させる説明の為だ。
マグル界に住み、魔法界を知らない家庭には必ず教職員が説明に訪れる事になっている。ノア・ゾグラフという少年の名前も、生まれた時からホグワーツの入学予定者リストの中に記されており、たまたま、セブルスが担当する事になったのだ。本来なら手紙のやり取りを何度か行い面会の日時を決めて訪れるのだが、このノア・ゾグラフという少年のみ、返事がいくら待っても来なかった。
正直言って説明など面倒だったが、ホグワーツの教師は全員この役目を担わなければならない。
受け持つ生徒はランダムで決められるが、入学前の買い出しの付き添いから魔法界についての説明、そして孤児院出身者ならば在学中の相談相手にならなければならない。──相談相手、この制度は数十年前にダンブルドアが定めたものだ。保護者のいない者は不安定になり、闇に落ちやすい。それを防ぐための処置だとか。
ノア・ゾグラフを担当する事になったセブルスは、担当生徒が孤児院出身者だと知り正直──かなり面倒だと思った。
生粋のマグル生まれはそれ程多くは無いが、いないわけでは無い。
これも仕事の内だ、きっとそのノア・ゾグラフという少年は他の生徒達と同じで自分になど懐かず相談もしないだろう。入学前までの我慢だ、とセブルスは自分に言い聞かせ、ライカの後ろを静かに歩きながら掃除がきちんとされている小綺麗な廊下を進んだ。
ひとつの扉の前でライカは足を止め、コンコンとノックした。
「ノア、貴方にお客さまですよ」
「はーい。どうぞ?」
その奥から聞こえてきた声は、鈴を転がしたかのような美しく、愛らしい声だった。セブルスは一瞬その声を聞いて、ノアは少女だったか?と思ったが──いや、書類では男と記載されていたはずだ。それにしては高く、少女のような声だ──特に気にする事なくセブルスは扉を開いた。
その先の光景を見たセブルスは、扉のノブに手をかけたまま──とりあえず、パタン、と閉めた。
「どうしました?」
いきなり扉を閉めたセブルスに、ライカはノアに会うためにきたのではなかったのかと、怪訝そうに眉を顰める。
セブルスは気難しい顔をして、眉間の皺を指で押さえ今見た光景を理解しようとしたが──どうやら、自分は想定外の光景を見るとその処理に戸惑うらしい。知りたくなかった発見だ。──全くもって理解できなかった。
「…あの、中心に居た者が…まさか、ノア・ゾグラフかね」
「勿論です」
「………」
セブルスはどうやらかなり面倒な生徒を担当する事になったのだと理解し、渋々ながら覚悟を決め、もう一度扉を開けた。
その先の光景は先ほどと微塵も変わってない。
1人のやけに美しく愛らしい子どもが豪華な肘掛け椅子に座り──セブルスは、少女だと思ったが紛れもなくノアは男である──その周りに沢山の子供たちが群がり、手に何やら大きな扇のようなものを持ち左右から扇ぐ者、手に果物の籠を持ち摘んで食べさせようとするもの。肘置きに乗せられた白く細い腕をマッサージする者。足元に這いつくばりその恍惚の表情で足置きになっている者。
どの子ども達も、顔は恍惚の表情で目はうっとりと肘掛け椅子に座る子どもを見つめている。
愛の妙薬か魅惑の呪文でも使ったのか。どこぞの悪組織の帝王だ。そう内心で突っ込まずにはいられないその光景は、どうみてもおままごとの類ではないだろう。
椅子に座る少年──ノアは、現れたセブルスを見て、ぱっと嬉しそうに満面の笑みを見せ、セブルスを指差した。
「セブルス・スネイプ!!」
何故、名前を知っているのだ。
セブルスは異様な光景と、名乗ってもいないのに名前を当てられた事に警戒するが──誰よりも美しく、完璧な美貌を持つノアの微笑みに、思わず眩しそうに目を細め一歩後ろに下がる。
光を放っているわけでは無いのだが、ノアの美しく滑らかな銀髪や大きなブルーグレーの瞳はライトの光を浴びてキラキラと輝いていた。こんなに、美しい人間がいるわけがない。きっとヴィーラの血が混ざっているのだろう、そう、セブルスは思った。
ーーー
お客さんって誰だろ?と思って見てたらなんと現れたのはセブルス・スネイプでした!!
思わずその名前を叫んじゃったけど、まぁ仕方ない。だってセブルスはめちゃくちゃ好きなキャラの1人だし!!
そう、俺ノア・ゾグラフは、
神様のミスで死んだ俺は、チート能力を3つ授けられハリポタの世界に転生した。
一つ目はこの世界一の美貌である!
肩下まで伸びた銀髪は勿論天使の輪が輝き、一級品の絹糸よりも滑らかで、目は宝石のように煌めくブルーグレー、もちろんまつ毛はバチバチであり、肌は穢れ知らずの真っ白だ。
俺好みの男の娘よりだが、なによりも愛くるしく美しい俺はまだ11歳にも関わらず、毎日芸能活動の誘いがくるほどだ。まぁ、そのせいで外出禁止令が出ているのだが。何回か誘拐未遂があるのだから、過保護になっても仕方がない。──禁止令が出ても、こっそり抜け出してるけどな。
そして、孤児院の子どもたちは俺の美貌にノックアウトされ調教済みであり、こうやって侍らせ悪組織の帝王ごっこが出来るほどになっている。うんうん、あくまで俺にとってコレはおままごとだ。こいつらはマジっぽいけどな。
「よし、今日の遊びは此処までだ!俺はこの人と話があるから、出てくれるよな?」
「ええーっ!また明日、ノアに果物を食べさせる役やりたい!」
「腕をマッサージする役は譲らないわ!」
「なんで!?マッサージは次僕だって言ったじゃん!」
「足置き……僕は足置き…」
俺がおままごと終了を告げればぎゃいぎゃいと途端に子どもたちはうるさくなって喧嘩をおっ始めた。マッサージ役と果物を食べさせる役はかなり人気が高く、いつも乱闘寸前になるのだから、まぁ仕方がない。
「…ライカママぁ」
「ええ、わかってますよ!…ほらほら、ノアを困らせてはいけません!部屋をすぐに出なさい!」
ライカママの厳しい一声に、子どもたちはぶーぶー文句を言いながら名残惜しそうに俺を振り返りつつ部屋から出て行った。
残されたのは、俺とセブルスだけである。
うわー!よく見ても、どの角度から見てもセブルス・スネイプじゃん!!既にハリポタキャラには会ってるけどさ、やっぱこの人に会えたのは嬉しいな!
話ってのは、ホグワーツ入学関係かな?確か原作でもヴォルデモートが子どもの時にダンブルドアが来てたもんなぁ。
「…ゾグラフ。…我々は初対面の筈だが。…何故、我輩の名前を知っているのかね?」
「え?ああ、ここ入り口に近くてさー、外の会話筒抜けなんだよ。んで、いきなり名前言われたら驚くかなって思っただけ。──びっくりした?」
それらしい嘘をつけば、セブルスは眉間の皺を深くして俺を見下ろす。
おおー!声が!声が良い!セブルスに名前呼ばれるとニヤニヤしちゃう!ベルベットボイス?だっけ?やっぱ低い声って良いな!
いやぁ俺の美しい声も最高だけど?ミュージカルとか出たらちょうどいいソプラノとアルトになるんじゃね?
「…そうか。…いや、それならいい。…さて、我輩は教授であり、務めるホグワーツ学校について説明をしに来た」
「あ、長くなりそう?椅子でも用意しようか?」
俺の言葉にセブルスは怪訝な顔をして部屋を見渡した。
その部屋には、やたら豪華な肘掛け椅子とベッドと、勉強机と洋箪笥しかない。つまり、俺は肘掛け椅子に座っているし、自分が座るのならばベッドしかない…と、セブルスは思っているのだろう。いやいや、ベッドに座るセブルスも見たいけど、流石になぁ。
俺は指をぱちんと鳴らし、丸椅子を出現させた。ちょっと質素な椅子だけど、ま、いいだろう。
「はい、座って座って!」
「…、…君は、……魔法を、教えてくれる者がいたのかね」
セブルスは突然現れた椅子をなんか硬い表情で見たあと低い声で呟いた。
おっと、そうか。ついつい椅子を出してしまったけど、普通の子どもは出来ないんだっけ?チート能力を使いすぎて当たり前になってたなぁ。
俺は、どんな魔法でも使う事が出来る。チート能力その2だ。この世界で魔法の括りである技はなんだって使う事が出来る。
流石にマグルである孤児院の子供たちやママの前で魔法は──ちょこっとしか使わないけど、人が居なければ割とやりたい放題していたため、ついうっかりしてた。
だって魔法、まじで便利。
「──ん?いや、独学?ってか、これってやっぱり魔法なんだ?便利だなーって思ってたけど」
「…力を理解しているのなら、話は早い。ホグワーツは魔法学校であり、その魔法を使う事を教えるだけではなく、制御する事も、教える。…魔法界には複雑な法が存在する、それを破った者には厳罰が与えられる。…魔法界に踏み入れるのであれば、それも知らねばならん」
「へえ!わかった!セブルスが教えてくれるんだろ?」
にっこりと笑って聞けば、セブルスはぴくりと片眉を上げ──なんかめちゃくちゃ偉そうに腕を組み、少し顎を上げてものすごく俺を見下した。
「…我輩は、ゾグラフ、君の教授となる。目上の者に対する礼儀は──知っているかね?」
「はあい!セブルス先生!あ、セブルス先生!俺さぁファミリーネームで呼ばれ慣れてないんですよ!此処ではみんなファーストネームで呼び合うからさ、ノアって呼んでくれませんか?」
「……断る」
「ええー…お願い♡」
きゅるるんとした目で上目遣いに見上げ、甘え声で頼んでみる。どうやら俺の
「…ホグワーツ学校では、ゾグラフと呼ぶ。それが条件だ、──ノア」
し、痺れるっ!!
この重低音ボイス!甘い声!俺が女なら耳が孕んでいるね!!
ぞくぞくとしたなんとも言えない衝動に、にやつく口先を抑えられない!まぁ、セブルスからは普通に笑顔を浮かべてるように見えるだろう。
「ありがとうセブルス先生!ホグワーツの事、魔法界の事、俺に教えて?」
「ああ、まずは──」
セブルスは丸椅子に座り、ホグワーツの行き方、魔法学校について、そして魔法界の事を割と詳しく話してくれた。
成程、今は7月だ。9月から俺はやっと、ホグワーツに行く事が出来るのか!待ちに待ったホグワーツだ、いやー色んなキャラに会えるのマジで楽しみだなぁ。
「ホグワーツには、教科書や制服を買う為の援助資金がある。これを使い──ダイアゴン横丁で、必要な物を揃えなければならない」
「へー大変そうだなぁ」
セブルスは胸ポケットから皮の巾着を取り出し俺の手に落とした。結構重いな?割と入ってるんじゃね?
「…我輩が、付き添う事になっている」
「まじで!!デートじゃん!」
「決して、そんなものではない」
いや、デートだろ。
ってか、デートだろ?大切な事なので2回言うぞ。セブルスとダイアゴン横丁デートとか、セブルスファンに殺されない?
…いや、セブルスが、俺の魅力にノックアウトされた群衆に嫉妬アバダケダブラされない??
「まぁいいや!いつ行くんですか?」
「…明日、同じ時間に迎えに来る」
「はーい!」
元気よく手を上げれば、セブルスは少しだけ、その表情を柔らかくした。俺の美貌はセブルスの鉄壁の表情も崩してしまうらしい。いつか爆笑するセブルスが見てみたい!…爆笑とかしたら、セブルスの表情筋が次の日に筋肉痛間違いなしだな!
セブルスはもう要件は済ませたのか立ち上がり帰ろうとする。俺はぱっとセブルスに駆け寄ると、セブルスの黒く長いコート?ローブ?をぐっと掴んだ。
「…何かね?」
「俺、自分以外の魔法って見たことないんですよ!…見せてください!」
セブルスは少し黙ったあと、ポケットから杖を取り出し軽く振った。
途端にふわり、と俺の身体が浮き上がる。
「わーー!!」
「これで、満足か?」
「ありがとうございます!」
ぷかぷかと浮かびながらお礼を言えば、すぐにセブルスは俺にかけていた魔法を消して扉に手をかけた。
本当はもっと凄い魔法観たかったけど、仕方ないな。あの歌うような治癒魔法かけられたい…!
「また明日ね、セブルス先生!」
「…ああ」
小さく呟いたセブルスは、それ以上何も言わずに部屋から出て行ってしまった。
俺はベッドにダイブし、枕を抱きしめニヤニヤと1人で笑う。
いよいよホグワーツか!この世界に来て6年間、ずっとこの時を待っていた、早く主要キャラに会いたいし、仲良くなりたい!
ああー!寮はどこになるんだろう?
どうせならスリザリンキャラともグリフィンドールキャラとも仲良くなりたいから、レイブンクローかハッフルパフが良いんだよなぁ。あーでも、レイブンクローって寮入る時に謎解きするんだっけ?めんどくさそうだな…ハッフルパフは、どうだったかなぁ…。
ホグワーツの事を考えていた俺は、小さく「あ」と呟いた。
「そうだ、ハリーに暫く会えないって言わなきゃなぁ」
俺がこの世界に来て初めてあったハリポタキャラはセブルスでは無い。
3年前、俺が8歳の時に幼いハリー・ポッターと既に出会っている。
その出会い方は中々に強烈なものだったが…まぁとにかく、それからハリーとはかなり仲良くしてるし、ハリーはめちゃくちゃ俺になついてくれている。──いや、依存してる。
そう、俺はハリーとは暫く会えない。
俺は9月からホグワーツに入学するが、ハリーはまだその時期では無い。
この世界にきて、てっきりハリーと同学年だとばかり思っていたが…まさかのノア・ゾグラフは2歳年上だった。つまり、子世代というよりは兄世代である。
兄世代かーちょっと残念だなぁ、とは思いつつ。俺はフレジョやセドリックも好きだし、2年程度ならそこそこ子世代と仲良く出来るだろう、と考えていた。
まぁ、ホグワーツに行く前にフライング気味にハリーと出会ったのは、俺としても予想外だったが。
俺がハリーと出会ったのは、雪が降る12月のクリスマスの日だった。
ーーーー
6歳になったハリーは、いつものようにいとこのダドリーとその取り巻きによりいじめられていた。
雪玉を投げられ──ただの雪玉ではなく、中に石が入っているという極悪っぷりだ──頭に命中し、痛む頭を押さえながら必死に逃げ惑っていた。
体が小さく身軽なハリーはなんとかダドリー達を撒き、公園にある大きな木の根元にある虚の中にさっと身を隠した。
息を殺し、耳をすます。
ダドリーの豚のような五月蝿い声も、どたどたと重そうな足音も、聞こえない。
ハリーはようやく「…はあっ…」と重い息を吐き、ゆっくりと頭に乗せていた手を下ろした。
「…うわ…」
その手のひらには、血が付着していた。
中に入った石で傷ついたのだろう、頭は痛いしタンコブになってる気がする。
ハリーは膝を抱え、そしてぎゅっと目を閉じた。
クリスマス。
家族と過ごす日。だけど、僕に家族はいない。
あんな糞みたいなダドリーにも温かい家族が居るのに、どうして僕には居ないんだろう。なんでパパとママは自動車事故で死んじゃって、僕だけ生き残っちゃったんだろう。
ハリーは人生の中で、記憶のある限り幸せな時は一度だって無かった。ダドリーにはサンドバックにされ、叔母と叔父には辛い罵声を浴びせられ家事をさせられる。それに、部屋なんて階段下の物置しかないし、服も全部ダドリーのお下がりだ。ダドリーは新作のゲームで遊べるのに、僕は触らせてもらえない。
誰からも愛されてないし、誰も僕のことを──守ってくれない。抱きしめてくれない。優しく、してくれない。
なんで、僕は生きているんだろう。なんでこんなに不幸なんだろう。
──お前なんかだーれも助けてくれないぞ!ハリー!!
いじめられ、苦しんでいた時に言われたダドリーの嘲笑まじりの高笑いを思い出し、ハリーは目の奥がかっと熱くなってくるのを感じ、更に強く目を閉じた。
ダドリーのせいで泣いているなんて、そんな事絶対に嫌だ!
違う、泣いてるのは、寂しいんだ、僕には誰もいないから。
もう独りだなんて耐えられない。
此処じゃ無い何処かに行きたい。
僕を、助けてくれる人に会いたい。
僕を、守ってくれる人に──会いたい。
そう、ハリーは心から願い──自分を守ってくれる人を渇望した。
「──びっくりした」
突如ハリーの頭上から、美しい声が降り注いだ。
ハリーはぱっと顔を上げ──そして、呆然と呟いた。
「…天使様…?」
間違いなく、天使だと思った。
目の前にいる人は、今までハリーが見た人の中で最も美しく、優しい声をしていた。
テレビの中にいる芸能人が霞むほどの美しさに流れていた涙はぴたりと止まり、ハリーの白い頬は一気に真っ赤に染まる。
「いや、俺はノア・ゾグラフ。…君は?」
「僕…僕…ハリー・ポッター…」
「ハリー・ポッター……」
ノアと名乗った美しい人は驚いたように目を見開いたが、すぐににっこりと笑うと、白く細い指でハリーの目元を擦り涙の粒を奪っていった。
「ハリー、いきなり現れてびっくりしたぞ?どうしたんだ?」
「え?……えっ、ここ、どこ?」
困ったように笑うノアの言葉に、ハリーはようやく今自分がいる場所が大きな木の虚ではなく、何処かの部屋の中だと気付き、さっと顔を蒼白にさせた。