兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

100 / 180
100 お隣さんは?

 

屋敷の名前を『舞台裏』としたのには理由がある。深い理由、とかではなく。その名の通りこの屋敷を将来的に原作から退場した者たちの、舞台裏にしたいからだ。表立って行動できない人や、俺が世界を原作から変えた場合、クィレルみたいに帰る場所がなくなる人もいるだろう。

そんな時の避難所、兼、秘密基地、みたいなイメージでつけた。

……ロックハートも記憶失ってなかったらこちら側に引き取ってもよかったんだけどなぁ。能力的には凡人以下だから役に立つかは微妙だけど。あの空気の読めなさはハリポタ界ではレアといえばレアだし。シリアスなシーンとかでも一人だけコメディになってそう。

 

──とにかく、ゆくゆくはここに、不死鳥の騎士団みたいな組織を作りたいな、というぼんやりとした構想もある。不死鳥の騎士団はなー、入ってもいいけど、色々制限あってめんどくさそうだしなぁ……。それに、ダンブルドアがトップじゃなくて俺がトップに立ちたいんだよな。

 

 

そんなことを考えながらまじまじと目の前の屋敷を見上げる。石造りの馬鹿でかいカントリー・ハウスのアイボリーに近い灰色の壁には蔦が這い、重厚な扉の上部には誰のものかわからない家紋が彫られている。屋根には煙突がいくつも突き出し、空には魔法の保護結界がほのかに波打っていた。

 

 

「恐縮ながら、全て整えておきました。ご不便があれば、何なりとお申しつけください」

「期待してるよ、パパ」

 

 

冗談混じりにそう言って、俺は玄関に向かって歩き出した。扉に近づくと、それは何の合図もなく軋む音を立てて自動的に開く。魔法仕掛けの自動応答システムか、あるいは俺の魔力に反応するよう設定されたものかな。

 

 

中に入れば、まず飛び込んでくるのは吹き抜けの玄関ホール。天井は高く、左右対称の階段が二階へと優雅に続いている。天井には魔法で星座が投影されたシャンデリアがゆっくりと回転し、足元には深紅の絨毯。壁には動く肖像画がいくつか掛けられており、絵の中の人物たちは俺に気づいて軽く会釈してきた。

 

 

「こんにちは、ノア様」

「ご機嫌麗しゅう!」

「……絵画の住人まで調教済みなのか」

 

 

一体どんな説明をすればここまで思想が統一されるのだろうか。……いや、クィレルがやったわけじゃなくて、家の主人を敬愛するような魔法でもかかってるのかな?

 

シリウスはというと、早くも絨毯の上に腹をつけて寝そべり、落ち着いた様子だった。魔法の動きには少し反応していたが、特に嫌がることもなくその場にいる。ふわふわの絨毯が気に入ったらしく、マジでただの犬である。

 

 

「こちらへどうぞ。まずは居間をご覧にいれます」

 

クィレルの案内で進んだ先、扉の向こうに広がっていたのは、暖炉のある広々とした居間だった。石造りの壁には絵画がいくつか飾られ、うち一枚は窓の向こうの風景と同じ丘の景色をゆっくりと描き続けていた。

 

 

「これ、全部クィレル先生が?」

「はい。家具の選定から魔法の設計、設置まで、私めが責任をもって」

「へーすごいな。なんていう魔法?また教えてよ」

「勿論です」

 

 

俺はその魔法さえ知れば、構造を理解していなくても魔法を使えてしまう。家の設計魔法が将来どんな使い道があるのかわからないけど、まあ知っていて損はないだろう。てか、やっぱクィレルってまじで優秀だな。

 

 

居間の壁際には重厚な書棚があり、手前には低めのテーブルとソファ。クラシックなスタイルだが、硬すぎず柔らかすぎず、いい感じの座り心地。俺が座るとすぐに近くのティーセットが空気を察して紅茶を差し出してきた。

 

 

「ありがとう。でも今はいいよ」

 

 

ティーカップはひと揺れして、そのままソーサーへ戻る。

ふと横を見ると、シリウスがソファの隅で丸まっていた。すっかり馴染んでるな。いいことだけど。

 

 

「ここが俺の家かぁ……」

 

 

しみじみと呟けば、クィレルが静かに頷いた。

 

 

「はい。夏休みのあいだ、ノア様にとって安らぎの場となりますよう──心より、願っております」

 

 

 その声音には、過剰なまでの誠意とどこか報われたような安堵が混じっていた。

クィレル優秀だし俺に盲信的だしである程度無茶ぶりしても答えてくれそうだな。……さすがヴォルデモート頭に寄生させて頑張ってただけはある。

 

 

次に行った食堂は、正直笑うしかないほど広かった。無駄に、だ。

床は濃い赤茶の大理石。壁際には細かい装飾が施された柱が並び、その中央に鎮座しているのが、二十人がけの長テーブル。真ん中にはテーブルランナーが敷かれ、銀食器のセッティングまで完璧にされている。ステンドグラスの窓から光が差し込み、全体がやたらと荘厳に見えるのは設計の意図か、それとも元の住人の悪趣味か。

 

 

「……何人家族の想定なんだこれ」

 

 

 思わず漏れた声に、クィレルは当然のように答える。

 

 

「旧貴族が宴用に設計したものです。少人数には不便ですが──見栄えはよろしいかと」

「確かに。……次の夏休みにハリー達集めてパーティする?」

 

 

「ハリー」の言葉にクィレルもシリウスも反応した。クィレルは僅かに表情を固くして、シリウスは「今ハリーって言った?」と犬らしく尻尾を振っている。

 

 

「……勿論です。お決まりでしたら最高級のおもてなしをさせていただきます」

「はは!そうだな、楽しみにしてるよ」

 

 

あくまで今は、俺の養父のクィリナス・クィレルとして。

いや、流石にここにハリー呼んだらかなりややこしいことになるから呼ばないけどな。クィレルが養親になった事も、暫く黙ってるつもりだし。

 

 

他にも台所や書斎や俺の部屋、客室などを一通り見て回った。ハウスエルフを雇っても良かったけど、今すぐ来てくれるハウスエルフが見つからなかったから仕方がない。料理や洗濯などはクィレルが魔法を使ってどうとでもしてくれるだろう。……多分。

 

 

居間の一番立派な肘掛け椅子に座り長く息を吐く。目の前の暖炉が小さな炎を上げぱちぱちと燃えていて、そのゆらめきがなんとも幻想的だった。

 

シリウスはソファの上で丸くなってすぴすぴと鼻息を立てている。まじで犬である。

 

俺はポケットからそっと杖を出し、無言でシリウスに向けて振った。それを見たクィレルはゆっくりと瞬きし、俺に静かに近寄る。

 

クィレルが入れてくれた紅茶を飲みながら、「クィレル」と呼べばすぐにクィレルは俺の前で跪く。じっと俺を見上げ、言葉を待つその目はひたすらに真っ直ぐだった。

 

 

「闇の魔法、知ってるものを全部俺に教えて?」

「勿論です」

「それと、俺がホグワーツに行ってる間、裏社会の噂とか、ヴォルデモート関連の話とか……なんでもいいから集めといてくれないか。元死喰い人全員の情報も欲しい」

「仰せの通りに」

「よろしく」

 

 

この世界でヴォルデモートを本当に止めたいなら、俺はすべてを知らなきゃいけない。原作になかった事も、全てを。

 

カップを傾け紅茶を一口飲む。

睡眠魔法がかけられたシリウスは、俺とクィレルの会話を聞く事なく穏やかな寝息を立てていた。

 

 

「あ、そうだ。この本、書斎に片付けてくれる?」

 

 

指をぱちんと鳴らせば、壁際に置いてあった俺のトランクケースが開き、一冊の黒い本がふわりと引き寄せられた。

クィレルは稀有な宝石を扱うようにそれをそっと手にし、頷く。

 

 

「はい。……鍵などかけますか?」

「うーん、適当にどっかの引き出しに入れといて」

「かしこまりました。他の荷物も片付けて参りますね」

 

 

 クィレルは黒い本とトランクケースを持ち、俺に深々と一礼をしてから居間から出て行った。

 

 

「……パパっていうか、執事とか使用人だよな」

 

 

俺もそんなふうに扱ってるから悪いんだけど、養親というよりも、クィレルの言動はまさに主人に忠実な執事のようだった。

 

 

 

 

『舞台裏』で暮らしはじめた次の日には俺のペットのシロが手紙の配達から帰ってきた。ここの場所は簡単にしか伝えていなかったけれど、俺の魔力を探してもどってきたみたいだ。

戻ってきたばかりで申し訳ないと思いつつ、そんなに疲れている様子もなかったからハリーとセドリックとフレッドとジョージに「いろんな事情で孤児院を出ることになった」と手紙を送った。

ホグワーツに行ってから質問攻め待った無しだろうけど、そこは覚悟していこう。

 

 

「クィレルー。ちょっと俺出ていくから。夕方までには戻る」

 

 

クィレルはもう俺の先生ではないし、この家に来て少ししてから呼び捨てで呼んでいた。クィリナス、って名前で呼んでもいいけど、もう口がクィレル呼びに慣れてしまって変更できないな。

 

台所を覗けば今日の夕食の仕込みをするクィレルがいた。黒いエプロンをつけて、手には杖と料理本を持っている。目の前の無駄に広いキッチンではまな板の上に魚が置かれ包丁が勝手に三枚おろしにしているし、火にかけられたフライパンは自動で動いている。クィレルは杖を振っているだけで、ぱっと見は指揮官のようだった。

 

 

「ご一緒しましょうか?」

「いや、大丈夫。一人で行く」

「かしこまりました」

 

 

クィレルは深々と頭を下げた。

そんなクィレルに手を軽く振ってから居間へ向かう。いつものソファの定位置に寝転がっていたシリウスは俺の足音で耳をぴくりと震わせると顔を上げた。

 

 

『どこかに行くのか?』

『うん、ちょっとな』

『ついて行こうか?』

『いや、大丈夫。丘の向こうのご近所さんに挨拶に行くだけだから』

『ああ……あいつは行かないのか?一応、父親なんだろう?』

 

 

シリウスは不思議そうに首を傾げた。

丘の向こうには唯一のご近所さんがいる。挨拶に行くのならば、父親役としてクィレルも連れていくべきだろう。でも、連れて行ったら間違いなくややこしくなるから今日はいいかな。

 

 

『クィレル晩御飯作るので忙しいし、いいんだ。それに、知らない相手じゃないし』

『そうなのか?』

『うん、じゃあ行ってくる』

『……いってらっしゃい、気をつけるんだぞ』

 

 

シリウスはそう言ってぱたりと尻尾を震わせ、俺の腕に鼻を擦り付けた。「いってらっしゃい」という言葉を言ったあと、なんだか噛み締めるように目を細めていたのはきっと俺の気のせいではない。

 

 

『行ってきます』

 

 

シリウスの毛を撫で、杖を振るう。日焼け防止のつばの広い帽子とサングラスがふわりと飛んできた。

この屋敷には成人魔法使いが二人もいるから、俺が魔法を使っても魔法省にはバレない。

あーやっぱり気にせず魔法使えるの楽!

 

 

丘までは少し距離があるが歩けない程ではない。今まで暮らしていた孤児院は街にあったから一歩外に出れば大注目されて変態さんとエンカウントしまくっていたけど、自然あふれる長閑な場所に人は誰もいない。街よりも涼しいし歩きやすいな。

 

数十分ほど歩けば、丘の上に到着し、遠くに俺の屋敷の倍くらいは大きな屋敷が見えてきた。その屋敷の前には広大なイングリッシュガーデンがあり、美しく整えられている。屋敷とイングリッシュガーデンを囲む鉄柵は黒く高く伸びていて先は尖っている。

近づき見上げれば、黒く巨大な門に彫られている家の紋章が、やや威圧的に俺を見下ろしていた。

 

屋敷は遠目にも分かるくらいの古典的な威圧感を持っていた。三階建ての石造り、尖塔付きの屋根。漆黒の窓枠と白い壁のコントラストが目を引く。いかにも「歴史のある純血魔法族様の家」だ。……門から屋敷までまあまあ距離あるな。

 

門を見上げるようにして立つ。特徴的な曲線や花の模様が柵を彩っていて、そんなに冷たいような雰囲気はない。あるのは高級感かな。

えーと、インターホンなんてあるわけないよな。ノッカー……も見当たらない。

 

試しに両開きの門の鉄柵をコンコン、と手で叩いてみると、模様がぐにゃりと歪み、中央に浮かび上がった顔が低く「目的を述べよ」と問うた。まるで石像に命が宿ったような、警戒心のある硬い声だ。

 

 

「丘の向こうのお屋敷に引っ越してきました。ノア・ゾグラフです。今日はその挨拶にきました」

「しばし待たれよ」

 

 

門番?のような顔は低い声でそういうと沈黙した。それも数秒ですぐに目を開くと「入場を許可する。入られよ」と言いながら扉が一人でに開いた。

門の先は馬車道が広がっているが、馬車はない。馬車道の両側には高い生垣があって、綺麗に手入れされている。ふわり、と空を白い孔雀が優雅に飛んでいた。

 

孔雀を見上げながら馬車道を歩いていると、遠くから「ノア!」と叫ぶような声が微かに聞こえた。そちらに顔を向ければ館から何かが一直線に向かっているのが見える。

 

 

「やあドラコ」

「ノア!?えっ、な、ほ、本物?なぜここに?い、いや勿論嬉しい!」

 

 

箒に乗ってトップスピードでやってきたドラコは俺を一瞬追い越してからすぐにUターンして戻った。目を輝かせ青白い頬を赤く染めながら地面に降りたち、俺の前に立った。

 

 

「言っただろ?丘の向こうの屋敷に越してきたから、そのご挨拶に」

「え……あ、あの屋敷か?あの、すぐ向こうの?」

「そうだ」

 

 

ぱか、とドラコの口が開く。

一呼吸分おいて、「ええーっ!?」と彼にしてはなかなかの声量の叫びが庭園に響き、白孔雀が驚いて「ケーン!!」と鳴き声を上げ大袈裟に羽ばたいた。

 

 

そう、俺のご近所さんはマルフォイ家だった。

 

魔法界で暮らし、成人済み魔法使いが近くにいれば、魔法を使ってもにおいでバレない。

俺の事を裏切らない人、優秀な人が養親になれば、後々使えそう。

さらにマルフォイ家の近くだったら、ハリー達が七年生辺りの時にいろいろ便利。

と、考えてあの屋敷を購入した。──といっても、マルフォイ家の近くが空き家だったのは本当に偶然だけど。

 

 

「こ、これから夏季休暇はいつでも会いに行けるってことか?!」

「俺の仕事が無かったらな」

「す、すごい……いつも夢見てたんだ、ノアが近くに住んでいたらって、遊びに来てくれたらって……勿論、本当は僕の家に養子に来てくれるのが一番だったが……」

 

 

感極まり、箒の柄を強く握るその手はぶるぶると震えていた。初めの感動を乗り越えたドラコは嬉しそうにニコニコと笑い、俺の手を取る。

 

 

「案内するよ、こっちだ!」

 

 

ドラコは箒に乗らず、俺の手を繋いだまま歩く。家に着くまでに白い孔雀や見事な庭園について誇らしげに説明をしだした。なるほど、この長い道も庭園を楽しむためなら頷ける。

 

近づいて見上げた屋敷は本当に大きく、こんなに大きいのにたった三人でしか暮らしていないのは勿体なくも見える。何部屋余ってるんだろうか。

 

ドラコは壁に箒を立てかけて置き、そのまま見事な装飾がなされた扉を開ける。ぎぃ、と少し重い音を立てて開いた先は玄関ホールであり、床には紅色のカーペット、天井には水晶でできたシャンデリアがあり、肖像画がずらりと並んで俺を出迎えた。顔つき的に、歴代マルフォイ家当主の方々だろう。

 

 

「母上もいるんだ。さっき門からノアが来ると聞いて慌てて化粧直しをしていた。……もう大丈夫だろうか」

「ドラコのお母さんかーきっと美しい人なんだろうな」

「ああ、そうだな」

 

 

ドラコは胸を少し張り自慢げに頷く。ナルシッサとはまだ出会ったことはないが、わざわざ化粧直しをするあたり、俺に対して好印象を抱いてるらしい。

 

 

 そして、俺が応接間の扉の前に立ったとき——その扉は、何の前触れもなく勢いよく開いた。

 

 

「母上!ノアが、ノアが来てくれたんだ!」

 

 

ドラコがそう叫ぶのと同時に、中から飛び出してきたのは、艶やかなブロンドを後ろでまとめた女性、ナルシッサ・マルフォイだった。彼女はいわゆるマーメイドドレス、というのだろうか。

 上半身から膝くらいまでは体のラインにピッタリと沿っていて、膝下からふわりと広がっている形の黒いドレスを着ていた。動くたびに黒い滑らかな布がシャンデリアの輝きを浴びて気品のある光沢を見せていた。

 

ナルシッサは一瞬息を呑んで俺を見つめ、それから両手で頬を押さえて叫んだ。

 

 

「ノア・ゾグラフ……!本物なのね……!」

「こんにちは。ノア・ゾグラフです。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。近くに引っ越してきたので、その……お伺いしたくて」

「ええ、ええ、もちろんよ!もう、私ずっとファンなの、雑誌も写真集も欠かさず……サイン、サインいただけるかしら?今すぐじゃなくてもいいの。落ち着いてからでも……!ああ、信じられないわ!」

 

 

ナルシッサはドラコと同じように青白い顔をしていたが、今その頬は、やっぱりドラコと同じように赤く染まっている。

イメージと少し違うな。もっと静かで威厳のある人かと思ったら、そのコロコロ変わる表情やテンションの高さはモリーやセドリックのお母さんと変わらない。まだヴォルデモート復活してないし、息子は息子でハリーと仲良くて青春楽しんでるし、心労が少ないからかな。

これがこの人の本来の姿なのかもしれない、と思うと、やっぱりドラコは守ってあげなきゃなぁと感じる。

 

 

「ああ、そうだわ!魔法画家を呼びましょう。ね?ドラコと一緒に肖像画を描いてもらいしましょう?」

「ノアと一緒に?やった!僕の部屋に飾りたい!」

「駄目、応接間よ」

「ええーっ!」

 

 

いつの間にか俺とドラコの肖像画を描くことが決定したようだ。あれって動くやつだよな?そういえばどうやって記憶閉じ込めて動かしているのか気になってたし、まあいいか。

 

 

そんな騒ぎの中、ひときわ低く重い足音が廊下の奥から響いた。現れたのはもちろん、ルシウス・マルフォイであり、高級そうな姿に、例のステッキ。金髪をなびかせ、表情はなんだか具合が悪そうな土気色で、どうみても警戒中。

夏休みの前にリドルの日記持ってたの知ってますよーってアピールしたのが効いてるっぽいな。

 

 

「……これは、これは。まさか我が家に、きみが訪ねて来られるとは。それで、あー……どうしたのかね?」

「丘の向こうの屋敷に引っ越してきたので今日はそのご挨拶に来ました」

「あの屋敷に?…そ、それは……」

「父上、ノアに屋敷を案内してあげてもいい?」

 

 

冷や汗を流し黙り込んだルシウスに気付いていないのか、ドラコが無邪気な声でルシウスに聞いた。ルシウスは仕切り直すように咳払いをしてから、「ああ、勿論だとも」と頷いた。

 

 

「終わったら応接間にいらっしゃい。紅茶とお菓子を用意しておくわ。──それと、ノアにサインしてもらうための色紙も」

 

 

ナルシッサは柔らかく笑いながらそう言い、準備のために名残惜しそうに俺とドラコを見送った。ルシウスは一緒に案内をするべきか悩んでいたようだが、それよりも見られては困るものを片付けに行くことにしたのか、足早にどこかへ行ってしまった。

 

 

「じゃあこっち!ノア、こっちだ!」

 

 

ドラコは俺の手を取ったまま、屋敷の廊下をずんずんと進んでいく。床に続く絨毯はふかふかで、踏むたびに柔らかく沈む。壁には重厚な額縁の絵画が並び、いくつかの肖像画は興味深そうに俺を眺めていた。

 

 

「こっちが応接間。父上の書斎はあっち。あそこは母上のサロン。向こうがダイニングだ。ノア、夜に来ていたら豪華なディナーを食べられたのに」

「そりゃ残念だ。次は夜に来るよ」

「また来てくれるのか?ぜ、絶対だぞ?」

「お邪魔じゃなければ」

「邪魔なわけあるか!──そうだ、ハリーたちも呼んでパーティをすればいいんだ!」

 

 

俺が少し前に思った事と同じ事をドラコは言った。内容は同じでも思惑は百八十度違っていて、純粋なドラコの提案とその笑顔が眩しい!

 

 

「そうだな、ハリーはきっと喜ぶよ」

「そうだろう?ハリーとロンを呼んで、パーティをして、泊まればいい!特別な夜食が食べられるし、この館から見える星空はすごく綺麗なんだ。……だから──だから、その──」

 

 

ちらちらとドラコは俺を見る。期待するような、それでいて気恥ずかしいような、そんな目だ。

 

 

「可愛いパジャマお揃いにして、パジャマパーティしようぜ」

 

 

にこ、と笑いかけてドラコの頭をぽんぽんと叩く。ドラコは目を輝かせ何度も頷いた。

 

 

「!!す、する!絶対だぞ!」

「ふりふりのパジャマ買おうかなー」

「……ノアは似合うだろうけど、僕はかっこいいパジャマがいいな」

 

 

ドラコは少し困ったように笑いながらも、未来の楽しいイベントに早くも心を躍らせていた。

ハリーとドラコとロンでパジャマパーティとか、そんなイベント、絶対外せないし仕事があったとしても、なんとしてでも参加する。

 

話題はパジャマパーティから夏休みの事や来年の事になり、ドラコは少しも黙る事なく、屋敷を案内しながら楽しげに話し続けていた。

 

 

やがて、ひときわ立派な扉の前に到着し、ドラコが得意げに胸を張って宣言した。

 

 

「ここはノア・ルームだ!」

「……へ?」

「ノアがいつ来てもいいように、作っていたんだ。ぜひ見てほしい!」

 

 

俺の部屋?と首を傾げていると、自信たっぷりな表情でドラコが扉に手をかけた。

 

ドラコが自信満々に両開きの扉を開け放つと、目の前に現れたのは──え?ここ、マルフォイ邸だったよな?

 

 

 真っ白な大理石の床に、青灰色のラグ。部屋の奥にはソファとサイドテーブル、そして壁一面、俺の写真。

 

 

それも、雑誌の切り抜きや公式のポスター、写真集の1ページ1ページ、パッケージ起用された写真、ショーのスチール写真に至るまで綺麗に額装されて整列していた。いや、額装っていうか、もうこれ展示レベルだぞ。美術館の企画展みたいな扱い。

 

中央には祭壇めいた平台があり、そこには俺がサインしたらしい写真集が一冊。これ去年のやつだよな。

他にも俺が出ている雑誌のバックナンバーもクリアケースに収められて並んでいる。さらにその脇には、俺が以前写真撮影で使ったブランド服を着たマネキンがガラスケースの中にいた。……ノア本人着用って書いてない?え?買収したやつ?

 

 

「……すげえ」

「そうだろう!」

 

 

ドラコは隣で誇らしげに胸を張ると、照れたように口元を隠した。

 

 

「これは第一展示室だ。第二はもっとカジュアルで、私服特集コーナーがある。でもまだ制作途中なんだ、だから今日はここだけを見てほしい」

「俺の私服特集とは?」

「ああ、知らないんだな。ノアは孤児院で暮らしていた時から隠し撮りされていて『今日のノア・ゾグラフ様の私服コーデ』と度々雑誌に載っていたんだ。事務所を通してない企画らしいが結構な人気だぞ」

「……知りたく無かったかなー」

「あっ!ノアが近くに引っ越して来てくれたのは嬉しいが、そのコーナーがもうなくなるのか……この辺りは人避けがあるしな。……ああ!でも雑誌を見ずとも、ノアの私服をこれから見られるのか!今日の服装も、すごく似合ってるぞ!」

「ありがとう?」

 

 

そんな隠し撮りされてるなんて気づかなかったから、普通の服しか着てないぞ。いや、俺は何着ても最高だけどさ。

 

 

「部屋をこんなことにして、ルシウスさんとかナルシッサさんは怒らなかったのか?」

「母上もノアのファンだからな。賛成してくれている。それに部屋は余っているし、有効活用だろう?父上は……複雑な表情だったが、許してくれた」

「まぁご両親がいいって言ってるなら……」

 

 

いいのだろうか。

今後闇陣営がマルフォイ邸を本拠地にした時ドン引きされないかどうかが心配ではある。

色々考え黙ったまま引き延ばされた俺の写真を見ていると、ドラコがぐいっと俺の袖を引いた。

 

 

「見てくれ。この写真は、魔法使い・魔女国際モデルコンテストの優勝の時のものだ!それに、これは、ノアが初めて雑誌に出たときの記念号。あと、これ──知っているか?この連載のインタビュー、凄く良いこと言ってるんだ」

「……ああ。うん」

 

 

ドラコは目を輝かせながら「このノアの気持ちはきっと」とか「未来の魔法界のために」だとかペラペラ喋ってるけど。あの、そのインタビュー書いた本人横にいますよ?

 

 

「ていうかドラコ、この部屋っていつ作ったんだ?」

「ノアがモデルになってからすぐ。元々はここまでの規模ではなかったんだが、どうせ飾るなら綺麗に飾らなければ勿体無いだろう?去年から休暇のたびに作っていたんだ。でもこの部屋が完成したのはつい最近で……見せることができて本当によかった」

 

 

そう言って笑う顔は、無垢で、真っ直ぐで、ちょっとだけ……ファンを通り越して宗教みたいになってる気がする。

 

 

「これからも、応援しているからな!」

「はは、ありがとう」

 

 

マルフォイ家の次期当主がバックについてるとか、魔法界でおいてこれ程心強いことはないのかもしれないな。

 

 

 

この後応接間に行き、少しだけお茶してから俺は自分の家へ帰った。

帰る時に何度も「本当に、肖像画を描きましょう」とナルシッサから念押しされてしまって、近々またこの屋敷にお邪魔することになりそうだ。

ルシウスは、なんとも複雑な表情で口を結んでいたが、息子と嫁が楽しそうにしている空気に水をさす事はなく、ただ少し離れたところからその様子を目を細めて見ていた。ステッキを持つ手の力は、少しだけ緩んでいる。鋭く吊り上がっていた眉尻は、わずかに、家族の方へと傾いていた。

 

 

 

 

 

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