兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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101 シリウスと一緒!

 

 

九月一日。

今日からホグワーツ五年目──ハリーの三年目が始まる。

今年からハリー達の周りで起こる事件はいよいよ本格的に重くなりシリアスな展開に向かっていく。

今年は命を落とす者は居ないが、真実が明かされる年だ。ハリーとシリウス・ブラックの関係が明かされたり、親を裏切った人が誰か分かったりでハリーにとって精神的にかなり辛い一年になるだろう。

 

俺の方は、今年はともかく来年はセドリックの死亡フラグが立つ。なんとかそのフラグをへし折るためにできる限りの準備は全てやらないとなぁ。……幾つか法を犯すとしても、だ。

 

 

大きなトランクケースを転がしながら、隣を歩く黒い犬──シリウスと共に駅へ向かう。

クィレルはキングズ・クロス駅の九と四分の三番線まで俺を見送るつもりだったらしいが、流石に遠慮してもらった。少し残念そうにはしたが、俺の言う事は絶対のため名残惜しげに「よい一年を」と言って送り出してくれた。

因みにドラコも「僕の家の馬車で一緒に行かないか?」と誘って来たけど、シリウスがいるし断った。

 

 

『さてシリウス、ホグワーツに連れていくけどいい子にしろよ?勝手に人に飛びかからない。俺が授業中は寮を抜け出さない。いいな?』

『わかった』

『ルール破ったらご飯抜き、場合によっては即帰宅。了解?』

『う……わかった』

 

 

シリウスにしっかりと忠告する。シリウスは神妙な顔で頷き、「大丈夫、俺は賢い犬だ」と胸を張った。

いや、スキャバーズとトムジェリ的な微笑ましい追いかけっこは勝手にしたらいいと思うけど、流血沙汰になるのは困る。あくまで俺のペットとして行くんだから、ある程度いい子にしてもらわないとな。

 

 

毛並みのいい大きな犬と美青年の組み合わせは中々にインパクトがあるのか、何人もが俺とシリウスを見ている。シリウスは忠犬らしく堂々とした態度だったが、何かを探すように人混みを右から左まで素早く目を走らせていた。

 

流石にこんなでかい犬を連れてたら注目されるか。セドリック達もまだ来てないみたいだし、仕方がない。

しゃがみ込み、シリウスの腹を撫でるフリをして指をくるりと回す。その瞬間、離れた場所で何かが落ちる音とけたたましい音が響き、俺を見ていた人は反射的にそちらを見た。

その隙に魔法界への入り口の柵に寄りかかり──金属の障壁を通り抜け、九と四分の三番線に足を踏み入れた。

 

白い蒸気をもくもくと吐く紅色の機関車、ホグワーツ特急が生徒達を受け入れているのが見える。シリウスは、目を細めて懐かしいそれを見つめていた。

 

 

「行こう」

『ああ』

 

 

シリウスは俺の隣から離れず、汽車へ向かう。俺を見た魔法使いや魔女、見覚えのあるような気がするホグワーツの生徒が「あ、ノアさんだ!」「何あの犬かっこいい……」と囁くのが聞こえたが、シリウスは全く気にせずふわりと尻尾を振り、堂々たる態度で乗り込んだ。

 

最後尾近くに空いているコンパートメントを見つけ、トランクを詰め込み鳥籠を荷物棚に乗せた。シリウスは俺の対面側に座り、窓の外をじっと見ていた。

暫くすると、シリウスはぴくりと耳を震わせ座席の上に立ち食い入るように外を見る。尻尾はぶんぶんと激しく振られていた。

ちらり、と外を覗き見てみれば、その先にいるのはハリー達であり、シリウスは今にも飛び出しそうなほど身を乗り出している。ハリーを見てかなり喜んでいたが、その隣にいるロンを見つけるとシリウスはピンと尻尾を立たせ低い声で唸り出した。

 

 

『シリウス、おすわり』

『……』

『シリウス』

『……わかった』

『いい子だ』

 

 

シリウスは飛び出すのを諦めた。今飛び出せば、人混みの中に逃げられてしまう。そうなればもう二度とジェームズ達の仇を討つ機会は訪れないとわかったのだろう。

 

窓の外では遠くでハリーがウィーズリー家の人たちと一緒に乗り込むのが見えた。

少しして汽車はシューと煙を吐き、がたん、と一度揺れ、ゆっくりと進み出す。シリウスは爪を座席に食い込ませながら、じっと窓の外の景色を見ていた。その目には、流れる景色ではなく──失われた人々が写っているんだろうな。今にも飛び出したい気持ちと、葛藤しているだろう。

 

 

「やあノア!こんなところにいたのか!」

「わ、でっけー犬!」

「やあフレッド、ジョージ久しぶり」

 

 

がら、と扉が開き驚きの声を上げながら入って来たのはフレッドとジョージであり、対面側に座るシリウスを見て目を瞬かせていた。

 

 

「そ、新しいペットのシリウス」

「え?……なんだって?」

「ワォ。なかなか尖ってる名前だな」

 

 

シリウスは、魔法界で今一番のお尋ね者であり、大量殺人犯だ。そんな縁起の悪い名前をつけた俺のセンスに二人はからかえばいいのか真剣な顔で忠告すればいいのか悩んでいるようだ。

 

 

「あー。なんかアズカバンから脱獄があったらしいな。新聞読んでないし全然知らなかった。でもさ、シリウスって名前はかっこいいしありだろ?」

「ま、ノアが良いんなら良いんじゃない?」

「君に文句言う人なんていないよ」

 

 

フレッドとジョージはそう言いながらじーっと、シリウスを見る。シリウスは一度ぱたり、と尻尾を振った。

 

 

「なあ、こいつ噛むか?」

「俺の犬だぜ?世界一お利口にきまってるだろ?」

 

 

そう言った途端、フレッドとジョージは目を輝かせシリウスに飛びかかった。わしゃわしゃとシリウスの頭や背中を撫で「でけー!」「ふわふわだな!」と興奮したように言う。シリウスはぴしりと固まり、かなり戸惑いながら俺に助けを求めてチラチラと見てきた。尻尾も耳も下がっている。

……これ、犬だからいいけど人間で考えたら──いや、考えないでおこう。

 

 

「シリウスが困ってるからその辺にしとけよ」

「えー、もう少しいいだろ?」

「でかい犬ってカッコよくていいよな。目の色も綺麗でかっこいいし、ノアの犬って感じ」

 

 

フレッドとジョージはシリウスの目を覗き込みながら言う。シリウスは至近距離で見つめられ、少し顔を引きながら「くぅん……」と情けない声を上げた。

 

シリウスの目は、魔法薬を使い俺の目の色と同じ色に染まっていた。毛の色は元のままの漆黒で、このまま俺と雑誌の表紙でも飾れそうな雰囲気だ。

 

 

「でも、犬って連れて行ってよかったっけ?」

「見た事ないな。フクロウか猫かヒキガエルだけじゃなかったか?」

「ハグリッドはファング飼ってるし、いいだろ。シリウスはお利口なわんちゃんだから、なー?」

「わん!」

 

 

シリウスは俺の声に同意するように吠える。フレッドとジョージは人の言葉を理解しているような犬の反応に、面白そうににやりと笑った。

 

 

「そういや、ハリーが『ノアと会いたいノアと会いたい』うるさかったぜ」

「そうそう。ノア、孤児院出たんだろ?ハリー、かなり落ち込んでた。一人暮らしか?」

「いや。……それよりさ、セドリック見てない?」

「セドリック?そういや見てないな」

「もしかして、監督生に選ばれたんじゃないか?」

 

 

フレッドとジョージは俺が孤児院を出たことをそんなに気にしてないっぽいし、こうやってあからさまに話題を逸らしても気にしない。

セドリックもそうだろうけど、ハリーはやばそうだな。「なんで孤児院をでたのどうして」の大合唱だろう。

 

 

「監督生は監督生だけで集まるって、うちの素晴らしい監督生様が言ってたぜ?」

 

 

と、ジョージがからかいの混ざる声で言った。

セドリック、確か監督生……だったか。そうだったような気がする。ハッフルパフで一番の優等生はセドリックしかいないし納得して頷いたら、フレッドがシリウスに向けていた目を俺にうつしながら言った。

 

 

「俺たち、今からリーのところ行くけど、ノアも来るか?」

「いいや。シリウスもいるし」

「オーケー!じゃあまたな」

「セドリック見かけたら声かけておくからな」

 

 

フレッドとジョージは最後にシリウスの頭を撫でてからコンパートメントを出て行った。

嵐のように騒がしい二人が消えた途端、がたん、がたんと汽車の音が静かなコンパートメントにさっきより強調されて響いた。

 

 

『ハリーと、友だちなのか?』

『んー?幼馴染みたいなもんかな。俺の孤児院と、ハリーの住んでるところが近いから昔からよく遊んでたんだよ』

『……そうか』

 

 

シリウスは目を細め、嬉しそうに笑う。

顔の形は犬なのに、何故かその笑顔は『人間のシリウス・ブラックが笑ったらこんな顔だろうな』と明確にイメージできるものだった。

 

 

『汽車が止まったら俺の友だちを紹介するからな』

『ああ、楽しみだ』

 

 

シリウスは穏やかな低い声でそういうと、ぱたり、と尻尾を一振りした。

 

 

 

 

汽車が動き出して数十分もすればいつもの車内販売がコンパートメントの扉を叩いた。魔女鍋ケーキとアセロラジュースを買っているとシリウスが物欲しそうな目で見てきたから、犬が食べても大丈夫そうなシンプルなバタークッキーを一袋買い与えた。

シリウスは食べ散らかすことなく器用にもぐもぐと食べると、肉球をぺろぺろと舐め、『少し寝る』と言って座席の上に寝そべった。シリウスのブルーグレーに染まった目が、静かに閉じる。

昨日、かなりシリウスは興奮していたし、なかなか寝付けなかったんだろうな。懐かしいホグワーツに行くことができる、ハリーと会える、ペティグリューを殺せる。──そりゃ目も冴えるか。

 

 

話し相手がいないと暇だな、シリウスを置いてちょっとジョージとフレッドのところ行こうかな。──そう思ったとき、コンパートメントの扉の窓に見覚えのある顔が写り、すぐに扉が開かれた。

 

 

「ノア!久しぶりだね!」

「や、セド」

 

 

現れたのはセドリックであり、セドリックは俺を見て嬉しそうな顔をして手を振っていたがすぐに申し訳なさそうに──それでいて少し誇らしそうに──眉を下げた。

 

 

「ごめんね、実は僕……監督生になって、その業務があってさ。監督生同士で座らなきゃいけないとかで──って、その犬どうしたの?」

「俺のペット」

「へえ……え?犬ってよかったっけ」

「多分。やばかったら森で放し飼いだな」

「うーん……さっそく監督生としての初仕事が回って来そうだ」

 

 

セドリックはこれから続く監督生としての責任と俺に対する指導のことを考え顔をしかめていたが、それ以上は追及してこなかった。むしろ、俺の隣にそっと腰掛けて、シリウスを観察し始めた。

シリウスはセドリックの声に少し薄目を開けたが、敵意がないとわかると、また閉じて寝てしまった。

 

 

「寮に連れて行くんだよね?」

「そのつもり。めちゃくちゃ賢いから噛んだり粗相したりはしないから。朝と夜適当に森の中散歩させるし」

「……後で、スプラウト先生に確認しなよ?」

 

 

セドリックは呆れながらもシリウスに寛容的だった。

 

 

「そういえば、孤児院を出たんだってね。おめでとう!信頼できる養親が見つかったって事だね」

「まあな」

 

 

やっぱり聞かれると思った!

セドリックは自分のことのように嬉しそうに言ってくれたが、セドリックにもクィレルのことは秘密にしておこう。セドリックって意外と心配性なところがあるし、クィレルが養親だって言ったら夏休みに心配して毎日手紙が届きそうだし。

 

 

「そういえば──」

 

 

セドリックが何かを話し出そうとしたとき、汽車が不自然にブレーキを踏み速度を緩めた。セドリックは不思議そうに窓の外を見るが、いつのまにか降っていた雨が窓に打ち付けていて外の風景はよく見えない。

 

 

「まだホグワーツにつくには早いよね、どうしたんだろう、何かあったのかな」

「列車強盗とか?」

「……なら攻撃しても正当防衛だね」

 

 

セドリックは俺の言葉に肩をすくめながら返事をする。いつもの冗談だと考えたのだと思うが、あながち間違いではない表現だと思う。

 

そうこうしている内に、汽車はますます速度を落とし、レールの上を走る音が弱くなっていく。ついに雨風が窓を叩く音が明確に聞こえるまでに汽車は沈黙した。

セドリックは不安と疑問が混ざったような顔で立ち上がり通路の様子を見た。どうやら同じように不思議そうな顔をした生徒が様子を窺っているらしく、遠くから「どうしたんだろ」と不安そうな囁き声が聞こえた。

 

そして、何の前触れもなく汽車の明かりが一斉に消え、悲鳴が上がり、辺りが急に暗闇になった。外は昼間のはずだが、豪雨が太陽を覆い隠しているらしく外の光も入らない。急に冷気がじわじわとコンパートメントの中に入り込んできた。

 

ざわざわとした不穏な囁きや混乱した不安そうな声が聞こえた。

シリウスも不穏な空気に気付き目を覚まし唸り声を上げているが、毛並みが黒いせいでどこにいるか全くわからない。

 

 

「ルーモス。……汽車の故障かな。僕、見てくる」

 

 

非常事態だとしてセドリックはいち早くルーモスでコンパートメント内を照らした。声は落ち着いていたが、目元は強張りその表情は固く、やや緊張していた。

 

 

「俺も、行こうかな。──シリウス、ついておいで」

 

 

俺も杖先をルーモスで照らし、シリウスに声をかける。セドリックは俺がついてくると知り肩にこもっていた力を僅かに抜いたようだった。

シリウスは黙って立ち上がり、すっと俺の隣に並ぶ。まるでここが自分の定位置だというように。

 

通路に出れば、何人かの上級生が同じように外にでていたり、ルーモスでコンパートメントを照らしながら泣き出しそうな下級生を慰めているのが見えた。誰もが混乱し動揺していたが、監督生の印であるバッチがついたセドリックを見て、誰もがほっと表情を緩めた。

 

 

「静かに、危険だからコンパートメントの中に戻ってください。今から運転士に聞いてきます」

 

その言葉に通路に出ていた生徒はほっと表情を緩めコンパートメントの中に戻っていく。セドリックは困惑の中に緊張を滲ませたまま、先頭車両へ向かう。──向かおうとした。

 

 

「セド」

 

 

セドリックの名を呼んで、肩を掴む。セドリックは少し驚いたような目をして振り返った。「ノア?」とその唇が動く前に、俺の後ろにセドリックを押し下げた。押されたセドリックはよろめきながら、どうしたのかと聞こうとして、周囲の変化に気づき言葉を失った。

 

 

不自然な冷気が辺りを包む。

霜が、廊下に、扉に、音もなく広がり白く濁っていく。吐く息が白く染まった。

 

 

黒い何かが車両の向こう側からするすると音もなく近寄ってきた。それは2メートルはありそうなほど巨大で、それでいて不気味に細長い。朽ちた真っ黒のぼろ布のような長いローブを引き摺り、それは滑るように近づいてくる。

シリウスが、俺の背後に一歩下がる。耳が伏せられ、牙を見せないまま、身を小さくしていく。

 

 

「──ディメンター……!」

 

 

セドリックが小さく叫ぶ。

汽車を止め乗り込んできたのは吸魂鬼だった。それらは汽車の気温を下げ、幸福な気持ちを吸い、徘徊する。──脱獄したシリウス・ブラックを匿っている者がいないか探しにきたんだろう。

 

ぴたり、と吸魂鬼は俺の目の前で止まる。

 

 

『至高の魂……』

 

 

相変わらずの言葉しか言わない吸魂鬼だ。レパートリー少なくねぇ?俺と前アズカバンで会ったやつ?

シリウスは声を出さない、身を低め、俺のそばにぴたりと体をつけて──小さく震えていた。

 

 

「俺を口説くなら新しい文句考えて来い。──エクスペクト・パトローナム!」

 

 

杖を振れば、銀色の眩い光が広がる。吸魂鬼は声にならない悲鳴を上げ、その光から逃れるようにじりじりと下がる。杖から出た俺の守護霊の麒麟が、前足を大きく上げた瞬間、吸魂鬼は滑るようにどこかへ行ってしまった。

 

俺がいた車両に入りかけていた吸魂鬼は退散し、コンパートメントから廊下の様子を恐々窺っていた生徒たちが安堵の歓声を上げるのが聞こえる。

 

 

「今のは守護霊?す、すごい……」

「俺に使えない魔法はない!」

 

 

セドリックの驚嘆の言葉をふざけて返せば、セドリックは乾いたような笑いを浮かべ「流石だね、ありがとう」と言った。

 

 

「これ、麒麟でしょ?すごい、図鑑でしか見たことないや……」

「俺も実物は見たことないな」

 

 

車両の端から端まで見回りした麒麟の守護霊は、倒すべき敵がいないとわかると俺の側に舞い戻る。俺に頭を垂れてきたからよしよしと撫でれば、守護霊なのに嬉しそうに目を細めた。

光を帯びた守護霊は、次に小さく震えるシリウスの肩へと歩み寄る。細長い首を彼の背に寄せるようにして、そっと頭を押し当てる。──まるで「もう大丈夫」とでも言うように。

 

 

その時、後ろから車両の連結扉が開く音がした。セドリックは反射的に肩を震わせ杖を構えて振り返る。俺もつられて一歩前に出た。

吸魂鬼が入ってきたのかと思ったが、その先にいたのはくたびれたローブ姿の大人の魔法使いであり──セドリックは安堵すればいいのか、警戒すべきなのか悩んでいるようだった。

 

 

「おや、君達は?」

 

 

掠れながらに、優しそうな朗らかな声が聞こえる。

 

 

「僕はセドリック・ディゴリー。ハッフルパフの五年生です。……あなたは?」

「私はリーマス・ルーピン。今年からホグワーツの教師になる者だよ」

 

 

リーマスはセドリックが警戒しているのを見て、落ち着いた声で自己紹介をする。くたびれたローブに傷痕の残る顔、目尻に刻まれた皺。──セドリックは少し悩んでいたが、最終的には杖先を下ろした。

 

 

「守護霊魔法をこんな年齢で使えるなんて……信じられない。誰に習ったんだい?ご両親かな?」

「それは、僕じゃなくて──」

「俺です、リーマス先生」

 

 

セドリックの後ろから顔を出し、ひらりと手を振る。俺の守護霊の麒麟は甘えるように俺に顔を擦り寄せた後、光の粒になり空気に溶けるようにして消えた。光の粒が拡散すると、なんだか場の空気が清められたような、暖かくなったような不思議な感じがした。

 

 

「君は……ノア・ゾグラフかな?」

「そうです」

「ああ……名前は噂でよく聞くけれど、実物は──本当にすごいね」

 

 

リーマスがどんな噂を聞いたのか気になる。誰から聞いたのかも気になるところだし、リーマスにはいろいろ話したい事もある!けど、今は我慢しよう。

リーマスにとりあえず微笑みかけてみたら、リーマスはかすかに目を見開いたあと、ふっと表情を緩め優しく笑い返してくれた。……くっ!大人の余裕かっこいい!

 

 

「おや、その犬は──」

 

 

リーマスは俺の後ろで影のように控えるシリウスを見つけ、視線を下す。車両内が暗くて初めは気付かなかったのだろう。シリウスは、俺の脚の後ろで身を隠すように小さくなっていた。

 

 

「ああ、俺のペットの犬です」

「……ゾグラフ、その犬、ちょっとよく見せてくれないか?」

 

 

リーマスは顔に浮かんでいた朗らかな笑みを消し、固く緊張が孕んだ声で言う。目つきが鋭くなり、いきなり変わった雰囲気に、セドリックが戸惑ったのが空気で分かった。

 

 

「どーぞ。……ほら、可愛く挨拶しろよ」

「……」

「……く、くぅーん……」

 

 

リーマスは腰を曲げ、ルーモスを灯した杖先をシリウスに向ける。シリウスは尻尾を丸めて俺の足に絡ませ、耳をぺたりと垂らしながら情けない声を上げた。……これ、人間だったら十五歳の子どもの足に縋る中年か……いや、まあシリウス好きだからいいけどさ、イケメンだし。

 

 

「……目の色が違う。……気のせいか」

「どうしました?」

「いや。──知り合いの犬に似ていて。でも目の色が違ったよ。気のせいだったようだ」

 

 

リーマスはそう言うとすぐにふっと柔らかく笑い、微妙な空気を入れ替えるように「じゃあ私は運転士に声をかけにいくから、君たちはコンパートメントに戻りなさい」と言いながら俺とシリウスの隣を通り過ぎた。

 

シリウスはあからさまにホッとしている。人間かと思うほどため息ついてるし。……人間だけど。

 

やっぱり、リーマスの事を考えて、シリウスの目を染めて正解だったな。シリウスが新聞の写真に写ってるネズミを見てペティグリューだと気付いたくらいだから、リーマスもアニメーガスのシリウスを覚えてるんじゃないかと思ってたんだよな。

けど、リーマスは預言者新聞を購読したり、ペットの毛や目の色を変えるのが流行っているなんて知ることができる金銭的余裕はないんだろう。

 

 

「先生がああ言ってたし、戻ろうか」

「そうだな」

「……吸魂鬼をホグワーツに配置するって話、本当だったんだね。あの脱獄犯のシリウス・ブラックが逃げ出して、ホグワーツに来るかもしれないって父さんから聞いたけど……」

「へー。そんなお知らせあったっけ?」

「いつもの手紙とは別に、保護者にだけ届いたらしいよ。父さんは、僕が監督生になったから、『下級生を守りなさい』って、教えてくれたんだ」

 

 

元いたコンパートメントに向かう中、セドリックは声量を落としながら説明してくれた。そんな手紙が来たってクィレルは何にも言ってなかったけどなぁ。どこまで報告あったんだろ……少し探ろ。

 

 

「なんでホグワーツに来るんだ?」

「ブラックは例のあの人の右腕だったらしい、だから──その、ハリーを狙ってるんじゃないかって噂」

「へえ」

『違う!』

 

 

シリウスが反射的に叫んだ。

セドリックはいきなり吠えたシリウスに驚き、どうしたのかと俺をちらちらと見る。セドリックには、あの悲痛で悲惨な嘆きは分からなかったんだな。

 

 

「どうしたの?僕、しっぽ踏んじゃった?」

「あーそうかも。暗いし」

「ああ、ごめんね──ええっと──」

 

 

セドリックは申し訳なさそうに眉を下げ、シリウスの名を呼ぼうとして、そういえば名前を知らない事に気づき口籠る。

 

 

「シリウス、って言う名前」と助け舟を出せば、セドリックはその名前に「え、」と小さく驚愕を漏らしたものの、すぐに「ごめんね、シリウス」と謝った。

シリウスはシリウスで「足を踏まれたわけじゃないし、謝って欲しいわけでもないし、そもそも君は悪くないし……」と複雑そうな表情をして、「わん」と小さく吠えていた。

 

 

 

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