兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
汽車がホグズミード駅で停車した。
いつもなら友人たちと楽しげに話しながら汽車を降りる賑やかな声がそこかしこで聞こえるが、吸魂鬼の襲来が後を引き、みんな具合が悪そうな表情で沈黙していた。
セドリックは監督生としてプラットホームに溢れる生徒たちを統率しなければならないらしく、人混みを掻き分けて行ってしまった。
人がある程度はけてからシリウスと一緒にプラットホームに降りたが、俺の姿は自然と視線を集めるもので、ざわつきが一瞬止まった。
「ノア様だ」「守護霊魔法、麒麟なんだって」「見た?キラキラしてた。それに、吸魂鬼と対峙しても全然平気そうで、凄かった」──など、興奮と尊敬が混ざった囁きが響く。俺にとっては日常的に向けられる言葉と熱い視線だ。しかし、シリウスはホグワーツで俺が神格化してるなんて当然知らなかったから、驚き少々戸惑っているのがわかる。
きっと、シリウスも学生時代はイケメンで目立つ生徒だったはず。色々な視線を集めていただろう。だがその視線と、俺が今向けられている視線は少し色や熱が異なる。
俺を見る熱狂的な奴らは、ほんと俺を神様か何かだと思ってるからなぁ。
「ノア!やっと会えた!」
人の波を逆流し、人混みを押し退け、ハリーが嬉しそうな顔で飛び出してきた。その後に続くのはロンとハーマイオニーとジニーとネビルだ。
ネビルは俺を見た途端、具合の悪そうだった顔を一瞬で赤らめ「ノ、ノノノノア様!」と上擦った声で手をバタバタとさせ挙動不審な動きをして、ジニーは陶酔した表情で「ノア様、お元気そうで何よりです」と胸の前で指を組み、俺に深々と頭を下げた。
それを見たロンとハーマイオニーは顔を見合わせ、相変わらずの二人の様子に呆れているようだった。
息を切らして飛び込んできたハリーの隣で、シリウスがぱたぱたと尻尾を振っている。飛びつきたくて仕方ない、という気持ちが全身から伝わってくるが──残念ながら、今のハリーには犬なんか目に入っていない。ハリーはシリウスを微塵も見る事なく俺の肩をがしりと掴み、口を開いた。
「ノア、さっき吸魂鬼きたよね。ノアは退治できたんだって?すごいや!……僕、すっごく冷たくなって、何か叫び声も聞こえて……もう最悪だった。心がきゅうって苦しくなって……でもノアを見たら心があったかくなってきて治ったんだ!やっぱりノアは凄いね。
──あっ!そういえば引っ越したの?なんで?夏休み会いに行けないなんてそんなの僕耐えられない!っていうか誰がノアを引き取ったの?僕に相談も面談もなく?ノアに相応しい養親なのか僕が見るから、次の夏季休暇絶対家に行くから、紹介してね」
ハリーの怒涛の言葉にシリウスは前脚ふみふみを止めた。
……やっぱりハリーはこうなると思ってた!
「おー……来年な、来年」
「絶対だから、指切りして」
小指を俺の顔の前にずいっと出すハリー。
ハリーの言う指切り、というのは俺が生み出してしまった契約魔法であり、それを破ると針千本飲まされる羽目になる。ここで拒絶したらさらに面倒な事になるのは火を見るより明らかで、俺は苦笑しながら小指を差し出した。
「わかった。……指切りげーんまん、嘘ついたら針千本のーます!」
小指を結び、魔法の言葉を唱えれば、結ばれた小指が光を放った。ハリーはそれを見てようやく満足したのか、ほっと息を吐き──やっと視界が開け俺の隣にいるシリウスに気づき、びくりと体を強張らせた。
「こ──この犬、グリム?」
「なわけないだろ。俺のペットだ。夏休みに孤児院の近くで彷徨ってたからさ」
「そうなんだ……僕が見たの、この子だったのかな……」
ハリーは独り言のように呟き、身をかがめてシリウスをじーっと見る。原作通り、ハリーは従兄弟の家を飛び出した夜に、こっそりハリーに会いに行っていたシリウスを目撃したらしい。
シリウスはこんな近くでハリーを見られるとは思っていなかったのか、嬉しそうに目を細め千切れんばかりに尻尾を揺らしていた。
「かっこいい犬だね!ノアになんだか似合うよ。名前はなんて言うの?」
「シリウス」
「……シリウス?」
ハリーは怪訝な声でその名を呼んだ。シリウス・ブラックが自分の命を狙っているとアーサーから聞いて知っているハリーは、なんでそんな名前にしたんだろうと思ったのか「シリウスかー……」となんとなく呼び辛そうな渋い表情だった。
シリウスはシリウスで、ハリーに名を呼ばれた瞬間から感動のあまりぶるぶると震え出していた。
「寒いのかな、震えてるよ?」
「確かにちょっと寒いよな。──ほら、もう前が空いたんじゃないか?馬車に乗ろうぜ」
適当に誤魔化せば、ハリーはシリウスの頭を少しだけ撫でて──シリウスは感激していた──俺の腕を掴み頷いた。
喋っている間に人混みは馬車の方へとはけていて、乗り損なっては大変だとハリーと俺たちはすぐに馬車へ向かう。
一つの馬車に六人と大型犬一匹は流石に入らないため、ハリーとロンとハーマイオニー、ネビルとジニー、俺とシリウスに分かれて馬車に乗り込んだ。馬車を引くのはセストラルで、隊列を組み横道に逸れる事なく静かに進む。
……そういえば、セストラル見れるのって、やっぱノア・ゾグラフの両親の死体見たからかな。俺には記憶はなくとも、この体はその瞬間を目撃していただろうし。
なんて事を考えている内に馬車は門をくぐり、正面玄関近くに止まった。先に止まったのはハリーたちが乗っていた馬車で、シリウスと共に降りた時、「ハリー!」とドラコが呼びながらハリーに駆け寄っていたのが見えた。
「ハリー、気絶したんだって?……大丈夫か?」
「あー……誰から聞いたの?」
「ロングボトムが話しているのが聞こえたんだ」
心配そうなドラコの声に、ハリーはやや表情を暗くしながら「大丈夫、なんでもない」と呟く。自分一人が気絶した事が広まる事がかなり嫌らしい。
「無理はするなよ。ところでノアは──あっ!ノア!」
「やあドラコ」
目があったドラコに手を挙げて答えれば、ドラコは嬉しそうに手を振り──少しだけツンと顎を上げ、自慢するようにハリーをちらちらと見た。ハリーはその何か言いたげな視線に、首を傾げ「何?」と聞く。
「ハリー、きみはもう聞いたか?ノアが孤児院を出たって」
「うん。手紙が届いたからね。本当最悪だよ……せっかく歩いていける場所だったのに……」
「そうか、君にとってはそれは最悪なことだろう。でも──僕にとっては最高なんだ」
「……何それ、どう言う意味?嫌味?」
自分が最悪なのか最高なのか。とハリーは不機嫌そうな低い声でドラコに聞く。ドラコは「違う違う、そうじゃないんだ。そうじゃないんだけど、ね」と笑いながら言うが、明らかに何かを含んでいる言い方だった。
「……なんだよ」
「実は、ノアの新居は……僕の家の近くなんだ」
「……え」
「僕も知らなかったんだ。でも、この前近所になるからって挨拶に──」
「そんなのずるい!!」
胸を張り自慢げに言っていたドラコの声を遮り、ハリーが馬鹿でかい声で叫んだ。周りの生徒たちが「一体どうしたんだ、喧嘩か?」と俺たちの方をチラチラと見る。
確かに、ハリーは今にもドラコに食ってかかりそうで、ドラコはドラコで申し訳ないと思いつつも優越感に浸ってる顔してる。
シリウスは二人を見てぽかんとしてるし。ハーマイオニーとロンは驚きつつも、俺に関する話題でヒートアップするのはいつものことでありめんどくさそうな顔をしていた。
「ずるい、と言われてもな」
「だ、だって!──ずるいや!」
「今までの夏休みはずっと君と近かったじゃないか!」
「そ、そうだけど──」
「僕だって今まで羨ましい気持ちはあったんだ!」
「だって、僕の幼馴染なのに──」
「どうしたんだい?」
言い合いに発展しそうだった二人の熱を冷ますように、穏やかな声が響いた。
ちょうどリーマスが最後の馬車で降りてきたところであり、言い合いをするハリーとドラコを見て朗らかな笑みを浮かべながら近づいてくる。ハリーとドラコはちらちらと互いを見ながら黙り込んでしまった。
「……なんでもないです、先生」
「ただ、ちょっとハリーが拗ねただけです、先生」
「ドラコ!拗ねてない!」
「拗ねてるだろ」
ハリーは恥ずかしさからムッとした表情でドラコの腕を肘で小突いたが、ドラコは飄々とした態度で無視をした。リーマスは驚いたように目を開く。
ハーマイオニーとロンの「またやってる」というような慣れた呆れの表情を見て、意外そうに、それでいて嬉しそうに「仲がいいのはいいことだ」と表情を緩めた。
喧嘩に発展しないのであれば、とリーマスは「ほどほどにね」と言っただけでゆっくりと正面玄関に続く石段を登り、ハリーとドラコはそれぞれハーマイオニーとロンに背中を押されてすぐに行くように促されていた。
正面玄関の樫の扉を通り、広々とした玄関ホールに入る。そのまま去年と同じく大広間へ入ろうとしたが、扉に入る前に名前を呼ばれ、呼び止められてしまった。
「ノア・ゾグラフ!こっちに来なさい!」
「ポッター、グレンジャー!二人とも私のところにおいでなさい!」
俺を呼んだのはハッフルパフの寮監であるスプラウト先生であり、ハリーとハーマイオニーの方はグリフィンドールのマグゴナガル先生だった。ハリーとハーマイオニーはまだ始まってもいないのに、呼び止められる心当たりがなかったのか驚き不安そうにしながらマグゴナガルの元へ向かった。
俺の方は──いやまあ、心当たりありすぎる。スプラウト先生、顔しかめながらシリウス見てるし。
スプラウトは大広間の入り口から少し離れた場所で俺を待ち、俺が近づけば厳しい目でシリウスを見下ろした。
「ノア、その犬は一体なんです?」
「俺のペットです」
「それは見てわかります!ですが、ホグワーツではペットはフクロウ、猫、ヒキガエルと決まっているんですよ」
「でも、犬を連れて来ちゃだめって校則に書いてませんよ」
「それは──屁理屈、というものです」
「えぇー……お願い、スプラウト先生。この子、捨て犬だったんだ。夏に拾って……だから、俺から離れると酷く怯えるんです。多分、一人だった事を思い出して……──なぁ?」
「く──くぅーん……」
しゃがみ込み、シリウスの首元に抱きつき、撫でる。シリウスは俺の言葉を聞いて意図を読み、なるべく惨めに聞こえるように悲しそうな鳴き声を上げた。シリウスも、ここで屋敷に帰されるわけにはいかないと必死なのか、じっと訴えるようにスプラウトを見て、ふるふると震え出した。
スプラウトは、俺とシリウスのうるうるとした上目遣いに「うっ」とたじろぐ。──よし、後一歩だ。
「この子は、昔の俺と同じでひとりぼっちだったんです、そんな寂しい思いをさせたくないんです……お願いします。せめて、今年だけでもいいです。この子の、心の傷が癒えるまで……粗相はさせませんし、ちゃんと散歩も行きます。とてもお利口なので、授業中は俺の部屋で静かにさせます。もし、苦情が入ったら、その時は諦めますから……だめ、ですか?」
「きゅーん……」
「……仕方ありませんね。今年だけです、もし苦情が入ったら、その時は流石に許せませんよ?」
スプラウトは大きくため息をついた後、シリウスの滞在許可をくれた。すぐにシリウスは耳をピンと立て嬉しそうに尻尾を振る。
「ありがとうございます!」
「わんわん!」
「大広間に入れることはできません。ノア、先に犬を寮に連れて行きなさい。組み分けがもうすぐはじまりますから、急ぐんですよ」
「はーい!いくぞ、シリウス」
「わん!」
立ち上がりすぐに寮へ向かえば、後ろからスプラウトの「え?」と言う怪訝な声が聞こえて来た。振り返れば、スプラウトは他の人と同様複雑そうな顔している。
「……シリウス?まさか、その犬の名前ですか?」
「はい。大犬座みたいに大きくて目がキラキラしているので。あー脱獄犯のことは知らなかったんです、マグルの孤児院にいたので」
「そうですか……まあ、珍しい名前ではありませんものね」
スプラウトはそれ以上何も言わず、大広間へ向かう。俺もシリウスを連れてすぐに寮へ向かった。