兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
シリウスは、いつの間にかハッフルパフの談話室で公式マスコットの座を奪い取っていた。
大型犬が寮内をうろつくとか普通なら騒ぎになるのに、そこはさすがハッフルパフ生。「かわいい」「でかい」「賢い」の三拍子にあっさり落ちてくれていた。
もちろん最初は「ちょっと怖いかも」と言って距離を取っていた生徒もいたけれど、シリウスは噛まないし、粗相もしないし、黙って座っているだけで場がなごむ。
結果、犬が苦手な生徒もいつの間にか「シリウスーおいでー」とか言い撫でるようになっていた。
気がつけばハッフルパフの談話室の暖炉に近い一人用肘掛け椅子の一脚が『シリウス専用』となり、いつの間にかシリウスのためにブランケットやファンシーなクッション、「喉が渇いたらかわいそうだから」と真鍮の水入れが用意されていた。
椅子のそばには『シリウスの箱』と書かれた木箱があり、犬用のおやつやおもちゃが勝手に入れられている。
その箱はいつ見ても大量に入っていて、一日に一回は中身を確認し引き取らなければいけない。今日も中に犬用の服やらおもちゃやら高級ブラシが入っていて、『俺の人気っぷりを見ろ』というように、椅子の上にお座りをしたシリウスは胸を張り超ドヤ顔をしていた。
「今日も大量だなー」
「本当、すごいね……シリウスの人気も勿論だけど……ノアに向けた明け透けな好意も感じるね」
セドリックが苦笑して、一つの箱を手に取り、俺に見せてきた。それは普通の犬のおやつだが、箱には『素敵なノア様へ♡よければ私の犬とシリウスくん、お見合いさせませんか?いい返事待ってます♡』と書かれたメッセージカードと、白く美しい大型犬と、その女生徒の写真が貼ってあった。
差出人は何故かレイブンクロー生であり、ハッフルパフの寮生に入れるように頼んだんだろう。
他にも似たようなメッセージカードがちらほらあり、シリウスはまさかそんなカードがあったとは気づかず唖然と固まってしまっている。
「シリウス、お前お嫁さんできるってよ」
『いらん!』
「シリウスが雄の大型犬で良かったね。雌の小型犬だったら……考えたくもないな」
「え、そんなやばいことするやついるか?」
セドリックは直接言わなかったが、もしシリウスが──俺が飼った犬が小型犬で可愛い雌犬だったら連れ去られて孕まされるんじゃないか、と言いたいんだろう。
いや、さすがにそれはないだろ。と引き気味で見ていたら「ノアに近づく口実で、やばいことする人はまあまあ多いと思うよ」と肩をすくめた。
「談話室に置いておくよりも、やっぱり自室で飼った方がいいんじゃない?へんな悪戯される前にさ」
「うーん……どうする?」
『狭い部屋はなぁ……俺はこのままで大丈夫だ!』
シリウスも狭い自室で長時間拘束されるより、談話室でのびのびと過ごしたいらしい。
こう見えてシリウスは普通に人間だし、杖はないとはいえ──何かあっても自分で対処するだろう。バレないように。
──そう考えていたが、数日後に事件が起こった。
授業とクィディッチの練習が終わった後、俺とセドリックは遅い夕食を食べて眠い眼を擦りながらハッフルパフ寮へ帰った。
この後はまた宿題に追われるのかぁ、と欠伸を噛み殺しながら談話室に足を踏み入れた瞬間、『ノアーーッ!!』とシリウスの叫び声が響いた。
「わっ!──なんだ?シリウス、どうした?」
俺の腹目掛けてドドドと突進してきたシリウスは、素早く足の間に入ると尻尾を俺の足に絡ませぶるぶると震えている。セドリックも驚いて眼を見開き、「大丈夫?」と心配そうに眉を下げた。
『ノア!見てくれ!俺の背中、どうなってる?』
『は?背中──?』
シリウスは涙声で俺の股下から出てくるとすぐにくるりと背を向けた。
「ぷ──」
「……」
セドリックが吹き出しそうになり、慌てて手で口を押さえ横を向いた。その肩がぶるぶると震えていて笑いを誤魔化そうとして失敗している。
「ぶっ──あはははっ!な、なんだよそれ!」
俺も俺で、シリウスの背中がどうなっているか理解した後で笑いが込み上げてきてしまった。セドリックは「笑っちゃ、かわいそうだよ」と言いつつ口先はヒクヒクとしている。シリウスは『ひどい』と耳と尻尾を下げ項垂れた。
シリウスの背中の毛が、一部分だけジョリっと短く刈られていた。
『昼寝してたら、子どもが来たんだ。勝手に撫でるのはいつものことだし好きにさせてたら……ジョキン!──あんまりだ……』
『確かに、人のペットの毛を切るのはやりすぎだな。……でもなんでだ?シリウスの毛が長くて鬱陶しいからか?』
『酷い……こんなのあんまりだ……』
シリウスがあまりにも嘆いているから、慰めるためにぽんぽんと背中を撫でる。
『多分、今冬用の毛だろ?夏になったら一度全部生え変わるって』
『……うう』
シリウスは俺の慰めに、小さく頷いた。……中年にとっちゃ、毛の問題は重要なのかな。
「でも、なんでシリウスの毛を切ったんだろう。嫌がらせ……とは、違うと思うんだよね。ノアの犬だし」
笑いがおさまったセドリックは、顎に手を当てて真剣な顔でシリウスを見る。
確かに、魔法界で絶大な人気を誇り、ホグワーツでは嫌う人のいないこの俺、ノア・ゾグラフのペットに悪戯をする人なんていないだろう。
『誰がお前の毛を切ったかわかるのか?』
『いや……寝ぼけていたから……すぐ逃げられてしまったし……』
「シリウス、犯人の顔見てないみたいだ」
「そうか……ちょっと、探ってみるよ」
ノアとシリウスは部屋に戻ってて、とセドリックは言い残し、談話室に残っていた生徒に声をかけに行った。
俺とシリウスが部屋に戻って数分もせずにセドリックが微妙な顔をして入ってきた。
「どうだった?」と聞けば、「うーん」と煮え切らない反応で、かわいそうなものを見る目で、俺のベッドの上にいるシリウスを見る。
「なんか、シリウスの毛が精神安定剤になるらしい」
「は?」
『は?』
「ほら……フクロウとイモリの年の生徒って、いつも追い詰められておかしくなるでしょ?そんな彼らを落ち着かせるのはいつもはポンフリーの薬だったんだけど……。今年はシリウスがセラピー犬みたいなポジションになって、不安になった時にシリウスの匂いを嗅ぐと落ち着く人が一定数いるらしい」
「……なるほどな。勝手に切るのは悪いけど、ちょっと怒りにくいなそれ」
シリウスは談話室で早くも試験勉強や課題の多さにストレスを感じている人がいれば、それとなく隣に行って慰めたり、愚痴を黙って聞いたり、ハグを求められたら黙って抱きしめられていた。
それはシリウスなりに、大型犬である自分を受け入れてくれたハッフルパフ生に対するお礼だったのだろう。まさか、こんな事になるなんてシリウスも思わなかったはずだ。
「でも、シリウスは談話室にしかいないでしょ?人気だから常にハグもできないし。それで『毛を持ち運びたいな』って考えてる生徒は、割と多いみたい。その中の一人がついにやっちゃったって感じだね」
「……いつか悪化してシリウスごとお持ち帰りされかねないな。ベッドとかに」
『それは嫌だ!』
シリウスは本気で嫌そうに叫んだ。まあ、犬にも魔法は効くから硬直魔法とかで固まらせて、寝室に連れ込んで、一晩中ハグコースはあり得そう。……添い寝だけで……バター犬みたいな……は、ないよな、うん。……ないよな?
『シリウス、お前。……バター犬にはなるなよ?』
『するわけないだろうそんなこと!!』
憤慨し、ぎゃんぎゃん叫ぶシリウス。セドリックは犬語がわからないから「どうしたの?」と首を傾げるが、セドリックにバター犬が何か伝えるのもなぁ……意味を知ってても嫌だし、知らないから説明しなきゃいけないのも、なぁ。
「シリウスが悪戯されないように。防御魔法かけとくかー」
「それがいいかもね。……ここで過ごすのが一番だけど、シリウスはもうハッフルパフ生の癒やしだし」
ポケットから杖を取り出し、シリウスに向ける。シリウスはぴくりと耳を動かし俺をじっと見るが、逃げ出したり不信感を抱く事はない。
『めちゃくちゃすごい防御魔法、かけてやるからな』
と、簡単に説明してシリウスを囲むように杖を回す。杖先から白い光の粒が現れ、それはすぐにシリウスにヴェールのようにかかり、溶けるようにして消えた。
「……ま、こんなもんだろ」
シリウスにかけたのは常時プロテゴが発動しているような、そんな防御魔法だ。これである程度の魔法は弾くし、呪いも効かない。
『切ったやつ。本気で探そうと思えば探せるけど、どうする?』
『……一度目は、許す』
『流石俺の犬、優しいじゃん』
『……俺はお利口な犬なんだ』
シリウスの頭を撫でてやれば、シリウスはふっと笑い、尻尾を緩く振った。
ちなみに後日。
シリウスの毛をブラッシングした後の大量の毛を試しに小さな麻袋に入れて『ご自由にどうぞ』としてみたら──次の日の朝には全てなくなっていた。
それからホグワーツで追い詰められた時、安心したい時に麻袋に鼻を突っ込み深呼吸する生徒たちが現れた。やばい薬やってるみたいな光景にシリウスがドン引きしていたのは言うまでもない。
……普通に俺もドン引きしたけどな。