兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
放課後の時間帯、陽の傾きが長くなった窓の外を横目に、俺は「闇の魔術に対する防衛術」の教室に向かっていた。
以前、頼まれていたリーマス先生との打ち合わせだ。
実践練習の相手役、つまり模範演技の相棒に抜擢されたってことで、これから具体的な内容を詰めるらしい。教師と同等レベルに魔法を使えて、手加減しなくていいのは俺くらいしかいないから選ばれたのは納得だけど、ハッフルパフ以外の授業はどうするんだろ。……監督生とか?
優秀な生徒はそこそこいるけど、まあまあ平和な世界だから子供騙しのチャームとかじゃなくて、本気で人と戦ったり呪ったりしたことがある子どもなんて滅多にいないしなぁ。
俺とハリーは除くとして。そう考えたら、ハリーも五年生だったら実戦のパートナーに選ばれていたかもしれないな。
ま、リーマスは好きなキャラだしこの一年しかホグワーツにいないから好感度上げれそうなイベントがあるのは本当にありがたい!
そんな事を考えながら教室の扉を開けると、リーマスが教壇の前の机で紅茶を淹れていた。ティーカップは二つ。どうやら俺の分も用意してくれてるらしい。
「やあ、ノア。来てくれてありがとう。さ、どうぞ」
リーマスは気さくな笑顔で席を勧めてくれる。くしゃっとした茶色の髪と、控えめな笑い皺。顔やローブから出た腕に、古傷が残っているのが見える。
「お邪魔します。紅茶ありがとうございます」
「ミルクはいるかな?」
「お願いします」
ミルクありでも無しでもどっちでもよかったけど、リーマスがせっかく用意してくれたんだったら使おう。
リーマスはにこっと笑うと俺のカップにミルクを一筋垂らし、自分のカップに角砂糖をいち、に、さん……。
「リーマス先生、甘党なんですね」
「え?そうかな?」
角砂糖五つは入った紅茶を混ぜ、首を傾げるリーマス。
それ、じゃりじゃりしてない?確かにリーマスと言えば甘党のイメージはあるけども。紅茶じゃなくて、紅茶風味のジュースになってない?
魔法界にも糖尿病とかあるのかな。もしあったとしたらリーマスは人狼よりもその心配をした方がいいと思う。なんて思いながら紅茶を一口飲んだ。
カップを持ちながら、机の上の書類や板書の痕を何となく眺める。字が綺麗だなぁ、とか思ってたら、リーマスがふいに俺を見て聞いてきた。
「ノア、君は……どんな魔法が使えるのかな?」
その聞き方が、何だか妙にまっすぐで、好奇心というよりも純粋な興味って感じだったから、俺はちょっとだけ肩をすくめて返した。
「なんでもできますよ。一通りの攻撃魔法も、防御魔法も」
「……なんでも、か。はは、すごいね。いや、本当に。君の授業中の魔法は……うん、ちょっと驚くことが多い」
リーマスがベタ褒めしてくれる!嬉しくて照れてしまう。
確かに俺はホグワーツで一番魔法が使える。
けど他の先生は加点はしてくれてもここまで驚愕したりベタ褒めしたりはしてくれないんだよなぁ。
他の先生は、一年生の時から俺の偉業を見てきたから麻痺してるのかな。
「……無言魔法も、かい?」
「ああ、できますよ。よく使ってます」
「へぇ……!」
リーマスの目が、子どもみたいにきらりと光った。無言魔法は、ホグワーツで六年生で学ぶはず。無言魔法くらい、五年生でも魔法に慣れてるやつは使えると思うけどなぁ。セドリックとかフレッドとジョージもいくつか無言魔法してたし。
「ノア、君……将来、闇祓いになる気はないかな?今のままの成績だと、間違いなく資格は取れると思う。きっと優秀な闇祓いになれるよ」
「うーん……」
闇祓いかー。勧めてくれるリーマスには悪いけど、俺は口を引き結んで、曖昧に笑った。
「まあ、考えときます。人生いろいろ選択肢ありますから」
正直に言えば、俺は闇祓いなんてなる気はさらさらない。魔法界の治安維持とか、そういう役目は向いてないし、何かの組織の手足になるのも嫌だ。
俺は俺が組織を作って、面白おかしく時々世界を救ったりしながら過ごしたい。
リーマスも闇祓いについてはそれ以上勧めることはなく、紅茶を一口飲んで美味しそうに表情を緩めると「そうだね」と話題を切り上げた。
「ノア、君は素晴らしい魔法使いだ。だが、授業で使う魔法については、少しお願いがあるんだ」
リーマスが紅茶を置いて、まっすぐな声で続けた。
「生徒たちとの実践練習では、無言魔法は控えてもらえるかな?何の魔法を使ったのか、生徒側にわからないと、参考にならないからね」
「──あー、確かに。了解です」
無言魔法のラリーはなかなか迫力があるだろう。多分、闇祓いとかが実戦で使うのは無言魔法だし。それでも実践練習という授業では、たしかに不向きかな。まだ五年生だし、六年あたりで無言魔法の実践しそうだけど。
ってことは、ちゃんと発音も覚えて、杖の振り方も……。
「……あ」
小さく呟く。
リーマスは「ん?」と笑みを浮かべたまま首を傾げたけど、俺はなんでもないと首を振り紅茶を飲んでごまかした。
そうだ!俺チートすぎてちゃんとした魔法使えない!
そりゃ有名な魔法は覚えている。
ウィンガーディアム レヴィオーサとか、アクシオとかエクスペリアームスとかその辺。
けど杖の振り方はどれも覚えてないし、魔法も「水を出したい」と思えば水が出るし「落ちろ」と思えば落ちる。杖は俺の思いを読み取り、願うだけで最高の結果を見せてくれる。
教科書の指示通りに振ったことなんて数えるほどしかないし、動きに意味があると感じたことすらない。
俺の中のセドリックが「ほら、論理や勉強も大切でしょ」と呆れながら言った。
今まで自分の能力に甘えてたツケがこんなところで回ってくるとは思わなかった!
ちらり、とリーマスを見る。リーマスは紅茶に舌鼓を打ちながら「あー実践授業できそうでよかった」って顔してるし。今更「やっぱやめます」なんて言えない。
沈黙していると「どうかしたかい?」とリーマスが聞いた。咄嗟に「いえいえ!全然、大丈夫です」と答えてしまう。
にっこり笑って、完璧な笑顔でお茶を飲んだけど、内心は去年セドリックとフレッドとジョージが原作に深く関わったことくらい焦っていた。
どうしよう。「この魔法の正しい杖の振り方教えてください」なんて聞くのダサすぎる!
ここまでチートムーブかましてきたのに!
そんな俺の混乱に気づいていないのか、リーマスは穏やかに話を続けた。
「模範演技の場面では、君がいるだけで安心感があると思うよ。君の魔法はどれも、無駄がなくて美しい。魔力の質もきっと、君自身の人格に影響を受けてるんだろうね」
「いやあ……あはは」
「うん。──それと、これは頼み事なんだけど」
紅茶を一口すすった後、リーマスがいたずらっぽく笑った。
「無理にとは言わない。でも……できれば、君が使う魔法の種類を事前に教えてもらえると、私の心の準備ができるかな。君が何をするかわからないと、授業計画が立てづらくて」
「……それは……がんばります」
苦笑しながら答える俺。
うん、まじでそろそろ教科書開こう。杖の振り方くらい、せめて表向きにはちゃんとしてるようにしないと。
──俺、ほんとに世界最強だけど、世界最強なりの努力ってやつも、たまには必要かもしれない。
教室の窓の向こうに、夕陽がゆっくり沈んでいくのが見えた。
ほんの少し、俺の額にも、学生らしい汗が浮かぶ。……今年は変な事件が起きないから楽だと思ってたけど、今年は今年で大変かも。
話が一段落し、俺が空になったカップをソーサーに戻したところで、リーマスがふと口を開いた。
「じゃあ、実践は……そうだね、クリスマス休暇明けから始める予定でいるから、よろしくね」
「はい」
俺が頷くと、リーマスはふと微笑んで、言葉を続ける。
「もちろん……怪我はさせないから安心して。君、モデルなんだろう?」
「ええ、トップモデルですよ」
わざとらしく肩をすくめてから、にやりと笑う。もちろんあざとさは計算済みであるが、リーマスはにっこりと笑っただけだった。
「うん、私がホグワーツに来る前に家庭教師をしていた家でね。君の写真集とか、色々飾ってあったのを見たよ」
「へえ、光栄ですね。──でも、本物の俺の方がいいでしょ?」
冗談混じりに言って、また笑う。魔法界で綺麗すぎるのも罪だとしたら、俺は間違いなくアズカバン行きである。
けれどリーマスは、そんな俺の笑顔を見ても余裕のある笑顔のまま、目元だけ少しだけ緩めて答えた。
「……そうだね。眩しすぎるくらいだ」
さらっと言いながらリーマスは目を細めた。
うーん、この反応。セブルスとは少し違う感じ。なんていうか、イケメンに慣れてるというか。
「先生の時代にもいましたか? めちゃくちゃイケメンとか」
「ん?」
リーマスは少し驚いたような顔をしてから、紅茶に目を落とす。その視線が、どこか懐かしさや寂しさを滲ませていた。
「……そうだね。いたよ」
ぽつりと漏らすその声は、あまりにも静かで、柔らかい。あ、これきっとシリウスのことだ。
名前こそ出さないけれど、表情と声の温度でわかる。リーマスにとっては、たぶん忘れがたい時間だったのだろう。
人生で一番輝かしい学生時代。そのあとは彼に取って地獄だったのは間違いない。そうだとしても、思い出はくすむ事はないのかな。
「……でも、学生の頃は勉強が大変で、そういったことを考える余裕がなかったかな」
軽く笑ってごまかしてきたけど、その笑い方が深く触れるのを避けているようで、追求するのは、やめておこう。
だから代わりに、俺が笑って話題を変えようと思っていたら──先にリーマスが切り出してくれた。
「そうだ、ノア。……お願いって、なんだい?」
「……ああ、写真。ツーショット撮りましょ」
そう言って、俺は立ち上がって、くるりと手首を回す。
シュッという音とともに、小さな魔法カメラが手の中に現れた。小さくても魔法界で売っている最高品質である。
リーマスは突然現れたカメラを見つめ目を見開いた。
「……すごいね。どうやって出したんだい?」
「アクシオとポータスの応用ですね。詳しくはまあ……企業秘密ってことで」
ハリポタの素晴らしい魔法の世界でも、なんでもできるわけではない。
ゼロからイチを作り出すことはできないのだ。少しあったら増やしたり、別のものに変化させたりはできるけど。
……石を生きている虫とかに変身させられるから、もう世界の法則めちゃくちゃになる気がするけど。その辺の法則は緩いようだ。
俺のチート魔法でも、その法則は歪ませられない。
だからこれは俺の部屋に置いてあるカメラを、引き寄せ魔法のアクシオとポートキー製作魔法のポータスを混ぜた創作魔法を使って手元に呼び寄せている。
一応『アクタス』と唱える時には考えたり、論理も「これいけるんじゃね?」と考えてはいる。
そんな適当な論理でもなんとか魔法は発現してくれてるし。
「先生はこんな魔法、見たことないんですか?」
「ないよ。見事な魔法だね……」
リーマスがやや呆れたように苦笑したところで、俺は彼の隣に座り、ずいっと身体を寄せてにっこり笑った。
「じゃあ写真撮りましょう!ほら、リーマス先生。笑って!」
「う、うん……えーと、こう?」
どうやら、慣れてないらしい。ぎこちなく口元を上げたリーマスの顔を見て、俺は思わず吹き出した。けれど、それもまたいい。
──パシャッ。
一瞬の閃光と、軽やかなシャッター音。
撮れた写真は、淡く色づいた魔法の光でふちどられ、徐々に画面が浮かび上がる。写真の中の俺たちは、笑って手を振っていた。リーマスは少しぎこちない笑顔だったけど、そんな表情もリーマスらしい。
「はい、これ。リーマス先生の分」
俺は写真を一枚渡す。予備のネガがあるから、もう一枚は俺の宝箱行きだ。
「ありがとう。ノアと写真を撮ったなんて、ファンが嫉妬しちゃうね」
くすくすと笑うリーマスの顔は、授業中のそれよりも少しだけ柔らかい。
きっと、リーマスは誰に対してもこんな感じの距離なんだろうな。仲良く見せかけて、一線は越えさせないというか、なんというか。
「まあ、嫉妬されるのも悪くないですけどね。先生、その写真捨てないでくださいね」
「勿論だよ」
そんな何気ないやりとりが、なぜか嬉しくて、俺も自然と笑ってしまう。
窓の外では、夕暮れの色が少しだけ深くなっていた。教室に射し込む光は金色で、リーマスの髪に柔らかく反射している。
なんてことのない放課後の、なんてことのない打ち合わせ。
リーマス・ルーピン。
彼も遠くない未来に死ぬ。……トンクスという可愛いお嫁さんができて子どもができて、その後で、すぐに。
リーマスは、優しいのに、どこか諦めにも似た笑顔で笑う人だ。
手に入れたかった些細な幸せが、今まで指の間からすり抜けてきたからだろう。もしくは、人狼だから。何かを強く望んではいけないと諦めているのかな。
できたら、心の底から笑える人生を送ってほしいし、息子の成長を見続けてほしい。やっぱリーマスも死なせるわけにはいかないな。
「じゃあ、リーマス先生、また授業で」
「うん、ありがとうノア」
紅茶を全て飲み干し立ち上がると、リーマスも立ち上がって俺を扉まで送っていってくれた。
後ろを振り向く、リーマスと目が合い、リーマスは微笑んだ。
「授業のお手伝いするご褒美に、また一つだけお願いきいてもらってもいいですか?」
「うん、勿論だよ」
リーマスはすぐに頷いた。俺は目を細め「約束ですからね」と軽く念押しして手を振った。