兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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108 それぞれの思惑

 

ハロウィンの可愛い悪戯をした俺たちはその後大広間の片付けやら魔法無しでの掃除や書き取り罰則を受けていたせいで、結局ホグズミードへ行けなかった。

まあ、俺達は秘密の抜け道を知っているし問題ない。「後で合流な」と笑いながら別れたが、早起きしたせいで睡魔がずっと肩に乗っている。

 

セドリックは三本の箒で待ってるって言ってたし、昼寝してから行こうかな。と考えながら廊下を歩いていると、後ろから駆ける足音が聞こえた。

 

 

「ノア!ホグズミード行かないの?」

「悪戯の始末してたら行きそびれてさ。準備で早起きしたし……昼寝しようと思って」

 

 

振り返ればハリーが立っていた。ホグズミードに行けない寂しさを隠しきれず、それでも俺を見つけた瞬間だけ、ほっとしたように目元が柔らかくなる。

 

 

「自分の部屋で昼寝するの?僕、起こしてあげようか?」

「ハリーはグリフィンドールだろ」

「ノアが入れてくれたら大丈夫だよ」

「駄目。バレたらセドに怒られるだろ」

「ちえっ」

 

 

つまらなさそうに口先を尖らせるハリーを横目に浮かんできた欠伸を「ふわ」と溢す。ハリーも本気でハッフルパフ寮に入りたいわけではないのか、それ程落ち込むことはなかった。

ただ暇を持て余しているし、仲間外れの孤独を紛らわせたいしで、俺の隣から離れることはない。

 

 

「ハリー?ノア?」

 

 

廊下を歩いていると、後ろから声がして俺たちは振り返った。リーマスが自分の部屋の扉の向こうから覗き、「何をしてるんだい?」と朗らかに声をかけてきた。

 

 

「二人でどうしたんだい?他の子達は?」

「ロンやハーマイオニーはホグズミードです」

「俺は悪戯の罰則明けです」

「ああ……」

 

 

リーマスは納得したように頷き、じっとハリーを見る。ハリーの言葉の端に灯った残念そうな音に気づいたリーマスは優しく笑いかける。

 

 

「ちょっと中に入らないか?ちょうど次のクラス用のグリンデローが届いたところだ」

「え?えーっと」

 

 

ハリーはチラリと俺を伺うように見た。

グリンデローが何か興味があるが、ノアはどうするんだろうか?とその視線が語っていて、俺は少し笑いながら肩をすくめた。

 

 

「じゃあ、ちょっとお邪魔しちゃおうか」

「うん!」

 

 

眠気はある、というか、足元がふわふわして視界が霞んでいるくらいだ。それでも、ハリーとリーマスのイベントなら、そりゃ参加するしかない。

 

 

リーマスの部屋は質素だが落ち着いた雰囲気があった。きちんと整理整頓されていて、机の上には本や羊皮紙の束、筆記具が置かれている。

ロックハートの部屋のように壁に自分の肖像画なんてものはなく、授業で使用する教材が端の方に並べられていた。

魔法薬と古本の匂いがわずかに漂い、部屋の隅に大きな水槽があり、その中にグリンデロー──水魔が一匹入っていた。

 

 

「水魔だよ。こいつはあまり難しくはないはずだ。なにしろ河童のあとだしね。コツは、指で絞められたらどう解くかだ。異常に長い指だろう?強力だが、とても脆いんだ」

 

 

ハリーは興味深そうに見ているが、グリンデローはなかなかに気味の悪い見た目をしていた。ぎょろりとした目で睨みつけ歯を剥き出しにし俺たちを睨みつけた後、グリンデローは水草の茂みに潜り込んでしまった。

 

 

「紅茶はどうかな?私もちょうど飲もうと思っていたところだが」

 

 

ヤカンを探しながらリーマスは言い、俺とハリーは「いただきます」と声を揃えた。

 

にっこりと笑ったリーマスが見つけ出したヤカンを杖で叩けば、一発で沸騰し蒸気が上がった。

ハリーはソファにそろりと座り、何か面白いものはないかとあたりをキョロキョロと見回していた。

俺もリーマスが紅茶の準備をしているのを見ながらハリーの隣に座る。ふわふわと柔らかく、沈み込むソファはなんとも寝心地が良さそうだった。

 

窓からはぽかぽかとした日差しが入ってきてるし、暖かな室温と、リーマスの低い声、おまけに紅茶のいい香りまで漂ってきて──。

ソファに深く背を預けた俺は、半分目を閉じながらぼーっと琥珀色の紅茶を見つめる。やば、まじで眠い。瞼が重い。

 

頭上から「おや」と柔らかな笑いを含んだ声が落ちてくる。視線を上げれば、ぼんやりとした視界の先でリーマスと目があった。

 

 

「眠いのかい?もう瞼がくっつきそうだよ」

「昨日も夜更かしして、今日は悪戯で早起きしたので……眠いです」

 

 

ダメだ、まじで寝てしまう!

必死に目をこじ開けて、背もたれから背を浮かせ、渡されたティーカップを両手で掴み一口飲む。

 

 

「すまないね、コーヒーがなくて、紅茶しかないんだ。ティーバッグのものだけど……ハリーはお茶の葉にはうんざりだろう?」

「先生はどうしてそれをご存知なんですか?」

「マクゴナガル先生が教えてくださった。──気にしたりしてはいないだろうね?」

 

 

リーマスの言葉に、ハリーは即座に「いいえ」と否定した。

あー、これ何の流れだっけ。確か占い学関係だった気がするけど、眠くて頭が回らない。

眠気と戦う俺を置いて、ハリーとリーマスの二人は会話を続けていた。

 

授業でのボガートがどうとかこうとかうっすら聞こえる中、俺は紅茶のカップの縁を指でなぞり浮遊魔法をかけ、空中で遊ばせた。

そのまま再び深く背を預け、ギリギリ眠っていないまでも──目は四分の一くらいしか開いていないだろう。

 

 

「どうして僕に戦わせてくださらなかったのですか?」

「ハリー、言わなくともわかることだと思っていたが」

「どうしてですか?」

「そうだね。ボガートが君に立ち向かったら、ヴォルデモート卿の姿になるだろうと思った」

 

 

リーマスのヴォルデモート、の言葉にハリーが僅かに反応した気配を感じる。魔法族で、ヴォルデモート、とその名を気軽に言えるのはダンブルドアくらいだったしなぁ。

 

 

「たしかに、私の思い違いだった。──しかし、あの職員室でヴォルデモート卿の姿が現れるのはよくないと思った。みんなが恐怖にかられるだろうからね」

「最初はたしかにヴォルデモートを思い浮かべました。でも、僕──僕は吸魂鬼のことを思い出したんです」

 

 

ハリーの声が震えたのがわかる。リーマスはしばらく黙り、低く優しい声で言った。

 

 

「そうか。……そうなのか。いや……感心したよ。それは、君がもっとも恐れているものが怖そのものだということなんだ。ハリー、とても賢明なことだよ」

 

 

ハリーは何と言っていいのか分からず沈黙しているようだ。

ふわ、と俺が欠伸を漏らす音が部屋に響く。リーマスは少し考えた後、片眉を上げた。

 

 

「それじゃ、私が、君にはボガートと戦う能力がないと思った、そんなふうに考えていたのかい?」

「あの……、はい。ルーピン先生。あの、吸魂鬼のことですが──」

 

 

突然、扉をノックする音が響きハリーは言葉を飲み込む。

俺もその音で体が震え「はっ」と覚醒し、宙に置いていたティーカップを掴み一気に飲み干す。やばい、寝かけてた。

 

リーマスが視界の端で俺を見て面白そうにくすりと笑うのが見えた。

 

 

「どうぞ」とリーマスが答え、扉が開く。

入ってきたのはゴブレットを手にしたセブルスであり、ハリーと俺の姿を見つけると、はたと足を止め、眉を寄せた。

 

 

「ああ、セブルス。どうもありがとう。このデスクに置いていってくれないか?」

 

 

セブルスはハリーを暗い目で見た後、俺を横目で見て、ゴブレットに視線を下す。そのゴブレットからは薄い青色の煙が上がっていて、数日前にセブルスが調合していたものと同じ匂いがしている。

煙を上げているゴブレットを言われた通りデスクの上に置いたセブルスは、俺たちとリーマスを交互に見た。「何をしているんだ」とその無言の目が語りかけていて、リーマスは「ああ」と朗らかに告げる。

 

 

「ちょうど今、ハリーとノアにグリンデローを見せていたところだ」

「それは結構。ルーピン、すぐ飲みたまえ」

「はい、はい。そうします」

「ひと鍋分を煎じた。もっと必要とあらば」

「多分、明日また飲まないと。セブルス、ありがとう」

「礼には及ばん」

 

 

セブルスはニコリともせず、腕を組んだままリーマスが飲むのを監視しているようだった。ちらり、と俺に視線を向け、指先が神経質そうにトントンと腕を叩いていた。

ハリーはハリーで「絶対毒だ」と言いたげな目でゴブレットを睨み見ていて、リーマスはその視線に気づき微かに微笑んだ。

 

 

「セブルスが私のためにわざわざ薬を調合してくださった。私はどうも薬を煎じるのが苦手でね。これは特に複雑な薬なんだ」

「具合が悪いんですか?」

 

 

ゴブレットを取り上げて匂いを嗅いだリーマスに、ハリーが心配そうに見ながら聞く。リーマスは「大丈夫、心配することはない」と言いながら顔を顰める。

 

 

「セブルス、砂糖入れたらダメなんだっけ?」

 

 

その言葉にセブルスは無言で鼻でせせら笑った。リーマスは残念そうに肩を落とすと一口飲み、ぶるりと体を震わせた。

 

 

「うぅ──酷い味だ。さあ、ハリー、ノア。私は仕事を続けることにしよう。後で宴会で会おう」

「はい」

 

 

ハリーは空になった紅茶のカップを置き、まだ心配そうにリーマスを見ながらも、セブルスの射抜くような暗い視線に追い立てられるようにさっさと部屋を出て行った。

 

俺もカップを置き、立ち上がる。ぱち、とセブルスとまた目が合った。

やたら目が訴えてくる。──残念だけど、セブルスが期待してるような事を俺は言えないんだよなぁ。……ま、いいか。

 

 

「リーマス先生」

「どうしたんだい?」

 

 

リーマスの手に持つゴブレットを覗き込む、ふわり、と苦いような酸っぱいような、嫌な匂いが漂い、鼻をツンと刺激した。──セブルスの口先が強く結ばれたのが見える。

リーマスは不思議そうに俺を見ながら、また一口飲んだ。まずそうなどろりとした薬だ。

 

 

「その薬、俺も作れるんで。必要になったらいつでも声かけてくださいね」

「──っ、げほっ!」

 

 

リーマスは目を見開き、息を飲み、結果盛大に咳き込み顔を赤くした。

背を曲げてげほげほと咽せるリーマスの背中をトントンと叩けば、リーマスは口元を押さえ、動揺した震え声で「何で」と小さく呟く。

 

 

「何で、って。俺ホグワーツで魔法薬作るの一番上手いんですよ。ねえ、セブルス先生」

 

 

横目でセブルスを見れば、眉間に皺を寄せ、深いため息を吐きながら額を押さえる姿があった。

何でだ、俺実技では毎回大いに宜しいのOだぞ。

 

 

「じゃあ、セブルス先生、リーマス先生。また宴会で」

 

 

なんとなく空気が重いままだったけど、まあいいかと部屋を出ようとした瞬間、リーマスが俺の腕をぱっと掴んでそれを止めた。

後ろに引かれる感覚に少しよろめき、振り返れば真剣な顔をしたリーマスが、どこか必死な目で俺を縋るように見ていた。

 

 

「ノア、きみは──もしかして……知っているのか?」

 

 

掠れた声でリーマスが聞く。

 

 

「まあ……セブルス先生が作ってた脱狼薬がここにあって、それをリーマス先生が飲んでるって事は、人狼なんですね」

「っ……」

 

 

リーマスは息を呑んだ。

ぎゅっ、と俺の腕を掴む手に、痛いほど力が込められた。

俯く顔の、前髪の間から見えた瞳は、今までの彼の優しさはなくどこか暗く──傷付いた獣のような緊迫感を持っていた。

 

 

「──そうだ」

「へー。あ、今度見せてくれませんか?薬飲んだら精神は人間のままなんですよね」

「……は」

「え?」

「な、何を言ってるんだ、きみは」

 

 

リーマスは信じられないものを見るような顔をして俺を凝視した。

セブルスは隣で苦虫を噛み潰したような顔をして重いため息を吐き、腕を組んで天井を苛立ちながら見上げていた。

 

別に不思議な事を言ったつもりはないんだけどなぁ。

流石に薬飲まないで会いたいとは思わな──いや、俺ってどんな魔法生物でもメロメロにさせるから、もしかしたら人狼もいけるかも。それを調べたい気持ちはある。

……いやいや、それよりも。

 

 

「リーマス先生。腕、痛いです」

「──っ、ああ、すまない」

 

 

ぱっと腕を放したリーマスは、うろうろと視線を彷徨わせ、セブルスを見た。セブルスはセブルスで苦虫を噛み潰したような顔で沈黙している。

 

 

「ノア……君は、恐ろしくないのか?」

「リーマス先生が?──人狼が?」

「人狼である、私が」

 

 

リーマスの声が微かに震えた。

部屋に薬の苦い匂いが残る中で、その問いだけが重たく響いた。

 

真剣なリーマスの言葉に少し考える。

リーマスも人狼も、どっちも俺の敵ではないし、敵になったところで負けるわけがないし。

ふ、と小さく笑えば、リーマスの目が微かに震えた。

 

 

「全然。俺は世界最強の魔法使いなので──じゃあ、今度こそ、また」

 

 

呆然と立ち尽くすリーマスと、重々しい顔をしたセブルスに手を振り、俺は今度こそ部屋を出た。

 

ぱたん、と扉が閉じた直後、「一体、彼は何なんだ……」と動揺したリーマスの声がかすかに聞こえ、それにかぶせるようにセブルスの低い溜息が漏れた。

 

 

「ふぁあ……ねむ……」

 

 

ぐっと腕を上に伸ばせば、首にかけていた金色のチェーンがちゃり、と小さく音を立てて揺れた。

 

 

 

 

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