兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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109 嵐の前の静けさ

 

ハロウィンの宴会後。

グリフィンドールの寮にシリウス・ブラックが侵入しようとした。

しかし、寮の入り口である太ったレディが合言葉を言わないシリウスを拒絶し──シリウス・ブラックは癇癪を起こし太ったレディをナイフで切り裂いて逃走した。

と、ピーブズが面白おかしくダンブルドアに伝えた。

 

その結果、シリウス・ブラック大捜査線がホグワーツに発令され、生徒達は安全が確認されるまで全員大広間で寝ることになった。

 

教師全員がくまなくホグワーツを捜索する間、大広間にいる全生徒を見張るのはそれぞれの寮の監督生と、主席の二人だ。

 

大広間の長机や椅子は全て壁の側に並べられ、代わりに何百という紫色の寝袋が床いっぱいに敷き詰められていた。

 

──そう、過去形だ。

 

ほんの数時間前、太ったレディの悲鳴でホグワーツは凍りついたはずだった。

 

 

 

今、俺の目の前で紫色の枕が弧を描いて飛び、別の枕が凄まじい勢いで女子生徒の顔面にめり込んだ。

枕という枕が飛び、巻き込まれたくない生徒は慌てて端にある長机の下で身を潜めている。

 

全生徒が大広間で寝ることになり、準備をしていると、どこかで、「ノア様の隣で寝られるのは誰か」と誰かが呟いた。

その瞬間空気が変わり、「そもそも寝ているお顔を見せていいのか派」と、「間近でまぶたの形状まで観察したい派」が、互いに寝袋と枕を武器に全面戦争を始めた。

 

 

それだけではない。

俺の右腕にはドラコが、左腕にはハリーが掴まっていた。

 

 

「ノア、僕の隣で寝よう!」

「いいや僕とだ!」

 

 

と言い合い、二人とも火花をちらせ睨み合っている。

寝袋と枕を抱えたロンとハーマイオニーはため息を吐き「どっちでもいいから早く寝ようよ」と言いたげな顔をしていた。

 

「俺が真ん中で寝ればいいんじゃね?」とは思うが、ぎゃいぎゃい騒ぐ二人に口は挟めそうにない。

 

 

シリウス・ブラックが侵入し、誰もが恐怖し怯えていたのはほんの一瞬で、あれは夢だったのかと思いたくなるほどの騒音とカオスに、ダンブルドアは大きくため息をついた。

 

ダンブルドアは枕投げ大戦争を止めようと一人の少女に近づき「もう、よさんか」と声をかけたものの「校長先生邪魔です!」と一蹴される始末。ヒートアップした過激派の少年少女は枕を弾丸のように投げまくっていた。

 

ダンブルドアは額に手をあてて、しばし遠い目をしてからくるりと俺の方を振り返り、足早に近づいてきた。

俺を挟んで口喧嘩していたハリーとドラコも、怪訝な顔をしてダンブルドアを見上げる。

 

 

「ノア。すまないが、大広間入口の見張りを頼んでもいいかのぅ」

「えー」

「ええっ!?そんな、ダンブルドア先生!ノアは僕と寝るんです!」

「校長先生。違います、僕とです」

 

 

左右からぎゅっと腕を抱きしめられる。

ダンブルドアはまた遠い目をして一呼吸分沈黙し、乾いた声で「頼む」と迷惑そうにつぶやいた。

 

 

「君を中心としたこの抗争や喧嘩を抑えるには、それが最善の策だと判断したのじゃよ」

「……はーい」

 

 

 疲れ切ったダンブルドアの言葉に、俺もしぶしぶ頷いた。ハリーとドラコはまだ不服そうだったが、ダンブルドアからじっと見られてようやく──心底残念そうにしながら俺の腕から離れた。

俺が出て行くことに気づかず抗争を続ける過激派たちに、ついにダンブルドアが魔法を使って無理やり止めていた。それを横目に、俺は大広間から出て扉を閉める。

 

 

「さっむ……」

 

 

談話室の扉は、分厚い二重扉になっていて締め切れば喧騒は鎮まり、遠くの方で漣のように聞こえるだけになった。

扉に背を預けて座り、近くに暖かい炎を出す。こんなとこで長時間座ってたら絶対尻が壊れる。

適当に近くの石を撫でて「まあまあの椅子になれ」と呟いたら、ヴィクトリア様式の肘掛け椅子になった。ついでにローブを毛布に変えて足を上げて座る。

 

 

「はー……寝よ」

 

 

シリウス・ブラックは脅威じゃないとわかっている俺は、すぐに肘掛けに腕を乗せて目を閉じた。

ホグワーツにたくさんいるゴーストや、肖像画の中の人たちもシリウス大捜索に出ているのか、夜のホグワーツはひっそりとしている。

 

廊下は静かで、誰の足音もしない。ただ、なぜか……犬の足音がした。

 

──いや、本当に、犬の足音だった。

 

ぱた。ぱた。と、遠くから近づいてくるその足音に、俺は重い目を開け瞬きの回数を増やしつつ視線を凝らした。

 

現れたのは──どうみても黒い犬……シリウスだ。

 

シリウスは悪戯がバレたような顔を伏せ、尻尾を下げたまま緩く振りながら俺の側にぽてぽてとやってくる。

 

 

『外に出てて帰れなくなったんだろ』

『そ、そうなんだ。いつものように散歩に行ってたら、寮に誰も入ってこなくて……入れないから仕方がなく、人の匂いを追ってここまで来たんだが、何かあったのか?』

 

 

シリウスは白々しいほどに澱みなく理由を説明した。

「自分は無害なただの犬です。散歩帰りなんです」というアピールに、俺は小さく笑いながら胸の中に毛布を巻き込み「色々あったんだよ」と呟いた。

 

 

『教えてやるから、こっちこい』

 

 

ちょいちょいと手のひらを上に向けて指を折る。シリウスはピンと耳を立てて、誘われるまま肘掛け椅子に飛び乗り、俺の側に座る。

あー、やっぱ犬の体温高くてあったかい……中身は人間とかもういい。ふかふかしてるしあったかいし。

シリウスも自分が湯たんぽがわりになるのは嫌ではないらしく、俺に擦り寄り、俺の肩に顎を乗せた。

 

 

『それで、何があったんだ?』

『脱獄犯のシリウス・ブラックがホグワーツに来たんだってさ。それで先生達がホグワーツの中探しまくってて、生徒達は大広間で待機中。俺はここの見張り』

『なるほど。……まて、ノア、君一人で見張りなのか?』

 

 

シリウスは今の状況が知りたかったのだろう。納得したように頷いていたが、俺の言葉に怪訝そうな声をあげた。

 

 

『そうだけど?』

『……危険じゃないのか?君は監督生でも教師でもない。一人で見張りなんて……』

 

 

その言葉に、思わず笑ってしまった。

確かに、普通ただの生徒をたった一人で見張りにするなんてやばすぎるだろう。保護者からのクレーム待ったなしだ。

しかし俺の保護者は、俺がいいのならクレームなんかしないだろうし問題はない。

それに、俺は誰よりも強いし、シリウスが危険じゃないと知っている。

 

 

『シリウス・ブラックがヴォルデモートより強くないなら大丈夫』

『……何?』

『まあそういうわけで。俺は寝るからもし誰か来てやばそうなら起こしてくれ』

『……おい、ノア、今のはどういうことだ』

『おやすみー』

 

 

俺の言葉に狼狽するシリウスは無視し、俺はシリウスの体に自分の体を預けながら目を閉じた。

 

 

 

 

そして俺は見張りの任を放棄し、一瞬で寝た。多分一時間くらい寝たと思う。

ふと自分の頬に柔らかいものが触れる感覚に目を開けてみれば、俺を起こすシリウスとその向こう側にダンブルドアが見えた。

 

 

「ふぁあ……なんですか?」

「……良き眠りを、ノア・ゾグラフ」

 

 

ダンブルドアは朗らかに、優しく、とても丁寧に言った。が、その目はちっとも笑っていない。

……え、見張りってマジだったのか?俺を体良く退場させる言い訳じゃなくて?

 

 

「わかりました、起きますよ……この功績を讃えてハッフルパフに五百点くらい加点してくださいね?」

 

 

欠伸を噛み殺しながら肘掛け椅子を消す。

シリウスが俺の背後にそっと隠れて様子を伺った。……かなり緊張している。

 

 

「ところでノア。その犬はどうしたんじゃ?」

「え、スプラウト先生から聞いてません?俺のペットのシリウスです」

「……ふむ」

 

 

ダンブルドアは半月眼鏡の奥の青い目をキラキラさせて、腰を曲げシリウスを覗き込んだ。シリウスは必死に無害な犬であることをアピールするために「きゅーん」と鳴き、俺の足に尻尾を巻きつけ耳を垂らした。

ダンブルドアはシリウス・ブラックがアニメーガスであることを知らない。思いもしていない。

だから、こんな情けない姿をシリウス・ブラックが見せるわけないか、と思ったのかどうかはわからないが何も言わずに体を起こした。

 

 

「それではノアとシリウス。ここの番を頼んだぞ」

「はーい」

「わん」

 

 

ダンブルドアは微かに目尻の皺を深くしてから、大広間に入って行った。

 

 

その後、俺は扉の横の壁にもたれかかったりシリウスにもたれかかったりしながら見張りを続けた。

教師達が一時間に一度は大広間に異常がないかを確認していき、その中にリーマスの姿が見えないことに気づく。

 

 

「そうか、今日は満月だ」

 

 

窓の外を見てみれば、丸くて大きな月が薄雲の間から見え、白い光を落としていた。

 

 

 

 

 

 シリウス・ブラックがどうやってアズカバンを脱獄し、ホグワーツに侵入したのか──しばらくは生徒の話題の中心だったが、クィディッチの試合が近づけば話題なんてあっという間に切り替わる。

 

 

 一試合目はグリフィンドール対スリザリンだ。一試合目が今週末に迫る中、クィディッチ練習を始める前に、セドリックが深刻な顔でチームメンバーを更衣室に集めた。

 

 

「大変な事が起きた」

 

 

 その言葉に、チームメンバーは不安そうな顔をして顔を見合わせる。以前、秘密の部屋が開けられて生徒が襲われた時、クィディッチは中止になった。

 まさかこの間際で、シリウス・ブラックの件で中止になったのだろうか、と囁き合う。

 

 

「僕たちハッフルパフチームの試合が繰り上がった。第一試合、グリフィンドールチームとだ」

 

 

 セドリックが重く告げた言葉に、どよめきが走る。

 俺は「へー、グリフィンドールとか」と思っただけだったが、チームメンバーのざわつきを見ていると大変なことらしい。……まあ、グリフィンドール強いしなぁ。

 

 

「一応、グリフィンドール相手の戦略も練習してたけど。この数週間はレイブンクローとの戦いを想定してたし……練習は今日しかない」

「でも、なんでそんなことに?」

 

 

 ホワイトボードの前で顎に手を当て、真剣な表情で今日の練習構成を考えるセドリックにチームメイトが聞いた、セドリックは「うーん」と言葉を濁しながら苦笑した。

 

 

「ほら、ハグリッドの授業で怪我をしたスリザリン生いただろう?なんでも、その子の怪我が治ってなくてて、選手達が心配で試合に集中出来ないとか……」

「……怪我したのってクラッブとゴイルだろ?選手ですらないのにな」

 

 

 と、つい呟けばチームメイトは顔を見合わせ「そんなに心配なのかなぁ」「結構酷い怪我なのかな」と心配をしだした。

 

 

「大広間で見る限りは普通そうだけど……まあ、そういうわけで初戦はグリフィンドールになります。グリフィンドールはレイブンクローと比べて意欲的で挑戦的だから、みんなも勢いに負けないようにね」

 

 

 セドリックはそう言って話題を終える。

 みんなが練習の準備を始める中、俺は入り口から滝のような雨を降らせる雲に向かって杖を数回振った。

 

 暴風雨を快晴にしながら「……この大雨の中やりたくなかっただけじゃね?」と、呟けば、いつの間にか隣に来て外の様子を確認していたセドリックが肩をすくめて「多分ね」と頷いた。

 

 

 

 今日の練習が終わって夕食の時間。

 大広間に入った途端、俺とセドリックはフレッドとジョージとハリーの出迎えを受け、有無を言わさずグリフィンドールの机まで拉致された。

 

 

「おい聞いたよな?」

「第一試合、俺たち相手だぜ?」

 

 

 フレッドとジョージがポークソテーを何枚も自分の皿に入れながら言う。セドリックはサラダがボウルを引き寄せ「聞いたよ」と頷いた。

 俺も近くの大皿からポテトとかハッシュドビーフを取りつつ、杖を振りグラスに紅茶を注ぐ。

 

 

「まあいいじゃん。ハッフルパフとグリフィンドールってなんだかんだ一試合目多いし、慣れてるだろ」

 

 

 キーパーの俺は他のチームの戦略とかあんまり関係ないし。気軽にハッシュドビーフを食べながら言ったがその瞬間、四人の真顔の目が俺を見た。

 

 

「よくない!」

「スリザリンとハッフルパフのスタイル全然違うんだぜ?」

「そうだよ!グリフィンドールはパワープレイしがちだし」

 

 

 三人から矢継ぎ早に言われ、俺はハッシュドビーフを紅茶で流した後、机に頬杖をついて「そう言ってもなぁ、俺の護りは鉄壁だし」と余裕の表情を見せた。フレッドとジョージとセドリックは黙り込み、「それはそうだけど」と呟く。

 

 

「だからこそ気が重いんだよ……ハリー、今度は僕が先にスニッチを掴むからね」

 

 

 そう言ってセドリックは、珍しく挑戦的な笑顔を見せた。

 セドリックは前回ハリーに負けている。だから今回こそ、勝ちたいのだろう。今年はキャプテンになったし背負っているものがまた違うのかもしれない。

 ピザを食べていたハリーはチーズをびよーんと伸ばしながら「僕だって負けない!」と同じように笑った。

 

 

「でもさ……僕、今回は絶対ノアとネクタイ交換するつもりだったのに!」

 

 

 ハリーはピザを口の中に押し込み、とても残念そうに言った。ネクタイ、何のことかと思って首を傾げていたら「ほら、ドラコに貸してあげたでしょ?ドラコを応援する印だって言って!」と頬を膨らませた。

 そういえば、そんな事もあったなと思い出す。あの時はグリフィンドール対スリザリンで、どっちのチームも応援していたけど、初試合のドラコがあまりに緊張していたし、つい。

 

 セドリックがソーセージを食べながら俺をちらちらと見ているのが視線で分かった。そんな心配そうな顔しなくても、さすがにここでハリーを応援する事はない。

 

 

「ああ……流石に今回はなぁ。俺も、我らがシーカー様に取って欲しいし」

 

 

 そう言いながら、俺は自然にセドリックの肩に腕を回した。セドリックが一瞬止まり、驚いたように目を見開いた。

 

 

「!……ノア……」

「えー……」

 

 

 僅かに頬を染め嬉しそうにするセドリックとは対照的に、ハリーはじとりとした目で俺とセドリックを見てつまらなさそうに唇を尖らした。

 

 

「……ノア、また僕たちのゴール、全部止めるつもりなの?」

「当たり前だろ?今回も無失点だ」

 

 

 ハリーのムッとした顔に、横からフレッドとジョージが追い打ちをかける。

 

 

「まじでキーパーになってから一度も点数取られてないよな」

「私生活も試合もガード硬すぎだよな」

 

 

 冗談半分、本音半分のグリフィンドール生たちの愚痴。俺はセドリックにもたれかかったまま余裕たっぷりににやりと笑う。

 

 

「その代わり俺も攻撃には加わらないだろ?フェアな戦いさ」

「うぐ……確かにそうだけど……シーカーしてるノアも見たい気持ちもあるけどっ!」

 

 

 ハリーは悔しそうに歯を食いしばり、ついでにフォークをぷすっとポテトに刺した。

 俺が花形のシーカーだったらそれこそ試合は全て一分くらいで終わるだろうな。そんな試合面白いかと言われたら微妙だから、辞めさせられそうだけど。

 

 

「まあでも……ノアは僕の幼馴染だし、ゴールの隙くらいちょっとは作ってくれるよね?」

 

 

 ハリーは冗談っぽく、上目遣いで笑いかけてくる。

 シーカーに誰よりも真面目なハリーは、俺が手を抜く事がないとわかってるし、手を抜かれる事も本心では望んでいない。いわばこれは全員が理解してるユーモアたっぷりのジョークで、フレッドとジョージもニヤリと笑い、胸の前で指を組むと「ノア様〜」とか言いながらキラキラとした目で俺を見た。

 

 

「ないよ」

 

 

 セドリックが吹き出して、フレッドとジョージは大声で笑った。ハリーは片眉を上げていたが、すぐに同じように腹を抱えて笑い出した。

 

 

 

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