兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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110 初めての経験

 

 

 そして試合当日。セドリックとシリウスに起こされ、まだ薄暗い中体を起こす。

 雷鳴が遠くで響き、大粒の雨と風を窓を打ち付けガタガタと軋んでいた。

 

 

「……ねむ」

「最近、いつも眠そうだよね。夜ふかししてるのかい?」

「うーん、まあ。来年に備えて」

 

 

 指を振りパジャマから私服に着替えつつ答える。セドリックは不思議そうに首を傾げ「来年?」と呟いた。

 

 

「試験は今年だよ?」

「勉強じゃない。……ま、いろいろな」

「ふーん?」

 

 

 言葉を濁せば、あまり深入りして欲しくないのだとセドリックは察したのだろう。それでもつまらなさそうというか……俺がこっそり言ってくれるのを期待しているようだったが、俺はその視線に気づかないふりをして欠伸を一つ溢し、ベッドから降りて伸びをした。

 

 

『ノア、今日グリフィンドールとの試合なんだろう?観に行きたい』

『いいよ』

 

 

 頷けばシリウスは尻尾をピンと立てて喜び、ウキウキとした気分でぐるぐると回った。

 

 

『誰を応援するんだ?』

『そりゃ。……ノア、君だよ』

 

 

 シリウスは少しの沈黙の後、俺を見上げる。

 ふーん?本当は、俺じゃなくてハリーなんだろ?

 シリウスにとって、ハリーは大切な存在だ。選手だったジェームズのように競技場を飛び回っている姿を、一目見たくて仕方がないんだろう。シリウスの頭をぐしゃぐしゃと撫でれば、シリウスは目を細め『本当だ!』と言った。

 

 

「ノア、今日の天気も……お願いしていい?」

「ん」

 

 

 杖を窓の方に向けて、嵐の雲を取っ払う。

 その途端手から熱いものがごっそり抜けていって、寝起きだと言うのに嫌な倦怠感が肩にのしかかる。

 ここ数週間、天気はこんな感じで最悪だったから練習のたびに天気を変えている。微妙に疲れが取れていないのも、絶対そのせいだと思う。

 天候を変える魔法、マジで疲れるんだよな。

 

 ふう、と小さくため息をつき、肩を落とせばセドリックは少し心配そうに「大丈夫?」と駆け寄り肩を撫でた。

 

 

「平気。試合まで天気持てばいいけどな」

「うーん……今日は風が強いな。……遠くから雲が来なかったら大丈夫だと思うけど」

 

 

 窓を開け、セドリックは身を乗り出す。強風が吹いて前髪をオールバックにしながら空を見るが、今は怪しい雲は見当たらない。天候までを操る俺に、シリウスは初めこそ驚いていたがもう慣れたのか今は物珍しそうに空を見上げるだけだった。

 

 朝食を食べたらすぐに選手たちは移動だし、シリウスも一緒に少し早めに大広間に行って軽めに食べ、他のチームメイト達と一緒に競技場へ向かった。

 強風に煽られ、シリウスが祟り神みたいになっている。禁じられた森の木々もめちゃくちゃしなって枝や葉っぱが飛びまくっていた。

 

 

「こ──これ、クアッフル飛んでいっちゃわないかな」

 

 

 セドリックが腕を前にして目を細めながら叫ぶ。確かに箒のコントロール難しそうだし、体格でかいやつは風の抵抗が半端なさそう。

 

 

「風を止めるのは難しいんだよなぁ。目に見えないから」

「う──」

 

 

 俺の言葉にセドリックは残念そうな顔をした。頑張ればできなくはないけど、競技場全体をカバーしたりして。でもそうしたらスニッチの動き妨害とかで違反になりそうなんだよな。

 遠くの方に灰色の雲があるのが見える。まだこっちに来そうではないけど、試合中天気崩れるかもな。──試合始まって変な魔法使ったら、怒られそうだし。

 

 

 全員がカナリア・イエローのユニフォームに着替え、キャプテンになったセドリックを見る。セドリックは緊張と、興奮が混じる表情で口先をきゅっと結んでいたが、同じチームメイトの緊張の青白い顔を見ると、一瞬だけ深呼吸をした。チーム全体を見渡すと、自然な笑顔を見せ、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「相手が誰だろうと、僕たちはハッフルパフだ。──最後まで諦めず、全員で支え合って戦う。それが僕たちの強さだよ。

グリフィンドールは確かに強い。でもね、勢いだけじゃ勝てない。僕たちには練習で積み重ねたものがある。誠実さがある。何より──仲間を信じる心がある」

 

 

 チームメイト、みんなが視線を交わし頷きあう。緊張で白い顔をしていた子も、うんうんと大きく頷いていた。

 セドリックは拳をぎゅっと握り、少しだけ声を張った。

 

 

「だから絶対に怯むな!自分がやってきたことに胸を張れ。誰かがミスしても、カバーし合おう。──僕たちはひとりじゃない!」

 

 

 一人一人の目を見て、最後は穏やかに笑った。

 

 

「──さあ、勝ちに行こう。ハッフルパフがホグワーツで一番だって、証明しよう!」

 

 

 セドリックが拳を上に掲げる。

 誰もが「おお!」と鼓舞するよう声を上げ、足を鳴らし、立ち上がった。一人、一人と濡れた芝生の元へ走っていく。

 セドリックは胸を張りそれを後ろから見ていたが、長く息を吐いて──俺を見て、少しまた緊張した表情を見せた。

 

 

「頼りにしてるぜ、キャプテン」

「ノアも、ね!」

 

 

 セドリックとハイタッチし、俺たちはピッチに駆け出した。

 

 

 

 グリフィンドールチームのキャプテンであるウッドとセドリックが握手する。フーチの「箒に乗って!」の言葉に、全員が箒にまたがり、ホイッスルの合図と同時に空へ飛んだ。

 

 

「うわっ!」

 

 

 途端横殴りの風を受けた俺たちはよろめいて、真っ直ぐ飛んでいるつもりでも自然と体が流される。俺も箒をコントロールし、ゴールの大きな縁を持って体勢を立て直す。俺はゴールに掴まれるけど、空ずっと飛びまくってる奴らは大変だろうな。

 

 観戦者の声と応援歌も、風の音に負けて微かに聞こえるだけだ。試合開始数秒で、ゴロゴロと低い雷鳴がそれに混ざって微かに聞こえていた。

 その微かな雷鳴も、いつの間にか地響きを伴う轟音になり稲妻が走る。空を見上げれば、遠くから──夜が来た。そう思うほどの、黒い雲がやってきた。……朝追い払ったやつが、戻ってきたな。

 

 俺に向かって突き進むクアッフルを箒の柄で弾き飛ばした時、鼻先にぽつ、と雨粒が落ちた。 

 大粒の雨が降り、観衆は慌てて雨避け魔法を使う。魔法を使えず、雨を予報していた勘の良い生徒は傘を広げ、何も持ってきていない生徒はマントやローブを被った。

 雨は徐々に激しさを増し、世界が白く染まる。時々光線のように黄色と赤が見えたが、こんな豪雨の中で小さいスニッチを見つけるなんて、ハリーとセドリックはよほどの集中力と運が無ければ難しいだろう。

 雨風の音に流されて、解説者の声も聞こえなくなってしまったし、ハッフルパフがどれくらい加点されているのか気になる。

 

──視界の隅で黒い影が滑り込んだ。

 

 

「──っ!」

 

 

 一瞬の判断で体をねじり、飛び込むように右腕を伸ばす。鈍い衝撃が腕から肩に突き刺さり、感覚が麻痺した。

 グリフィンドールに加点は許さなかった。

 許さなかった、けど。

 

 

「いっっ……て」

 

 

 伸ばした右腕が痙攣しているし、痺れて力が入りにくい。これ折れてる?内出血?……痛みだけ取っとこ。

 後で怪我を治すとして、とりあえず感覚遮断の魔法をかける。少し油断しすぎていたみたいだ。俺の最高の箒捌きも、流石にここまで視界不良だと気付くの遅れて反応できないな。

 

 

 その時、雷の轟音に混じって観衆の興奮した雄叫びが聞こえた。赤と黄色の残像──セドリックとハリーが空を裂くように上昇していくのが見える。動き的に、セドリックが先にスニッチを見つけたんだろう。

 

 雨で体力も体の熱も奪われてめちゃくちゃ寒いから早くセドリックがスニッチ掴んで試合を終わらせてほしい。

 ぐんぐんと高く上がる二人、寒さが足まで這い上がってきていて、ゴールの輪に霜が降りているのが見えた。──霜?

 

 異変に気づいたのは俺だけだった。

 みんな、ハリーとセドリックがスニッチを追いかけるのを見て顔を上げている。

 

 競技場内のピッチに、百体は超えるだろう吸魂鬼が集まり、腕を醜く伸ばしていた。

 

 吸魂鬼に弱いハリーが異変に気づきスニッチから目を離し、下を見た。その直後、体が硬直しハリーは箒から手を離す。主人を失った箒は真っ直ぐどこかに飛んでいった。

 

 

──そういえばこんな流れだった!

 

 

 舌打ちと同時に、俺はゴールポストを蹴った。暴風を切り裂いて加速し、落下するハリーに真っ直ぐ向かう。顔面に冷たい雨が叩きつけられ、視界がにじむのも気にしない。

 

 

「──っと」

 

 

 真っ白な顔をして気絶しているハリーを抱き止める。危ない、後地上まで五メートルくらいしか余裕無かった。あの高さから落ちたら流石に即死コースだ。

 

 ほっと息を吐く間もなく、吸魂鬼が体を伸ばし俺とハリーを襲おうとしてきた。

 

 杖はないが、問題はない。

 

 俺は守護霊魔法を使おうとしたが──その前に、いつの間にかピッチにきていたダンブルドアが守護霊魔法を放った。眩い銀色の光を伴う不死鳥が、百体を超える吸魂鬼を一撃で追い払った。……さすが、ダンブルドアだな。

 

 

「ノア!ハリー!」

 

 

 ピッチに降りた俺の元にダンブルドアが駆け寄る。

 雨鬱陶しいし、もう怒られても良いや。

 腕を降って雨雲を消したが、ダンブルドアは少し目を見張ったが何も言わなかった。豪雨がようやく止まり、額に張り付いている髪を後ろに流しながら、俺はハリーを抱え直す。

 

 

「ハリーは気絶してるだけです」

「おお……そうか、ありがとう、ノア」

 

 

 ダンブルドアはほっとした表情だったが、すぐに憤怒の表情になると「あってはならない事が起きてしまったようじゃ」と低く呟いた。「吸魂鬼、こんなとこに来ちゃってましたしね」と肩をすくめればダンブルドアは苦い顔で頷いた。

 

 選手達が次々とピッチに降りて不安そうにする中、セドリックは強張った表情で降りたち、ダンブルドアの元に駆け寄った。

 

 

「ハリー!ノア!一体何で──試合は中止だ!こんなの──やり直しを求めます!」

 

 

 セドリックの手にはスニッチが握られていた。

 その必死な言葉に、ハッフルパフチームだけでなくグリフィンドールチームも沈黙する。このままだとハッフルパフの勝利になる。だが──終わり方が後味が悪すぎる。

 

 

「──なりません!」

 

 

 フーチがすぐに駆け寄り、セドリックの言葉を退けた。厳しい言葉に、セドリックは息を詰めぎゅっと拳を握る。ぱたぱた、とスニッチの羽音が静まり返ったピッチに響く。

 

 

「試合は正常でした。イレギュラーな事はありましたが……ディゴリー、あなたは違反行為をする事なく、スニッチを取った。それは変えようもない事実です」

「っ……でも──」

「あの時、吸魂鬼の被害は全員が受けました。その上の結果です。……オリバー、異論はありますか?」

 

 

 フーチが鋭い視線でウッドを見る。グリフィンドールチームのキャプテンであるウッドは、ぐっと辛そうに顔を歪めた。本心は、もちろん試合のやり直しを求めたい。ここで負けが決定するなんて嫌だ。──それでも、ぐっと奥歯を強く噛み、ウッドは首を振った。

 

 項垂れる両方のキャプテン。

 勝ったハッフルパフチームも喜ぶ事はできず、気まずそうに顔を見合わせた。

 

 

「──それでは整列!試合終了です。0対150で勝者ハッフルパフチーム!」

 

 

 騒ついていた観衆達も、大歓声は上げなかった。それでも両者を称え、パチパチと拍手が送られる。

 もう雨は降っていなかったが、それは雨のように俺たちに無慈悲に降り注いで聞こえた。

 

 

「ノア、ハリーをここへ。わしが医務室に送ろう」

「はい」

 

 

 ダンブルドアの魔法で出された担架に乗せられたハリーは、そのまま競技場から出て行った。その後をハーマイオニーとロン、それにドラコが追いかけて行ったのが見える。

 

 

 放心状態のウッドは、フレッドとジョージに肩を組まれ、支えられながら更衣室へ向かう。

 この場に残る気まずさから逃れるように──俯くセドリックを気にしながら──みんな更衣室にはけて行った。観衆も、ざわつきながら帰っていく。

 

 

「……セド」

「……」

 

 

 セドリックの背を叩く。雨に濡れた前髪の隙間から、セドリックの暗い目が俺を見た。口は硬く閉じられていて、行き場のない怒りと悲しみが手に取るようにわかる。

 

 俺は笑い、少し背伸びして手を伸ばし、濡れた犬みたいになったセドリックの髪をぐしゃっと乱す。

 

 

「文句あるなら次の試合で、誰にも文句言わせない勝ち方しようぜ?」

 

 

 そのまま、肩を組む。俯く顔を覗き込めば、セドリックはぐっと目を細め、一瞬泣きそうな顔をしてから「うん」と震える声で頷いた。

 

 

「……?」

 

 

 セドリックはふと顔を上げ、目を擦りながら俺の顔をじっと見る。

 

 

「なんだ?」

「ノア、きみ……体熱いよ」

「へ?」

 

 

 肩を組んで密着しているからか、セドリックはそう言うとすぐに俺の額に手を置いた。その手はかなり冷たい。

 

 

「……うん、絶対熱ある。医務室に行こう」

 

 

 真剣な顔で言われたが、体調悪い──気はするけど、確かにずっと体が重いしだるいし。

 まあ熱は魔法で治すの難しいし、薬もらったほうがいいな。

 

 薬飲んだらすぐに治るだろ。

 と思い一歩踏み出した途端。

 

 

「──あ?」

「ノア!」

 

 

 がくん、と足から力が抜け、セドリックに縋り付くようになった。たまたま肩に腕回してたからセドリックも慌てながらすぐ支えてくれて──。

 

 

「……ねむ」

 

 

 ノア!と叫ぶセドリックの声を聞きながら、抗えない眠気に俺はそのまま目を閉じた。

 

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