兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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111 キャプテンとして

 

 

 

 薬品の匂いと、誰かの気配に意識を浮上させる。

 ぱち、と目を開けばぼやけた視界の奥に白いカーテンのような物と、息を呑む音が聞こえた。

 

 

「ノア」

 

 

 囁くような微かな声が聞こえ、視界が陰る。誰かが覗き込んでいるんだろう。何度か瞬きをして起きあがろうと体に力を──込めようとしたけど、体が重すぎる。なんだ?誰か上に乗ってる?

 

 

「ノア、大丈夫?」とまた声が降ってくる。これ、セドリックだな。セドリックが俺の上に乗る──わけがない。魔法?拘束魔法か金縛り魔法でもかけられてる?指先は動くんだけどな。

 

 

「……、……」

 

 

「セド」と、名前を呼ぼうとしたけど口は はく と動いただけで声が出せない。ってかめちゃくちゃ喉乾いた!

 ひゅっと喉が引き攣り、眉を寄せて小さく咳き込めば、セドリックはすぐに俺の背に腕を入れて起こしてくれて、どこからかゴブレットをとって水まで飲ましてくれた。

 まさに生き返るとはこの事。

 ぼやけた視界もましになって、今いる場所は医務室のベッドの上で、心配そうな顔をしてそばにいるのはセドリックだった。

 

 あー。確か熱出してぶっ倒れたんだっけ。

  

 

「う、……けほっ、……はぁ……」

「ポンフリー呼んでくるよ」

 

 

 俺をまた寝かせてポンフリーを探しに行こうと腰を浮かすセドリックに、「いい」と首を触れば、セドリックは少し不安そうにしたがそれでも眉を寄せ座り直した。

 

 丸椅子を引き寄せ、俺の顔色をじっと伺いつつ──すぐにポンフリーを呼びに行かなくてもいいと判断したんだろう。セドリックは俺が話しやすいように枕に魔法をかけて大きくして、俺の背の後ろにおいてくれた。

 

 

「……なんか、体動かないんだけど」

「魔力が枯渇したんだって。……滅多に起きないらしいけど。天気を変える魔法、ずっと連発してたからだと思う。それに寝不足だったでしょ」

「ああ……体はまだ重いけど。……確かに頭はスッキリしてる」

 

 

 休日に昼近くまで寝たくらいのすっきり具合だ。

 窓から差し込む光は柔らかく、明るい。寝てからそれほど時間が経ってないのか、うっかり丸一日爆睡したのかのどっちかかな。

 

 

「ノア、ごめんね」

 

 

 セドリックが膝の上に置いた手をぎゅっと握り、悲痛な声で呟いた。

 

 

「何が?」

「……魔法、ずっとかけてくれて。僕もノアに甘えてた。それで……倒れちゃったんだ」

「あぁ……あれは俺が濡れたくなかっただけだし、気にすんな」

 

 

 軽く笑いながら言う。

 セドリックはそれでも落ち込んでいたが、あれはまじでセドリックやハッフルパフチームのためではなく、俺自身が濡れたくなかったからやっていただけだし。

 

 

「俺、何時間寝たてんだ?」

「一週間」

「へー。一週間……一週間!?」

「うん。後三日起きなかったら、聖マンゴに移送するって話も出てた」

 

 

「まじかよ……」と呆然と呟いた声すらかすれているのが、なんだか自分でも笑えた。セドリックは苦笑いしながら水のゴブレットをもう一度差し出してくる。

 水を飲みつつ、顔を見合わせて少し笑った。目覚めたって事は魔力は戻ったんだろう。体が重いのは、一週間寝たきり生活で筋力が低下してるのかもな。

 けほ、とまた咳き込めばセドリックはすぐに背中を軽くさすった。

 

 

「──みんな、すごく心配してたよ。フレッドとジョージも来てたし、ハリーもドラコも、毎日顔出してたし。今はたまたま僕だけが空き授業だけど、さっきまでみんな居たんだよ。……初日は君のファンが山ほど来て、みんなポンフリーに追い出されてた」

「まじか。……起きたらまた見舞客増えそうだし、ポンフリーに行って制限してもらわないとな」

「ノアがしなくても、ポンフリーは制限するだろうね。じゃないと全生徒が押しかける事になるから」

 

 

 セドリックは肩をすくめて、隣のベッドのカーテンを開けた。

  隣のベッドの上はまるでちょっとした市場みたいになっていた。ベッドの白いシーツを探すのが困難な程に、色とりどりの包みや箱、手紙の山が積まれていて、カーテンを引いた衝撃でいくつかの箱がベッドの脇からごろりと床へ転がった。

 

 

「……店開けそうだな」

 

 

 思わず呆れた声が漏れる。ベッドの上には、百味ビーンズどころじゃない量のキャンディ、手作りっぽいクッキーが山積みで、魔法で動く小さな紙細工の花束や、魔除けのピアスがきらきら光ってぶら下がっている。

 

 

「君が寝てる間に、どんどん積み重なっていったんだよ。最初はお菓子と手紙くらいだったんだけどね。途中から『幸運の薬入り!』とか言う胡散臭い小瓶とか、『疲れ吹っ飛びぬいぐるみ』とか、いろいろ届き始めて……」

 

 

 セドリックは苦笑しながら、床に落ちたチョコレートの箱を拾い上げてベッド脇に戻す。確かに、誰が見ても贈り物がキャパオーバーなのは明らかだった。

 毎日なんらかの貢物を貰う俺でも、この量は流石に……誕生日とかクリスマスくらい?

 

 

「まだこの何倍もあって、医務室に置けない分はフレッドとジョージが鏡の中に入れて預かってるよ」

「……サンキュ。マジで助かるわ」

 

 

 目の前の贈り物の山を眺めながら、俺は静かにため息をついた。起きたばかりだが、呪いかかってないかとかのチェックしなきゃなぁ。

 

 

「ノア、もう無理しないでね」

「ああ……魔力切れなんてそんなにないと思うけど」

 

 

 廊下の方から、遠くに授業終了のベルが鳴り響いた。その音が止むか止まないかのうちに、慌ただしい足音が駆け寄ってくる気配がした。次の瞬間、扉が勢いよく開いて、元気な声が医務室に飛び込んできた。

 

 

「ノアはどう──起きてる!!」

 

 

 一番に飛び込んできたのはハリー、その後ろからロン、ハーマイオニー、ドラコ、そしてフレッドとジョージが一緒になって雪崩れ込んでくる。重い手をなんとか動かして軽く上げれば、みんなパッと笑顔を作った。

 

 

「ノア目が開いてるぞ!」

「うわー、マジで起きてる!」

「心配したんだぞ!何日寝てたと思ってる!」

「良かった……!ほんとに目覚めたんだ!」

「ノアさん、よかったです!」

 

 

 わいわいがやがや、好き勝手に口々に言いながら、ベッドの周りに集まってくる。セドリックが苦笑いしながら椅子をずれて、彼らのスペースを作った。

 

 

「心配かけたな、もう大丈夫だぜ」

 

 医務室全体が陽気な雰囲気に包まれたそのとき──。

 

 

「騒がしいにもほどがあります!」

 

 

 ぴしゃりと小気味よい音がして、ポンフリーが現れた。両手を腰に当て、怖いくらいにキリッとした表情で一同を睨みつける。

 

 

「全員静かに!──ゾグラフ、目覚めたのですね。よかったです。でも、すぐに検査をしますから一度皆さん出て行きなさい!」

 

 

 容赦ない言葉に、騒いでいた面々は「来たところなのに」と一瞬不服そうにしたが、ポンフリーは有無を言わさず「さあさあ!」とハリー達を追い立てた。

 

 

「ノア、またあとで来るからな!」

「ゆっくり休めよ!」

「ちゃんと検査受けて、また元気な顔見せろよ!」

「絶対また来るからね!」

 

 

 ぞろぞろと名残惜しそうに医務室から出ていくみんなの背中を、俺は半ば呆れながら見送った。

 

 

「……目覚めた途端これかよ」 

 

 

ふっと笑って、頭を軽く枕に預けた。

 

 

 

 

 検査の結果。

 魔力切れはもう問題なさそうだった。

 通常なら一日ほどで目が覚めるはずなのに一週間もかかった理由は、あの最後の天候を操る魔法をした時に魔力が殆どゼロになってしまった。──その上、魔力が枯渇しても止まることの無い防御魔法や感覚遮断魔法をかけ続けていたせいだった。

 減る量に比べて、回復する量が追いつかず、感覚遮断しているから体の危険信号にも気付けない、だから体が強制的にブラックアウトしたというわけだ。

 

 魔力を回復する薬は無い。自然回復を待つのみであり、俺はこうして寝かされ続けていたのだ。

 

 そういえば、あの試合で俺の腕は折れていたらしいが、腕の怪我は寝ている間にポンフリーが治癒してくれたようだ。

 

 

 

 

 目覚めた翌日、俺は医務室を出た──けれど、今月中のクィディッチは禁止され、次の試合には出場できなくなった。

 

 セドリックはそれを聞いて表情を曇らせ、辛そうな顔をしたが、反抗する事はなく黙って頷いていた。多分、まだ責任を感じていたんだろう。

 

 ハッフルパフチームには予備の選手がいない。キーパーのいない試合は最早試合にならず──結果……惜しい場面もあったが、レイブンクローの前にハッフルパフは負けた。

 

 

 試合が終わった後の更衣室、チームメンバーはいつもより静かだった。更衣室に響くのは濡れた靴の音と、誰かのため息だけで、負けた悔しさと、諦めのような雰囲気が漂っている。

 

 

「……ごめん、出れなくて」

 

 

 前の時に「文句出せない勝ち方しようぜ!」とセドリックに言ったのは俺なのに、その俺が出場停止になりチームは負けてしまった。

 か、かなり申し訳ない。

 

 チームメンバーに向かって言えば、彼らはすぐに笑って「ノアのせいじゃないよ」と首を振った。

 いや、俺が出られなくなったからだし、流石に申し訳なくて沈黙していたら、セドリックはふっと優しく笑った。

 

 

「謝る事じゃないよ。むしろ、無理して出てたらもっと大事になってたかもしれない」

 

 

 そして、チームのみんなに目を向け、自然と声を張った。

 

 

「僕たちは、ノアの守りに甘えてたんだ。今回の試合でよく分かった。戦術も、練習も、もっと考え直さないといけない。来年は、みんなで強くなって──ハッフルパフが優勝しよう!」

 

 

 その言葉に、重かった空気が少しだけ軽くなった。元気がなかったチームメイトたちも、少しずつ表情を緩めた。誰かが「やろう!」と声を上げ、それが次々と続いた。

 

 

 本当、セドリックってチームの雰囲気をあげたりまとめたりするのがうまい。やっぱり指導者向きなんだろうな。俺も思わず笑えば、セドリックは俺に拳を突き出す。軽く自分の拳をぶつければ、セドリックは嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

 

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