兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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114 魔法省案件

 

 

 

 クリスマス休暇の最中、俺はホグワーツを抜け出して仕事へ向かっていた。勿論、事前にダンブルドアから正式な許可は取ってある。問題はない。

 

 校長室から煙突飛行ネットワークを使い、マグルには見えない魔法族専用の事務所ビルへ到着する。暖炉から足を踏み出した瞬間、パリッと糊の効いた空気と薬草の香りが鼻をかすめた。天井には淡い魔法光を放つシャンデリアがあり、壁には有名雑誌が飾られていた。その表紙の殆どが俺である。

 

 

「あ、ノア!」

 

 

 先に待っていたのはマネージャーのメイソンだった。柔らかく温かな声色、爽やかな笑みは変わらない。テーブルの上には書類が数枚広げられ、いつものようにスケジュール帳が開かれていた。

 

 

「悪いね、ノア。せっかくの休暇中に……どうしても今年中に契約したい案件があってさ」

「うん、別にいいよ。何でも、保護者が必要なんだって?」

「うん、クィレルさんに頼んであるよ。もう来てくれてる。こっち」

 

 

 メイソンは気遣うように微笑み、俺を会議室の一室へ案内した。

 シンプルなソファと光沢のある低めのテーブル。少し場違いに思える執事めいた佇まいで背筋をピンと伸ばして座っていたクィレルが、俺を見るや否や満面の笑みを浮かべて、飛び跳ねるように立ち上がった。

 

 

「ノア様!お久しぶりでございます」

「うん、久しぶり。──俺が頼んでた件は?」

「はい、順調に進んでおります。いくつか特別な品も取り揃えておりますが……今ここでご覧になりますか?いくつかお見せできますが」

「いや、いい。ここでは面倒だから後で」

 

 

 軽く笑って首を振れば、クィレルは素直に下がった。闇の魔法関係の話をこの場で出すのは色々と支障がある。クィレルも心得ているようだった。

 

 

「じゃあ、仕事の話をしようか」

 

 

 俺はソファへ腰掛け、クィレルは静かに俺の背後に立つ。まるで執事だな、と思いながら横目で見れば、クィレルはいつも通り無表情で控えていてそれを見たメイソンが苦笑していた。

 

 向かい側にはメイソンが座り、杖を一振りすると数枚の書類がスッとテーブルの上に揃う。淡い光が消え、書類の角がぴたりと揃ったのを見て、俺は肘をつき視線を落とした。

 

 

「じゃあ、契約内容から説明するよ」

 

 

 メイソンはにこやかに切り出し、仕事モードに切り替わった。

 

 

「これ、魔法省からの案件なんだ」

 

 

 メイソンが軽やかに書類を差し出す。俺はそれを片手で受け取り、ぱらりと目を通した。契約書類特有の堅苦しい文面が並ぶ。魔法省の刻印と署名欄がしっかり入っているのが見えて、眉を一つ上げた。

「魔法省?」と問い返せば、メイソンは目を輝かせたまま、興奮したように身を乗り出した。

 

 

「そう!うちの事務所ができてから初めての大型案件だよ。聞いたことあるかな?来年夏、イギリスでクィディッチ・ワールドカップの決勝戦がある。そこで──特別ゲストとして、ノアを呼びたいってさ」

 

 

 メイソンは魔法書類を数枚テーブルに並べながら、口角を上げて続けた。

 

 

「決勝戦、世界中が注目する超特大イベントだよ。魔法省はその舞台に『国の顔』を立たせたいんだ。その大役に選ばれたのが──ノア、君だ!」

「ふーん……ただの観戦じゃないんだろ?」

 

 

 書類をひと通り読みながら聞けば、メイソンは嬉しそうに頷く。

 

 

「もちろん。ただ座って見るだけじゃない。君には──優勝カップの授与をお願いしたいんだって。決勝戦のフィナーレ、優勝チームにノアが直接カップを渡す。イギリス魔法界の若きスターが世界の舞台に立つ、最高の宣伝になるってわけさ!」

 

 

 まさかここで来年の話が出るとは思わなかった。でもそうか。後半年くらいだし準備は着々と進んでるはずだよな。

 

 

「……俺がイギリス魔法界のトップみたいだな?」

「うん。ギャラも破格だし、世界放映だから露出効果も絶大。国のスターとして世界に名を刻む、ってわけ」

「最初から俺一択だっただろ?」

「うん、打診されたのも、君以外いないって口ぶりだったよ」

 

 

 メイソンはちょっと冗談っぽくウインクして見せた。

 

 

「……ふーん、面白いじゃん。俺の魅力は世界中に知らせるべきだしな!──いいよ、受ける」

 

 

 俺がサラリと返すと、メイソンは満足そうに笑って、杖を振りテーブルに契約用の書類を整列させた。

 

 

「じゃ、サイン頼むよ、ノア。それに、クィレルさんもよろしくお願いします。──来年の夏、魔法界のスターが世界の舞台で輝く!ああ、楽しみだなー!」

 

 

 自分のことのようにウキウキと喜ぶメイソンを見て、俺は笑いながら肩をすくめ、手元の羽ペンを取った。

 

 

 

 その後、俺は雑誌の特集ページに載せるインタビューを受け、ついでに他の案件にも目を通し──また新商品のパッケージ案件だった──来年に新しく発売する写真集の契約もした。

 仕事が終わったのはもう夜も遅くなっていて、俺は伸びをして首を傾ける。

 

 

「ふう、今日も完璧だったね、ノア。本当にプロフェッショナルだよ。さて──この後どうする?せっかくだし何か食べに行く?いくつか店は押さえてあるんだ」

 

 

 メイソンはスケジュール帳をぱらりとめくりながら、期待するようにこちらを見た。

 

 俺はソファの背もたれに身体を預けたまま、指先で軽く顎を撫でる。ちょっとくらい食べてもいい気分ではあるけど──クィレルと二人で話したい事もあった。仕事の表向きの話じゃなく、例の件について。

 

 ちらりと横目でクィレルを見る。案の定、クィレルはすぐに察して、控えめに一歩前へ出た。

 

 

「ご心配には及びません。こちらでも食事の準備は整っておりますので、お気遣いなく」

 

 

 俺は笑って肩をすくめた。

 

 

「悪いな、メイソン。俺、今日は別でちょっと食うわ」

 

 

 メイソンは「ああ、なるほど」とすぐに理解した顔になる。クィレルをチラリと見て──まだ信用しきれていないのだろう──数秒だけ迷った様子だったが、最後には気持ちよく頷いてスケジュール帳を閉じた。

 

 

 

 

 俺とクィレルが事務所を出る頃には、窓の外はすっかり夜に染まっていた。雪を被った街灯が、柔らかく青白い光を辺りに落としている。

 

 メイソンは変わらず爽やかな笑みのまま、俺たちをビルの入り口まで見送りにきた。

 

 

「よいクリスマスを、ノア。……クィレルさんも、お元気で」

 

 

 笑顔のまま、軽く手を振るメイソンに、俺も手をひらりと上げ返す。

 

 

「うん、メリークリスマス、メイソン。休暇中くらい、ちゃんと休めよ」

「はは、言われた通りにするよ」

 

 

 そのままメイソンは肩をすくめ、俺たちが見えなくなるまで手を振って見送った。

 

 俺は表通りに出るでもなく、魔法界の裏路地──事務所裏の細い通りへと足を向けた。クィレルも当たり前のように数歩後ろをついてくる。

 

 通りの奥は薄暗い。マグルどころか一般の魔法使いも滅多に足を踏み入れない、人目の死角。俺は首を軽く回して肩をほぐす。

 

 

「……じゃ、行こうか。さすがにこの距離を箒ってわけにもいかないしな」

「はい。ご案内いたします」

 

 

 クィレルはぴたりと俺の横につき、すっと片手を掲げる。

 

 

「僭越ながら、姿現しをさせていただいても?」

「うん、頼む」

 

 

 静かな呟きのあと、クィレルの腕を掴めば、視界がぐにゃりと捻れた。冷たい風が頬を撫で、世界が一瞬歪む感覚に目を閉じる。

 

 次に足元がしっかりと石畳を踏みしめた時、そこはもう俺の自宅、舞台裏の前だった。

 

 冬の夜風が木々をざわめかせ、誰の目も届かない屋敷裏の石畳が月明かりに濡れている。俺は深呼吸一つして、足元に降り立った。

 

 

「……さて、ここからが本番だ」

 

 

 クィレルは静かに微笑み、俺の少し後ろで胸に手を当て一礼していた。

 

 

 

 

 

 

 自宅へ戻った俺は、クィレルと共に屋敷の地下階に降りた。普段は使われない地下の一室。床には魔法陣が刻まれ、壁際には鍵のかかったキャビネットが並ぶ。

 

 

「では、集めていたものをお見せします」

 

 

 クィレルは軽く一礼し、杖を振る。カチリ、とロックが外れ、キャビネットの扉が自動的に開く。中から出てきたのは闇の魔導書数冊と、いくつかの魔法アイテム。クィレルはそれらを順に説明していった。

 えーの。禁書指定の古書、古代ルーンで封印された首飾り、曇った黒曜石の短剣──そのどれもが、闇の力を秘めた物だった。うん、どれもやばそうなものばかりだ。でもいろんな魔法を知っといた方が後々便利だしな。

 

 俺は部屋の中央に置かれた肘掛け椅子にゆったりと腰を下ろし、気になった魔導書を一冊手に取る。パラリとページをめくりながら、指先で革の質感を感じた。

 

 

「……クィレル」

 

 

 軽く呼べば、クィレルは即座に俺の前まで進み出て、片膝をつき頭を垂れる。礼儀も徹底していて、忠誠心が行動に滲み出ていた。

 

 

「何でしょうか、ノア様」

「この前、俺……魔力切れ起こして倒れたんだよ」

「そんな!──お体は大丈夫ですか?」

「うん、もうばっちり」

 

 

 魔導書を閉じ、ふと視線を下ろして言えば、クィレルは心配そうに眉を寄せていた。

 

 

「──魔力を補うには、何がいいと思う?」

 

 

 一瞬の間のあと、クィレルは低く考えるように唸り、静かに答えた。

 

 

「……正攻法なら、賢者の石か──ユニコーンの血が思い浮かびます」

「やっぱり、それだよなぁ……」

 

 

 俺は苦笑しながら背もたれに深く沈み込む。想像通りの答えだ。どっちも簡単に手に入る物じゃない。

 

 

「……なんか、代用できそうなの探しといて」

「かしこまりました。すぐに調査いたします」

 

 

 クィレルは静かに頭を垂れ、跪いたまま返事をした。俺は再び魔導書を開きながら、考える。今後ヴォルデモートと戦争する時に、魔力切れなんてシャレにならないからなぁ。

 

 

「フラメルってさ、聞いたら賢者の石の作り方とか教えてくれないかなー」

 

 

 背もたれに背を預けながら冗談っぽく言う。クィレルは真顔で黙って俺を見つめていて、なんかちょっとバカなこと言い過ぎたかな、気まずい。

 

 

「悪い、忘れて──」

「可能だと思います」

「──まじで?」

「はい」

 

 

 クィレルは静かに跪いたまま、真顔で頷いた。俺は片手で魔導書を閉じ、眉をひそめる。冗談のつもりだったが──クィレルは本気だった。

 

 

「……可能、って……どういう意味?」

 

 

 ソファの背もたれに腕をかけたまま聞けば、クィレルは穏やかな声で続ける。

 

 

「フラメル夫妻は現在、極めて隠遁的な生活を送っておりますが……ノア様であれば、交渉の余地は十分にございます。魔法界の影響力、知名度、実力──加えて、賢者の石に対する熱意。それらを正しく提示すれば、彼らは無視できないはずです」

「……ふーん」

 

 

 俺は軽く唇を尖らせ、考える。フラメルは確かヴォルデモートに関する動きがあった時点で石を破壊する流れだったし、余生は穏やかに過ごしたいタイプだったはず。死を迎えるためにすぐ死ぬわけじゃないって言ってた気がするから、流石にまだ存命だろう。──俺の名前が通るなら、話は別か。

 俺も別に、長生きしたいわけじゃなくてヴォルデモートとの対戦に備えて、だしな。ヴォルデモートが復活した後とかだったら、わりと聞いてくれるかな。

 いや、まあ……俺が本気出してお願いしたら教えてくれるだろうけど、本気出すってことは服従させるってことだしなぁ……それは手段がなくなった後の最終手段だな。

 

 

「ま、可能性がゼロじゃないなら一応試してもいいかもな。最悪断られても損はないし」

「はい。事前にフラメル夫妻の所在地、及び連絡手段を調査いたします」

 

 

 クィレルは迷いなく答えた。やっぱこいつ、闇の魔法だけじゃなく情報屋としても有能すぎる。

 

 

「頼むわ。それと、石が無理でも──賢者の石の代用品、魔力を回復・増幅できるアイテムや薬、あらゆる可能性をリストアップしといて。いざって時、魔力が尽きたじゃ話にならねーからな」

「畏まりました。全て抜かりなく」

 

 

 静かに頭を下げるクィレル。俺は肩の力を抜いて椅子の肘掛けに肘を預ける。

 

 

「まあ、もうすぐクリスマスだし、クィレルも少しはゆっくりしてていいよ」

「いえ。私にとってノア様のために働く事は何よりもの喜びなんです」

「そうか?……まあ、無理するなよ」

 

 

 クィレルは胸に手を当てたまま、控えめに笑った。

 

 

 

 その後は特に話し込むこともなく、クィレルが用意していた夕食に移った。俺は肘掛け椅子から立ち上がり、食堂の方へ移動する。クィレルはぴったりと後ろを歩き、既に温められた料理がテーブルに並んでいた。

 

 ステーキに温野菜、焼きたてのパンと濃厚なポタージュ、フルーツの盛り合わせ。適度に豪華、でも気取らない、クィレルの気遣いがよく分かるラインナップだった。

 

 

「……豪華だな」

「お口に合えば幸いです」

 

 

 クィレルは静かに一礼したあと、俺の右斜め後ろに控える。俺は特に指示もせず、そのままテーブルについた。特に仕事の残りもなく、気楽に肉にナイフを入れる。

 

 

「……ん、美味しい」

 

 

 独り言を漏らせば、クィレルは穏やかに「ありがとうございます」と頷くだけ。温かい料理が身体を満たしていく感覚は、意外と心地よかった。マネージャーたちとレストランで食うより、こういう気楽な時間も悪くない。

 

 食後には軽めのデザートも用意されていて、俺は甘いものも一通り平らげたあと、椅子から伸びをする。

 

 

「じゃ、そろそろ行くかな」

「かしこまりました。次回のご帰宅まで、屋敷の維持は引き続き行っておきます」

「うん、よろしく」

 

 

 俺は杖を引き寄せ、立ち上がった。クィレルはそのまま玄関まで送り出し、黒いローブの裾を揃えて静かに頭を下げる。

 

 

「どうぞお気をつけて。良きクリスマス休暇を」

「ありがと。じゃ、行ってくる」

 

 

 俺はゆるく手を振り、静かに姿現しした。瞬間、景色がぐにゃりと歪み──次の瞬間、ハッフルパフの寮の談話室に着地した。

 

 静まり返った夜の空気が肌を撫でる。ぱちぱちと暖炉の火が燃える音が響くが、人のいない談話室はいつもよりも冷えていた。

 

 

 

 

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