兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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116 過去の三人

 

 

 

 クリスマスが明けた翌朝、ホグワーツの窓には雪が降り積もり、暖炉の火だけが静かに赤々と揺れていた。

 

 クリスマスにハリーの元に届いた差出人不明のファイアボルトはマクゴナガルが預かり、変な魔法がかかってないか調べることとなった。

 ハリーは前回の試合で愛用していたニンバス2000が粉々になり、かなり凹んでいた。それでクリスマスに差出人不明ながらも世界最高級の箒が手に入り、踊り出したいほど喜んだらしいが──残念ながらファイアボルトが手元にあったのは数時間だった。

 ファイアボルトの件をマクゴナガルに伝えたのはハーマイオニーであり、彼女に対してハリー以上にロンがカンカンになって怒りハーマイオニーが流石に気まずくて図書館で一人篭りっぱなしでも、ハリーとロンは気にも止めなかったとか。

 

 クリスマス休暇中は生徒が少ないから、いつも三人だった彼らが急に二人になればどうしても目立つ。クリスマスの次の日の朝食の時に聞いてみれば怒涛の勢いでファイアボルトのことを話した。

 

 

「逃亡中のシリウス・ブラックが、僕にファイアボルトなんてありえないよね!?」

「誰がお尋ね者に最高級の箒を売るって言うんだ? のこのこ高級クィディッチ用具店に行くわけないのに!」

 

 

 ハリーとロンは怒りが収まらず、ぶつぶつ文句を言いながらソーセージにフォークを突き刺す。

 俺は机に頬杖をつき、糖蜜パイを掬ったスプーンを咥えたまま「うーん」と苦笑する。

 隣の席に座っているシリウスを見れば、項垂れ尻尾が床につきそうだった。

 あのファイアボルトを送ったのは、ハーマイオニーの予想通りシリウスだ。もちろん変な呪いは無く、百パーセント善意でハリーにプレゼントしたのだろう。とはいえ、確かに逃走中に色々やりすぎだ!いつ買いにいったんだろ。全然気付かなかったな。

 

 

「調べ終わったら返してくれるんだろ? ならいいじゃん。一年生の時は箒が呪われて、二年生の時はブラッジャーが呪われてたし。二度あることは三度あるって言うだろ」

「うーん……でもさぁ……」

「俺は、ハーマイオニーと一緒でハリーがクィディッチで怪我する方が嫌だけどな」

「うーん……」

 

 

 俺の言葉にハリーは少しだけ落ち着いたようだったが、ロンは以前怒ったままだった。

 

 その怒りはクリスマス休暇が終わる頃になっても冷めなかった。間違いなく、ファイアボルトが返ってくるまで続くのだろう。──シリウスも、もう少し自分の立場を考えて欲しいな。

 

 

 そう思いながらシリウスの散歩に付き合い、誰もいない廊下を歩いていると、少し先の扉が開いてかなり疲れたような顔をしたリーマスが現れた。髪はボサボサだし顔色は悪い。

 

 

「リーマス先生、大丈夫ですか?」

「ノア……」

 

 

 俺を見ると、リーマスは一瞬だけ表情を固くし、すぐに無理に笑った。

 その笑顔の意味がわからず首を傾げ近づくとと、リーマスは扉の枠に預けていた背を浮かせ、ほんの僅かに後ずさった。

 

 リーマスはぎこちなく笑いながら指先で袖口を弄んでいた。袖口からは、ちらりと真新しい包帯が見えた。その視線はどこか戸惑いを湛えたまま、俺の顔をしばし見つめる。

 

 

「……ノア、君は……本当に、私が怖くないのかい?」

 

 

 リーマスの声は掠れ、妙に怯えていて弱々しい。人狼の自分を知ったうえで、誰かがこうして普通に接してくる現実が、彼には到底信じられないらしい。

 ああ、だからこんな複雑な表情してるのか。戸惑いと、恐れと、期待──かな?

 

 

「んー……二人きりで紅茶、普通に飲めるくらいですかね。今日は二人と一匹ですけど」

 

 

 冗談っぽく言い肩をすくめると、リーマスは驚いたように瞬きをした。目元がわずかに揺れる。

 

 

「……信じがたいよ……そんなふうに言ってくれるなんて……」

 

 

 リーマスは自分の言葉に苦笑をこぼし、短い沈黙の後、思い切ったように口を開いた。

 

 

「実は──君に話しておきたいことがあるんだ、君が嫌じゃなければ……この後、部屋で紅茶でもどうかな?」

 

 

 その声は恐る恐るだったが、どこか救いを求めるような響きがあった。俺は笑い、軽く首を傾げる。

 

 

「いつでも大歓迎ですよ、リーマス先生。美味しい紅茶、お願いします」

 

 

 強張っていたリーマスの顔が和らいだ。肩に乗っていた力が抜け、安堵が混じった微笑みが零れる。片手で扉を押さえ「どうぞ」と誘うその言葉に、俺は軽く「お邪魔しまーす」と言いながら入る。

 シリウスは俺とリーマスを見比べて少し迷っていたが、尻尾を揺らしてそっと部屋の中に入った。

 

 

 

 ソファに腰掛けた俺の隣には、当然のようにシリウスが陣取っている。尻尾を揺らしながら、好奇心いっぱいに部屋を見回していた。

 

 

「紅茶の用意をするね……えっと……」

 

 

 リーマスは落ち着きなく部屋を歩き回っていた。先ほどの戸惑いと緊張がまだ尾を引いているのか、どこかぎこちなくそわそわした様子だった。

 

 

「ありがとうございます。あ、そうだ──クリスマスにファンからチョコレートたくさん貰ったんです。一緒に食べましょう」

 

 

 鞄の中を漁り、呪い検査済みの安全なものだけ選別したチョコレートの箱を取り出す。光沢のある上等な化粧箱、中には宝石みたいに綺麗なチョコがぎっしり詰まっていて、蓋を開けただけでふわりと甘い香りが広がった。

 

 

「すごいね……このチョコに見合う紅茶は……ないかもしれないな」

 

 

 リーマスが苦笑しながら湯を沸かし始める。俺は肩を竦めて笑った。

 

 

「どこの紅茶かより、誰と食べるか、ですよ」

 

 

 悪戯っぽく目を細めると、リーマスは少しだけ肩の力を抜いて、小さく笑った。

 

 

 すぐに紅茶の用意が整い、テーブルに温かな香りが立ち込めた。俺はチョコレートを一粒つまみ、口に入れる。

 うわ! 凄く滑らかだし、濃厚! くどすぎない甘さと、繊細なナッツの香ばしさに口角が上がってしまう。かなり美味しい!

 

 

「先生もどうぞ。美味しいですよ」

 

 

 促せば、リーマスも遠慮がちに一粒選び、口に運ぶ。そして一瞬目を丸くし──次の瞬間、思わず笑みを零した。

 

 

「……これは、すごいな。こんなに美味しいチョコレートは……ちょっと記憶にないかも」

 

 

 心からの声に、俺は満足げに頷いた。ようやく空気が和らいだ気がして、俺はタイミングを見計らって口を開く。

 

 

「──それで、話って?」

 

 

 そう切り出せば、リーマスは手の中のカップを少しだけ持ち上げ、小さく息を吐いて──それから、静かに口を開いた。

 

 

「ノア……本当に……私が──人狼だと知った上で、怖くないのかい?」

 

 

 リーマスはカップをそっとテーブルに戻し、伏せたままの目を揺らした。声は低く静かで、けれどどこか掠れている。

 

 

「もしノアが嫌なら……授業の助手も断っていい。無理をしなくても──」

 

 

──なんでそうなるんだ?

 その言葉に、思わず眉をひそめた。なんでそんなに悲壮的なんだ、と驚いたまま目を瞬かる。……何度も怖くないって言ってるのに、どうしてそこまで信じられないんだろう。

 

──ああ、そうか。

 

 少し考えて、すぐに納得した。今までずっと──嫌というほど、そうやって差別され虐げられ続けたからなんだろうな。何度も拒絶された、そんな悲しい積み重ねが骨の奥まで染み付いてるんだろうな。

 

 

 隣のシリウスは驚いた顔で俺とリーマスの間を行ったり来たり、目を泳がせている。まさか、リーマスが人狼だと知ってると思わなかったんだろう。

 

 

「怖くないので、大丈夫ですよ。本当に」

 

 

 俺はいつも通り笑って、はっきりと言った。安心して欲しいが、リーマスの体はまだ緊張している。

 リーマスはその言葉を信じ切れていないのだろう。少しだけ呼吸が深くなり、視線はわずかに伏せたまま、肩だけが硬さを持っていた。

 

 

「……君は、人狼がどんなものか……知ってるよね?」

 

 

 弱々しい声に、俺はうなずいた。言葉にする必要もないけれど、彼が言いたいのは分かっていた。知識としては当たり前のことだし、 ──知っているからこそ怖くないと言っているのになぁ。

 

 

「満月の夜、理性を失って──無差別に人を襲い……噛めば、その呪いをうつしてしまう。普通の魔法では防げない、抑えられない、治る事がない……恐ろしいものなんだ」

「うん、まあ……知ってますよ。でも、リーマス先生は脱狼薬を飲んでるでしょ? しかも一ヶ月のうち一日だけですよね、人狼なのは」

 

 

 俺はあっさりとそう返した。事実だから、特別視する理由なんてどこにもない。

 リーマスは黙り込んだ。リーマスの指先がさらに強く拳を握りしめ、手の甲の骨が浮き上がるほど、無意識の力が入っているのがわかる。沈黙が落ちた部屋の中で、微かな息の音だけが耳に届いた。

 

 そうなんだよな。知識としてそうでも、今まで誰もそう言ってくれなかったんだろうな。

 

 

──学生時代の、あの三人だけを除いて。

 

 

 静まり返った空気の中で、リーマスの揺れる目に僅かに哀愁と苦しみが宿っている。──もしかしたら、昔のことを思い出しているのかもしれない。彼らも、俺と同じようなことを言ったのかな?

 

 

「先生……俺のこと、信じられないんですか?」

 

 

 静かに問いかけると、リーマスの肩が小さく跳ねた、リーマスは苦しげに目を伏せたまま、小さく──諦めたように笑った。

 

 

「……信じたいよ……」

 

 

 それは、まるで自分自身に言い聞かせるような声音だった。理性と感情がせめぎ合っているのが、声の震えに滲んでいる。

 

 今、目の前にいるのは朗らかで優しいリーマス先生じゃない。──ただ、リーマス・ルーピン、その人だった。

 

 

「じゃあ……次の満月、一緒に過ごしますか?」

「な……」

 

 

 リーマスの目が見開かれ、言葉が途切れる。俺は紅茶のカップを軽く傾け、コップ越しに目を細めて静かに笑った。リーマスは明らかに動揺していて、口を開けたまま声が出てこない。ただ呆然と、俺を見つめ続けていた。  

 

 

「俺……どんな魔法生物でも使役できるんですよ。──ダンブルドア先生から、聞いてないですか? 言葉が通じるなら、不死鳥でも、ユニコーンでも、バジリスクでも、吸魂鬼でも……俺に従います。例外はありません」

 

 

 紅茶をテーブルに戻し、俺はゆったりと足を組み直した。ソファに手を乗せ、そのままリーマスへと身を乗り出す。微笑みは自然と深まり、ちょっと怪しくしてみれば──目の前のリーマスは、喉を鳴らして唾を呑んだ。

 

 

「──人狼は例外かどうか、試してみませんか?」

 

 

 囁くように言えば、リーマスの肩がかすかに跳ねた。確か二日前が満月だったし、変身の余韻がまだ残っているのかもしれない。

 リーマスの目が貪欲に何かを求める獣の色に染まる。その横顔に、初めて人狼らしさが映った。

 

 しん、と静寂が満ちる。

 

 俺はふっと表情を崩し、空気を一変させた。からかうように首を傾け、背もたれに身を預けてリラックスした仕草でチョコレートを一粒口に放り込んだ。

 

 

「……まあ、前向きに検討してくださいよ。俺もね、人狼について色々調べたいんです。変身中の毛や爪って、案外いい魔法薬の素材になりそうだし──採取してみたいし、変身するタイミングも知りたいですし」

 

 

 明るく言えば、リーマスは息を飲み、ゆっくりと眉をひそめた。

 

 

「……なぜ、そんなに……?」

 

 

 その問いには、怯えと疑問が滲んでいた。人狼に興味を示す者など、まずいない。差別の対象にしかならないのが現実だったんだろう。

 

 俺は小さく唇を尖らせて考える。

 リーマスだからっていうのもあるけど、単純に興味があるし。

 

 

「──俺、人狼を完全に治せる薬か、魔法を作りたいんです」

 

 

 その一言に、リーマスは目をぱちぱちと瞬かせ、それから呆れたように口元を緩ませた。馬鹿馬鹿しい、と言いたげな笑み。それでも、その表情の奥にはどこか温かさがにじんでいた。

 

 

 そんな夢物語、叶うわけがない──そう思っているのに、どこか救われたように、その表情は柔らかかった。

 

 

「はは……ありがとう。……ノア、本当に……ありがとう」

 

 

 リーマスは静かに、噛み締めるように言う。 

 泣きそうに見えたのは、俺の気のせいだったのかもしれない。

 

 

「いえ。気にしないでください」

 

 

 俺は軽く笑って紅茶を口に運んだ。向かい合ったまま、心地よい沈黙が流れた。

 

 ふと横を見ると、シリウスが静かに──じっと俺を見つめていた。何かを言いたそうに口を開いたが、すぐに閉じそのまま何も言わず、ただ静かにまばたきを一つした。

 

 

「でも、全員がノアのように人狼に対して好意的ではないんだ。……その、秘密にしてくれるかい?」

 

 

 リーマスは紅茶のカップの持ち手を撫でながら、心配そうに伺う。もちろん言うつもりはなく、すぐに頷けば、リーマスはほっと胸を撫で下ろしていた。

 

 

 その後、落ち着いたリーマスと前々から予定を立てていた実践練習の話をした。

 

 実践練習の開始は休暇明け、次の授業から。使うのは今まで習った魔法だけで、危ない呪文や怪我をさせるような魔法は絶対禁止。試合じゃなくあくまで生徒に見せるための実演だから、勝ち負けも関係ない──リーマスの前で改めて確認し、紅茶の礼を言って解散した。

 

 

 

 シリウスと一緒に、もう少し散歩しようかな。次は中庭でも──そう思った矢先、隣の足音がふいに途切れた。

 

 振り返れば、シリウスは暗がりの中で足を止め、じっと俺を見つめていた。

 

 

『どうした?』

『……さっきの──先生、人狼なんだろ。本当に誰にも言わないのか?』

 

 

「先生」と言ったシリウスの声は、少し誤魔化すようだった。

 今もリーマスは、シリウスにとって変わらず大切な友人なのだろう。だからきっと──俺以上に、シリウスはリーマスを案じている。

 

 リーマスがここで平和に教師を続けられるのなら、それを壊してしまうかもしれない俺を放っておけないのか?

 

 

『言わない。……俺が人の秘密をべらべら喋るような人間に見えるか?』

『……いや、見えない』

『だろ?』

 

 

 シリウスは暗いところで灰青色に染めた目だけを光らせていた。俺の目や言葉に嘘がないかじっと見極めていたシリウスは、ついに一歩踏み出し、光の指す明るい場所へと進み寄る。

 

 

『……人狼は、忌避されて差別されてる』

 

 

そう言ってから、シリウスは一度視線を伏せた。

 

 

『……ノア、君があの先生の支えになれば──と思う』

 

 

 シリウスは言葉を選びつつ、噛み締めるようにそう言った。それは、シリウスの心からの願いなのだろう。──今、自分がリーマスの支えになれないから。

 

 俺はシリウスの頭を撫で、少し笑う。

 

 

『犬なのに、魔法界での人狼の扱いとか知ってるんだな?』

『それは──利口な犬だからだ』

 

 

 胸を張るシリウスに俺は笑い、止まっていた足を再び動かした。

 冬の空気のなか、俺たちの足音がふたつ、並んで響いていた。

 

 

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