兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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117 実戦練習

 

 

 クリスマス休暇が明けた。

 宿題は同じように殆ど白紙だったフレッドとジョージと一緒にセドリックに泣きついてなんとか提出日までに仕上げる事ができた。

 セドリックは「もっとちゃんとしてたらいい点数を狙えるのに」と不服そうに文句を言っていたが、俺たちにとっては期限内に提出できただけで合格であり、再提出にならなければ問題ない。

 

 

 冬の寒さが厳しくなっていく中、ついに闇の魔術に対する防衛術で、戦闘の実践練習をする日がやってきた。前回の授業の終わりの時に言われ、生徒たちはみんな緊張しつつもかなり楽しみにしていたようで、いつもより教室への集まりがいい。

 

 教室の様子も様変わりしていて、机や椅子は片付けられ、広いスペースが作られていた。

 手に持っているのは杖だけで、誰もが友達と話し合いながら授業の開始を心待ちにしている。俺は杖を持ち、軽く振っていた。

 

 

「……セド、テストしてくれ」

 

 

 なんとなく、周りに聞こえないようにいつもより小さな声で囁いた。俺の言葉に、隣のセドリックが顔を上げて、少し驚いたように目を見開き、すぐに小さく笑う。

 

 

「今のところ正解率八割だもんね。……ステューピファイは?」

 

 

 少し呆れたような口調だったけれど、声は優しかった。俺は手の中の杖を持ち直し、そっと構え直す。えーと。ステューピファイ。麻痺呪文だよな。

 

 

「……こう、だっけ」

 

 

 呟いてから、軽く手首を振る。自分でもぎこちないと分かる動きだったが、セドリックはすぐに頷いた。

 

 

「正解。じゃあ次は……デューロ」

 

 

 デューロ、デューロ……。

 ああ、硬化呪文だ。一瞬、振り方思い出せなくて頭真っ白になった。あんまり使ってない呪文は駄目だなー……まあ、俺が使うのって教科書に書いてない魔法が殆どだけど。

 

 気を取り直し、杖を再び軽く振ってみる。

 

 セドリックは何も言わずに頷いて微笑んだ。よかった! 正解だったらしい。

 

 それから、いくつかの呪文をおさらいする。あらかじめリーマスと使うって決めていた魔法ばかりだから、多くはないんだけど。

 詠唱も、振り方も……覚えてる。けど、やっぱり少しだけ緊張する。今までの試験とかでは一切緊張しなかったのになぁ。

 でも、嫌な緊張じゃなくて──ワクワクとした楽しみの中で、胸の奥にふわふわとした違和感が気分を上げていく感じだ。

 

 

 「大丈夫。少し間違えても、きっと誰も気づかないよ」

 

 

 深呼吸してドキドキとうるさい心臓を落ち着かせようとしていたら、セドリックが肘で俺の腕を軽く押しながらそう言った。その目は珍しいものを見た、と言うように興味と愉快さが滲んでいる。確かに緊張なんて今までしたことがない。リドルと対戦する時もそうだった。

 

 

「うん。ありがと」

 

 

 俺の顔が、いつもより強ばっているのに気づいたんだろうな。いや、絶対負けないし、振り方を間違えても魔法は発動するだろうけど。いやー……間違えませんように。

 

 

 

 振り方や呪文の復習をしているとチャイムが鳴る少し前、リーマスが教室に現れた。ハッフルパフ生が全員そろっているのを見て、嬉しそうににっこりと笑う。

 ちょうど開始を告げるベルがなり、リーマスはぐるりと生徒達を見回した。

 

 

「みんな、準備は万端だね」

 

 

 その一言に、生徒たちはぱっと顔を輝かせて頷く。俺たちはリーマスの前で半円を描くように広がっていて、期待とわくわくが空気に満ちていた。

 

 

「今日から、魔法を使った実践練習を始めます。もちろん、これからの人生で必要がないことが一番だ……でも、何が起こるかは誰にも分からない。だから、いざという時のために、今から備えておきましょう」

 

 

 リーマスの声はいつも落ち着いていて、説得力がある。どこか優しくて、それでいて真剣だ。

 

 

「それと──今日は特別に、助手を紹介します。ノア・ゾグラフくんです」

 

 

 そう言って、リーマスは視線と手で俺を呼んだ。俺は一歩前に出て、先生の隣へ堂々と立った。するとすぐに、「ノア様ーっ!」という黄色い声がどこかから飛んだ。

 ……うん、まあ、いつものことだ。軽く手を挙げて返しておくと、キャーっと小さな歓声が上がる。リーマスはそれを止めることはなく、少し苦笑しながらも受け入れている様子だった。

 

 

「ノアは、とても優れた魔法使いです。今日は彼が私の補佐を務めてくれます。よろしくね、ノア」

「よろしくお願いします」

 

 

 そう言って、俺は先生の差し出した手を握る。怪我の跡が残る引き攣れてカサついた大きな手。それでも、手は暖かかった。

 

 

「本来、魔法使い同士の決闘には形式的な礼儀作法があるけれど、まあ──現実の戦闘でそんなことをしている暇はないからね」

 

 

 そう言ってリーマスは杖を手にしながら後ろへ数歩下がる。俺も自然と距離をとり、教室の中央──ちょうど丸く空いたスペースで向かい合った。まわりの生徒たちも気づいて後ろに下がり、俺たちの間に静寂が落ちる。

 

 ちょっと緊張している。でも、それ以上に、楽しみだ。これだけ人の前で魔法を撃つのは、よく考えたら初めてだな。

 リーマスもどこか楽しげに目を細め、口角をわずかに上げている。やっぱりこの人、戦うのが嫌いじゃないんだな、と思う。

 

 そして──

 

 

「それでは、始めよう」

 

 

 リーマスが杖を上げた。俺も、同時に杖を構える。教室の空気が、ぴんと張りつめる。

 

 

「インカーセラス!」

 

 

 リーマスの杖先から勢いよくロープが飛び出したのを見て、俺はすぐに身構える。

 

 

「ディセンド!」

 

 

 降下魔法で俺を捕縛しようと飛んできたロープを叩き落とす。そのまま続けざまに飛んできたのは──。

 

 

「ペトリフィカス・トタルス!」

 

 

 全身を硬直させる石化呪文だった。

 すかさず俺は杖を振り上げ、「プロテゴ!」と言う。しっかりと振り方も間違えなかっただろう、そのおかげでいつもより強固な魔法の盾が俺の前に広がる。呪文を受け止めた瞬間、間髪入れずに杖を振り直した。

 

 

「──ステューピファイ!」

 

 

 麻痺呪文を正面から撃つ。リーマスは慌てることなく──むしろ少し楽しそうにしながら杖を横に振った。

 

 

「アクシオ!」

 

 

 リーマスが叫ぶと、教室の隅にあった木の椅子が音を立てて手元に引き寄せられ──そのまま俺の呪文を受け止めた。

 

 

「うわっ、あんな使い方あるんだ」

 

 

 思わず口にしてしまった。盾代わりに椅子を引っ張る、なるほど。魔法って基本一直線にしか進まないし、何かで弾いたりするのはありだな。

 思わず感心していたら、その一瞬の油断をリーマスが見逃すはずがなかった。

 

 

「グリセオ!」

「──っ!」

 

 

 足元が急に滑る。

 

 

「っと……!」

 

 

 床を踏みしめようとした瞬間、体がつるりと横に流れ、思いっきりバランスを崩す。教室の隅から悲鳴まじりの声が上がった。視界の端にリーマスの勝利を確信した表情が見えた。

 

──だけど、ここで終わるつもりはない!

 

 

「ヴォラーテ・アセンデリ!」

 

 

 俺は自分に魔法をかけ、宙に舞い上がる。床から一気に浮かび、そのまま天井に足をつけた。一瞬の浮遊感。全員が驚いて上を見上げ──俺を見上げるリーマスに、落下しながら杖を振り下ろした。

 

 

「インセンディオ!」

 

 

 炎の帯が杖先からほとばしる。リーマスは息を呑むと今まで見せていた笑顔を消し、すぐさま無言で水を出して、勢いよく火を打ち消した。

 

 俺とリーマスの間で炎と水がぶつかり、白い水蒸気が上がる。教室の湿度が一気に上がり、むわっとした空気に包まれた。

 

 

 俺は自身に浮遊魔法をかけ音もなく床に着地し、杖をリーマスに向けたままにやっと笑った。ちょっと勝ち誇ったような、悪戯が成功したときのような笑みを浮かべて。

 

 

「無言魔法は無しですよね?」

 

 

 ちょっと意地悪く言ってみると、リーマスははっとした顔になって、そして笑った。

 

 

「ああ、そうだった!──でもノア、インセンディオも禁止だったよ?」

「あ」

 

 

 リーマスがぱちん、とウインクをした。

 忘れてた!そうだ。ついうっかりしてたけど怪我させる可能性のある魔法は禁止だったんだ。肩をすくめて、俺はばつの悪そうな笑顔を浮かべれば、リーマスはくすりと笑い、固唾を飲んで見守っていた生徒達の方を見た。

 

 

「──ここまで!実践演習は終了です」

 

 

 リーマスが声を張る。

 俺は杖を下ろし、ふうと息を吐き、ちょっとだけ髪をかき上げた。

 

 

「ノア、すばらしい魔法だったよ。ハッフルパフに十点加点しよう」

 

 

 そう言ってもらえて嬉しくて、俺は軽く頭を下げる。教室内がざわっと沸き、拍手が巻き起こる。

 

「ノア様ー!」「かっこよかったー!」「すごすぎ……!」という黄色い声と、ため息まじりの賞賛が一斉に飛ぶ。俺はいつものように軽く手を挙げて応じた。

 

 みんなは俺がどんな魔法も失敗することなく一度で成功させるとは知っている。だけど、実践形式で戦闘までできるとは思っていなかったのだろう。俺を褒め称える目には尊敬やら興奮が滲んでいて、俺が『世界一美しい魔法使い』 なだけでなく、『世界一の魔法を使える魔法使い』だと知れ渡る日も近いのかもしれない。

 

 

 

 模範演習が終わると、教室の空気は一気に熱を帯びた。

 

 リーマスが杖を振って、黒板にいくつか呪文の名前を浮かび上がらせる。実践練習で使用して良い魔法は麻痺魔法、くすぐり魔法、滑り魔法、盾の魔法、武装解除──つまり、怪我をさせる心配がないものだけだった。

 

 

「これらの魔法だけ使って、今日は二人一組で実践練習をしてもらうよ」

 

 

 リーマスの声に、教室内がざわめきはじめる。興奮したまま楽しそうに誰と組もうかな、という声が、あちこちで上がっていた。俺はいつものようにセドリックを見る。セドリックはすぐに頷き「ノア、一緒にやろっか」と柔らかく言った。

 

 

「お手柔らかにね」

「こてんぱんにしてやるよ」

 

 

 俺はにっこりと笑って、ちょっと悪戯っぽく言い返す。するとセドリックは「やっぱり」と笑って肩をすくめた。 

 

 

 

 

 授業が終わりに近づいても、教室の空気はまだ熱を帯びていた。

 

 あちこちで呪文が飛び交って、火花や光が弾ける音がする。さっきまでの模範演習の名残か、みんなの動きがちょっとだけ堂々としているのが面白い。初めての実戦形式の授業にしては、ずいぶんサマになってる気がする。

 

 

 リーマスはというと、生徒のあいだをのんびりと歩きながら、それぞれに声をかけていた。姿勢を直したり、杖の握り方を見てあげたり、危なっかしい生徒に対しては、きちんと的確な注意をしていた。

 

 

 しばらくして「パン!」と爆竹が破裂したような音が響く。みんなが手を止めそちらの方を見た。音を出したのはリーマスで、みんながどうしたのかとリーマスに注目した。

 

 

「はい、杖をおろして!」

 

 

 気がつけば授業終了間近だった。

 そんなにも時間が経っていたなんて思わず、あちこちで驚きともっとやりたいという残念そうな声があがる。リーマスの授業は面白くていつもみんな集中してるけど、今回はいつもより充実していたな。

 

 教室の中でばらばらに散っていた生徒たちがリーマスの元へ集まる。リーマスは俺たちを見回したながら満面の笑みを見せた。

 

 

「よく頑張ったね、みんな!今日が初めてとは思えないくらい、素晴らしい出来だった」

 

 

 褒められて、みんなが嬉しそうに顔を見合わせる。元々生徒からの人気が高いリーマスだったけど、生徒のやる気を引き出すのがとてもうまいし、より人気になりそうだ。

 

 生徒達のざわつきが収まった後、リーマスは一拍おいて、少し真面目な声で続ける。

 

 

「さて──今回の実践練習を通して、自分の反省点や改善点を振り返ってみよう。次回の授業までに、簡単でいいからレポートを提出してほしい。自分の魔法と向き合ういい機会になるはずだからね」

 

 

 リーマスがそう言った時、終業を告げるベルがなった。

 次の授業に向かう生徒達はみんな、今日の授業の面白さを口々に話し合い、興奮の熱が冷めないままに少し寒い廊下へと出ていく。

 その寒さが、この熱を冷やすにはちょうど良いかもしれない。

 

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