兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
一月はあっという間に過ぎ、二月になった。二月ともなれば俺たち五年生はOWL試験を六月に控えていて、流石にそろそろ勉強をしなければまずい雰囲気が流れている。この試験は来年からの授業や将来の就職先に関係しているため、神経質な生徒は必死な顔で夜遅くまで勉強していた。
元々成績優秀なセドリックは、予習と復習だけで今まで以上に自主勉強の時間を増やしてはいない。コツコツ積み上げてきた実力があるから、今さら焦る必要もないって感じなんだろうな。
大広間や談話室で同級生に囲まれ、勉強を教えているのを最近よく見る。俺もたまに加わったり、めんどくさくて途中で抜けたり。まあ、気分次第ってやつだ。
フレッドとジョージも同じで、それほど真剣に考えていない。──とはいえそれは少数派のようだが。
二月の風がまだ冷たかったある日、俺は例によってホグワーツの廊下をぶらぶらしていた。建前は「シリウスの散歩が長引いてるから探しに行く」で、ほんとのところは──セドリックが張り切ってる勉強会から逃げ出してきただけだ。
途中、中庭に差しかかるところで、箒を抱えたハリーとばったり出くわした。ハリーは俺を見た瞬間パッと顔が明るくなって、手を振りながら駆け寄ってきた。
「ノア! ファイアボルト、返してもらえたよ! 何も問題なかったって!」
「良かったなぁ、性能はどうだった?」
そう聞き返すと、ハリーは目をきらきらと輝かせながら、興奮して頬まで赤くしてうんうん頷いた。
「もう、最高だよ! イメージ通りに動くし、とっても速いし! 誰がくれたのか結局わからなかったけど……本当に嬉しい!」
ハリーはファイアボルトの滑らかな柄を強く握り、心から嬉しそうに笑った。
「じゃあ、ハーマイオニーと仲直りできたのか?」
しかし、そう聞いた瞬間、ハリーの顔がすっと曇った。
「あ……それがさ……」
ハリーは困ったような顔で眉を寄せたまま、ぽつぽつ話し出した。
「実は……スキャバーズ──ロンのネズミなんだけど。ずっとハーマイオニーの猫に追いかけられてて、少し前に……その、食べられちゃったみたいで。ロン、すっごく怒ってて……ハーマイオニーは『証拠はない』って言い張るし。……もう、僕、二人は仲直りできない気がするんだ」
あー、……なるほど。原作通りだ。
確かに、三年目の今ごろって、二人ともバチバチだったっけ。学年も寮も違うからあんまり顔合わせる機会もないけど──そういえば、ハーマイオニー、一人でいることが多かった気がするな。ちょっと気にはなってたけど、やっぱりそういうことか。
シリウスがここにいる事で、スキャバーズ──ピーターの動きが気になっていたけど、原作通り進んで良かった。何気に、シリウスとスキャバーズがばったりあった事は無いんだよな。ロンはスキャバーズを寮から出さないし。シリウスはグリフィンドール寮には入れないし。
「……仲直りできたらいいな」
俺がハリーの背中を軽く叩いたことで、ハリーはほんの少しだけ笑顔を取り戻した。けれど、沈んだ空気はまだ残っていた。ハリーも本当は仲良くしたいし、ハーマイオニーを気にかけているのかもしれない。だが、ロンの手前ハーマイオニーに声をかけることができないんだろう。
──が、次の瞬間、ハリーはぱっと顔を上げて、何か思い出したように明るい声を出した。
「そういえば!」
その勢いのまま、肩にかけていた箒をくるっと回し、右手で軽く支えながら、左手を俺の胸元に伸ばしてくる。そして俺のネクタイを軽く掴んだ。
「今回はノアのネクタイ。僕にくれるよね?」
その言い草があまりに当然すぎて、一瞬だけ反応に困った。目をしばたいてハリーを見返す。
──ああ、そういえばそんなこと言ってたっけ。
ドラコがクィディッチの初試合に出る時、俺が「ドラコを応援する証拠に」とか言って自分のネクタイとドラコのネクタイを交換したのだ。あれを見てたハリーは、露骨に羨ましがってたし、前の試合の時もネクタイ欲しいって言ってたっけ。
ま、ネクタイくらいいいか。ハッフルパフ相手の試合じゃ無いしな。
「ああ……試合の前に渡すよ」
俺がそう言った途端、ハリーの顔がぱあっと明るくなった。
「やった! 絶対だよ!」
満面の笑みでそう叫び、本当に嬉しそうに頬を紅潮させる。まるでファイアボルトを受け取った時より嬉しそうにすら見えるから、ちょっと複雑だった。
その後、ハリーは「またね!」と大声で手を振りながら、鼻歌まじりで中庭を駆けていった。俺の方を何度も振り返りつつ、手をぶんぶん振って──その姿はまるで、誕生日に欲しい物を全部手に入れた子どもみたいだった。
……いや、まあ。実際そうなのかもしれないな。最高級の箒と俺のネクタイ、二つも揃ってりゃ、そりゃ最高の試合になるだろう。
そして数日後、グリフィンドール対レイブンクローの試合の日がやってきた。俺のチームと試合をした時とは異なり、天気は快晴で申し分ない。
セドリックと朝食をとっていたら、ハリーが意気揚々と俺の隣に座り、「ネクタイ、交換だよね?」と「おはよう」の挨拶の前に言ってきた。
それにはセドリックも俺もちらりと視線を交わして苦笑いするしかなかった。
ハリーはすぐに自分のネクタイを外し、俺に差し出して期待のこもった目で俺を見る。
「ハリー、今日は君だけを応援するからな」
ハリーのネクタイ──真紅のグリフィンドールのネクタイを結びながら、くしゃりと頭を撫でた。
ハリーはくすぐったそうに、それでいて嬉しそうにはにかみ「うん! ありがとう!」と言うと、じっと俺と首元を彩るネクタイを見つめた。
「ノアがグリフィンドールだったらなぁ……」
その小さな呟きは、叶えられないとわかっていても憧れずにはいられなかったようだ。セドリックが紅茶を飲みながら「ノアはハッフルパフカラーが一番似合うよ」と横から言えば、ハリーはムッとしたように唇を尖らせた。
「ほら、チームメンバーと打ち合わせとかあるだろ? 行ってこい。他の奴らにファイアボルトを自慢してこい」
「うん、行ってくるね!」
ハリーは受け取った俺のネクタイを、なんとファイアボルトの柄に蝶々結びに巻きつけていた。……流石に試合中は取るだろうけど。かなり目立っている。
「……ファイアボルトか。来年戦うのが怖いね」
セドリックがぽつりと呟く。
今年、もうハッフルパフは優勝する事は難しい。この試合でグリフィンドールが大差で負けて、その次のレイブンクロー対スリザリンの試合でレイブンクローがまた大差で負ければまだ可能性はあるけど。
それよりも来年に向けて練習をするべきだ、とセドリックは考えているのだろう。その上で、最高峰の箒を持つハリーは間違いなく脅威的だ。
「セドもファイアボルト、買ったら?」
「……うーん……買えるんだけどね。ノアとの写真の売上で」
セドリックはぽつり、と言いながら紅茶を一口飲む。俺のオフショット写真集に載せる写真。それにはセドリックやフレッドとジョージがよく写っている。無断使用ではなく保護者と契約した上で出演料として、少なくない金額が入っているはずだ。
「でも、今の箒使いやすいし、不満はないんだよね。……ファイアボルトは性能が良過ぎて、僕に使いこなせるかわからないし。ハリーみたいな才能があれば別だけどね」
セドリックはそう言いながら、少しだけ目を伏せた。珍しい。セドリックが自信を揺らがせる顔をするなんて。
まあ、客観的に見ると飛行技術はハリーの方が上だ。──というか、シーカーは小柄の方が速度が箒に乗りやすいし、小回りがきく。それに比べてセドリックは高身長な方だ、風の抵抗も受けるし、曲がる時もどうしても大回りになってしまう。
才能がないわけじゃない。セドリックも努力はしているんだけどな。シーカーだけが優秀でも勝てないし、ハッフルパフチームはチーム全体がちょっと勝利への執着が弱めだからな。
「セドは、指導者向きだからな」
「……、……ありがとう、ノア」
俺の言葉に、セドリックは一瞬だけ目を伏せて──それから、ふっと笑った。らしくない沈黙も、その一瞬でほどけた。
グリフィンドール対レイブンクローの試合は、やはり最高級の性能を持つファイアボルトがかなり目立っていた。抜群に速くて小回りも効いて、観客は大歓声を上げるしレイブンクローの選手達はその動きに圧倒されていた。
試合をコントロールしていたのはグリフィンドールで、先にスニッチを掴んだのはハリーだった。大声援を受けたまま、ハリーが満面の笑みで捕まえたスニッチを掲げていた。
試合中、スリザリン生の何人かが吸魂鬼のコスプレで現れ、ハリーを妨害しようとした──が、うまくいかなかった。逃げ出そうとした彼らは、怒り心頭のマクゴナガルに盛大に叱り飛ばされていた。
その中にドラコは居なかった。ただ、スリザリン生の浅ましい行動を苦い顔をして見つめていたが、その心境は複雑そうだった。──次にあの最高級の箒とテクニックを持つハリーとの試合を控え、複雑なんだろう。
ハッフルパフ寮でも、夜の談話室はファイアボルトの話題で持ちきりだった。グリフィンドールが勝ったことでハッフルパフの優勝はもうなくなったけど、それを誰も責めたりはしない。むしろ、ハリーのプレーを賞賛する声のほうが大きかった。
……まあ、ハッフルパフって、勝ち負けより「楽しかったね、すごかったね」って笑えるあたりが、いいとこだと思う。
談話室の賑わいも次第に落ち着き、俺たちはそれぞれのベッドに戻った。
俺は軽くシャワーを浴びて、魔法で髪を乾かし、ベッドに潜り込む。部屋の中は静かで、カーテン越しにセドリックの寝息が聞こえる。
窓の外では雪がちらついていた。きっと、グリフィンドールは、今夜は勝利の余韻に包まれて眠ってるんだろう。
──いや、少なくとも、そんな夜だったはずなんだけど。
翌朝。
いつも通り大広間に行くと、朝食がすでに始まっていた。
テーブルの上には焼きたてのトースト、かりかりのベーコン、温かいミートパイに、湯気を立てる紅茶ポット。──見た目は、いつもと変わらない。
でも、なんとなく空気がざわついていた。耳を澄ませるまでもなく、どこかのテーブルで囁く声や小さな驚愕の声が聞こえる。
俺とセドリックは顔を見合わせ、何かあったのかと首を傾げつつ、周りを見た。
──その時、ダンブルドアが立ち上がった。
椅子を引く音が大広間に嫌に響く。
騒がしかった大広間が、瞬く間に静まり返る。フォークの音も、誰かの囁き声も、ぱたりと止んだ。
その沈黙の中、ダンブルドアの声が穏やかに響いた。
「おはようございます、皆さん。……今朝は、ひとつ重大なお知らせがあります」
視線が、一斉にダンブルドアに向けられる。俺も、隣のセドリックも、手を止めて聞いた。
「昨夜遅く──グリフィンドール寮に、シリウス・ブラックが侵入しました。そして、また辛くも逃げ遂せました」
その瞬間、大広間は凍りついたように静まり返り──次の刹那、騒然となった。「なんだって!?」「グリフィンドールに!?」「無事なの!?」と、数百の目がグリフィンドールに向く。どよめきとざわめきがあちこちで起こり、何人かは悲鳴を上げて騒ぎ出した。
ロンとハリーの姿が一瞬視界に入ったが、遠くて表情までは見えなかった。
ダンブルドアは生徒たちを手振りで制しながら、落ち着いた声で続けた。
「幸いなことに、けが人はいません。城中を捜索しましたが、シリウス・ブラックは城内にはいない、という結論になりました。──諸君には、どうか不用意な外出を控え、門限を厳守くださいますよう、お願い申し上げますぞ」
声は静かだったが、空気を貫くような力があった。
教師たち──セブルス、マクゴナガル、フリットウィックも席についていたが、誰一人として冗談のような顔をしていない。
ダンブルドアは真面目な顔を少し和らげると「話は、以上じゃ。──ほれ、食べなさい」と促した。誰もがグリフィンドールの方をちらちらと気にしながら進まない朝食を食べる。
グリフィンドールの中で注目を浴びているのはハリーではなく、ロンだった。
生徒達のヒソヒソ話が広がり、「どうやら襲われたのはロン・ウィーズリーっていう子らしい」「ネビルって子が合言葉を書いた紙を落としたんだって」との声がここまで聞こえてきた。
「ロンが襲われたんだって? そんな、まさか……どうして?」
セドリックは不安そうにしながら呟く。グリフィンドール生に囲まれたロンは不自然なほど元気そうで、むしろ注目を浴びているのに慣れないのかかなり興奮しているようだった。
昨夜の時点では、シリウスは俺の部屋にいた。だからきっと──こっそり夜中に抜け出したんだろう。グリフィンドール寮の前で、ハロウィンの日からずっと機会を伺っていたに違いない。それがたまたま昨日だったんだろうな。
ホグワーツは、以降さらに厳戒態勢に入った。フリットウィックが入り口の扉にシリウス・ブラックの大きな写真を貼り、生徒達に警戒を促し人相を覚えこませようとしていた。それは数ヶ月前の写真の焼き回しなのか、アズカバンで何年も過ごしたシリウスの痩せた頬と落ち窪んだ眼窩、さらに汚れがついた髪を振り乱し、下級生は怯えた目でそれを見ていた。
グリフィンドール寮の代理の入り口を担っていたカドガン卿はクビになり、代わりにトロールが護衛をするという条件で太ったレディが復帰した。
さらに、ロンは自分がこれほど注目を受けるのは初めてで、当時はショックを受けていたようだったが時間が経った今ではかなり楽しんでいるらしく。嬉々として当時のことを話していた。
もちろん、俺にも「あ!ノア、聞いてよ!」と自分から身振り手振りで教えてくれた。
「……僕が寝てたら、ビリビリッて何かを引き裂く音がして、僕、夢だろうって思ったんだ。だってそうだよね? だけど、隙間風がさーっときて……僕、眼が覚めた。ベッドのカーテンの片側が引きちぎられてて……僕、寝返りを打ったんだ……そしたら、ブラックが僕の上に覆いかぶさるように立ってたんだ。……髪が長くて、顔は見えなかったけど目が隙間からギラギラしてた。それで、こーんなに長いナイフを持ってた。刃渡り三十センチぐらいはあったな……それで、あいつは僕を見た。僕もあいつを見た。そして僕が叫んで、あいつは逃げていったんだ」
「本当、無事で良かったね」
セドリックはロンの話を聞きながら心配そうに言う。ロンも自分がなぜ殺されなかったのかわからない、と不思議そうな顔をしていた。
しばらくの間、再びホグワーツでシリウス・ブラックの事が話題に上がった。
先生達は城には居ない、と言っていたが、ならばどこにいるのか──ホグワーツを囲むように鬱蒼としている禁じられた森の中に潜んでいるのか。それとも、ホグズミード村の僻地にいるのか。吸魂鬼を出し抜く闇の魔法でも使っているのか、とか──様々な噂が囁かれていた。
二度も侵入を許したとなれば、流石に次のホグズミード村行きはないか──と思われたが、来週末に再び開催されるらしい。
ハッフルパフ寮の掲示板に張り出された新しい掲示を見ながら、俺は少し意外に思った。
まあ、確かにハリーは表向きホグズミード村には行く事ができないし。他の生徒の楽しみを奪うことはしたくないのかな。
「ノア、今回も行くよね?」
「うーん……いい暇つぶしにはなるからな。勉強したくないし」
「勉強はしなきゃダメだよ」
セドリックの当然、というような言葉を聞きながら、俺は肩をすくめた。
「じゃあ、ホグズミードに行く前に、勉強会だね。図書館行こう」
セドリックがそう言って俺の肩を軽く叩いたので、俺は渋々うなずく。まあ、まだ終わってない宿題があるし仕方ないな。
図書館に入ると、午後の光が窓越しに差し込んでいた。静かで、少しだけ埃っぽい空気。そんな中で、一人で本で小高い山を作りながら机に向かってるハーマイオニーの姿が目に入った。
セドリックも、いつもの三人組が二人になっている事は気付いている。詳しい理由は知らないだろうが、ホグワーツで噂話はファイアボルトのように早く駆け回るため、なんとなく理由を察してはいるはずだ。
俺とセドリックがそっと近づく。ハーマイオニーは呪文学と薬草学の教科書を開いたまま、何冊もの参考書と戦っていた。その中には魔法動物の裁判記録の分厚い本まで混じってる。ページをめくる手がやけに遅い。
「……ハーマイオニー、大丈夫か?」
俺が声をかけて向かいの席に座ると、ハーマイオニーは驚いて顔を上げた。その顔色は思ってたよりずっと悪かった。目の下には隈があり、頬は痩せこけ、髪はいつもに増してボサボサだ。
「ノアさん……大丈夫です」
ハーマイオニーはそう言って、無理に笑う。隣に座ったセドリックも、さすがに心配そうな顔をした。
「……顔、疲れてるぞ」
俺がまっすぐ見て言うと、ハーマイオニーは慌てたように手近にあった本を立てて、顔を隠す。
「大丈夫です。本当に、大丈夫ですから」
その言葉は不自然なほどに硬く、それ以上の詮索を拒んでいた。
セドリックと視線が合い、お互い「これは大丈夫じゃないやつだな」と無言で伝え合う。まあ、無理に詮索しても仕方ない。でも──なんか、放っとくのも違う気がする。
セドリックは鞄をゴソゴソ探って、小さな包みを取り出した。
「はい、これ。僕、勉強に疲れた時によく食べるんだ。チョコとキャンディ、ミント入り」
そう言って、優しく笑って差し出す。
「あ……ありがとうございます」
ハーマイオニーは少し目を見開いて、ほっとしたように微笑んだ。でも、声に力がない。
「じゃあ、俺からはこれ」
俺は鞄から小さな瓶を取り出して、ハーマイオニーの前に置く。透明な瓶の中には淡い水色の液体がゆらゆら揺れていた。
ハーマイオニーは不思議そうに首を傾げていた。
「疲労回復薬。俺が調合したやつ。今日の夜、寝る前に飲めば──まあまあ、スッキリするはず」
ハーマイオニーは一瞬戸惑った顔をしてから、小さく「ありがとうございます」と頭を下げた。目元にはまだ陰りが残ってたけど、それでも、ほんの少しだけ安心したように見えた。
ハーマイオニーが自分から助けを求めることは、きっとあまりない。プライドの高さと、自分が間違ったことをしていないと言う自信があるからだ。──だからこそ、拗れがちなんだよなぁ。ハリーとロン以外にハーマイオニーを支えてくれる奴がいたらいいけど。仲を保ってくれるやつ。……ドラコは、ハーマイオニーとそんなに打ち解けてないしなぁ。
そう考えていた時だった。
ぽたり、と机の上に何かが落ちた。視線を向けると、それはハーマイオニーの涙だった。
「……っ」
彼女は慌てて手の甲で頬を拭い、口を開いた。
「こ、これは──その……違っ──」
言い訳のように口走るけれど、言葉より早く、涙がぼろぼろこぼれてくる。いくら拭っても、止まらなかった。
俺とセドリックは少し戸惑って、ただじっとハーマイオニーを見つめる。ハーマイオニーの声や涙に気づいた周囲の生徒が、ちらちらとこっちを見始めていた。……女の子が泣いている時ってどう慰めたらいいんだ?
視線の刺すようなざわめきに、ハーマイオニーの肩が小さくすくむ。ひっく、としゃくりあげる声も止めようと口を押さえていたが、感情の堤防はもう壊れてしまったみたいで、涙はひたすら溢れつづけていた。
「……はい」
セドリックがそっとポケットからハンカチを差し出した。ハーマイオニーの前に置くのではなく、ごく自然な手つきで、でもそっと──差し出す。優しい手つきだった。
──モテる男はやっぱり違うな。スマートだ。
俺も黙って杖を取り出して、軽く一振りする。
その瞬間、近くの席で勉強していた生徒たちが一斉に「……あ」とか「そうだ」とか呟きながら、まるで急に何か思い出したかのように立ち上がって、ぞろぞろと別の席へ移っていった。
「人避けの魔法。──軽めのやつな」
泣き続けるハーマイオニーに悪戯っぽく言う。ハーマイオニーは眉を下げ、涙をぼろぼろと流しながら小さく頷く。
静かになった空間で、ハーマイオニーの鼻をすすり、しゃくりあげる音だけが響く。
どうしたら泣き止ませられるかな。……ハリーはこの前、俺の胸で泣き止んだっけ。
「ほら、ハーマイオニー。今なら──ホグワーツ一のイケメンと、世界一のイケメンの胸で泣けるぜ?」
冗談まじりに言って、手を広げてみせる。
ハーマイオニーは、一瞬ぽかんとした顔で俺を見て──それから、泣き笑いの顔になった。
飛び込んでくることは、さすがに無かった。だけど、ハーマイオニーはハンカチを握りしめ目に当て、震える口先を少しだけ笑みの形にしながら「ありがとうございます」と囁いた。