兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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122 ノア・ゾグラフは誰でも惹きつけることができた

 

 

 それは偶然を装った、計画的な連続だった。

 発端は彼らだったのか、それとも──ノアだったのか。

 

 

 ノア・ゾグラフは、誰よりも目立ち、誰よりも『遠い』存在であることを自覚していた。──だが、それを知られぬまま近づかせる術もまた、彼はよく心得ていた。

 

 

 校内のすれ違いざま、休憩中のふとした時間、誰にも気づかれぬよう、彼は静かにスリザリンの生徒たちに声をかけていった。

 

 ノアはまず、ドラコ・マルフォイの周囲にいた純血の子どもたちに目を向けた。ノット、パーキンソン、クラッブ、ゴイル、フリント──そして、まだ話したことのない他の者たちにも。一人ひとりと、丁寧に、距離を測るように近づいていった。

 話すのは、魔法の話題や授業の感想、時には──どうやって把握したのか──彼ら一人ひとりが好きな話題だった。ノアはけっして急がなかった。沈黙を埋めるでもなく、相手の言葉を待ち、時折小さく笑いながら、自然に空気を和らげていく。

 

 誰もが夢心地でノアとの距離を埋めていく。

 

 

 あれほど焦がれていた、手の届かない存在だったノア・ゾグラフが! こんなにもそばで微笑み、気軽に肩を叩き、名を呼んでくれるなんて!

 

 

 そして、十分に対話の形が整った頃合いで、彼は問いを落とした。

 

 

「なあ、セオドール。……純血とマグル生まれについて、セオドールの考えを聞かせてくれないか?」

 

 

 その問いは不意打ちのようでいて、不思議と警戒心を刺激しない。すでに何度も交わした会話のなかで、ノアはマグル生まれにして『問いを許される関係』を築いていた。

 

 ノットは目を伏せ、ぽつりと呟いた。

 

 

「……純血主義。今までそれを疑いませんでした。僕たちこそが、魔法族の中で最も優れていて、マグル生まれは……劣っているのだと。……でも──」

 

 

 ノアはただ、軽く頷いた。驚かず、咎めず、救わず。ただ苦しそうな彼らの発言を、『理解している』という態度を崩さない。

 

 

***

 

 パーキンソンには、彼女の耳を彩る青灰色のピアスに指先で触れながら問いかけた。

 

 

「パンジー。俺と、君は遠い存在なのかな?」

 

 

 顔を真っ赤に染め、体を硬直させたパンジーは自身の耳たぶに意識を集中させながら答えた。

 

 

「わ、私は、ノア様に惹かれてから、ずっとごまかして、きました。──ノア様だけが、別だから、って。……で、でも……本当は、気付いていたんです。気付かないふりをしていただけで……」

 

 

 自問のようなその言葉に、ノアは微笑んだだけだった。

 

 

 

***

 

 

 クラッブとゴイルには、ややくだけた口調で話しかけた。ノアの声や高さは、相手によって温度と質を変える。その巧妙さは、無自覚な計算にも似ていて二人は当然、気付かない。

 

 

「なあ、ビンセント、グレゴリー。マグル生まれは仲間になれないか?」

 

 

 ノアからもらったドーナツを食べながら二人はうーんと首を傾げた。

 

 

「僕たち、純血って言われてるけど、難しいことわかんないし……」

「でも、魔法って、誰が使ってもすげぇって思う」

 

 

 頷きあう二人を見て、ノアは笑って新しいクッキーをカバンの中から出した。

 

 

***

 

 フリントには、そっと視線を向けたまま、二人きりの更衣室で、彼の隣に置かれていた古びたクィディッチ用のグローブに指先を伸ばし、ゆっくりと指先で撫でるように触れながら。

 

 

「マーカスさん、俺たちと……あなたたちは、敵同士のままで終わる運命ですか?」

 

 

 その問いは、冗談にもならず、責めるようでもなく、ただ静かに、穏やかに空気に溶けた。

 

 フリントは一瞬だけ息を詰めた。

 ノアの指先が触れたグローブに視線を落とし、拳を強く握る。しばらくの沈黙のあと、ゆっくりと唇を開いた。

 

 

「……違う。俺はもう間違わない。それに気づけた……いや、気付かせてくれたのは、ノア、お前だ」

 

 

 その言葉に、ノアは何も言わず、そっと手をグローブから離し、微笑をひとつだけ零した。

 優しく、どこか物悲しく、それでいて何かを許すような、笑みで。それを見てフリントはようやく去年の過ちを受け入れることができた。

 

 

 

***

 

 彼らと話し合ったノアは、しばらく言葉を返さなかった。彼はあくまで静かに耳を傾け、微笑を保つ。すぐに言葉を与えず、『余韻』を残すことの効果を知っている者の間の取り方だった。

 

 そして、目を細め頬を染めて、低く、甘い声で囁く。

 

 

「……俺たちを受け入れてくれて、ありがとう」

 

 

 その言葉は、どこか魔法のようだった。

 

 彼の言葉に、相手は自分の意見が認められたように錯覚し、安堵と少しの誇りを得る。

 彼は今まで秘めていた思いに名前を与え、それが相手自身の気づきだったかのように差し出す。彼の魅力は、見た目の華やかさや魔法の腕だけではない。──感情の支配の仕方を、彼は理解していた。

 

 

 ──その日、誰も「ノアだけは特別だ」とは言わなかった。

 

 不思議なことに、彼らの中から自然に湧き上がったのは、『マグル生まれも、同じ魔法使いである』という、ごく当たり前の認識だった。

 

 

 自分こそが、ノアの悲しみを汲み取り、掬い上げ、支えた。──そう、彼らは感じていただろう。自分だけが、ノアの繊細な心に、あるいは今まで隠していた悲しみに触れたのだと。

 

 

 

 ノア・ゾグラフ。

 彼はやろうと思えば、誰にだって魅力的な存在になれた。必要になれば、いつでも誰でも惹きつける事ができた。

 彼らの味方にも、偶像にも、時には導き手にも。

 

──その姿は、誰かを思い出させる。

 己を『特別』に見せながら、『同じ側』と錯覚させる、それは、ある若き闇の王の、遥か昔の記憶のようだった。

 

 

 しかし、ノアが求めていたのは、孤高の王座でも、誰かの服従でも、盲目的な狂信でもなかった。

 

 ただ──彼らがずっと目を逸らしていた世界に、『当たり前の事実』として手を伸ばすこと。

 

 それだけだった。

 

 

 

ーーー

 

 ある夜、ホグワーツの地下階。

 黒曜石のように艶めく壁と、常にしんとした湿り気を帯びた空気の奥、誰も立ち寄らない古い回廊の先に、小さな隠し部屋があった。

 

 そこに、集まったのは六人だった。

 セオドール・ノット、パンジー・パーキンソン、ビンセント・クラッブ、グレゴリー・ゴイル、マーカス・フリント──そして、ドラコ・マルフォイ。

 

 入り口の扉を閉じたのはドラコだった。

 魔法で防音と鍵をかけ、振り返る。彼らは皆、どことなく緊張した面持ちだった。──心のどこかで、今日という日が来る事を理解していたのかもしれない。

 

 

「で、何の話だ、ドラコ?」

 

 

 壁に背をつけたノットが問いかける。パンジーは不安そうに目を泳がせていた。クラッブとゴイルは古い椅子に座り、フリントは埃っぽい机に腰掛けていた。

 

 ドラコは目を閉じる。緊張しているが、焦りはない。一度深く息を吐いてから目を開き、ゆっくりと周囲を見渡した。

 

 

「……僕は、最近ずっと考えている。──純血主義のことだ」

 

 

 その言葉に、場の空気がわずかに揺れた。誰もすぐには答えなかった。

 けれど、それは動揺ではなかった。ただ、あまりにタイミングが正確すぎて、もはや『誰か』がこの場を仕組んだのではないかと思えるほどだった。

 

 『純血』という単語は、今の彼らにとって誇りであり、同時に避けられない呪縛でもある。

 

 

 彼らは互いに探り合うような視線を向けた。 肩は強張り、唇は硬く結ばれている。──だが、即答できない事こそが、彼らの真実を告げていた。

 

 ドラコはそんな彼らを見て、少しだけ手に籠る力を抜いた。

 

 

「……父上の言葉は、今も耳に残ってる。……マグル生まれは劣った血で、魔法界を穢す存在だと」

 

 

 ドラコは確かな意志が籠る目で、彼らを見渡した。言葉には緊張が乗っていたが、その声は震えることはなかった。

 

 

「──でも、正直に言う。……僕にはもう、そうは思えない」

 

 

 ドラコの声は、誰よりも静かだった。それは威圧でも懇願でもない。ただ、『真実としてのドラコ・マルフォイ』を差し出す声音だった。

 

 

「ノアと、同じ道を歩きたいんだ。……胸を張って、彼の隣を歩けるような道を。──僕自身の言葉で、生きていきたい」

 

 

 ごくり、と誰かが生唾を飲んだ。

 それはまさしく、『ユダの言葉』だった。しかし、信仰と裏切りの狭間で告げられたその言葉は、彼らの心に抵抗なく染み渡る。

 

 

 沈黙のなかで、最初に口を開いたのはノットだった。胸の前で腕を組み、少しだけ視線を外したまま、口の端を引く。

 

 

「……僕は、親に育てられて誇りを教えられた。魔法族として、純血としての誇りを。でも、それは優越じゃなかったはずなんだ。

──少なくとも、ノアさんと話してからは、そう思うようになった」

 

 

 

 次に、パンジーがそっと手元を見ながら呟く。

 

 

「私、ずっとノア様に惹かれてた。……でも、自分でその気持ちに言い訳をしてた。マグル生まれでも、ノア様は特別だから仕方ない。って。……でもね、それってつまり、見下してなかったってことなのよね。

ずっと前から、私は気づいてたんだと思う。……ただ、認めるのが怖かっただけ」

 

 

 クラッブとゴイルは、顔を見合わせてから頷き合い、言葉を交わした。

 

 

 

「……僕たち、頭はよくないけど……」

「でも、ノアさんを見てると、なんか……血とか、どうでもよくなるんだよな」

 

 

 フリントは誰とも目を合わさず、ゆっくりと前を見たまま言った。

 

 

「──俺は、やっちまった側だ。……知ってるだろ? 言っちまったんだ。穢れた血って。

それがどんな意味を持つのかも考えずに、ただ、口にした。けど……あいつは俺を責めなかった。許されたわけじゃないけど……でも、あいつの背中は、俺を拒まなかった」

 

 

 言葉の端々にはまだ迷いと躊躇が残っていた。

 彼らはそれぞれに、ノアという存在を通して少しずつ世界を変えられていた。だがそれを言葉にするにはまだ痛みが伴った。

 

 

「……でも、僕たちには、親を説得する力なんてない」

 

 

 ノットが自嘲混じりに呟き、苦笑した。

 確かに周りのスリザリン生や、同じような純血主義の家に生まれた子どもたちはノアを羨望の眼差しで見つめ、彼を──マグル生まれを認めている。

 だが、親から上の世代は、やはりノア・ゾグラフに魅了されていたとしても、それを決して認めない矜持があった。それこそが純血主義のあり方だと、信じているのだろう。

 それが揺らいでしまえば、自分の立場が下落するのではないかと、恐れているのかもしれない。

 

 

「逆らうなんて無理だし、反抗したら家を追い出される」

 

 

 そう、ノットは呟き、パーキンソンも沈痛な思いで頷いた。

 

「わかってる」ドラコは、全員の視線を受け止めながら言った。

 

 

「だから──僕たちは、僕たちで結束を固めよう」

 

 

「結束……?」パンジーが目を見開く。クラッブとゴイルは言葉の意図が読めず、不思議そうに顔を見合わせていた。

 

 

「純血の誇りは守る。でも、マグル生まれを下に見ない。血で優劣を決めない。僕たちは、同じ魔法族だ。──それを、僕たちの世代から始めよう」

 

 

 ドラコの言葉に、静かな沈黙が落ちる。

 フリントが息を呑み、静かに尋ねた。

 

 

「……それって、つまり思想を変えるってことか?」

「……変えるというより、信じる心を取り戻すんだ。血じゃなくて、魔法そのものを」

 

 

 ドラコは真っ直ぐに言った。

 

 

「マグルと結婚しろとか、そんなことじゃない。僕自身、純血に誇りを持ってる、おそらく……それはきっと、この先も変わらない。

ただ、彼らを下だと思わない。魔法を使える仲間として認める。

誰かの誇りが、他の誰かを傷つける理由になっちゃいけない。……僕たちは、その境界を……これから考えていける世代だ」

 

 

 その言葉は、彼らの胸に、心の奥に触れた。

 そうだ、今から変えていけばいい。自分たちが、『ノア・ゾグラフに誇れるように』生きていけばいい。彼と共に歩むのは、親じゃない、──自分たちだ。

 

 

 クラッブとゴイルが顔を見合わせ、ゆっくりと頷いた。

 

 

「……いいな、それ」

「おう。俺たちなら、できるかも」

 

 

 パーキンソンとノット、フリントも頷く。彼らの中に落ちていた探るような緊張はいつの間にか消えていた。

 代わりにあるのは、確かな意志だ。

 

 

 ドラコは手を差し出した。

 

 

「じゃあ、ここで約束しよう。僕たちは、この考えを胸に持って、これからの魔法界で生きていく」

 

 

 一人、また一人と、彼の手に自分の手を重ねていく。

 パーキンソン、ノット、クラッブ、ゴイル、フリント。イギリス魔法界を支配していた純血一族の子どもらが、今日この日、誓い合った。

 

 

「僕たちの世代が、純血主義を変える」

「人の価値は、血で決まらない」

「僕たちは等しく、魔法族だ」

 

 

 声をそろえ、誓いの言葉が静かな部屋に響いた。それは小さな誓い。だが、確かな種火だった。

 

 

 重なった手のぬくもりの中に、誰も口にはしない約束が、もう一つだけ宿っていた。

 

 

──あの人に、恥じないように。

 

 

 それは親には言えない誓いだった。しかし、親に習ったどんな言葉よりも、今の自分を照らしている気がした。

 

 夜のホグワーツの隠し部屋。声に出せば壊れてしまいそうな熱が、子どもたちの胸の内で、静かに灯っていた。

 ノア・ゾグラフ──その名は、祈りのように、誰の口からもこぼれなかったが、確かにこの部屋の天井を仰いでいた。

 

 秘密を持つ、ということが、こんなにも甘く、誇らしく、ひりつくようなものだとは知らなかった。今夜だけは、自分たちが世界を変えられる気がした。

 

 

 

 

***

 

 

──さて。あの夜の誓いは、果たして本当に彼らの『意思』だったのだろうか。

 

 

 ノア・ゾグラフは、何も語らず、何も命じなかった。ただ、ほんの少し笑い、ほんの少し歩み寄り、ほんの少し視線を送っただけだ。

 

 柔らかく。優しく。まるでずっと昔からの友人のように。

 

 

 それでいて確かに──すべては彼の掌の上だった。

 

 

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