兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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124 進路指導

 

 

 イースター休暇が明けた三日後。

 俺は寮監であるスプラウトの部屋で進路指導を受ける事になった。

 

 トントン、とノックして声をかければ、すぐに柔らかい声で「どうぞ」と返事があった。

 スプラウトの部屋に初めて入ったけど、ハッフルパフの談話室に雰囲気が似ている。似ている、というよりその延長線というか。談話室に置いてある草花はスプラウトが世話をしているという噂は本当らしい。同じ鉢が置かれ、同じ花が至る所で咲いていた。

 部屋の中は土の匂いがうっすらと漂っていて、ソファにはパッチワーク付きのクッションがいくつも置かれていた。濃い焦茶色のローテーブルには案内書がいくつも置かれている。

 

 

「さあ、どうぞ座りなさい、ノア」

「ありがとうございます」

 

 

 促されるままに対面側のソファに座る。

 

 

 「さて、ノア。この面接は、あなたの進路に関して話し合い、六年目、七年目でどの学科を継続するかを決める指導をするためのものです。ホグワーツ卒業後、何をしたいか、考えがありますか?」

「うーん。とりあえずこのままモデルですかね」

「そうでしょうね」

 

 

 スプラウトは微かに笑ったまま頷き、机の上にあるメモに何かを書く。その後で、散らばっている資料の中からいくつかを抜き出し、俺に差し出した。

 

 

「ノア、あなたがこのままの成績を維持するのなら、これらの職に問題なくつけます。一応、参考までに」

「へー……慰者、外交官、闇祓い……」

「もちろん、これ以外にもありますよ」

 

 

 スプラウトが差し出したのは一般的には難易度が高いと言われている職業ばかりだった。確かに俺はペーパーテストは中の上、ほどだが、その分実技で大幅に加点されてるから良以下は取った事ないし、実技がメインのテストは殆ど優だしな。

 

 

「それと、これもお渡しします」

「これは?」

 

 

 満面の笑みのスプラウトに渡されたのは、金の縁取りがされた一通の封筒だった。深い紺色の封筒は、普通の封筒よりも手触りが滑らかで、封蝋には頭文字のBが浮かび、丁寧に押されている。……なんだろ。

 

 差出人は、『ブランムーア・セストラルズ』と書いてあるが、全くピンと来るものがなく首を傾げていると、スプラウトは想像した反応と違ったのか少し残念そうな表情を浮かべた。

 

 

「ブランムーア・セストラルズ。イギリスに於いて有名なプロクィディッチチームの一つです」

「へぇ……プロチームね」

 

 

 封を開ければ、ふわり、と爽やかな匂いが鼻をくすぐり、中から小さなセストラルが飛び出した。それは黒い光を伴い、俺の周りを一周するとゆっくりと溶けるようにして消えた。

 

 確かに、手紙には俺をプロチームに引き入れたい、という言葉が踊っている。──けど、俺はわざわざ専門雑誌を買って読むほどクィディッチがめちゃくちゃ好きなわけじゃないからなぁ。

 

 

「誘いは嬉しいですけど、モデルと並行しては難しいですね」

「そうですか。──そうですね、怪我をしたら大変だもの」

「はい、断りの返事をします」

 

 

 スプラウトも、俺と同じように思ったのだろう。少し残念そうに微笑みながらも、理解の色を滲ませて頷いた。プロチームの魅力は分かるけど、俺にとってはそこまで優先順位の高いものじゃない。クィディッチを嫌いなわけじゃないが、人生を懸けるほどの情熱があるわけでもないし。

 

 

「ノア、他に質問は?」

「うーん。……ちなみに、ホグワーツの教師になりたいって言ったらどうなります?」

「教師、ですか?」

 

 

 書類を片付け始めていたスプラウトの手が止まり、その声は驚いたように弾んだ。俺をじっと見て冗談やからかいではないのだと判断すると、少し沈黙した後、真剣な表情で俺の名を読んだ。

 

 

「ノア。あなたの成績から見ると、魔法生物飼育学や呪文学、闇の魔術に対する防衛術が向いていると思います。もちろん、他の科目でも素晴らしい成績だけれど……授業を『教える』という面では、まだ少し課題があるかもしれませんね」

 

 スプラウトはそこで一度言葉を区切ると、「ですが」と少々低い声で続けた。

 

 

「フリットウィック先生はお辞めになるとは聞いていません。ハグリッドは──今の状況が改善されなければ交代もあり得るでしょう。ルーピン先生は優れた先生ですが……闇の魔術に対する防衛術の教師は一年を超えて続かないという、無視できないジンクスがあります。後二年後、魔法生物飼育学と闇の魔術に対する防衛術に教師がいない可能性は高いでしょうね」

「なるほど」

 

 

 ハグリッドの授業は、正直なところ改善の余地がある。ヒッポグリフの件以来、自信を失ってしまったのか、最近では基礎的な内容にとどめているようだった。

 改善されなければ交代はあり得るな。リーマスは、まあ、あのジンクスのせいで辞めるし。その他も同じだ。

 

 とはいえ、俺が本気で教師になったら色々原作が変わりそうではある。ただ、ハリーたちの動きを見る、という点ではホグワーツに関わりたい気持ちもあるんだよなぁ。

 

 黙ったまま考え込んでいると、スプラウトはその目をきらりと光らせて──どこかダンブルドアに近いものを感じた──俺を観察するように見た。

 

 

「ですが、ノア。あなたが教師になりたいとは夢にも思いませんでした」

「あぁ……。なんていうか、離れ難いのかもしれません。ここは俺にとって──安心できる、帰ってこられる場所なんです」

 

 

 ある意味、本心ではある。

 スプラウトは目を微かに開き息を呑むと、何を勘違いしたのか複雑な表情で俺を気遣うように見た。

 

 

「そうですか。……また七年生の時に、進路指導があります。その時にあなたの気持ちが変わっていなければ──私から、ダンブルドア校長に打診してみましょう」

「ありがとうございます」

 

 

 ……まあ、後二年あるし、ゆっくり考えようかな。

 

 

 進路相談終了後、俺はハッフルパフ寮へと戻る。放課後の廊下は人が少なく、外からはクィディッチを練習している選手たちの声が聞こえてきていた。

 日曜日に、グリフィンドール対スリザリンの試合がある。今の所グリフィンドールもスリザリンもハッフルパフに一度ずつ負けているが、それ以外の試合では勝っている。スリザリンの方が五十点分の余裕があるから、グリフィンドールが勝利するには、スリザリンに五十点差をつけてハリーがスニッチを掴まなければならない。──らしい。

 

 スリザリンもグリフィンドールも、互いに時間をずらし毎日練習に明け暮れている。

 

 スリザリン生の殆どが、もうマグル生まれに対する偏見はない。──とはいえ、グリフィンドールとの確執は簡単に消えるものではない。あれはもうライバルみたいなもんだし。……いや、犬猿の仲というべきか。

 

 

 そのため、スリザリン生は試合前にグリフィンドールの選手を怪我させようとしたり、呪ったりしている。グリフィンドールも黙ったままじゃなく、やり返したりはしているし、まだ互いに怪我人は居ない。

 やはり、一番狙われるのはシーカーであるハリーで、ハリーの周囲には、練習中も試合前の控室でも、常にチームメイトがぴったりと張りついていた。廊下では一人にならないよう、三人一組での移動が徹底されていて──もはや護衛というより、王子様の行列のようだった。ハリー本人はかなり気まずそうだったが。

 

 

 廊下を歩いていると、向こうから練習を終えたばかりのスリザリンのクィディッチチームが現れた。先頭を歩くのは、ドラコとキャプテンのマーカス・フリント。何やら真剣な顔で話し込んでいた二人だったが、俺を見つけるなり、ふっと表情を変えて駆け寄ってきた。

 

 

「ノア!」

 

 

 ドラコが嬉しそうに声を上げ、マーカスもその後を追うように小走りで近づいてくる。

 

 

「やあ、調整は順調か?」

「もちろんだ。……ファイアボルトはちょっと脅威だけどな。でも負ける気はしない」

 

 

 ドラコが胸を張ると、マーカスが俺の隣に並びながら、どこか探るような目を向けてくる。

 

 

「ノアは……俺たちを応援してくれるよな?」

 

 

 他のスリザリン生たちも次々に足を止め、気づけば俺の周りを囲むように集まっていた。どの顔にも、どこか誇らしげで、期待を秘めた表情が浮かんでいる。

 

 

「うーん、どっちも応援するつもりです」

 

 

 そう返すと、ドラコとマーカスが同時に「えー……」とでも言いたげに眉を寄せた。二人とも「スリザリンを応援してほしい」と小さな声で漏らすが、俺が困ったように笑ってみせると、すぐに気を取り直したように話題を変える。

 

 

「──そうだ、ノア。家から高級チョコが届いたんだ。今夜、スリザリンのテーブルに来いよ」

 

 

 マーカスが期待を込めて俺の肩をぽんと叩く。俺に触れた瞬間、自分でやっておきながらマーカスの指が震え、頬が赤くなっていた。──周りのスリザリン生や、廊下を歩く他の寮生に俺との仲を見せつけたくて頑張っているんだろう。

 

 その努力に応えてやるべきかどうか迷いながら、俺は表情筋を丁寧に動かして、少し照れたように微笑んだ。ほんの少しだけ、マーカスの顔を見上げる角度で。

 案の定、マーカスは赤面し、耳まで赤く染まる。

 

 

「嬉しいです。──でも、いいんですか? 他のスリザリンの皆さんに嫌がられたりしないかな」

「そんなことあるかよ! な?」

「当然だ、ノアが来てくれるなら、みんな大歓迎だ」

「──じゃあ、ちょっとだけお邪魔しちゃおうかな」

 

 

 そう言って笑ってみせると、ドラコとマーカスは同時にこぶしを小さく握り、密かにガッツポーズを決めていた。

 

 

 ドラコとマーカスは、顔を見合わせてにんまりと笑ったかと思うと、「じゃあまた!」と言い笑顔で手を振った。

 あれほど分かりやすく浮かれた表情を見せるなんてなぁ。あのままスキップでもしそうな勢いだ──いや、もしかしたら誰も見ていなければ、実際にしていたかもしれないな。

 

 

 その日の夜、セドリックにスリザリンの方で食べる。と言えばかなり驚いていたが快く送り出してくれた。

 グリフィンドールの机からはハリーがつまらなさそうにじとりとした目で見ていたが、今度グリフィンドールの方で食べればすぐに機嫌は戻るだろう。

 

 

 

──ちなみに、週末のグリフィンドール対スリザリン戦は、グリフィンドールの勝利で終わった。

 

 

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