兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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129 リーマス・ルーピン

 

 ハリーが凍りついたように立ち尽くしてしまった時、新しい物音が聞こえた──誰かが階段を駆け上がる音だ。

 

 

「──ここよ! 私たち、上にいるわ! シリウス・ブラックよ──早く!」

 

 

 ハーマイオニーが叫んだ。ブラックは驚いて身動きし、ハリーは発作的に杖を握りしめる。

 

 

──やるんだ、今!

 

 

 頭の中で声がした。足音が駆け上がってくる。──ハリーはまだ行動に出なかった。

 

 

 赤い花火が飛び散り、扉が勢いよく開いた。ハリーが振り向くと、リーマスが蒼白な顔で杖を構え飛び込んでくるところだった。

 

 リーマスの目が、部屋をすばやくなぞるように動く。床に倒れたロン、震えるハーマイオニー、杖を持ちすくむハリー、そして少し離れた場所に立つノア──最後に、血を流して倒れているブラックの姿をとらえた。

 

 

「エクスペリアームス!」

 

 

 リーマスが叫んだ。

 ハリーが持っていた杖が全て再び手から離れて飛んだ。リーマスは器用に空中で四本とも捕まえ、ブラックを見据えたまま部屋に入ってきた。

 ハリーはよろめき後ろに下がり、何も持たない手を下ろした。がくっと肩が落ちる──できなかった。唯一のチャンスなのに。弱気になったんだ、ブラックは吸魂鬼に引き渡される。

 俯くハリーを見たノアは、ただそっとその落ちた肩を撫でた。ハリーは瞼を微かに震わせ、拳を握りしめた。

 

 

 リーマスは部屋を見回しながら、震える口を開いた。それは感情を押し殺しているような緊張した声だった。

 

 

「シリウス、あいつはどこだ?」

 

 

 ハリーは一瞬リーマスを見た。何を言っているのか理解できなかった。──何故、先生はシリウスだなんて呼ぶんだ。

 

 

 ブラックは無表情だった。数秒間、全く動かなかった。それからゆっくりと手を上げたが、その手はまっすぐにロンを指していた。

 

 誰も息を呑んだまま動けなかった。部屋に漂っていた空気すら、音を立てるのをためらっているようだった。指されたロンは訳が分からず当惑したまま身じろぎをした。

 

 

「しかし、それなら……」リーマスがブラックの心を読もうとするように、じっと見つめながら呟く。彼の手は、深く考え込むように自分の顎を撫でていた。

 

 

「……何故今まで正体を明かさなかったんだ?もしかしたら──もしかしたら、あいつがそうだったのか」

 

 

 リーマスはブラックを見ていたが、ブラックを通り越して何かを見ているような、他の誰にも見えないものを見ようとしているような目だった。

 

 

「──君は、あいつと入れ替わりになったのか……私に何も言わずに?」

 

 

 その声は硬く、掠れていた。

 ブラックはリーマスを見つめ続けながら、ゆっくりと頷く。青灰色だった目が、瞬きと共に彼本来の色へ──暗い灰色へと戻った。

 

 

「ルーピン先生、一体何が──」

 

 

 ハリーの問いが途切れた。

 今目の前で起こったことが、ハリーの問いを途切れさせたのだ。

 

 リーマスが構えていた杖を下ろした。次の瞬間、リーマスはブラックの方に歩いていき、手を取って助け起こした。──そして、兄弟のようにブラックを抱きしめたのだ。

 

 空気が凍る。

 

 

──ルーピン先生が、内通者だったのか!

 

 

 ハリーは今まで自分に優しくしてくれていたのは全て嘘だったのかと思い強い衝撃を感じた。それはハリーだけではない、ロンも、ハーマイオニーも同じだった。

 

 ハーマイオニーが「なんてことなの!」と叫ぶ。その唇はわななき、顔は蒼白だった。

 彼女の叫びに、リーマスはブラックを話し、ハーマイオニーを見た。ハーマイオニーは表情を引き攣らせながらリーマスを指差した。

 

 

「先生は──先生は──」

「ハーマイオニー──」

「──その人とグルなんだわ!」

「ハーマイオニー、落ち着きなさい──」

「私、誰にも言わなかったのに!」

 

 

 ハーマイオニーが叫ぶ。リーマスも必死に「ハーマイオニー、聞いてくれ、頼むから!」と叫んだが、彼女は引き攣ったままの表情で首を振る。

 

 

「先生のために、私、隠していたのに──」

「ハーマイオニー、説明するから──」

 

 

 ハリーはまた体が震えた。それは恐怖からではなく、新たな怒りからだ。ハリーはリーマスに向かって叫んだ。

 

 

「僕は先生を信じていた。それなのに、先生はずっとブラックの友達だったんだ!」

「それは違う。この十二年間、私はシリウスの友ではなかった。しかし、今はそうだ……説明させてくれ……」

 

 

 リーマスは必死に乞う。

 なるべく刺激させないように、優しい低い声で。

 しかしハーマイオニーは金切り声で「ダメよ!」と叫んだ。

 

 

「ハリー、騙されないで。この人もあなたの死を願ってるんだわ。二人で、ハリーも、ノアさんも騙して──この人、人狼なのよ!」

 

 

 痛いような沈黙が流れた。今や全ての目がリーマスに集まっていた。リーマスは蒼ざめてはいたが、驚くほど落ち着き取り乱すことも、言い訳をすることもなかった。

 

 

「いつもの君らしくないね、ハーマイオニー。三問中一問しか合ってない。私はハリーとノアを騙してはいないし、ハリーの死を願ってなんかいない……」

 

 

 リーマスの顔が微かに震えた。彼の古傷が目立つ手が握られる。

 

 

「しかし、私が人狼であることは否定しない」

 

 

 その言葉に、ロンは雄々しくも立ちあがろうとしたが、痛みに小さく悲鳴をあげてまた座り込んだ。リーマスは心配そうにロンの方に行きかけたが、ロンが喘ぎながら軽蔑の目を向け叫んだ。

 

 

「僕に近寄るな! 人狼め!」

 

 

 吐き捨てられたその言葉は空気を切り裂いた。ハリーは、人狼を教科書でしか知らない。魔法界で暮らしていなかったハリーは、何故こんなにもロンが嫌悪の視線を向けているのか理解できなかった。 

 ロンの言葉にリーマスは、はたと足を止めた。酷く傷付いたような目を見せたがぐっと堪えて立ち直り、ハーマイオニーの方を見た。

 

 

「いつごろから気づいていたのかね?」

「ずーっと前から……スネイプ先生のレポートを書いた時から……」

「スネイプ先生がお喜びだろう」

 

 

 リーマスは落ち着いて言った。

 

 

「スネイプ先生は、私の症状が何を意味するのか、誰か気づいて欲しいと思って、あの宿題を出したんだ。月の満ち欠け図を見て、私の病気が満月と一致することに気づいたんだね? それとも『まね妖怪』が私の前で月に変身するのを見て気づいたのかね?」

「両方よ」

 

 

 ハーマイオニーは囁く。リーマスは無理に笑って見せながら、ノアを見た。

 

 

「ノア、君と同じ時期だったようだね」

「えっ!? ノ、ノアさんも知っていたの?」

 

 

 いきなり話を振られたノアは少し気まずそうに肩をすくめ「まあ、人狼だからって別に危険じゃないし」と答えた。

 それにロンは「狂ってる!」と非難めいた悲鳴をあげ、ハーマイオニーは「何を言ってるんですか!?」と混乱したまま叫んだ。

 しかし、ノアにとって人狼は危険なものではなく、ロンとハーマイオニーの言葉に頷くことはない。

 

 

「私、みんなに話せば良かった!」

「みんな、もう知っていることだ。──少なくとも、先生方は知っている」

「ダンブルドアは、人狼と知っていて雇ったっていうのか?」

 

 

 ロンが息を呑み「正気かよ?」 と囁く。

 リーマスは薄く笑い、その言葉を受け止めながら頷いた。

 

 

「先生の中にもそういう意見があった。ダンブルドアは、私が信用できる者だと、何人かの先生を説得するのにずいぶんご苦労なさった」

「──ダンブルドアは間違ってたんだ!」

 

 

 ハリーがたまらず叫んだ。

 ハリーにとって、リーマスが人狼であることはどうでもいい事だった。全ては、ブラックと共に裏切ったかどうかという点だけだ。

 

 

「先生はずっとこいつと通じていたんだ!」

 

 

 ハリーはブラックを指差した。

 ブラックは苦しむような表情をすると、ハリーの視線から逃れるように天蓋付きベッドの方に歩いて行き、座り込んだ。ロンは足を引き摺りながら、ブラックからじりじりと離れた。

 

 

「違う。訳を話させてくれれば、説明するよ。ほら──」

 

 

 リーマスは三本の杖を一本ずつハリー、ロン、ハーマイオニーのそれぞれに放り投げて持ち主に返す。ハリー達はまさか返されると思わず呆気に取られて杖を受け取った。

 

 リーマスは、ノアの杖を掴んだまま離さなかった。じっと、ノアの目を見る。

 

 

「ノア、どうか冷静であってくれ。説明する時間さえくれれば、私はどうなってもいいから──」

 

 

 リーマスも、ノアの力を理解している。

 杖を返したら、すぐにブラックと共に捕えられるかもしれない。そうなると──全てを話すことが出来なくなる。裏切り者をこの手で白日の元にさらせなくなる。

 

 ノアは静かにリーマスを見た。そのままふっと──この場に似合わない柔らかい表情を浮かべ、笑った。

 

 

「俺、わりとリーマス先生のこと好きなんで、ちゃんと話を聞くつもりですよ」

 

 

 リーマスの目が見開かれ、ぐっと唇が強く結ばれた。その目には言葉で表現しきれない感謝がこもっていたが、ノアは大したことをしていない、という風に少し微笑んだまま、続けた。

 

 

「俺の杖は持っててください。別に、杖は必要ないんで」

 

 

 ノアはくるりと指を回す。その途端、部屋の埃っぽい空気が一掃され、床に落ちていた血は消えた。ブラックが座っていたベッドが跳ねるように揺れシーツの破れが戻り、ヒビが入っていたハリーの眼鏡が直った。

 

 リーマスは一瞬呆気に取られたが、苦笑するとノアの杖と自分の杖をベルトに挟み込んだ。

 

 

「私はこれで丸腰だ。しかし、君たちには武器がある。それにノアだっている。──聞いてくれるかい?」

「ハリー、ロン、ハーマイオニー。俺はリーマス先生と、シリ──ブラックの話を聞いた方がいいと思うぜ?」

 

 

 ハリーはどう考えていいか、わからなかった。しかし、リーマスの柔らかな声と、ノアのいつも通りの態度に少しだけ冷静になり、杖をリーマスとブラックの二人に向けたまま頷いた。

 

 

「……ブラックの手助けをしてないっていうなら、こいつがここにいるってなんでわかったんだ?」

 

 

 ブラックの方に激しい怒りを向けながら、ハリーはなるべく静かに聞いた。

 

 

「地図だよ」とリーマスは即答する。

 

 

「忍びの地図だ。事務所で地図を調べていたんだ」

「使い方を知ってるの?」

「もちろん、知っている。私もこれを書いた一人だ。私はムーニーだよ。──学生時代、友人は私のことをそういう名で呼んだ」

「先生が、書いた?」

 

 

 ハリーは信じられず目を見張る。

 リーマスは誰が地図を制作したのかは問題ではないと首を振り「そんなことより」と先を急いだ。

 

 

「私は今日の夕方、地図をしっかり見張っていたんだ。というのも、君と、ロン、ハーマイオニーが城をこっそり抜け出して、ヒッポグリフの処刑の前に、ハグリッドを訪ねるのではないかと思ったからだ。思ったとおりだった。そうだね?──その前にノアが一人で抜け出したのは予想外だったが──君はお父さんの透明マントを着ていたかもしれないね、ハリー」

 

 

 リーマスはハリー達を見ながら部屋の中を行ったり来たりしはじめた。

 

 

「どうしてマントの事を?」

「ジェームズがマントに隠れるのを何度見たことか……」

 

 

 懐かしげに呟く。一瞬遠い目をして過去へ思いを馳せたリーマスだったが、急ぐように手を振った。

 

 

「要するに、透明マントを着ていても忍びの地図に現れるということだよ、私はノアがまず一人でハグリッドの元へ向かい、そのあとで君たちが校庭を横切り、ハグリッドの小屋に入っていくのを見ていた。二十分後、君たちはハグリッドのところを離れ城に戻りはじめた。しかし、今度は君たちの他に誰かが一緒だった」

「え?──いや、僕たちだけだった!」

 

 

 ハリーはロン、ハーマイオニー、ノアを見て首を振る。彼ら以外にあの場所には誰もいなかった。──しかし、リーマスはどこか切羽詰まった顔で首を振る。

 

 

「私は目を疑ったよ。地図がおかしくなったのかと思った。あいつがどうして君たちと一緒なんだ?」

「誰も一緒じゃなかった!」

 

 

 苛立ちながら叫ぶハリーの肩を、ノアが押さえた。ハリーは言葉を飲み、「ノア、」と呟く。

 ノアは一歩前に進み出て、真剣な顔で話すリーマスを見る。ノアは、腕を後ろに組み──すぐ魔法を使うつもりはない、と無言で示していた。

 

 

「……あいつって、誰ですか?」

「それは──ロン、ネズミを見せてくれないか?」

 

 

 リーマスは言葉を濁し、ロンの方を振り向いた。ロンは体を撥ねさせると、胸ポケットを押さえた。この膨らみの下にいるスキャバーズが、ぶるぶると震えているのを感じる。

 

 

「僕のスキャバーズが一体なんの関係があると言うんだ?」

 

 

 全員の視線を受けたロンは戸惑いながらもローブの中に手を突っ込み胸ポケットを探り、スキャバーズの禿げた尻尾を掴み──スキャバーズは激しく抵抗した──両手でしっかりと抱きしめながら見せた。

 

 すぐにロンに近づいたリーマスは、じっとスキャバーズを見つめながら息を殺しているようだった。

 

 

「それはネズミじゃない」

 

 

 唐突にブラックが呟いた。憎々しげに、憎悪を込めてスキャバーズを睨んでいる。ロンは、その視線を受けたのが自分ではないとわかっていながら、強い殺気に怯えたように目をゆらせた。

 

 

「どういうこと、こいつはネズミだよ」

「いや、ネズミじゃない」

 

 

 リーマスが静かに言った。

 ハリーはスキャバーズとリーマスの間で何度も視線を彷徨わせた。

 

 

「こいつは魔法使いだ。──アニメーガスだ」

 

 

 ブラックが低く呟く。

 アニメーガス、その言葉にハーマイオニーは息を詰めた。

 

 

「名前はピーター・ペティグリュー」

 

 

 誰も声を出さなかった。空気が張り詰め、スキャバーズの激しいもがきだけが響いた。

 その動きには、ただの動物の本能とは違う、明らかな恐れがあった。まるで自分が──見つかったと知っているかのようだった。

 

 

 

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